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第三十九話「日本円オークションの結果」

「できた~!」


「わぁ! はやーい!」


 出来上がったミサンガを掲げると、隣で縫い物の練習をしてたエルナが目を輝かせた。


「ミナお姉ちゃん、ミサンガ作るのどんどん早くなってくね!」


 エルナの言葉通り、最近ミサンガを一本作りあげるのに必要な時間がどんどん短くなっていた。それはどうやら私の編み物スキルがレベルアップしているからのようだ。


 今のレベルは、『編み物 Lv.4』だ。ちなみに『縫い物 Lv.3』でもある。


 それと、よくわからないけれど、服に効果を付与する特殊スキル・製作者の贈りクリエイターズギフトは進化したらしい。


『正確には進化ではなくβテストが終了し、本実装となったからです』


 ……だそうだ。


 こういう風に、この特殊スキルは私の脳内でよくしゃべる。便利だからいいんだけど、私の考えを読み取って答えてくるので、ちょっとうるさいと思わなくもない。


『うるさいと言われても音声お知らせをオフにすることはできません』


 自分の特殊スキルなのによくわからない……。性能については特に問題はないので、うまく付き合っていくしかないみたいだ。


「今日もミサンガ納品に行くの?」


「そうだね。これでだいたいできたから、午後には納品しに行くつもりだよ」


 ギルドの売店に委託販売しているミサンガ。最近は人気が出て、良い収入源になっている。なにしろ原価があまりかからないので、利益が大きい。しかもさっきエルナから言われた通り、一本作るのにあまり時間がかからなくなってきている。


 まさかミサンガでこれほど収入が安定するとは思っていなかった。


 でも、スキルについてアドバイスしてくれているアロイスが言うには、それも一時のことらしい。このアインスバッハの町にいる冒険者の数はそこまで多くなく、その人たちに行き渡ると途端に売れなくなるからだ。


 確かに付与効果のあるミサンガを必要としているのは基本的に冒険者だけだ。アクセサリーとして付けるという人もいるかもしれないが、そこまで凝ったものではないからそれは望み薄。


 マリウスはサンドジャッカルと戦った際には回復の効果を使い果たしたのかミサンガが切れてしまったものの、アインスバッハの町周辺でサンドジャッカルほどの魔物と遭遇する方が珍しいのだ。


 早々にミサンガが切れて効果がなくなることはないだろう。


 だから、そろそろ本格的に冒険者を顧客としたデザイナー業を始めないとな、と考えていた。マリウスの服は二着目ができたため、しばらくは新しい服の製作はない。


 それにいつまでもマリウスの服ばかり作っていては仕事としては成り立たない。


 冒険者の服を作るデザイナーとして頑張ると決めたからには、マリウス以外の冒険者の服も作らなければ!


 それで、今日の午後はミサンガの納品ついでに、以前少しだけ関わったティアナとイリーネという冒険者二人に声をかけようかと考えていた。


 彼女たちは服を作って欲しいと言っていたから、その気持ちがまだ変わっていなければ彼女たちの服をデザインしたいと思っていた。




 午後。エルナに言った通り、私は完成したミサンガを持って冒険者ギルドにやってきていた。


 いつものように依頼の達成カウンターに向かう。


「ライナーさーん」


 カウンターにいた鑑定部門のギルド職員ライナーを呼ぶと、彼は顔を上げて私の顔を見るなり「ミナか!」と名前を呼んでくる。


 何があったのかと小走りで彼の元に向かう。


「ミサンガの納品に来たんですけど……」


「そうか、ちょうど良かった」


「え、ミサンガ足りなくなったりしました?」


「いや、それとは別件だ。ほら前にミナの世界の通貨をオークションに出しただろ? あれの売買が終わったんだ」


「ああ、あれ!」


 すっかり忘れていたけど、そういえば日本円をオークションに出してたんだった。


「いくらくらいになりました?」


「いや、それはあとで冒険者カードに情報を書き込むから自分で確かめてくれ。……それで今日はミサンガの納品か?」


「あ、はい。お願いします」


 持ってきたミサンガをライナーに差し出す。ライナーの様子がおかしいけれど、とりあえずミサンガの納品が目的でギルドに来たので、その手続きを進める。


 それが終わるとライナーは「それじゃ」と言ってカウンターから移動を始めた。


「オークションの件はあっちの部屋でやるぞ」


 そう言うライナーについていくと、通されたのは日本円のオークション手続きを行った小部屋だった。


「あれ? あっちのカウンターじゃできないんですか?」


「できないこともないが、おそらく差し支えるぞ」


「差し支える?」


 ライナーの言葉がよくわからず、私は首を傾げた。


「見た方が早いな。冒険者カードを貸してくれ」


「はい」


 以前も使ったテーブル筐体ゲームみたいな机に座ると、ライナーはそれを操作し始める。くぼみのところに私の冒険者カードを差し込んでいくつか操作するとすぐに抜き取った。


「ほい、情報を書き込んだから確認してくれ」


 渡されたカードの円のところに指を当てる。するといつものように冒険者カードに書き込まれた情報がホログラムのように浮かび上がった。



 【競売】

 ・異国の貨幣 九 ―― 五十六万マルカ(未払い)



「ん?」


 五十六万マルカ???


「えっとー、これがオークションに出してたやつの金額ですか?」


「そうだ。内訳は紙の方が二十万マルカが二枚と十万マルカが一枚、コインの方が各一万マルカずつ。合計で五十六万マルカだ」


 ライナーが説明してくれるものの、私の頭はそれどころではなかった。


 えっと、一マルカが百円くらいとして、五十六万×百は……


「五千六百万……ええええええー!!」


 ざっと日本円に直して考えてみた時の金額に私は驚いて声を上げた。


 それまで大人しかった私がいきなり大声を出したからか、ライナーはビクリと肩を揺らし、次いで呆れたような顔をした。


「やっと金額が理解できたか……」


 ライナーのその言葉に私は呆然としたまま、どうにかこくりと頷く。


「だからあっちのカウンターじゃ差し支えるって言ったんだ。他の冒険者に聞かれてみろ。もしかしたらお前身ぐるみ剥がされるぜ」


「身ぐるみ!?」


「もちろん冒険者カードを使えるのは本人だけだが、脅して金だけ引き出すってことはできるだろ? 冒険者は善人だけじゃないからな。さすがに犯罪者は冒険者登録を抹消されるが、ぎりぎりのやつも中にはいる。みんながマリウスやシルヴィオみたいな人間性の持ち主じゃないってこった」


 冒険者カードの中の情報だけしか見てないので、こんな大金を持っている実感はない。でも、突然降って湧いた大きな金額に落ち着かない気持ちになる。


「え、ど、どうすれば……」


「どうするもこうするも、それは既にミナのお金だからな。どう使うもミナ次第だ」


「この世界に銀行はないんですか!?」


「ぎんこう?」


「お金を安全に預かってくれるところです!」


「それは冒険者ギルドがそうだな。ほら、支払いカウンターで引き出す金額を決められるだろ? ギルドの売店で買い物する時は現金じゃなく冒険者カードで支払うこともできるし。あとは商業ギルドでも同じような機能があるぞ。あっちは主に店同士の取引に使うらしいが」


「商業ギルド?」


「知らないか? 商売をしている人が所属する組織だ。ミナもこれから店を開くつもりがあるなら登録しておいた方がいいぞ」


「お店……」


 ライナーの言葉に私はまだ開いたままになっている大金額を見る。落ち着かなかった気持ちがすとんと一つのところに落ちた気がした。

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