第六十四.五話「これからのキーパーソン」
前書きの誤字ご指摘ありがとうございます。
甘沢林檎先生と、ゆき哉先生が描く
『冒険者の服、作ります! ~異世界ではじめるデザイナー生活~』の、
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今週平日5日間の毎日1話更新にお付き合い感謝申し上げます。
その感謝と、皆様1週間お疲れ様でした&土日も働く方々への
「頑張るあなたの“読むサプリ”!」として、
特別ご褒美、本日もう1話更新しちゃいましょう・*:..。o○☆*゜
何度か訪ねた店を僕は振り返る。腐れ縁であるシルヴィオのことを語ってしまったけど、まあいいだろう。
十年も前になった古い記憶にあるいけ好かない女の面影とミナは違いすぎる。
もっと醜悪な何かだった。
「報復したのは、シルヴィオじゃなくて僕だったりして~」
ミナには言わなかった真実だ。
命は取っていないが、もし今も生きていたら、死んだ方がましだったと思うような生活をしているはずだ。
ミナには言わなかったが、本当はあの時パーティーに入るのはあの女じゃなくて僕だった。
けれど、その時、この町の領主から専属にならないかと誘いを受けていた最中だったのだ。
シルヴィオと相棒は、僕の背中を押してくれて、引退間近の先代専属魔法使いから教えを受けることになった。
だから、僕が事の顛末を知ったときには、すべてが終わった後だったのだ。
もし僕がパーティーメンバーだったら、そもそもあんなことは起きなかったと思うと、今でもやりきれない。
冒険者を引退せざるを得なくなった彼や、命を落としてしまった彼、そして、心を閉ざし頑なに一人で依頼をこなすようになったシルヴィオ。
今僕ができる贖罪はシルヴィオに対してだけ。これも僕の自己満足でしかないけれど。
シルヴィオはああ見えて優しい奴だ。
あれ以来無表情な不機嫌顔には拍車がかかったし、口下手だから誤解されやすいけど。優しさもわかりにくいしね。
それは、わかる人にだけ届けばいいと思っている。
あの女のような有象無象にはもったいない。
だからこそ、僕はミナという人間を見極めたいと思っていた。
冒険者のマリウスと違い、ミナは接する人も少ない上に、記録されているものもほとんどない。
冒険者ギルドにミサンガを卸しているものの、それは人がいない時間を狙っているようで、その際もギルドの職員しか話す機会はない。
マリウスの噂は聞こえてきても、ミナの話はほぼ聞こえてくることはなかった。
残る方法は、実際に会ってみるしかない。
そう思って、向かった宿屋アンゼルマ。まさかそこにシルヴィオもいるとは思っていなかった。
しかも、聞くところによると、その時にはすでに宿屋から購入した家に引っ越しているというでは
ないか。
シルヴィオから聞いた話は、マリウスとミナに関しての本当に少しの情報だけで、店を開いたなんて聞いていなかった。
調べると資金は元の世界から持ってきたものを競売にかけて得たらしい。マリウスは費用を出してなくて、ミナが格安で住まわせていることも知った。
この時点で、僕の中でミナは悪い人間じゃないと確信していた。
そして、ふいに訪れたミナの店『ドラッヘンクライト』。
竜のドレス、なんて面白い名前だと思ったが、間近で見たミナも不思議だった。
まず彼女の特殊スキルだ。
『回復』という珍しい効果のついたミサンガ。さらに、たくさんの効果が付与された服。
違う世界から来た渡り人という経歴もさることながら、彼女の持つ特殊スキルは他の効果を付与する類いのスキルともまた違っている。
そして、彼女自身の雰囲気も独特だ。
二十三歳には見えない容姿。気さくでありながらも、きちんとしつけられているであろう所作。
こちらの世界のことに疎いようでいて、大胆な考え方。
普通に考えて、家を買うなんて思い切りが良すぎるだろう。
嫌悪と警戒から入ったはずのシルヴィオが、その印象を翻し信頼するだけの人物であるなと感心した。
それを考えても、マリウス、ミナともにこれからこの町に欠かせない人間になりそうだと僕は思った。
「おい、ディートリヒじゃないか」
気分良く歩いていると、声をかけられた。
振り向くと、アロイジウスが立っている。
「アロイスさん、やっほ~」
「専属魔法使いがこんなところで何してるんだ?」
「大事な人に会いにね」
「こっちの方から来たってことは、もしかしてミナにちょっかい出してたのか?」
「ちょっかいって、ただおしゃべりに行っただけだよ」
「まったく余計なことをしてくれるなよ。ミナは俺の弟子でもあるんだぞ」
僕が冒険者だった頃のギルドマスターだったアロイジウスはなかなか侮れない。ミナがアロイジウ
スの弟子じゃなければ、僕がスキルのこと教えたのにと思う。
シルヴィオは慕っているようだが、僕はこのアロイジウスのことが少し苦手だ。
逆恨みかもしれないけど、あの女の時、何もしてくれなかったからだ。その後になって、シルヴィオに手を貸していたんだから、遅すぎると思ってしまう。
まあ、今となってはギルドマスターである立場で、冒険者たちに施しすぎるのはダメだと理解できるけどね。
アロイジウスは内心を隠すように笑みを浮かべる僕を見て、ため息を吐いた。
「……シルヴィオのことを考えてのことだとわかるがあいつもいい大人なんだからな」
「なんのこと~?」
「過保護もほどほどにしろよってことだ」
過保護にもなりきれない僕には皮肉にしか聞こえない。
そっちこそもう引退した身なんだから、後のことには手を出さなきゃいいのに。
現ギルドマスターからたびたび相談を受けているのは知っている。領主もアロイジウスのことを取り立てているから、僕は強く言えないけど、今迫り来そうな何かに備えるのにアロイジウスがしゃしゃり出てくるのが気に入らない。
シルヴィオが今調査している異変。領主直々の依頼で、この町出身の冒険者で経験豊富な上級ランク冒険者はシルヴィオしかいなかった。
僕の予想では、この異変は最悪ダンジョンの誕生だと考えている。
突然変異の魔物ボスの誕生も思い浮かんだが、それにしては異変が起こる範囲が広く、そして影響が出はじめる時間が長期にわたっている。
この初級冒険者向けと名高いアインスバッハの近くにダンジョンができたとしたら一大事だ。
きっと今この町に在籍してる冒険者では太刀打ちできない魔物が発生する。
戦力になるのはせいぜいCランク以上。
それでもダンジョンを攻略するとなると、どう考えても戦力が足りなさすぎる。
ダンジョンの厄介なところは、最奥にいるダンジョンボスを倒さなければ、魔物が溢れ続けるということだ。
ボスを倒した後も魔物は発生するが、弱体化して、出現も一定になる。
そうなるまでが途方もなく長く、厳しいのだ。
近い将来、僕は確実にダンジョンが生まれると思っている。そのために、情報を集め動いている。
ダンジョン攻略のキーパーソンになるのは、シルヴィオにマリウス、そしてミナ。
まずダンジョンボスを倒すには一人では絶対無理だ。シルヴィオがいくら強くても、限界がある。
僕はもちろん手伝うつもりだけど、それでも人手が足りなさすぎる。
そこで僕らのパーティーメンバーになりうるのがマリウスだ。まだまだ力不足だが、シルヴィオの信頼を勝ち取っている時点で見込みはある。
いくら強くてもチームワークを乱す人間は不要。その一点を考えてもマリウスしかいない。
そして、最後にミナ。
彼女の作るものは立派に武器になる。
新人冒険者の多いこの町では、その評価は高くない。もし彼女がもっと高ランク冒険者が多い町にいたとしたら引く手数多だろう。
まずミサンガには計り知れない可能性がある。
消耗品とはいえ、ポーションを飲まずして自動で回復してくれるアイテムなんて便利過ぎる。
戦いは一瞬が命取りになる。
ポーションを飲む瞬間を狙われるなんてざらにあることで、その隙をなくせるというのはとても大きい。
さらに、効果が付与された服もいい。
防御力を上げるためには鎧を着けるのが一般的だが、装備するとどうしても動きづらくなる。重い上に硬い。
女性や俊敏さを活かして活動する男性冒険者には不向きな防具だ。
しかし、ミナの服はその認識を大きく変える。
服だけど効果が付与されることによって、防御力を上げている。
特殊スキルで作ったオーダーの服となるから値段は張るだろう。しかし、その価値はあると僕は考えていた。
悔しいけれど、ミナがアロイジウスに指導を仰いだのは間違いではない。
飄々としているこのじいさんは、腕だけはたしかなのだ。
なおも視線を向けてくるアロイジウスを一瞥する。
「僕は好きにする。邪魔はしないでよね」
「はいはい。無理せんようにな」
今でも新人冒険者だった頃と同じような目で見てくるアロイジウスが本当に腹立たしい。
ふんと踵を返し、僕は歩き出す。
僕の大切な人を僕なりに守るため手を打つ。そのことだけを考えて、僕は笑顔の仮面を貼り付けて、暗躍するのみだ。
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