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第四十一話「商業ギルド」

 アロイスに連れられやってきたのは、冒険者ギルドよりもさらに町の中央の方面だった。以前ひやかしに入った服の仕立て屋の前を通りすぎ、少し進んだところにある大きな建物の前でアロイスは足を止めた。


「ここが商業ギルドだ」


 私はその建物を見上げた。無骨な冒険者ギルドとは違い、どこか繊細さを感じる佇まいの建物。三階建てのようで窓が縦に三つ並んでいた。


 両開きに開かれている入り口からアロイスが入っていくので、私も小走りでそれを追う。


 中は人で賑わっていた。


「よう、登録をしたいんだがいいかい?」


 アロイスは入り口すぐにあるカウンターに近づくと、そこにいた男性職員に気安く声をかけた。


「はい……って、アロイジウス様じゃないですか! 今更登録なんて冗談言わないでくださいよ〜」


 アロイスの顔と肩書きを知っているらしい受付の職員は驚いた目を見開くと、その後でおどけたように笑う。


「俺なはずないだろ……今日はこいつの登録だ」


「あはは、ですよね〜!」


 お調子者っぽい男性職員にアロイスは呆れたような目を向ける。すると彼は「はいはい、登録ですね~」と準備をし始める。


「それで登録はそちらの君?」


「あ、はい。そうです」


「了解、了解~じゃあそこに手を乗せて~」


 男性職員が軽い口調で私に言った。どうやら商業ギルドの登録の仕方も冒険者ギルドとそう変わらないようだ。


 カウンターの隅にある板に手を乗せると、覚えのあるぞわりという静電気のような不快な感覚が体を駆け巡る。


「うぅ……」


 思わず言葉を漏らすと、アロイスが「はは」っと小さく笑った。


「ミナもやっぱり感じるか。その感覚、気持ち悪いよな」


「はい、何か慣れなくて……」


「体の情報を調べられてるからなぁ。そればっかりは仕方ねえんだ。まあ、登録の時くらいだからちょっとの辛抱だ」


 アロイスとそんなことを話していると、受付の男性が「はい、もういいですよ~」と言ってくる。私はすぐさま板から手を離した。


 ぞわぞわする手をもう片方で擦る。すると、受付の彼がカウンターの向こうでいくつか操作をした後、顔を上げた。


「ミナ・イトイさんですね」


「はい、そうです」


「ミナさんは冒険者ギルドの登録もされてますね~。そちらのカードをお借りしてもいいですか?」


「あ、はい」


 私は冒険者カードを取り出して、受付の男性に渡す。商業ギルドの登録に冒険者ギルドのカードが必要な理由はわからない。


 不思議そうな顔をしていたからか、アロイスが解説をしてくれる。


「身分証になるカードは一応連動させておくんだ。普段は必要性はないが、たとえばその人が出世した場合――冒険者ランクが高くなったとか爵位をもらったとかだな――そんな時は自動的に商業ギルドのカードの方にも反映されるんだ。まあ、それは罪を犯した時もだけどな」


「へぇ~」


 このカードで戸籍情報を管理しているってことなのか。


「終わりましたよ。カードをお返ししますね~」


 特に煩雑な作業があるわけでもなく、冒険者カードはすぐ手元に戻ってきた。


 それから、受付の男性は「ちょっと待っててくださいね~」とカウンターの奥に引っ込んでいく。


 彼の後ろ姿を見て、私はふと思い出した。


「そういえばこれって登録料とかかからないんですかね?」


 冒険者ギルドの登録の時は登録料として十マルカかかった。


「登録料っていうか商業ギルドの場合は年会費がかかるぞ」


「え、年会費? いくらくらい……?」


「それは商売の規模によるな。ただ、商売はじめた年に関しては一定なはずだ」


「なるほど……」


 じゃあ、来年からは商売の規模によって金額が変わるのか……。


「でもなんで冒険者ギルドは登録の時だけで、年会費じゃないんですかね?」


 ふと疑問に思って零すとアロイスは「ああ」と言って、解説してくれる。


「冒険者ギルドの場合は、依頼があるだろう? あの依頼達成料ってのはギルドの手数料を引いた金額になってるんだ。だから年会費っていうよりその都度手数料をもらっている状態だな」


「そうか……達成証明のアイテムは冒険者ギルドが別に販売してるからその差額が利益になってるんですね」


「そうだ。でも商業ギルドはそれができない。権利が発生する商品の登録の時にお金を払ったり、商業ギルド管轄の店や場所を使う時は金がかかるが、個人で店を持ってたりすると商業ギルドと関わることが少なくなるからな。そこで年会費制になってるんだ」


「へぇ~」


 さすがアロイス。元冒険者ギルドのギルドマスターであり、今は個人で店をやっているだけあって詳しい。


「あれ? もしやアロイジウス様が全部説明してくれた感じですか?」


 受付の男性が戻って来たらしい。アロイスと私の会話の最後のあたりだけ聞いていたようだ。


「年会費のところはな。他はまだだ」


「それだけでもありがたいです~。じゃあ、残りを説明しますか」


 そう言って、受付の男性は説明をはじめた。


「商業ギルドに登録した場合にできることはいくつかあります。まず新しい商品を開発した場合、権利を申請することができます。権利を持つと、他の人がその商品を作った場合にアイデア使用料が自動的に入ってきます」


 これは特許のようなものなのだろう。


「他には、事業を起こす際、お金が必要になった場合の貸し付けもできます。これは事業計画を検分して、許可が下りた場合になるので必ず貸し付けができるってわけじゃないんですが……。あとは職人を紹介したり、店舗用の物件を仲介したり、他領への流通を手伝ったりと商売に関することは一通りできるようになりますね~」


 商売関係は手広くいろいろ補助をしているっぽいなぁ。


「ちなみにミナさんはどういった商売をする予定なんですか?」


「私は服……オーダーメイドの仕立て屋をする予定なんです」


「なるほど! それは富裕層向けの服ですか?」


「いえ、冒険者専用の服です」


「へ~! これまた珍しい商売をするんですね」


「たしかに珍しいのかも……?」


 思えば町を回った時、仕立て屋は富裕層向けの店しかなかった。冒険者専用の服屋自体なかったのだ。


 いや、武器や防具の店周辺には行ってないから、もしかしてその辺りなら冒険者の服を売ってる店があるのかも?


「店はもう決まってるんですか?」


「いえ、それはこれからなんですが……」


「今日はその紹介もしてくれねぇか」


 アロイスが言葉を加えてくれる。


「物件の紹介ですね~! じゃあこの後案内しますね~! ではひとまずこちらが商業ギルドのカードです」


 軽い調子で話しながら、受付の男性は出来上がった私の商業カードを渡してくれた。


 大きさは冒険者カードと同じだが、色が違う。モノクロの冒険者カードに対して、商業ギルドカードは黄色に黄緑でカラフルだった。


「中の情報を確認お願いします」


「はい」


 冒険者カードと同じく、商業ギルドのカードにも右下に丸いところがある。そこに私は指を合わせた。


 その瞬間、カードの上にホログラムが浮かび上がる。



 名前 ミナ・イトイ

 年齢 二十三歳

 出身 異世界 ニホン

 職業 裁縫師

 スキル 編み物 Lv.4 縫い物 Lv.3

 特殊スキル 製作者の贈りクリエイターズギフト


 商業登録 一年目

 店名 未登録

 業種 未登録



 内容は冒険者カードと重複してる部分があるが、新しい項目もあった。


 今は空欄だが、商業ギルドを通して行った取引なども記録されるようだ。


 ――あ!


 冒険者カードにあって商業ギルドカードにないものが一つだけある。


 それは、自分の姿の映像がない!!


 あの機能を重宝してる私としてはもったいないと思ってしまったのだった。

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