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第六十二話「閉店間際の来客」

 ディートリヒと名乗る金髪の男性を応接間に通すと、彼は興味津々の様子で室内を見回した。


「へぇ~」


 どう思っての言葉なのかわからないが、その目は好奇心に輝いている。


「あ、これがミサンガかな? 見て良い?」


 彼は壁際の棚に並べられているミサンガを見つけるなり、そちらに近づいて行く。


「どうぞ。あの、何か飲まれます?」


「いいよいいよ、気にしないで~」


 ディートリヒは手を軽く振る。


 じゃあ良いかと私は、さっきまでいたティアナとイリーネのカップをキッチンに片付けた。


 ディートリヒは室内を自由に見て回っている。応接間からは出ないようにしているが、作業スペースである食堂を覗き、最終的には気になったミサンガを持ってきて、応接間のソファに座った。


 この人、何しに来たんだろう? ミサンガを見に来ただけ……?


 格好が冒険者風でもないし、ミサンガを必要としてなさそうに見える。


 それでも興味はあるのか、手に載せたミサンガをまじまじと見つめている。


「なるほどね。面白いなぁ」


 少し離れたところから見守っていると、彼はあははと笑って、ミサンガを窓から差し込む夕日に照らすように掲げ持った。


 そして、私を手招きする。向かい側の一人がけのソファに座るように促され、私はおとなしく座る。


「どうしました?」


「ふふ、警戒してるね。まあ、仕方ないか。改めて自己紹介でもしよう。僕はディートリヒ。職業は魔法使い、かな」


「え……? 魔法使いってすごく少ないんじゃ……」


「そう。そのすごく少ない魔法使いの一人が僕」


「ええ!?」


「あはは、驚いてるね。ここの領主の専属魔法使いだから、この町じゃ結構有名なんだけどね」


「すみません、知らなくて……」


「いいのいいの~。面白い反応見れたからさ」


 ディートリヒはあっけらかんと笑う。怪しいと警戒していたのが失礼だったのではないかと思ったが、どうやら気にしていないらしい。ホッとした。


「で、このミサンガだけど、珍しいね。媒体が糸っていうのははじめて見るよ」


「そうなんですか?」


「まあ、布製品に効果を付与するってことがそもそも聞いたことないからね。ほら武器や防具は金属だったり革だったりするだろう。生活に使うにしたって耐久性の高いものにする方が効率がいいからねぇ」


 たしかに革製品に効果が付与されているのは冒険者ギルドの売店で見たことはある。ミサンガのような糸だけでできたものや、布製品に効果が付与されているものは見かけなかった。


「アロイスさんにも珍しいとは言われましたが、そこまでなんですか……」


「いいじゃん。珍しいスキルは強みだよ~。こうして僕も珍しい魔法使いとして身を立てているわけだしね」


 そう言って、ディートリヒは両手を広げおどけてみせた。


 軽い態度に私はクスリと笑みがこぼれる。それにディートリヒもニッと笑った。


 領主お抱えの魔法使いがこんなに軽くて良いのかと思うけど、元々そういうキャラなのかもしれない。


「ねえねえ、僕の服も作ってよ~」


「はい……って、ええ!?」


 流れで頷いてしまったが、言葉の意味に気付いてハッとする。


「あ、頷いたね! やった、よろしく~!」


「え、ちょっと待ってください! 魔法使いの服って、私作ったことないですよ!?」


「でも冒険者の服は作ってるでしょ? 看板にもそう書いてたし。それと同じ感じでいいよ~」


「いやいやいや」


 そもそも魔法使いなら私が効果を付与した服を着る必要あるの……? 自分でどうにかできないものなの……?


 頭の中でぐるぐる悩んでいると、玄関のドアが開く音が聞こえた。


 顔を上げると、ずかずかと応接室に入ってくる人がいる。


「おい、ディートリヒ。ここで何をしている」


 不機嫌さがありありと顔に出ているシルヴィオだった。ソファに座るディートリヒを睨み付けている。


「あ、シルヴィオじゃん。僕は新しいローブを作ってもらおうと思って交渉中だよ~」


 気が抜けるような言葉で返したディートリヒに、シルヴィオは呆れたようにものすごく深いため息を吐いた。


「領主館に不在かと思えば、まったくお前ってやつは……」


「今日来たの? ごめーん。でも報告くらい僕がいなくてもできるっしょ?」


「当然報告は済ませた。ほら、邪魔してないで帰るぞ」


「えー! 僕は客! 邪魔してない!」


「うるさい、ほら行くぞ」


 シルヴィオは反論するディートリヒの腕を強引に引き、ソファから立ち上がらせる。そして、玄関の方へぐいっと背中を押した。


「ミナ、邪魔したな」


「い、いいえ……」


「ミナちゃーん、また今度ね~」


「おい、今度はない。とっとと歩け」


 そう言って、シルヴィオはディートリヒの足に蹴りを入れる。


「痛い! シルヴィオちゃんったら、乱暴! このAランク冒険者!」「……褒めてるのか?」


「違ぇーし!」という会話がどんどん離れて行く。


 やがて玄関の向こうに声が消えていく。


「なんだったんだろ?」


 結局、ディートリヒは服を注文しに来たんだろうか?


 よくわからないまま、ただシルヴィオとは気安い仲だということはわかった。


 私は今度こそ、玄関ドアの看板を裏返すと、家の中に戻った。

いつもの12時更新ではなく、14時更新となり申し訳ございません。


読者の皆様は何時更新がベストタイムなのでしょうかしら……。



甘沢林檎先生が描く


『冒険者の服、作ります! ~異世界ではじめるデザイナー生活~』の、


第2巻がいよいよ、4月12日(金)より全国の書店で発売です!


あと、2日です!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 領主の住んでるところに居る人に服なんか与えたら、領主が、しゃしゃり出てきて、いつの間にか国王とか出て来て、最悪、監禁されて服を作らされるじゃん ディートリヒ、うざ~
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