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第七十六話「見送りと私にできること」

「ではくれぐれも気をつけて」


 ハーラルトの言葉に偵察隊の五人が頷く。打ち合わせをすませて、装備も万全に整えた五人はこれからさっそく調査に向かう。


 私とアロイス、そしてハーラルトはギルドの前で五人を見送る。


「シルヴィオ、頼んだ」


「ああ」


 パーティーをまとめるのはシルヴィオだ。ディートリヒがそれを補佐する立場になる。


 これまでシルヴィオがしてきた調査に基づいて、まずは偵察をするらしい。


「行くぞ」

 シルヴィオの言葉でほかの四人も動き出す。


 私はマリウスに視線を向けると、真剣な顔ながら少し口元に笑みを浮かべた表情をこちらに向けてくる。


「……いってらっしゃい!」


 思わず偵察隊の五人に声をかける。安易な考えだけど、「いってきます」という言葉は「ただいま」とセットだ。その言葉が聞けたらと、私は考えるよりも先に口に出していた。


 すると、みんな足を止めてこちらを振り向いてくれる。


「うん、いってきまーす!」


 ティアナが元気よく答えてくれた。


「いってきます」


 イリーネも口角を少しあげて言った。


「ミナちゃん、いってくるね〜」


 ディートリヒはわざとらしい笑顔だ。


 そのさらに遠くにいるシルヴィオは、言葉はないもののこちらに視線を向けてくれる。


 そして、最後にマリウスがーー


「いってきます!」


 片手を挙げ、にかっとした笑みで言った。


 そして、五人はダンジョンの偵察に出発した。


 私は彼らの後ろ姿が見えなくなるまでその場で見送った。



 ギルドから自宅に戻る途中、私は糸のお店に立ち寄ることにした。そこでたくさんの糸を買い込む。ついでにいくつかの手芸関係のお店にもよって、布やボタンなどの雑貨小物も大量に購入した。


 日用品と違い、今は手芸関係のものの在庫はある。しかし、これから先はわからない。


 おそらくダンジョンの影響で流通がこれまで通りとはいかなくなるだろう。


 なにしろすでにポーションは品薄状態だ。日用品もこれから徐々に少なくなっていくだろう。


 思うに、自然災害が起きた後の人々の動きとよく似ている。


 緊急に使うものや毎日使うものからなくなっていき、長期間になると日頃は使う頻度が少ないものもなくなっていく。


 どうなるかは偵察隊の調査結果次第だけど、なんの影響もないということはないはずだ。


 日々の生活に忍び寄る不穏は、なにも魔物だけじゃない。


 ダンジョンに一番近いこのアインスバッハの町は、いろんな意味で影響を受ける。ダンジョンの恩恵は確かにあるかもしれない。


 しかし、ダンジョン発生から外郭攻略までの期間はむしろパニックと混乱の時間だ。これまでスムーズだった物流が滞り、生活物資が不足する。


 さらに人口の流出。特に自身の危機に鋭い冒険者の移動は迅速だ。自由業であるため、命あっての物種。強い魔物はリターンも大きいが、その分当然リスクがある。


 自分の力量を見極めて安全を考えるのは正しい。だからこそ冒険者が我先にとアインスバッハの町から出て行くのを止めることはできない。


 現に今日も朝一で町を出る冒険者が大挙している。


 そうするとただでさえ魔物の脅威にさらされているアインスバッハの町は、手薄になっていく。


 物資も少ない上に、人的な守りも薄い。


 そうなると負の連鎖だ。


 そう意味でもダンジョンは厄災だった。


 でも、その中にあっても、ダンジョンをどうにかしようと動いている人たちがいる。ダンジョンができたからといって、町から移動することなく、住み続けようとしている人もいる。


 私はその人たちのことを知っている。


 ダンジョンができる前から、そしてできたことがわかってから、いち早く動き対処しようとしている。彼らだって、ほかの冒険者のように町を出ることは自由なはずだ。


 しかし、そうしようとしない。


 未知のものに相対するのは誰だって怖い。けれど、冒険者ギルドを出発していった偵察隊の五人はその恐怖心を見せることはなかった。


 むしろ私の方が心配で仕方ない。


 ……冒険者でもない私が心配するのはおこがましいかもしれないけど。


 危険な場所に向かっていく彼らの背中は頼もしい。


 けれど、彼らだって怪我をすることはある。消耗もする。悔しく敗走することだってあるだろう。


 そのサポートをするため、私にできること。


 私の特技は服を作ることだけ。


 戦闘能力はほぼゼロだから、そっちは頼もしい冒険者に任せて、私はとにかく彼のためになるものをひたすら作る。


 できることが限られているから、シンプルにやれることをやる。


 というかそれしかできないし!


「うん、やるぞー!」


『こちらの準備も整っております』


「うわっ! びっくりした~」


 突然頭の中に響いた声に私はビクッと肩を揺らす。


 この声は、私の特殊スキル『製作者の贈り物(ルビ:クリエイターズギフト)』だ。はじめは手探りで付与していた効果だったが、いつしか『製作者の贈り物』がしゃべるようになった。


 はじめは何事かと思ったけど、効果の付与率だったり、付与できる効果が何かを事前に教えてくれるのはとても便利だ。


「これから新しい効果も必要になるかもしれないし、あなたもよろしくね『製作者の贈り物』!」


『おまかせください』


 はじめはとても機械的だった受け答えが、最近はだんだん人間っぽくなってきた気がする。


 私の脳内に響く声だけしか聞こえないから実態があるわけじゃないけど、話す感じからそう思う。


 スキルを使わないと寂しそうだったりして。そんなときはちょっと可愛いんだよね……。


 『製作者の贈り物』の進化もあって、私のできることも少しずつ増えてきている気がする。


 冒険者専用の服を作るというのはまだまだで、マリウス、ティアナ、イリーネの服しかまだ作れていない。服の製作には時間がかかるというのもあるし、オーダー式という関係もある。


 こちらの世界ではスキルは使うだけ、進化していくという。


 私の『製作者の贈り物』も音声がついた。


 だったらもっともっと進化していく可能性がある。


 今は付与できない強い効果も付与できるようになるかもしれない。


 戦えはしないけど、冒険者の戦う服は作れる。


 私にできること。


 今はただそれをやるのみだ。

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