第六話「換金とオークション」 上
「換金とオークション」は、少し長くなったので上下編に分かれております。
お楽しみください。
担当編集より
冒険者登録が無事終わり、私はホッと胸を撫で下ろす。お金はないが、この世界で身分を証明するものを手に入れたことで、生活に対する安心感がこみ上げる。
だから次はお金だ!
「あのすみません。この辺で換金できるような場所ってありますか?」
マリウスと私の関係がまだ気になっているらしい受付の職員に質問する。
「何か売りたいものでもあるんですか?」
「売りたいっていうか、両替かな? これです」
そう言って、私はリュックから財布を取り出すと、お札入れから千円札を一枚引き抜いて彼女に見せた。
「私の世界のお金なんですけど、こちらの世界では使えないっぽいから換金できないかなって……」
千円札を見せると、彼女は目の色を変えた。
「ちょっと見せていただけますか?」
「あ、はいどうぞ」
渡してあげると、まじまじと千円札を見つめはじめる。裏返したり、横から見たり。真ん中の丸い部分にあるすかし絵に気付くと、光に照らしてさらに目を大きく見開いた。
「ミナさん、これは普通に換金するよりもオークションにかけた方がいいですよ!」
「へ?」
「異国のお金っていうだけでも価値がありますが、精巧な絵としてもコレクター垂涎の的になるはずです!! うわぁ、すごいなぁ!! この真ん中に浮かび上がる絵なんてどうやって描かれているのか……」
「は、はぁ……」
女性職員の熱の入り具合に、私はちょっと引いてしまう。珍しいものが好きな人なんだろうか……。
「オークションにかけるために、鑑定部門に行きましょう。案内します!」
「え、ここの受付はいいんですか?」
「いつもこの時間は人が来ませんから大丈夫です! 何かあれば呼び鈴を鳴らしてくれると思いますし」
彼女は受付カウンターを出ると、私とマリウスを「ほら、行きますよ!」と促して、先をずんずん進んでいく。
私とマリウスは顔を見合わせると、慌てて彼女のあとを追った。
やってきたのは受付よりもさらに奥にある部屋だ。
……部屋と言うより倉庫と言った方が正しいかもしれない。
広い空間に作業台が数個置かれていて、壁際には雑然と木箱が積み上がっている。職員しか人がいなかった受付カウンター付近とは違い、人の出入りがあるようで賑わっていた。どうやら正面入口とは別の入口があって、そこから直接この部屋にやってこられるらしい。
「ここには討伐依頼の達成確認のカウンターがあります。討伐や素材収集の依頼が終わったら、こちらにお越しください。同時に素材の買取もしていますので……あ、ライナーさーん!!」
私たちに説明していた職員の彼女は、そのカウンター……というより作業台のところで毛皮を見ている小柄な男性に向かって声をかけた。
「レーナ、うるさい。こっちは仕事中だ」
男性は顔も上げずにすげなく答える。
今更だが、この受付の女性はレーナという名前のようだ。
レーナは、めげずに男性の元に近寄り話しかける。
「そんなこと言わずに、ライナーさん! 絶対オークション案件ですよ! ほら見てください!」
そう言って、彼女は持ったままだった私の千円札を男性の目の前に突き出した。
さすがにそうされると顔を上げないわけにもいかず、男性はしかめ面で千円札を視界に入れた。
すると、途端に彼の表情が変わる。
手にしていた毛皮を台に置き、まじまじと千円札を見つめる。
「おい、これはどこで……」
「ね、言ったでしょう!」
男性が驚いた顔でレーナを見ると、彼女は得意げにふふんと笑い胸を張った。
そして、彼はレーナの後ろに佇む私とマリウスに気付く。
「これ済ますからちょっと待ってろ」
そう声をかけて、男性はやりかけだった作業を再開した。
言葉通りテキパキと作業を進め、そう時間がかからずに男性がやってくる。
「待たせた。レーナ、あっちの部屋行くぞ」
「はーい」
私とマリウスは再び移動することになった。