第四十六話「居抜き物件とリフォーム物件」 上
ハンネスの案内で一つ目の物件を見に向かう。商業ギルドを出て徒歩で行く。馬車もあるらしいが、アインスバッハの町はそれほど大きくないため正直馬車を使うほどではないし、歩いた方が周辺の環境もわかっていい。
それにアロイスからこっそり聞いたが、馬車は有料なんだそうだ。物件の売買の手数料にプラスされるぞと言われ、断って良かったと安堵する。
ハンネスは一言もそんなこと言わなかっただけに無駄にお金を使うところだった……!
そんなことがありつつ、数分で目的の物件に到着した。
「こちらですよ」
ハンネスがそう言って指し示したのは、クリーム色の外壁の建物だった。
「この辺りは富裕層が住んでいる地区になります。お店のための物件ではありませんが、広いので改装次第で十分に使えますよ」
彼の言葉通り、私がよく通っている冒険者ギルドや宿屋アンゼルマの辺りに密集して建っている建物と違い、家の周囲にも多少余裕がある。
さらに家自体も大きい。
期待に胸を膨らませ、ハンネスが待っている玄関ポーチへ向かう。
ハンネスは持ってきた玄関の鍵を開けて、ドアを開けた。
「どうぞ」
一番先に家の中に足を踏み入れると、パッと開けた空間に私は驚いた。
「うわ、広っ!」
玄関ホールというのはこういうことを言うのかと思った。天井は高い吹き抜けで、正面には二階に続く階段があった。階段の手すりは飾り彫りなのだろう、特徴的な形をしていて、床にはカーペットが敷かれている。
「一階は応接間とリビング、二階が寝室になっています」
私は豪華な作りの家の中をさっそく見て回ることにした。
左の部屋は応接間らしい。大きな窓がありそこから光が差していて、明るい部屋だ。
右の部屋はリビング兼食堂らしい。部屋は真ん中あたりで簡単に区切られるようになっているようだ。他にもちょっとした書斎や、水回りの設備があった。
二階はハンネスの言う通り寝室。主寝室となる広い部屋、それよりも小さい部屋が二部屋と客室が一部屋だ。一つ一つが結構広い。
さらに、この家には地下と屋根裏がある。そこは使用人が使うための部屋らしい。
「使用人部屋!?」
「このくらいの家を維持するには使用人がいなければ大変ですからね」
やっぱりそうなのか……。こんなに広い家だと掃除するのも大変だもんね。
使用人を雇う予定はないので、ちょっとがっかりしつつ。でも元々参考に見に来ただけで、この家は予算オーバーなのだ。こんな家もあるんだなぁ程度に思うことにした。
現実を知ったところで二つ目の物件に向かう。
商業ギルドの近くまで戻って来て、さらに移動する。見たことのある通りだ。
たしかこの辺りって、はじめて入った仕立屋さんがある近くのはず……。
そう思いながらハンネスの後を歩いていると、ちょうどその店の前を通り過ぎた。
多少なりとも知っている場所だとわかって安心する。一軒目の物件に住むつもりはなかったが、もしあの家に住んでいても気持ちが落ち着かなかったと思う。
やっぱり身の丈にあった生活って大事だよね……!
「次の物件はこちらですよ」
ハンネスが教えてくれた方に視線を向けた。
仕立屋さんがある通りから一本道を入った場所にある家。さっきの物件と比べると少し古さを感じるが、それでも綺麗な建物だった。
なかなか良さそうに見える。
「この物件は以前もお店として使われていたところです。住居としては使用してなかったようですが、それでも住むことができる広さはありますよ」
さっそく中に入ってみることにした。
入ってすぐの場所はお店だったところだ。壁にはディスプレイ用の棚が備え付けてあり、奥側にはカウンターがある。
もしこの家にしたならここは改装しないでそのまま使えそうだなぁ……。
以前が何を売っていたお店かはわからないけど、このレイアウトを見る限り雑貨屋さんや小物屋さんのようなお店な気がする。
ハンネスにさらに奥を案内してもらう。続きに一部屋と、納戸のような部屋が一部屋ある。
間取りを見て選んだので、私が希望する条件はクリアしている。
お店の部分に必要なのは、応対したりサンプルをレイアウトしたりするスペース、試着室、そして服を作るためのアトリエだ。さらにできれば生地などを保管しておける倉庫用の部屋がもう一部屋あるとベスト。
この物件は、最後の倉庫はないけど、前の三つを満たしているためいいかと思ったのだ。
しかし……
「ちょっと狭いかなぁ……」
この直前に見てきた物件が物件だったからかもしれないが、予想していた広さよりも結構狭く感じる。
二階は居室が二部屋にキッチンなどの設備がある。内装も綺麗だったので改装しなくても住めそうだ。
しかし、リビングなどの共用スペースがない。私一人で住むのであればそれでもいいけど、マリウスと住むことを考えると共用スペースはあった方がいい。
かなり悩みどころだ。
さらに一つ一つの部屋が狭めなのも気になる。立地、間取り、設備は良いが、あと少し広ければ文句なしだった。
うーん……。
悩んでいる私を見てハンネスは苦笑する。
「物件はあと二つありますし、そちらをまず見てみましょうか」
たしかに今すぐ決めなければならないわけじゃない。次の物件がここよりも良いかもしれない。
「そうですね。次の物件お願いします」
私は頷いて、次の物件へ向かった。
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