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ライバルは君だけ!  作者: にゃんころ
一章 高校一年生
13/19

第十二話 入学式放課後~小手調べはいかほどに?~(白水望)

用語解説。テニスを理解している方であれば見る必要はありません。

・フォアハンド→自分の利き手側にきたボールに対して打つ事

・バックハンド→自分の利き手とは反対方向にきたボールに対して打つ事。

※要は、右利きの人は右に来た球を打てばフォアハンド、左に来た球を打てばバックハンドです。

・ドロップ→テニスの場合のドロップは、ボールに逆回転を与えて相手コートのネット際に落とすショット。

 私は彼女と練習ラリーをしながらふと考える。

 先ず第一に、この試合(ゲーム)は、私の方が圧倒的に不利だという事だ。

 それも単純な話で、私と彼女との力量差は歴然だと言う事。片や彼女は4大大会へと出場する優勝候補、片や私はアマチュアの同世代でトップだという程度。

 普通に1ゲームも取れないで私のストレート負けも十分有り得るだろう。

 そして、先程追加のルールが付いたことにより、より一層勢いが付いた方がポイントを持って行く可能性がある。

 こうして打ち合いをしている最中も、ボールの重みがひしひしと伝わってくる。プロとアマチュアの打球の重さの違いを肌で感じている所だった。

 右のスライス、左のボレー、右のスライス、左のドロップ、右のドライブボレー。

「あれ?」

 私はその事だけを考えると、ふと疑問に思わざるを得なかった。

「右手で打ったり左手で打ったり…。練習だから?」

 いや、何回見ても毎回腕を変えて打っている。これは偶然?

 でも、練習とはいえ試合直前で有るにも拘わらず、遊ぶというのもあまり考え辛い。

「ちょっと意地悪をして様子をみようかしら…」

 右左交互の腕で打っているのであれば、次に打とうとする腕とは逆方向へ非常に打ち辛い打球を打った場合はどうだろうか。

 私は一つの試みをしてみる事にした。

 彼女は今、直前に左手で私の打球を打ち返した。それならば再度左手で無ければ明らかに打ち辛い場所へ打ち返してみよう。

「はっ!」

 私は軽く声を出しながら、バックハンドで渾身のスライスショットを打つ。

 彼女の左側へと大きくれていくショット。彼女はそれを。

 ()()()()()()()のフォアハンドで無理に打ちにいったのだ。

「なるほど、そう言う事ね」

 私はそれで理解した。矢張り彼女は、何らかのハンデを背負っているのだろうと。

 だがこの時私は、きちんと理解していなかった。理解をしたのは()()()()()()()事に。


 *********


「練習終了じゃ!」

 校長先生のその言葉を合図に、私達の練習は終了。

 試合慣れしていても、明らかな格上と対戦する事が滅多にない私は、珍しく緊張していた。

 それでも今日は体が良く動くし、ベストに近い力が出せると思う。

 負けても絶対言い訳はしないよ。試合結果はそのまま現在の私と彼女の、決定的な実力の差になるのだから。


 *********


「ザ ベストオブ 3セットマッチ! 塩沢 トゥ サーブ プレイ!」

 私は、腰を低くして体を揺さぶりながらリズムをとる。そして両手でラケットを持ちながら彼女のサーブを待ち構えるのだった。

「さて、お手並み拝見…」

 彼女はボールを高く上げ、同時にトロフィーポーズへと移行、そこからしならせた腕でスイングそしてインパクト。高速のフラットサーブを放つ。

 センターラインぎりぎりを通って入ったフラットサーブを、シングルスサイドライン際にいた私は、取れないと判断して早々に見逃した。

「早い…何キロ?」

 取れなかった事よりも、私はスピードが気になり、計測をしている生徒に目配せをする。その生徒から返って来た数値は178キロだった。

 世界のトップレベルの女子選手で、サーブの最高速度が200キロを超える人が現在数人。

 その選手達も1st(ファースト)サーブの平均はおよそ175キロ程。

 彼女は試合の最初のサーブで、既にその平均を超えて来る速度を叩き出している。

「油断したら一気に持っていかれるわね」

 私は改めて、世界トップレベルのサーブの凄さを痛感した。

 私と彼女は同い年で、体格もほぼ同じ。一体私と彼女の違いとは?

 私が次のサーブを打つまでにそんな事を考えていると、今度は右手にボールを持って左手で打とうとしている彼女が居た。

「冗談でしょ?」

 私はてっきり練習中だけの遊びだと思っていたんだけど。

 彼女は右利きの筈。試合の動画も、左手で打っているのなんて一度も見た事が無い。

「やっぱりずっと交互って事?」

 こんなの私だって混乱するぐらいだ。そう言えば練習中の最後って左打ちで終わってたっけ。

 もしかしてずっと交互打ちを貫くつもり?

 そんな私を無視するかの様に、彼女はそのまま左腕でサーブを打つ。

 遅い、時速100キロ出ているかどうかという、明らかなコントロール重視のスローサーブ。

 ハードコートの為、弾むとボールの速度が思ったより速くなるのだが、流石にこれなら問題ない。

 私はそう思い、バウンド直後のボールをライジングでリターンエースを狙いに一気にかたを付けようと前へと走り出した。

 その瞬間である。

 予想以上にボールに回転が掛かっていたのだろう。予想より遥かに高く弾んだボールが、近付く私を襲う様に飛んできたのだ。

「!?」

 私は思わず体の前にラケットを持って来てしまう。単純に自分の体を守る、反射的な動作での出来事だ。

 何とか直撃を防ぐことが出来たボールは、ゆっくりと彼女のコートへと跳ね返り、結果的に彼女へのチャンスボールとなってしまった。

 高く上がったボールはゆっくりとバウンドへと向かう。

「させない!」

 時間の猶予を与えられた私も、体勢を立て直すため後ろへと下がる。

 しかし、そんな私をあざ笑うかの様に、彼女はドロップショットで難なくポイントを取るのだった。

「ふーっ」

 私はその場で立ち止まり大きく息を吐く。今のプレイの確認をしよう。

 客観的に見て完全に私が振り回されたのは紛れもない事実。

 遅いサーブと(あなど)って前へ出たものの真面まともに返せず、相手にチャンスボールを与えた。そして、次の打球に対応しようとベースライン上へと早めに下がろうと動いた私を、狙い撃ちするかのように逆をついてのドロップショット。

 完全に遊ばれた印象は否めない。そういえば彼女の強みって、手首リストが非常に柔らかい所だっけ。もしかして、私が後ろへ確実に動いたのを確認してから、手首を返して打つショットを変えた?

 この第1ゲームは彼女のプレイを観察をする必要がありそうね。そして出来るだけ彼女にショットの種類を出させて研究。そしてその先のゲームのポイントは私が必ず取る。

 私は、第1ゲームで彼女の挙動を調べる事に労力を費やすのだった。

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