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第八十話「効果の優先順位」

 白熱したじゃんけん勝負により、一番初めに鞄を作ることになったのはイリーネだった。勝ちが決まった瞬間、無言でガッツポーズを決めていた。


 マリウスとティアナの二人は「ああああ……!」と崩れ落ちたが、すぐに二番手を決めるためにじゃんけんを再開する。


 その勝負はマリウスが勝ち、鞄を作るのはイリーネ、マリウス、ティアナの順になった。


「イリーネから作りはじめるとしても、三人の要望は先に聞いておくね」


「要望って、どんな効果がいいかってこと?」


 ティアナが期待のこもった目を向けてくる。


「効果もそうだけど、そもそもの鞄の形の希望だね」


 鞄はいろいろな形がある。


 冒険者の三人は両手が空く鞄を使うことになるので、その中でもいくつかに限られてくるとは思う。


 リュックサック、ウエストバッグ、ボディバッグなどが妥当だろう。


「私は槍を使うからその動きの邪魔にならないのがいい」


 イリーネの言葉に私は考える。


「槍の邪魔にならないようにということは、体の側面につけるのはダメだね。ということは背中からお尻のどこかがいいかもしれない」


 ちなみにシルヴィオの鞄はウエストバッグタイプで、右腰につけている。左腰には剣を差しているのでその位置なのだと思う。


 剣と違い、槍は穂先だけじゃなく柄や石突を使う場合がある。そのため利き手にかかわらず、体の左右両方に槍を動かすことになる。


 シルヴィオのように体の片側に鞄を着けると、そちら側だけ動きが阻害される可能性があった。


「リュックかボディバッグ、あとはヒップバッグとか……」


「ヒップバッグ?」


 私の言葉が気になったのか、イリーネが首を傾げて呟く。


「ヒップバッグっていうのは、このあたりに着けるバッグのことだよ」


 立ち上がり、自分の尾骨あたりに両手で丸を作る。


「それがいい!」


 イリーネはうんうんと頷きながら目を輝かせる。


「じゃあ、イリーネはヒップバッグね」


 私はデザイン帳を取り出すと、そこにメモしていく。腰につけるベルト部分のサイズに関しては、前回服を作ったときに細かく採寸したデータがあるし、ベルトは調節式にする予定なので大丈夫だろう。


 その調子でマリウスとティアナからも要望を聞き、鞄のタイプを決めていく。


 マリウスはシルヴィオを同じようにショートソードを下げていない右腰につける形にする。

 ティアナは結構難しかった。


 何しろ彼女の場合、弓を使うので矢筒がある。普段はお尻のところに斜めになるように装着している。これまではリュックだったので同じようにしようかとも考えたけど、これまでよりも小さくなるのにリュックにするのは合ってない。


 ボディバッグということも考えたが、その場合は、胸当ての上にベルトがきてしまうので弓の弦が引っかかってしまう可能性がある。


 最終的に矢筒から矢を取り出すのと逆側である左腰につける形に決まった。


「あとは付与する効果だけど、付与したい効果の優先順位を決めておこうと思う」


 効果を付与する場合、使う素材や大きさによって、付与できる効果の容量のようなものがある。


 回復系のレアな効果は、「小」は付与できても「中」はできなかったり、同じ素材を使っても、「~耐性」のようなものは、複数付与できたりする。


 効果の中でも回復のような汎用性高いものほど、素材の容量がないと付与ができないということのようだ。


「やっぱり中にたくさん入るのがいいよね!」


 ティアナが言うと、マリウスも頷く。


「でもいっぱいになると重くなる」


 イリーネはたくさん入れられたとしても、その分の重さは変わらないことが気になるらしい。


 シルヴィオの鞄は現にそうだ。


「じゃあ、軽量化もできたらって感じかな」


 私はメモしていく。


 そこでマリウスが「あ!」と呟いた。


「他に何かあった?」


 私がマリウスに聞くと、彼は遠慮がちに口を開く。


「……ちょっと思いついたんだけど、鞄の中に入れたものの状態が変わらないようにってできたりするのか?」


「状態が変わらないように……? えっと、たとえば食べ物を入れたとしてそれが入れたときのまま保たれるような感じ?」


「そうそう! 採取したものが新鮮な状態だと加工したときも効果が高くなるって聞いたことがあってさ」


 すると、マリウスの言葉にそれまで静かに見守っていたディートリヒが反応する。


「そうだね。ポーションなんかの魔法薬の材料はなるべく新鮮なものを使った方が高い効果のものを作れるし、討伐証にしても痛みが激しいとギルドでの買い取りが不可になることもあるよ」


 彼の話は若い冒険者にとって勉強になったらしい。三人ともなるほどと言わんばかりの表情だ。


 ただ、実際そういう効果を付与することは可能なんだろうか?



『状態保存の効果を付与することは可能です。ただし、完全に時間を止める効果を付与する場合、素材の質が高いものでなければ付与できません』



 脳内に響く「製作者の贈りクリエイターズギフト」の声。


 完全に時間を止める効果は、なかなか難易度が高い効果のようだ。優先順位的に付与は難しいかもしれない。


 あ、でも完全に止めるじゃなくゆっくりにするっていうのはできるのかな?



『可能です』



 おお!


 それならもしかしたら一緒に付与できるかもしれない。


「状態保存の効果は付与できるみたい。ただ、完全に時間を止めるのは難しくて、かなりいい素材を使う必要があるらしいの。でも、完全にじゃなく、時間の進みをゆっくりにするっていうのもできるっぽいから、もし可能ならそれを付与できたらいいかも」


 私が説明すると、三人から「おおー!」という声が上がった。


 これに食いついたのは三人だけではなかった。


 シルヴィオとディートリヒの二人は驚いたように目を見開いてこちらを見る。


「え、いいなそれー! ねえ、ミナちゃん僕にも作ってくれない? 素材なら提供するし」


「俺にもお願いしたい」


「ええっ!?」


 ディートリヒとシルヴィオの言葉に私はぎょっとする。


 二人も鞄をほしがるなんて思っていなかった。


 私以上に慌てたのは他の三人だった。


 三人はこそこそと「順番を譲るべき……?」「でも俺だって早くほしい……」「うん」と囁き合っている。


 私に聞こえているということは、ディートリヒやシルヴィオにも聞こえているわけで……。


 二人は苦笑する。


「もちろん俺のは三人のあとでいい」


「僕とシルヴィオは、今使っている鞄があるからね」


 二人の言葉に三人はホッとして胸をなで下ろす。


「わかりました。じゃあまずはイリーネ、マリウス、ティアナの鞄を作って、その後にお二人のを製作しますね」


「ああ」


「よろしくね~!」


 シルヴィオとディートリヒが頷いて了承してくれる。



 こうして私は新たに効果付与の鞄を製作することになったのだった。

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