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第六十九話「表面化した変異」

 アインスバッハの周辺の魔物の様子がおかしい。


 ここ数日、町の中はその話題で持ちきりだった。


 これに一番影響を受けているのが冒険者たちだ。依頼を受けようにも、倒すべき魔物がどこにいるのかわからない。いないならまだしも、低レベルの魔物が生息していた場所に高レベルの魔物が棲み着いている。


 そんな報告が次々と上がってきているらしい。


 予兆は前からあった。


 しかし、ここに来てその変化が劇的になったという。


 マリウスが遭遇した魔物もその一つだった。


 アインスバッハ周辺には生息していないはずのシザーマンティスという魔物。それにマリウスが襲われた。


 後日、シルヴィオがその姿を確かめに行くと、マリウスの証言通りシザーマンティスがいたらしい。


 いよいよもって、変異が起きていることを冒険者も町の人も感じ始めた。


 なにが起きているのか、これからなにが起きるのか。


 いろんな憶測が飛び交い、募る危機感と共に、情報が錯綜していた。





 『ドラッヘンクライト』の試着室のドアが開く。


 そこから出てきたのは、新しい服を纏ったティアナだった。


「すごい、いいねいいね~!」


 サイズぴったりにあつらえた衣装は、ティアナのすらりとしたスタイルをより綺麗に見せる。


「念のため、キツかったりするところがないか動いてみてくださいね」


「大丈夫そうだよ! うわぁ、サイズ通りの服ってこんなに着心地が良いんだね!」


 ティアナは感動したように自分の体を抱きしめる。


 そして、また試着室のドアが開いた。


「着れた」


 出てきたイリーネも新しい服に身を包んでいた。


「おっ! イリーネもいいじゃん!」


「うん、いい感じ」


 イリーネは嬉しそうに頬を染め、服を着た体の至るところをぽふぽふと触っている。


「やっぱり共通性があるので、パーティー感がありますね。このデザインにして良かった~」


「すごく気に入ったよ!」


「うん!」


 二人とも服の出来に喜んでくれたようで安心する。


「それで、効果はなにか付いたの?」


「ティアナさんは『防御』と『素早さ』を、イリーネさんは『防御』と『回避』を付与してます。それは冒険者カードで確認できると思うので見てみてください」


 私の言葉に、二人はいそいそと自分の冒険者カードを取り出した。


「おお、本当だ! すごい! ミサンガ以外で効果が付与されてるのはじめて見た!」


「ちゃんと付いてる……!」


 どうやら効果の付与も大丈夫だったらしい。


「えっと『ティアナとイリーネのお揃いセット』……?」


「ああ、それはその服のシリーズ名ですね。なんか勝手に名前が付くんですよ」


「へぇ~」


「『パーティーメンバーが同時に装備した時、ボーナスで「防御 小-」が加算される』って」


「え!?」


 イリーネの言葉に私は驚いた。


 パーティーボーナス!?


「本当だ! じゃあ、私とイリーネはシリーズ名の通りお揃いで着たらいいんだね」


「そういうことらしい」


 マリウスの時にも思ったが、装備するまで私にはわからないプラスアルファの効果がある。


 それは特殊スキル・製作者の贈り物の音声案内でも説明されない。


「あれ? 驚いてるけど、そのためにお揃いにしたんじゃなかったの?」


「お揃いにしたのは単にデザインをそうしたかっただけなんですよ」


「そうだったんだ。でも、追加で効果が付くんならお得だったね!」


 ティアナはあっけらかんと言う。


 たしかにその通りだ。


 シリーズ名といい、今回のパーティーボーナスといい、まだまだ奥が深い。


「……そういえばマリウスはあれからどう?」


 ティアナは気になっていたのか、マリウスのことを私に聞いてくる。私はマリウスがいる上の階に視線を向けた。


「だいぶ回復したみたい。でもまだ少し落ち込んでます」


「そっかぁ。気持ちはわからなくないけど」


「シザーマンティスは、マリウスなら倒せる魔物」


「だから落ち込んでるんだと思う」


 この辺には生息していなかったが、シザーマンティスはマリウスの力であれば問題なく倒せるらしい。


 しかし、あれだけの深手を負った。


 不覚を取ったのが、マリウスは悔しいのだろう。


 いつマリウスが復帰しても良いように、新しいミサンガも作ってある。新しいミサンガは月ツユクサの露の加工に加え、蝋引きもした。


 耐久性を上げてそこに『回復 小+』の効果を付与した。効果としては前回のものと一緒だが、デザインと耐久性は変わったのである。


「まぁ、体が回復したら、そのうち心も回復するでしょ」


「冒険者は、そうじゃなきゃやってけない」


 ティアナに続き、イリーネが言った。


 厳しい言葉だが、冒険者として活動している二人だからこその言葉だった。


「でも、外の様子は心配だよね」


「依頼受けられない」


 今回はマリウスがあんな状態になったが、ティアナとイリーネも警戒はしているらしい。


 何より依頼が受けられないことが痛手になってるようだ。


「依頼を受けられないとなると、どうするんですか?」


「魔物素材や討伐証明を買い取ってもらってそれで稼ぐか、本当は推奨されないけど、まず魔物を倒してからそれと同様の依頼を戻って来てから受けるか、どっちかだね」


 ティアナが言うには、素材を売る方法を取るか、もしくは先に魔物を狩ってからその討伐証明を持ち帰ることで出されている依頼から合致するものを後追いで受けるようにするか、その二パターンだそうだ。


 本来依頼は受けてから出かけて、魔物を倒して報告する、といった流れだ。


 それを魔物を倒す、という部分からはじめるのだ。


 困るのは魔物を倒したからといって、それと合致する依頼が出てない場合だ。その時は、魔物の討伐証明や素材の買取だけが発生し、依頼料はゼロだ。効率も悪い。


 それでも、討伐依頼に指定された魔物が移動してしまったのだから仕方ない状態だった。


「ミナのミサンガは売れてるんでしょ?」


「そうみたいですね」


 町が焦燥感に包まれるにつれ、万が一の備えのためにとミサンガを買う人が増えた。このお店にも直接買いに来る人もいて、ただその応対が大変になってしまったので、ミサンガは冒険者ギルドにだけ卸すことにした。


「昨日、冒険者じゃないおばさんの手首にも付いてるの見てびっくりしたよ」


 そう、ミサンガは今や冒険者だけじゃなく、一般の町民にも売れているらしい。冒険者ギルドの売店は冒険者でなくても利用可能。どこからか噂を聞きつけた人たちが買いに来ているらしい。


 それから少しだけティアナとイリーネと話をしてから、二人は服の代金を払って帰って行く。



 迫り来るなにかの気配が町に忍び寄りつつあった。

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