第五十三話「リフォーム終了と新居の準備」
商業ギルドを通じて、新居に必要なものを手配したり、依頼されたティアナとイリーネの服を作っていたりするうちに、リフォームが終わったという報せが届いた。
そして、今日は待ちに待った引っ越し日である。引っ越しといっても、宿にあるのは必要最低限の荷物なので、それは一度で事足りる。
どちらかというと、新居に運ばれてくる家具や荷物を配置して、生活できるようにするのが目的だ。
この日ばかりはマリウスも依頼を休んで、手伝いに来てくれた。
「どんなところか見るの楽しみだ!」
新居に向かうマリウスはうきうきしている。実は、まだマリウスはどんな家か見ていない。今日がはじめてなのだ。
「修繕してもらったところも一度見たけどいい感じになってるよ!」
そんな話をしているうちに新居に到着した。
「ここだよ」
「おお、立派だ……!」
屋根裏付きの二階建ての家を見上げ、マリウスは呟いた。そんな彼を微笑ましく思いながら、私は玄関の鍵を開ける。
「ほら、マリウス入って入って」
手招きすると、彼は「おう!」と駆け寄ってきた。
今日から我が家になる新居。玄関を入ってすぐ小さな玄関ホールがあり、奥に階段がある。
右手の部屋はお店として使うスペース。かつては応接間だったそこを接客スペースにした。
その奥には食堂だった部屋。ここは服を製作するのに使う。さらに奥がキッチンとなっているので、お茶を出したりもできる。
接客する部屋は一部区切って小部屋を作っており、そこが試着スペースを作ってもらった。
さらに廊下側には納戸あるので、そこはすぐに使う用の布や手芸用品を置く倉庫として使うつもりだ。
二階は寝室が三部屋。私とマリウスのそれぞれの部屋と、客間になる。
その上、この家には屋根裏もある。屋根裏は今のところ特に使う予定はないけど、使う頻度の少ない裁縫道具や材料を置く倉庫として使うことになりそうだ。
マリウスは一通り家の中を見回ってくる。
「すげえな! 広い!!」
「ふふ、間取りに余裕がある家にしたからね」
「そうなのか! 改めて思うと、こんな家をポンと買えるってすごいな……」
「そうだよね……。私もまさか家を買うことになるとは思わなかったわ……」
全ては日本円のオークションの結果だ。あんな大金になるとは予想もしなかったからね。
でも、そのお金もだいぶ目減りした。家の購入費用に、リフォーム費用。そして、家具に生活必需品といろいろ買いそろえたら、残るは三分の一。
お金ってあっという間になくなるんだと今回とても実感した。
当面の生活は困らないにしても、デザイナーの仕事が軌道に乗るかもわからなければ、続けられるのかもわからない。
万が一困った時のために、まだ日本円は残っているので、それをオークションに……という手もあるがそれは最後の最後に取っておきたい。
しばらくはマリウスからの家賃収入とこれまでと同様にミサンガの販売代金が私の主な収入となるだろう。
「こんにちはー! 家具お持ちしたんですが……」
開けたままだった玄関から、威勢のいい男性がひょっこり顔を出した。
「はい! 中に運んでもらっていいですか?」
どうやら家具を搬入してくれる人が来たようだ。両開きになる玄関ドアを大きく開け放ち、運び入れやすいようにする。
「これは一階で、こっちは二階の奥の部屋で」
私は次々運ばれてくる家具を入れる部屋を指示していく。マリウスも運び込みを手伝ってくれて、家具はあっという間に運び終わった。
運んではくれるけど、家具の配置は自分たちでしなければならない。
ここではマリウスが大活躍だった。
二人でなければ移動できない家具以外は、彼がすいすい動かしてあっという間に配置してくれる。
「こんなもんか」
二階のベッドを配置し終えたマリウスはじわりと滲んだ額の汗を拭う。木の枠組みのベッドにはまだ布団がない。
それも今日これから搬入されるはずだ。
そう思うや否や、一階の方から「すみませーん!」という声が聞こえてくる。
どうやらまた別の荷物が運ばれてくるらしい。
私とマリウスは息つく暇もなく、一階へ向かう。新居の準備はまだまだ先が長そうだった。




