第五十八話「器と異素材」
本作品の書籍第2巻の書影画像が公開されました!
今回もゆき哉先生の美麗なイラストが目印です!!
下記URLチェックお願い申し上げます。
http://arianrose.jp/novel/?published_id=1804
「ミナ、引き受けさせてしまって悪いな」
アロイスの言葉に私はハッと我に返った。
「いえ、それは大丈夫なんですけど……それより本当にできるんですか?」
「防具や武器にも鉱石や魔石を入れ込む方法はあるからな。服だけできないってことはないはずだ」
「なるほど……」
他のアイテムを作る際に使う手法なら、ミサンガにも取り入れられるはずだ。
「その三色水晶? を使うと効果を付与できるようになるんですね」
「属性を考えるとおそらくはな。まあ、他にも素材を持ってくるように伝えたから、その中に何かしら良さそうなものがあればそれでもいいし」
私が知らないうちにアロイスはシルヴィオに素材を持ってくるように言っていたらしい。
助かります……。
エルナに仮縫いの指示をしていると、シルヴィオが戻って来た。
「これでいいか?」
そう言って、シルヴィオは持ってきた素材をテーブルの上に置いていく。宝石のようなものや、原石のようなもの、さらには貝殻のようなものまで多種多様なものが並べられた。
うわぁ、加工すればいろいろ使えそう!
貝殻っぽいのはボタンの素材に良さそうだし、石系はビジュー代わりに使ったりとかいいかも!
私が興味津々に眺めていると、アロイスが「これだ」とその中の一つを手に取った。
「ミナ、三色水晶だ」
そう言って、私の方に差し出してきたそれを受け取った。
見た目は研いていない水晶だが、中を覗き込むと透明な中にうっすらと色が見える。赤、青、黄色がグラデーションになっているようだ。
「綺麗……」
「回復するとなると属性的にこれが一番向いてると思うんだよな」
「えっとできるかちょっと聞いてみますね」
私はそう一言いうと、心の中で「製作者の贈り物」と呼びかける。
『はい』
(この三色水晶と『毒回復』の相性はどう? 素材に使ったら器が大きくなる?)
『三色水晶と月ツユクサの露加工済みのアラクネーの糸をミサンガにする場合、「毒回復 小」以上の付与が可能です。三色水晶の大きさ、個数によって、効果の大きさは変動します』
(なるほど!)
最近知った、製作者の贈り物のお役立ち機能だ。発現した効果に対してのみだけど、効果を付与できるかどうかや、どの効果を付与するのかを選べるようになったのだ。
アロイスが言うには私の特殊スキルがレベルアップしているかららしい。たしかに、はじめは音声案内もなかったしね。
「どうやら三色水晶でできるみたいです」
「そうか」
私の言葉にシルヴィオは心なしか安心したようだ。
「ただ、このままじゃ使えないので、加工をしてもらう必要がありますね」
石のままではミサンガの素材として使えない。
「そのつもりだった。どう加工すればいい?」
「そこで相談なんですが、効果は水晶の大きさと個数によって変動するみたいなんですよね」
「そうだろうな」
私の言葉に効果に詳しいアロイスは当然だと頷く。
「考えたんですけど、ミサンガには大きいまま使うより、小さくしたものをいくつも使う方が良いと思うんですよね」
「大きい方が効果は大きいんじゃないのか?」
シルヴィオはやや訝しげな顔で私を見て、そしてアロイスに視線を向けた。
「まあ、でかい方が効果が大きいってのはそうだな。だがミナはそうじゃないんだろ?」
「はい。まず第一は耐久性ですね。大きいと当然重いですよね。それを繋げる部分がどうしてももろくなりやすいです。糸ですから摩耗もしますしね。その点、小さいものをいくつも編み込む方法ならそこまで一点にかかる負担は大きくないですから。第二にデザイン的にも小さいものを使った方が良いと思います。そもそもこの大きさの水晶を腕に付けるって邪魔じゃないですか?」
私の言葉にシルヴィオは腑に落ちたように頷いた。
「それでできるなら俺は問題ない」
「じゃあ決まりだな。加工は俺の知り合いに頼んでやるよ」
三色水晶の加工に関してはアロイスが請け負ってくれる。
「そしたら、一センチから二センチくらいに丸くしてもらって、真ん中に穴を開けてほしいです」
「大きさは揃えるか?」
「小さいのと大きめの両方欲しいので、サイズは任せます」
「わかった。相談してみるわ」
「お願いします」
「他に必要な素材はあるか?」
シルヴィオの言葉に私は「あっ!」と声を出した。
「月ツユクサの露も欲しいです……」
以前苦労して手に入れた月ツユクサの露は全て使ってしまった。でも、またマリウスに同行してもらって取りに行く気にはなれなかった。
サンドジャッカルも怖かったし、その相手をして私を逃がしてくれたマリウスがまた傷ついてしまうことを考えたらさらに怖い。
あの時の恐怖を思い出すと、私の体が小さく震えた。
「月ツユクサの露は俺が用意するから心配するな」
いつになく優しい響きのシルヴィオの声が私に届く。ふと顔を上げると、涼しい顔で冷めたカッフェーを飲んでいる。
もしかして気遣ってくれた……?
私を逃がして一人サンドジャッカルと戦ってくれたマリウスを助けたのはシルヴィオだ。マリウスからシルヴィオの強さはことあるごとに聞いているから、彼にとっては月ツユクサの露を手に入れるくらい簡単なことなのかもしれない。
それでも、サンドジャッカルの出来事を思って言ってくれたのなら、ちょっと嬉しいかも……。
依頼をしてくれた上に、気のせいかもしれないがちょっとの気遣いを感じて、私はテンションが上がる。
糸以外の素材を組み合わせて効果を高めるなんてはじめての挑戦だけど、今ならできる気がする!
私はやる気に満ちあふれた気持ちで立ち上がると、食堂の方からメジャーを持ってきた。
「腕のサイズ測りますね! 付けるのは利き手と逆がいいと思います」
「……ああ」
私の勢いに若干引きながらも、シルヴィオは左腕を出した。私はそこにメジャーを巻き付ける。
そして、測ったサイズをノートに書き付けた。
このノートは顧客用のサイズ帳である。今のところ、マリウス、エルナ、アンゼルマ、ローマン、ティアナ、イリーネのページがある。
そこに新たにシルヴィオのページができた。
今回はミサンガだけだから、左手首のサイズだけだ。
でもいつか服を依頼された暁には、このページの項目が埋まるだろう。
その時を目指して今はまず依頼されたミサンガを作りあげようと、私は思った。
……コミカライズ企画進行中です♪
誤字脱字等のご指摘ありがとうございます。
修正すべきところは修正します。
修正反映に時間を要してしまい恐れ入ります。




