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第四十八話「憧れのイメージ」

 ピックアップした物件を回り終えると、一度商業ギルドに戻った。


「それでいかがしますか?」


「えっと、選ぶなら二軒目か三軒目ですね」


 ただし、二軒目は広さが物足りない点が、三軒目は内装のリフォームが必要になる点がそれぞれマイナス要素だった。


「他にも物件見に行くこともできますが……」


 ハンネスの提案に私は考える。正直、今日見に行った物件も厳選に厳選に重ねたものだ。はじめ見せてもらった物件の情報は多かったが、雑多なもの。その中から希望する条件に一番近い物件があの四軒だった。


 このアインスバッハの町はそう大きい訳ではない。一番はじめに見せられた物件の数イコールこの町の空き物件数だと思う。


 そうなると、選択肢は多くはないだろう。


 私としても、さっき見てきた二軒目と三軒目は悪くないと思う。不満に思うポイントがそれぞれあるため、拮抗しているだけだ。


 だから、できたらこの二軒のうちどちらかにしようとはだいたい思っていた。


「とりあえず二軒目と三軒目の物件で検討したいと思います」


 そうハンネスに伝えると、彼は少し嬉しそうに表情を和らげた。


「わかりました。ではこの二軒は仮で抑えておきますね」


「はい、お願いします」


 ひとまず今日は持ち帰ることにして、私はアロイスと商業ギルドを後にした。




 アロイスと途中で別れ、宿に戻るとマリウスが先に帰ってきていた。


「今日は早いね」


「今日は依頼が少なかったから、早く終わったんだ」


 ギルドに来る依頼は日によって多かったり少なかったりするらしい。定期の依頼があるので、依頼が全くないということにはならないらしいが、マリウスくらいの中堅冒険者になると請け負う依頼もある程度決まってくるようだ。


 せっかく時間があるから、今日見てきた物件のことを相談する。


「今日さ、物件見てきたよ」


「おお、どうだった?」


 興味深そうな顔をしているマリウスに、商業ギルドから借りてきた物件の詳細が描かれた紙を見せる。


「へ~、俺、こういうの詳しくないけど良さそうじゃん」


「まあ、良かったは良かったんだけど、迷ってて……」


「この二つで?」


「そう。こっちは内装が綺麗だったから補修も特に必要なく住めそうなんだけど、ただちょっと手狭。こっちは広さは問題ないんだけど、長い間空き家だったらしくて、家の中は丸ごと補修と掃除が必要なんだよね」


「値段はどうなんだ?」


「こっちの補修要らない方が高いね」


「うーん、確かにそれは迷うな」


「でしょー?」


 マリウスも私と同様、二つを見比べて悩み出す。宿の食堂で頭を突き合わせていると、突然そこに影が差した。


「二人で何やってるんだい?」


「アンゼルマさん」


 話しかけてきたのは女将のアンゼルマだった。夕食には早い時間なのに、食堂に居る私たちが気になったらしい。


「おや、物件の情報? 二人でどこか借りるのかい?」


「いえ、購入しようと思ってて」


 そう言うと、アンゼルマは驚いて目を丸くした。


「購入!? それはミナが!?」


「はい」


「お金持ちなんだねぇ……。ということは近々ここを出てくのか」


「そうなんです。ちゃんと決まったらお話ししようと思ってたんですけど……」


 この宿を出ることは決まったらちゃんと話そうと思っていた。なし崩し的な感じだが、この際だからと伝えた。


「そうなのか……。エルナは寂しがるだろうね」


 アンゼルマの言葉に私はハッとあることを思い出した。


「エルナのことなんですけど、私がこの宿を出て別に住み出したら、そこに通ってもらうことはできそうですか?」


「それは大丈夫だと思うけど……」


 私の言葉にアンゼルマはきょとんとした表情をしながら答えた。


 あれ?


「こっちの都合で悪いんですけど、エルナには私の家に通ってもらってそこで裁縫を教えようと思ってるんですけど」


「……ここを出てもまだ裁縫を教えてくれるのかい?」


「私はそのつもりだったんですけど……」


 アンゼルマの驚きように私は少し困惑した。エルナは一人前まではいかなくてもある程度の基礎ができるようになるまでは面倒を見るつもりだった。


 でもアンゼルマは違ったらしい。私がエルナに教えるのは、あくまで私がこの宿に泊まっている間だけと考えていたようだ。


「いや、もちろんこのまま続けてくれるのなら嬉しいよ!」


「良かった~。この二つの物件なら、どっちでも通える範囲だと思うんですよね」


 物件の情報を指しながら言うと、アンゼルマはそれを見て頷いた。


「この辺りならエルナも問題なく通えるね」


 アンゼルマの言葉を聞き、私はホッとする。エルナはまだ八歳の子供だ。こちらの世界では仕事の見習いをし始める時期だとしても、一人歩きをさせるのには抵抗がある。体力の問題もある。


 でも選んできた二軒のどちらも、宿屋アンゼルマからは近いのでその辺りまでならどうにかなるかもしれないと思っていた。


 アンゼルマにも了承が取れて一安心だ。


「それで、この二つのどちらにするんだい?」


「それが迷ってて……」


 せっかくだからアンゼルマにもアドバイスをもらおうと、先程マリウスに話した内装のことを話す。


「なるほどね。でも私なら一択だね」


「え!」


「この二つ目の補修が必要な方がいいと思うよ」


「それはどうして……」


「内装は補修しだいだけど、広さは変えられないよ。一つ目の方は、すぐ住めるってのはいいけど、それは今だけのことだろう? それに補修が必要ならはじめから自分の好きな内装にできるなじゃないか」


「確かに……」


 アンゼルマの言葉はとても説得力があった。一つ目の物件の広さはどうやっても狭いままだ。でももう一つの物件は補修さえしてしまえば、問題はなくなる。


 しかも、アンゼルマは補修が必要なのであれば、自分が好きなようにしてしまえると言う。


 私にもお店を開くのであればこういう雰囲気がいいなぁ、という漠然とした憧れはあった。それを具現化できるのだ。


 私は一気に心が惹かれた。


「私、こっちの物件にする!」


 気持ちの昂ぶりに合わせて、私は声を上げた。


「確かにアンゼルマさんの言うとおり、自分の好きなお店を作れるってことだよね! それってすごくいい! そうしたい! そうする!」


「お、おう……」


 マリウスは突然テンションが上がった私に若干引いているようだが、アンゼルマは微笑ましいものを見るように笑っている。


 私の頭の中は、どんなお店にしようかという想像がいっぱいで、新たな楽しみにすごくワクワクしていた。

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