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第三十七話「特殊スキル 製作者の贈り物(クリエイターズギフト)」

「へぇ、これが二着目かぁ!」


 仮縫いができた服をマリウスに合わせてもらうと、マリウスが興味深げに服を見て呟いた。


「デザインは完全に私にお任せになってたけど、こんな感じで大丈夫?」


「ああ、すごくいいと思う! 初期シリーズも気に入ってるけど、こっちは何か強くなった感じする」


「強くなった感じって……」


 漠然とした言い方に、私はつい笑ってしまう。


「だって、他にいい言葉が見つからなかったんだよ」


 語彙のなさを指摘されてマリウスは拗ねた顔になる。


 まあ、言いたいことは伝わったけどね。


「それで、他に動かしづらいところは?」


「あとは大丈夫そうだ」


 いくつかの部分を調整したところでマリウスにはそっと脱いでもらう。ラフな古着に着替えてきたマリウスから仮縫いの服を受け取ると、しつけしたところがほつれないように丁寧にそれを畳んだ。


「いつできそうなんだ?」


「早ければ明日中かな」


「そうか、楽しみにしてるな!」


「うん、今回は本当にいいものを作るから」


 一着目よりももっとマリウスに合ったいい服を作りたい。


 マリウスの格好ばかりを気にして作った一着目とは、目的も意識も違っていた。




 翌日は朝からアトリエに籠もる。


 エルナは今日も静かに見学だ。


 私は糸を取り出す。本縫いに使うための糸なのだが、これは特別なものだ。


 アラクネーの糸に、先日採取した月ツユクサの露を染みこませたもの。アロイスと相談し、私自身もいろいろと検証した結果、効果を付与する私の特殊スキルは糸がキーになるとわかった。


 だから糸を特別なものにすることでより効果がアップすることがこれまでの検証で明らかになった。


 また、アラクネーの糸はとても付与魔法と相性がいい素材らしい。そこに月ツユクサの露という魔法効果を安定させる作用の液体を染みこませることで、さらに安定した効果の付与ができるようにしたというわけだ。


 透明に近い白いアラクネーの糸をある程度の長さに切り、針穴に通す。


 昨日の仮縫いで調整したところに沿って、いざ本縫いだ。


 ズボンからはじめようと、針を刺していく。もう手に染みついた縫い方で均一な縫い目を保ちながら、頭では付与する効果のことをしっかりと思い浮かべた。


 マリウスをしっかり守ってくれますように。


 これほどまで強く思ったことがないほど、心の中でしっかりと念じる。


 すると――



製作者の贈り物(クリエイターズギフト)による効果「防御 中」の付与率は現在十パーセントです』



「へ?」


 突然、アナウンスのような音声が響き、私は驚いて声を上げた。


「どうしたの? ミナお姉ちゃん」


 顔を上げると、エルナが不思議そうな顔で私を見ている。


「今の声、聞こえた?」


「声? お姉ちゃんの声は聞こえたけど……」


 どうやらエルナには、あの声が聞こえていなかったらしい。


 もしかしたら気のせいかなぁ……?


 自分の耳を疑いつつ、私は気を取り直して再び手を動かす。


 しかし、進めるに連れ、またあの声が響いた。



製作者の贈り物(クリエイターズギフト)による効果「防御 中」の付与率は現在二十パーセントです』



 今度はしっかりと言葉もくみ取ることができたが、どうやら私の特殊スキルさんが何かしらの作用でこのアナウンスを流しているらしい。


 感情のない平坦な声。


 でも今作っている服に対して、効果の付与状況を教えてくれるのはすごく助かる。


 特に害もなさそうだし、このまま続けよう! むしろ手探りだった効果の付与がわかりやすくなって便利だ!!


 縫い進めるうちに、付与率はドンドン上がっていく。


製作者の贈り物(クリエイターズギフト)による効果「防御 中」の付与率は百パーセントを達成。付与成功です』


 どうやら効果「防御 中」は付与できたらしい。


『現在、付与可能な容量は残りわずかです。推奨する効果は「回避 小」ですが、付与を開始しますか?』


 今度はさらに付与できる効果のことについても教えてくれる。しかも推奨する効果まで……!!


「は、はい……!」


「ミナお姉ちゃん……?」


 突然返事をした私にエルナが訝しげな視線を向けてくる。


「気にしないで!」


 取り繕うように応えると、また私にだけ聞こえる声が響く。


『承知しました。効果「回避 小」の付与を開始します。……補足ですが、返答は声に出す必要はありません』


 突っ込まれた!?


 淡々とした声だから感情は感じられないものの、ちゃんとこちらのアクションには反応してくれるらしい。


 全く自覚なく手探りで効果を付与していたし、特殊スキルが本当にあるのかさえ若干疑っていた。


 しかし、こんなにはっきりと効果の付与についての案内をしてくれるなんて……。


 今まで使っていない素材を使っているからなのか。はたまた特殊スキルのレベル的なものが上がったからなのか……。


 声でお知らせしてくれる機能がいきなり実装された理由はよくわからないけど、こんなに便利なんだったらはじめから教えておいてよ!!


『特殊スキル 製作者の贈り物(クリエイターズギフト)は昨日βテストを終了し、本日からの実装となります。ワタシ、音声お知らせ機能は本日からの稼働となりますので、昨日以前の音声お知らせは不可能です』


 心の中で悪態をついたら、それにも反応してくれた!


 驚きつつ、なるほどと納得。


 というか、特殊スキルにβテストなんてあるのか……!


 元の世界にはあり得なかったスキルには、驚いてばかりな気がする。しかも、この特殊スキルは自分のスキルだというのに、未だに実感がない上にお知らせ機能も私が動かしているんじゃない。不思議な感覚だった。


 このお知らせ機能についてよく知りたい気持ちはあるが、今はマリウスの二着目が優先だ。


 意識目の前の服だけに集中して、再び手を動かしはじめる。


 時々、聞こえてくる音声に耳を傾けつつ、私は二着目の製作に没頭した。

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