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第七十八話「偵察隊の帰還」

 エルナに新しい服の作り方を教えつつ、ミサンガの量産に励んでいると、玄関の方から騒がしい声が聞こえてくる。


 何かと思って私が見に行ってみると、ドアが開いた。


「ただいまー!」


 そう言って、顔を出したのはティアナだった。


「おかえり……?」


 「ただいま」と言われたので私は戸惑いつつ返すと、ティアナはちょっとだけムッとした顔になる。


「ミナがいってらっしゃいって言ったんでしょ。だからただいま!」


「ああ、そっか」


 偵察隊を見送る際に、みんなに「いってらっしゃい」と言った。それに対しての言葉だったらしい。


「ただいま」


 ティアナに続いてイリーネがそう言って、入ってくる。


 それに「おかえりー」と返しながら、私は、ん? と首を傾げた。


 当たり前のように入ってきたけど、ええ……?


 二人は応接室の方へと進んでいく。


 その疑問を解消してくれたのは、慌てて駆け込んできたマリウスだった。


「悪いミナ、偵察のことで打ち合わせすることになってさ、でもギルドだといろんな人の目があるからちょっとまずくて……」


「う、うん」


「ここでやってもいいか?」


「お客さん、いないからそれは構わないけど……」


 うちで偵察隊の打ち合わせをしたいということらしい。お客さんはいないから問題はない。


「私とエルナがいるけど、それでいいなら全然使って大丈夫だよ」


「ありがとう。……あ、ただいま!」


 私の了承の言葉にホッとしたマリウスは、思い出したように言った。


「おかえり」


 マリウスの後からシルヴィオとディートリヒがやってくる。


「ミナ、悪いな」


「いえいえ、どうぞ。二人ともおかえりなさい」


「ただいま~ミナちゃん!」


 シルヴィオは私の「おかえり」に頷いただけだが、ディートリヒはニコニコした顔で答える。


「僕、ギルド嫌いだから場所貸してくれてありがとうね」


 ディートリヒの言葉に私は苦笑する。


 アロイスと仲が悪いらしいということは聞いていたけど、そもそも冒険者ギルドが嫌いなのか。


 冒険者のことが嫌いなわけではないようだし、仕事であれば冒険者ギルドにもちゃんと行くみたいだから、打ち合わせくらいならうちでも構わない。


 偵察隊の動向は、この町の人がみんな注目していると思うから、冒険者ギルドでは周囲の目があってやりづらいこともあるだろう。


 私も状況が気になるから、打ち合わせをこっそり聞かせてもらおう。


 五人は応接間に集まると、ソファに座る。


 ただ、応接間にあるソファは二人がけのものが一つと、一人がけのものが二つ。全員座るには足りないため、アロイスが引越祝いにと持ってきて窓際に置いてある椅子をソファの側に移動させている。


 その椅子にはディートリヒが座ったが、彼は普段アロイスがその椅子によく座っていることを知らないらしい。


 仲の悪いアロイスの特等席だって言ったらどういう反応をするんだろう……。


 ちょっと気になるけど、今は黙っておくことにする。


 私は作業場でもある食堂に向かう。


 エルナもぞろぞろとやってきた冒険者五人が気になっているようで、作業の手を止めて応接間の方に視線を向けている。


「あっちで偵察隊の打ち合わせするんだって」


「帰ってきたんだね!」


 エルナもマリウスやシルヴィオがダンジョンの偵察に行ったことは知っている。無事に戻ってきたことに嬉しそうな顔をする。


 私は全員分のカッフェーを準備するべくキッチンへ向かう。


 薪を燃やして使うコンロは、まだ熾火が残っていたのでそこに薪を足して、火力を上げる。そして、水を張った鍋をコンロの上に置いた。


 あとはいつも通りに淹れたら、応接間にいる五人のところに持っていく。


「カッフェーですけど、どうぞ」


「わぁ、ミナありがとうー!」


 話を中断させてしまったが、ティアナがカッフェーを配る手伝いをしてくれる。


 全員に配り終えると、私は「食堂にいるので、何かあったら声をかけてください」と言ってその場から離れた。


 ミサンガの製作を再開しようとしていると、応接間の方から声が漏れ聞こえてくる。


 どうやらダンジョンの入り口はやっかいな魔物の巣になっているようで、それをどうにかしないとダンジョン内部の偵察は難しいらしい。


 その魔物を倒すには道具や薬の準備が必要らしい。時間がかかるので、それまではダンジョン周辺をより詳しく調べることにするらしい。


 話し合いは基本的にシルヴィオとディートリヒが主導して、他の三人は指示に頷いている。冒険者の経験やランクから自然とそうなるのだろう。


 シルヴィオはあまり口数が多くないので、ディートリヒがうまく補っていた。


 問題なく話は進みしばらくすると、シルヴィオの声で「ミナ、ちょっといいか」と聞こえてくる。


 応接間に顔を出すと、二人がけのソファに座るティアナとイリーネが詰めてくれる。二人がけといっても余裕がある上に、女性が三人なら問題なく座れる。


 私はありがたくそこにお邪魔した。


 着席した私を待って、シルヴィオが話し出す。


「以前作ってもらった毒回復のミサンガって作れるか?」


「作れますよ。ただ、全員分となると月ツユクサの露が足りないですし、三色水晶もないので、素材があればの話なんですが……」


「それはこっちでなんとかする。俺は手持ちがあるから除いて四人分の製作をお願いしたい」

 先ほど、ダンジョンの入り口にいる魔物が毒を持っていると聞こえてきたので、その対策のためだろう。


「わかりました」


「ギルドに請求するからミナちゃんふんだくってもいいからね」


 ディートリヒがにやりとした表情で言う。


「いやいや、正規の金額を請求しますからね」


 私は苦笑する。前回シルヴィオに依頼された時の値段を元に、ギルドに請求するつもりだ。


「他には私が作れるもので必要なものはありますか?」


「……今のところはないな」


 シルヴィオがそう答えると、マリウスが「あっ」と声を上げる。


 全員の視線が集まると、マリウスは焦ったような顔をした。


「俺のは個人的なやつだから今じゃなくて……」


 言ってから後で頼めばいいことに気付いたのだろう。マリウスが遠慮するように話をなかったことにしようとする。


 しかし、シルヴィオがそれを止めた。


「もし偵察中に装備が壊れたり、アイテムを消費したら、それも冒険者ギルドに請求する。どのくらい負担してもらえるかはわからないが、申告はするべきだから、言え」


 シルヴィオの最もな意見にマリウスは考え直したのか、「じゃあ」と切り出した。


「今日、たくさん討伐したのはいいんだけど、落ちたアイテムを入れたら鞄の紐が切れそうになってさ」


 そう言って、マリウスはいつも使っているボンサックを私に差し出した。


 見ると肩にかけるベルトの根元部分が摩耗して切れそうになっていた。


「このくらいなら手持ちの生地で補強できるよ」


「それなら良かった」


 マリウスはホッとした顔をする。


 フィールドワークに鞄は欠かせない。使えなくなったら新しいものを調達しなければならないが、使い慣れたものをそのまま使い続けられるのであればそれが一番だろう。


 ただ今回補強してまだしばらく使えるとしても、マリウスの鞄が消耗してきているのは一目瞭然だ。


 出会った頃も使い込まれていた風体のボンサックは、さらにくたびれてきていて、すれているのもベルト部分だけじゃない。


 毎日その鞄を背負って依頼をこなしてきたのだ。


 アイテムや道具を入れ、マリウスが動くたびにその鞄が上下する。雨風や日光にさらされ続けていることも要因のひとつだろう。


 服や武器は新しくなったけど、ボンサックだけは元のまま。私も気になっていたが後回しにしていた部分でもあった。


 鞄も新しいものを考えておいた方がいいかもしれない。


 すると、私の手元を覗き込んでいたティアナが「鞄って大事だよね」と切り出した。

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