第六十五話「『毒回復』のミサンガ」
甘沢林檎先生と、ゆき哉先生が描く
『冒険者の服、作ります! ~異世界ではじめるデザイナー生活~』の、
第2巻がついに、先週4月12日から全国の書店で発売中です!
【 コミカライズ 】が大きく目立つ帯を目指してくださいね♪
ディートリヒから聞いたシルヴィオの過去の話が頭の中をぐるぐるする。
彼は何のためにシルヴィオの話を私にしたんだろう?
私としてはシルヴィオがなぜあんなに人にも自分にも厳しいのか知れて良かったし、私に対して冷たく感じたのかわかってすっきりした。
でも妙に腑に落ちない気持ちもあって、もやもやもしている。
けれど、そんな気持ちも数日経つと落ち着いた。
あれからディートリヒは、うちの店に来ることもなく、エルナとアロイスとのんびりした『ドラッヘンクライト』の日常を過ごしている。
ティアナとイリーネの服も徐々に完成が見えてきた。マリウスの服よりも複雑で装飾も多めだから時間はかかっているけど、女性ものの服はやっぱり作っていて楽しい!
そんな頃、一度帰ったはずのアロイスが布の袋を持って戻って来た。
「三色水晶の加工が終わったぞ」
どうやら手に持った袋は加工した三色水晶が入っているものだったらしい。
「どんな感じになりました?」
「ほれ、見てみたらいい」
手渡された袋はずっしりしていて、感触で小さい丸い粒がたくさん入っているのがわかった。
私は食堂のテーブルの上に布張りのトレーを持ってくる。これはボタンや金属のパーツがなくならないように置いておくためのものだ。
そこにそっと袋を傾けて、中の水晶を出す。
「うわぁ! 綺麗!!」
隣で見ていたエルナが思わずといったように声を上げた。
トレーの上には、研かれまん丸になった三色水晶がちりばめられた。一つ手に取ってみると、中心に穴が空いていて、ちゃんとミサンガの素材として使えそうだ。
「この大きさなら十分ですよ!」
大きさはややばらつきがあるものの、装着する場所を考えれば問題ない。
「それなら良かった」
「あの加工費いくらかかりました?」
「それはシルヴィオから全額もらってからでいい」
いいのかな?
現金はあまり持っておきたくない主義だから、あとで精算の方が私は助かるけれど。
「じゃあ、お言葉に甘えて。良かったら加工した工房教えてもらいたいです! もしかしたら今後お世話になるかもしれないですし」
「おお、いいぞ。今度連れてってやる」
「よろしくお願いします!」
今回のようにレアなアイテムじゃなくても、服の装飾に使えそうなものを加工依頼するかもしれない。研かれた三色水晶の出来を見る限り、とても良い腕をしている。
球体に研くだけじゃなく、ダイヤモンドのようなカットもお願いできるかもしれないし、今後のデザイン幅を考えると顔を繋いでおきたいと思う。
「じゃあさっそくミサンガ作っちゃおうかな」
ちょうどティアナとイリーネの服の方がキリがいいこともあって、私はシルヴィオからの注文に取りかかる。
まずは三色水晶の大きさの仕分けだ。
トレーの隅からだいたいの大きさ順に並べていく。ある程度揃っていたらいいので、本当にざっくりだ。
あと必要なものは刺繍糸なんだけど、これはすでにいろいろと加工しておいている。
まず加工の一つ目は、月ツユクサの露を染みこませた。これによって効果が付与されやすくなるし、素材の質も上がる。
さらに二つ目の加工もした。それは蝋引き加工だ。
ワックスコードとか、蝋引き糸などと呼ばれるものなのだが、簡単に言えば糸の表面に蝋を塗っているのだ。
これによって耐久性が上がり、水にも強くなる。
さらに繊維がほどけにくくなるので、水晶の小さい穴にも糸を通しやすくなるのだ。
私の特殊スキル・製作者の贈り物にも聞いたが、この加工によって効果の付与に与える影響はないとのことだったので、問題ない。
そういうわけで、底上げした素材の準備は万端。あとは編んでいくだけだ。
シルヴィオからの注文は三本。
私もはじめての組み合わせなのでどうなるかは未知数。三本は編み方や水晶の数も変えて作るつもりだ。
「それじゃ、製作者の贈り物、お願い」
『どの効果を付与しますか?』
私はミサンガ作りに没頭した。
「……っ、できた~!」
最後の一本が完成し、私は声を上げた。
「ミナおねえちゃん、お疲れ様ー!」
「ありがとー!」
エルナからの労いの言葉にホッと息を吐く。
完成した三本のミサンガ。黒と青の糸を使い、三色水晶を入れ込んで編み込んだものだ。
水晶には元の色である三色に加え、糸の色である黒と青が照らし出され、不思議と一体感があった。
「水晶が入ると綺麗! おしゃれな感じがするね!」
出来上がったミサンガを見てエルナが感想を述べる。
たしかに普通のミサンガよりも高級感がある。
「どれどれ、完成したか」
アロイスも窓辺の椅子から立ち上がり、作業テーブルへやってくる。
「効果はどうだ?」
「えっと、こっちから『毒回復 小+』『毒回復 中-』『毒回復 中』ですね」
「おお、『毒回復 中』まで付いたのか!」
驚いたように目を見開いたアロイスは、持ってもいいかと私に聞いてから、『毒回復 中』の効果が付いたミサンガを手に取る。
「本当に付与されているな」
「やっぱり大きい水晶を使うのがいいみたいですね。ただ『毒回復 中』のミサンガは耐久性が不安でもあって」
『毒回復 中』が付与されたミサンガは、大粒の水晶を使っている。デザインとしてはミサンガの中央に連なるように配置したデザインだ。
「でも意外なのが『毒回復 中-』なんです。小さいのばかりを使ったんですけどこっちの『毒回復 小+』よりも効果が高いんですよね」
大粒と小粒を等間隔に交互に配置した『毒回復 小+』よりも、『毒回復 中』と同じデザインで、小粒の水晶に置き換えて作った『毒回復 中-』の方が効果は上だった。『毒回復 中』のミサンガに比べると、使った水晶の数は倍近いが、それでもこの効果の出方がよくわからない。
アロイスなら何かわかるかと話してみると、彼も考え込んだ。
「考えられるのは水晶と水晶の近さじゃないか?」
「近さ、ですか」
「ああ、この『中』と『中-』のミサンガは水晶同士の間隔が近い。それが効果を相乗しているのかもしれない」
「なるほど。一理ありますね。ただ、今回作った中で一番耐久性が高いのは『小+』のミサンガになりそうです」
『毒回復 小+』のミサンガは水晶を間隔を開けつつ配置している。そのため、糸との結合部分がしっかりしているのだ。
一方で、他の二つは接合部がどうしても一点に集中している。しかも間隔が狭いので、摩耗しやすい箇所が集中しているのだ。
糸に蝋引きをして耐久性を上げてはいるものの、摩擦によってそれも剥げてくる。
元の素材が糸であることを考えると、限界はあるのだ。
「それでも、一回使う限りの毒消しポーションよりはかなり良いと思うぞ。シルヴィオも満足する出来だと思う」
「それなら良かった」
アロイスが太鼓判を押してくれて、私はホッとする。
今回の注文で、ミサンガにもそして服のデザインにも可能性が広がったと感じている。
早くシルヴィオさんに見せたいな……!
私なりに工夫を凝らして作りあげた自信がある。はじめてのシルヴィオからの注文に十分に応えたと思っている。
喜んでくれることを期待しながら、私は出来上がったミサンガをそっと指で撫でるのだった。
甘沢林檎先生と、ゆき哉先生が描く
『冒険者の服、作ります! ~異世界ではじめるデザイナー生活~』の、
第2巻が全国の書店で発売中です!
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