樹氷の街
亡き母を想う。
吐く息も凍ってしまいそうな底冷えのする朝。
未だ明けない夜。
僕は、そっと外に出る。
暗闇の中、踏みしめる足音がサクッサクッと静かな街の中にこだまする。
しばらくすると、チラチラと小さな光が見えてくる。
ー着いたー
そこは、僕が幼い頃、母と遊んだ公園。
三々五々、寒そうに肩をすくめた人々が集まってくる。
中央に整然と並んだ竹筒の中に、ろうそくの灯が点る。
ー1月17日 午前5時46分ー
皆一様に手を合わせ、頭を垂れる。
あの日、あの時、あの瞬間。
なぜ、僕は母を守れなかったのか。
いつもは一階の母の隣室で寝ていたのに。卒論に追われていた僕はたまたまその日、二階の個室で寝てしまった。
偶然と言うにはあまりにも酷い。
母の柔らかい笑みが、散った日。
あの日を経験した誰しもが言い様のない悲しみを抱えて、現在、静かに黙祷を捧げる。
見上げると未だ暗い空に白い物が光る。
ー星?ー
目を凝らして見ると、氷点下の空に見事な樹氷が手を広げている。
ーお母さんー
母の白い顔が柔らかく笑む。
1月17日。
忘れられないその日の朝が静かに明るんでくる。
明けない夜はない。とは誰の言った言葉だろう。
底冷えのする街の夜明け。
しらじらと明けゆく朝日の中、公園の樹氷がキラリと光った。
今年であの阪神淡路大震災から24年。いつまでも亡き人の面影は消えません。悲しみを背負った方々の夜に光が射しますように。
合掌。
作者 石田 幸