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第四十九話「値段交渉とリフォームの依頼」

 翌日また商業ギルドを訪ねる。


 今日もアロイスが付いてきてくれた。毎日申し訳ないけれど、一緒に来てくれると言うのでその言葉に甘えさせてもらっている。


「物件どうするか決められましたか?」


 ハンネスはやってくるなり、私に問いかけてきた。


「はい。昨日見た三軒目の物件にしようと思ってます」


「やはりそうでしたか」


 私の言葉を聞いてハンネスが納得したように呟く。どうやら私がこっちを選ぶのは予想していたようだ。


「では、内装の修繕が必要になりますね。また残っている家具はどうしましょう?」


「使えそうなものはなかったと思いますが……」


 半ば朽ちかけのボロボロの家具はゴミ同然だ。どうやっても使えないだろう。


 そこで隣で聞いていたアロイスが口を開いた。


「ミナ、使えない家具を処分するにも金がかかる。まずはそれを売主かミナかどちらが負担するのか交渉した方がいいぞ」


「なるほど……」


 使えないのに処分の費用だけ押しつけられるのは割に合わない。


「さすがアロイスさん。良いとこ突いてきますね」


 ハンネスは困ったように笑う。もしかしたら、アロイスが言わなければ、知らないうちに私が負担する流れになってたんじゃ……?


 ハッとしてハンネスを見ると、彼は取り繕うように笑みを浮かべた。


 しょ、商人こわ……!


「あの家具はもうゴミ同然ですよね。私が購入するのはあの家そのものであって、あのボロボロの家具は不要ですので、処分は売主さんにお願いしたいです!」


「それが妥当だな。もしそれができなければ、もう一つの迷ってた方にするって手もあるし」


 アロイスが私の発言を援護してくれる。


「……わかりました。たとえばですが、処分はミナさんがするようにしてその分を値引きしてもらうという方法でも大丈夫ですか?」


 ハンネスの提案に私はアロイスに視線で助けを求めた。


「まあ、いいんじゃねえか?」


 アロイスのOKが出たので、私も「ではそれでも大丈夫です」とハンネスに答えた。


「ふむ、それではこのくらいの値段でどうでしょう?」


 さっと金額を書いたものをハンネスが差し出してくる。


 たしかに元の売値よりは下がったが、これは家具の処分代としては妥当な値段なんだろうか?


 でも言い出すまで家具の処分代について話にも出さなかったハンネスならきっと処分代から足が出る値段になるんじゃないかと私は思った。


 ハンネスが差し出してきた紙を自分の元に寄せ、私はその横に違う値段を書いた。


「この金額でお願いします」


 それを見てハンネスがぎょっとする。


「いやいや、ここまではちょっと」


 鼻で笑うような声でハンネスが言った。その態度にちょっとムッとする。


 何も知らない小娘だと思ってるな!


 こう見えて私は値段交渉は苦手じゃないぞ! 伊達に販売員をしてない。


 私はわざときょとんとした顔をして口を開く。


「え? でもこの家って私が買わないと商業ギルドには一銭……一マルカも入ってこないですよね?」


「まあ、そうですが」


「私としては購入じゃなく借りるって手も取れるんですよ? ……ああそうだ。何もこの町にずっと住み続けるって考えなくてもいいのかもしれないですね。他の町の方がいろいろな服を見られて勉強になるかもしれないですし」


「元ギルドマスターとしては、ミナに冒険者向けの服を作ってもらえるのは、冒険者ギルドにとっても、この町にとっても大きな利益なんだけどなぁ」


 私の言葉にアロイスが残念そうに言う。


「……では、この値段でどうです?」


 ハンネスが再び提示した値段を見て、私は無言で首を振った。


 私は席を立つ。


「今日はこれで帰りましょうか」


 アロイスさんの方を見てそう言うと、ハンネスが「待ってください!」と私を止めた。


「二十万マルカで! もうこれ以上は本当に下げられないですよ!」


 元の値段は二十五万マルカだったので、五万マルカも値下げされた。


「ハンネス、ミナを舐めて値段ふっかけるからこんなことになるんだよ」


 アロイスは面白そうに顔をニヤニヤとさせ言う。


「……ですね。もっとふわふわとしたお嬢さんだと思ったんですが、私もまだまだだったようです」


 ハンネスは肩を竦めてみせる。


 ……あれ?


 私は不思議な展開に首を傾げた。


 そんな私を見かねてアロイスが説明をしてくれる。


「そもそもあの元の値段はだいぶ利益を乗せた金額だったんだ。あの家だったら高くてもせいぜい二十二万マルカってとこだな」


「私も商人ですから、取れる機会があれば逃しませんよ。あのまま取引が成立すれば万々歳ですし。まさかアロイスさんの力も借りずに交渉されるとは思いませんでした」


 ハンネスは感心したような目で見つめてくる。


 なんにしろ安くなって良かったってことかな……?




 その後は、リフォームのことについて話し合った。


 基本的に商業ギルドから職人を紹介してもらい、かかった金額を合算して商業ギルドを通して支払う流れになるらしい。


 あとは家具も買いそろえないといけない。


 一から家具を作るには時間がかかりすぎるので、基本的なものはもう完成しているものを購入することになった。


 家具は商業ギルドの倉庫にあるらしく、さっそく見に行くことにする。


「おお、いっぱいある」


 倉庫の中にはいろんな家具が整然と並んでいた。家具のショールームのように綺麗にディスプレイされているわけではなく、かろうじて人が通れるスペースを残して、みっしりと並べられていた。


「これは職人が作ったけど、事情があって売れなかったり、物件の仲介した際に買い上げたりしたものです」


 どうやら新品と中古品が混在して置かれているようだ。


 とりあえずダイニングテーブル、ソファ、ローテーブル、ベッドは必要だよね。あとは内装をどうするかにもよるからリフォーム次第だなぁ。


 倉庫の中を歩き回りながら頭の中で必要なものを整理する。


 お店の方は、ミサンガや小物をディスプレイできる台があればいいかもしれない。服の方は基本的にオーダーメイドだから、販売用の什器が要らないのは気が楽だ。


 一階に置く家具はテイストを揃え、二階の個室に置くものは違うテイストのものを選ぶ。


 というのも、倉庫にある家具はテイストがバラバラだ。こちらの世界で新しい家具を購入する場合、オーダーで作ってもらうんだと思う。


 だから、中古品が多いここにあるものはほぼ一点もの。似たようなデザインのものをかろうじて選んでいる状態だ。


 それもまた楽しいんだけどね。


 服を組み合わせるように、置いた状態を想像しながら家具を選ぶのはなかなかにやりがいがあった。


「ではこちらの家具は内装の修繕が終わり次第運び込むように手配しますね」


「お願いします」


 ソファだけは布を張り替えするが、他の家具はそのまま運んでくれることになった。


 あとは職人さんと打ち合わせして、内装のリフォームを進めてもらうだけだ。


 お店兼自宅の購入が着々と進んでいるのを感じる。


 楽しいけれど、少しの不安もあった物件探し。それももうすぐ目処が付きそうで、私の気持ちは軽くなった。

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