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第四十四話「ハウスシェアのお誘い」

「マリウスも一緒に住まない?」


「…………え?」


 私の言葉に、マリウスはかなり間を置いて反応する。


「一緒に住むって、ミナの家に俺が?」


「そう!」


 一人住むのは危ないとアロイスと商業ギルドのハンネスに言われた時、マリウスなら大丈夫だと思った。アロイスは違う意味で私とマリウスが一緒に住むものだと思っていたようだが、正直私はそんな理由がなくてもマリウスと住める。


 今も部屋が独立しているとはいえ、一つ屋根の下だし、そう変わらないと思っている。


 マリウスはスライムからもサンドジャッカルからも守ってくれた。スライムの時は完全に善意だけで助けてくれたし、サンドジャッカルの時は自分を傷つけてまで私を逃がしてくれたのだ。


 彼の服を作ってはいるものの、それだけで普通はそこまでしてくれない。それに、知り合いが全くいないこの世界に来て、マリウスがいろいろ教えてくれた。


 そういう意味でもマリウスには助けられっぱなしだ。


 だから、もしマリウスが良いのであれば、格安で住居を提供するぐらいなんてことないと思ったのだ。


「マリウスがこれから冒険者としてどういう方向に進むかはわからないし、上級ランクになったらこの町を出ていくかもしれない。でもそれまでの間、ずっと宿暮らしってのも落ち着かないかなと思って。だから格安で部屋を貸したいなって」


「いや、でもさ……」


 私の説明にマリウスはどうも焦りを見せる。視線をきょろきょろと動かし、なぜが頬を染めている。その様子がやや疑問に思ったが、私は続けた。


「もちろん私にもメリットがあるよ! 女一人で住むのは危ないって言われて。だから現役冒険者のマリウスが住んでくれたらその危険は減るでしょ?」


「それなら女冒険者の方が良くないか?」


「全く知らない人とハウスシェアするよりは、信頼してるマリウスの方が安全だと思って」


「……でもなぁ」


 マリウスは口元をもごもごさせ、どうにも煮え切らない態度だ。


「……マリウスは嫌? 嫌なら無理強いはしないけど……」


 マリウスと一緒に住めたら安全だし、暮らしてて楽しいと思ったんだけどな……。そう思ったのが私一人だったのならちょっと悲しい。


「あー……!!」


 私がしゅんとしてしまっていると、マリウスは突然声を上げた。


「わかった! ミナが良ければ俺も住むよ!」


「本当!?」


「ああ、でもちゃんと自覚しろよ! 俺も男なんだって」


「うん? 知ってるけど?」


 何を今更なことを言ってるんだろう。マリウスはどう見ても女には見えないし、服を作った時にも体格の違いはしっかり見てるんだけど……。


「……はぁ、もういいや。俺が気をつければいいか」


「どうしたの、マリウス?」


「こっちの話だから、いいよ……」


 そう言って、マリウスはがっくりと肩を落とし、ゆるりと手を振った。何か疲れてる……?


 あ、そうだ。


「マリウスは何か住むところの希望ある?」


「希望?」


「部屋が何部屋欲しいとか、こういう設備あったらいいとか。あと場所はどこがいいとか」


「ミナの家なんだからミナの希望を優先でいいぞ?」


「でも一緒に住むんだしさ。何かないの?」


「うーん……。俺は部屋を一つ貸してくれたらそれでいいかな。それよりお店も兼ねるならその立地とかを考える方が先じゃないのか。そこは俺、よくわかんないけどさ」


「そうだね~! でも普通の服屋じゃなくて冒険者の人向けの服屋だから、そしたらどの辺りがいいんだろう?」


「冒険者ギルドの近くとか? あとは武器防具系の工房の近くは……あそこはあまり環境がいいわけじゃないからなぁ」


「そうなの?」


 用事がないため、私はその辺りには行ったことがないからわからないが、マリウスはショートソードを買いに行った時に通りかかったのだろう。


「職人も冒険者も荒っぽいのが多いからな。商売するにしても、住むにしてもミナには向かない気がする」


「それはちょっとなぁ……」


 冒険者専門の服屋ってだけで、いらない難癖をつけられたらどうしようと思ってしまう。


「アロイスさんのお店の近くとかが無難でいいんじゃないか。冒険者ギルドにもこの宿にも近いし」


「たしかに……」


 アロイスの店は、冒険者向けの商品も取り扱っているが、一般向けの商品も置いている。そのためなのか、お店は普通の商店街の一角にあった。


 綺麗な店構えでもないし、看板も特に出てないから営業しているのか怪しい店ではあったが、それでも知る人ぞ知る店という感じで、お客さんもちらほらやってくるのだ。


「ちょうどいい物件があったらそうしようかな」


「それがいいかもな。……あ、そうだ。この宿を出るならアンゼルマさんたちにも言わないとだな」


「そうだね。エルナの裁縫指導のことも相談しないといけないんだった」


 エルナに裁縫を教えるという条件で、宿の裏にある倉庫をアトリエとして貸してもらっていた。私が店を持つとなれば、裏の倉庫で教え続けるのは逆に不便だ。


 そしたら、エルナは私のお店に通うことになるし、それが大丈夫かどうかも聞かないといけない。


 突然大金が入って、突発的に物件探しを探したので、その辺のことを深く考えていなかった。


「明日にでも言わないとだね」


「ああ、そうだな。俺からも言わないとダメだな」


「マリウスも宿から出るからね!」


「……それだけじゃないけどな」


「ん? 何か言った?」


 マリウスが小声で何か呟いたが私はよく聞こえなかった。でもマリウスは「何でもない」と手を振る。


 いきなり決めた独立計画だが、自分のお店に自分の家だ。どんな物件があるんだろう……!


 明日を思うと私はワクワクした。


甘沢林檎先生の


『冒険者の服、作ります! ~異世界ではじめるデザイナー生活~』が、


ついに全国の書店で発売されました!


読者の皆様、何卒ご贔屓&応援よろしくお願い申し上げます。



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書籍版限定の書き下ろしエピソードも収録されています!!



是非とも、手に入れて読んでください。


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担当編集者より。


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