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第五十九話「素材のお届けと進歩」

「よし、できた!」


 私は刺し終えた糸を長めに切ると、針を針山に刺して息を吐いた。くしゃっとした布を両手で広げると、達成感に頷く。


 今私が持っているのはイリーネの仮縫いの服だ。


 ようやくティアナとイリーネ、二人の服の仮縫いを終えたのだ。


「明日にでも二人に着てもらいたいな」


 仮縫いで試しに着てもらって、細かい調整をしてから本縫いだ。今回は二人分一気に引き受けたので、作業量も二倍だが、共通性のあるデザインだから一緒に作りたかった。


 反応を楽しみにしつつ、仮縫いの服をトルソーにかける。


 つい独り言を言って作業をしてしまうが、今お店には私一人だ。既に日が傾きはじめ、窓から夕日が差し込んでいる。


 エルナは少し前に帰り、アロイスは今日午前中だけ来ていたが用事があるらしく昼には戻った。


 そろそろマリウスが帰ってきてもおかしくないなと思いながら、作業テーブルの上を片付ける。 その後で、私はデザイン帳を取り出した。


 新しいページを開き、ささっとデザインを描いていく。


 あっという間にできたのはミサンガのデザインだ。


 これはシルヴィオからオーダーされたものだ。


 デザイン帳に描くまでもないが、少し変わった編み方をするため念のために描いておく。色は黒と青を組み合わせ、そこに三色水晶が加わる。


 黒と青はシルヴィオの髪と目の色だし、この色なら彼の服とも合うと思う。


 編み方は間に三色水晶を入れ込んでいく分、少し複雑だ。しかし、基本的なところはミサンガの基本と変わらない。


 ミサンガはビーズを組み合わせて編んだりもするので、その応用といったところか。


 加工後の水晶を見てみて最終的に編み方は変えようと思うが、デザイン画はだいたいのイメージだ。


 編み記号を端に簡単に描いていると、玄関からドアベルの音が聞こえてくる。


 マリウスが帰ってきたのかな?


 そう思うが、いつもなら聞こえてくる「ただいまー」の声がない。


 気になって応接間の方に顔を出してみると、玄関ホールからやってきたのはシルヴィオだった。


「え、いらっしゃいませ」


 慌てて声をかけると、彼は室内をさっと見回した。


「今日は一人なのか?」


「はい、エルナはもう帰りましたし、アロイスさんは用事があるみたいで……」


「そうか」


「……今日は何かありました?」


「これを届けに来た」


 そう言って、シルヴィオは瓶を取り出し、私の方に差し出した。


「もしかして月ツユクサの露ですか?」


「そうだ」


「え、こんなに早く!?」


 ミサンガのオーダーを受けたのは昨日だ。それから一日しか経ってないということは今日取りに行ってくれたってことだよね!?


「早い方がいいと思ってな。水晶の加工はまだかかるだろうが、これは先に使うだろ」


「はい。早い分には助かります……!」


 月ツユクサの露は、先に糸を浸け、乾かさないといけない。それから使うので、早い方が当然ありがたかった。


「あ! あのデザインなんですけど……!」


 そう一言置いて、私は食堂からデザイン帳を持ってきた。


「こんな感じにしようと思ってるんですけど」


 私はさっき描いたばかりのミサンガのデザインをシルヴィオに見せた。彼は私からデザイン帳を受け取ると、じーっと見つめた。


「これはどのくらいの大きさになるんだ?」


「ほぼ実物大ですね」


「なるほど」


「でも、水晶がどのくらいの大きさで仕上がるかわからないので、実際は石の大きさに合わせて編み方も多少変わります。ただ、だいたいのイメージはこんな感じと思ってもらえたら……」


「そうか。いいんじゃないか」


 シルヴィオはそう言いながら私にデザイン帳を返してくる。


 良かった……!


 おそらくデザインより付与される効果を重視しているんだろうけど、気に入らないって言われなくて良かったよ……。


 効果も大事だけど、作るならその人に似合うものを作りたい。


 服作りをしている人なら、そう思うのが当然だ。


 ふとシルヴィオが私の後ろの方に視線を向けた。


「あれは、昨日作ってたやつだろ? できたのか?」


 彼の視線を辿ると、ティアナとイリーナの服がかかったトルソーがある。


「さっき仮縫いが終わったところで、本縫いはこれからです」


「そうか。……がんばってるんだな」


「え……?」


「マリウスの服を作ってからそう日が経ってないうちに注文を受けてるだろ。順調じゃないか」


「おかげさまでどうにか……」


 え、もしかして私、褒められてる……?


 じわじわと嬉しさがわき上がる。


 口数の多くないシルヴィオからの言葉だから余計に嬉しい。


「店を買ったと聞いた時は大丈夫かとも思ったが、この調子ならやっていけそうだな」


「はい!」


 ちゃんと経営していけるか心配してくれたのかな?


 だったら、すごく嬉しい。いつになく優しいシルヴィオが嬉しくもあり、面はゆさも感じて少し落ち着かない。


「俺のミサンガも頼んだ」


「もちろん! いいの作りますね」


 これは結構認められたのではないだろうか。私にも原因があったとはいえ、はじめの厳しい態度から考えたら、かなりの進歩だ。


 私が気合い十分に宣言すると、シルヴィオはフッと笑って、踵を返す。


「じゃあ、できた頃にまた来る」


 そう言うと、喜びを噛みしめる私を置いてすたすたと玄関の方に向かっていってしまう。


 見送ろうと、私もその後を追うと、シルヴィオがドアを開ける前に、ドアの方が勝手に開いた。


「ただいまー……ってうわっ、シルヴィオさん!?」


 開いたドアの外にいたのはマリウスだった。ちょうど帰ってきたところらしい。


「あ、もしかしてミナのオーダーしたやつの打ち合わせとかですか?」


「そんなところだ」


「帰るところなら、一緒に夕飯どうですか? 宿屋アンゼルマに」


「ああ、あそこか。いいぞ」


「やった! ミナもいい?」


「うん!」


 流れるような早さでマリウスはシルヴィオを夕飯に誘った。以前一緒にご飯を食べたことはあったし、私に否やはない。


「それじゃあ、俺荷物置いてくるんでちょっと待っててください」


 そう言って、マリウスはバタバタと二階の自分の部屋へ向かって駆けていく。


 その場には私とシルヴィオが残された。


「……あんたは出かける準備、いいのか?」


「そうですね! ちょっと待っててください」


 シルヴィオに促され、私はハッとする。マリウスの後を追うように、私は二階への階段を上った。

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担当編集者より。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 1〜2センチの水晶を編み込むって……。そんなに大きいものを通したらまともに……というか、まず編めません。1センチは真珠大、2センチの珠っていったらさくらんぼですよ。ミサンガそのものを通…
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