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第三十六話「新しいデザイン」

 月ツユクサの露の採取に行った翌日。


 私は朝一でアトリエとして使っている宿の倉庫に向かった。 


 中に入ると、作業台の上に持参していたデザイン帳を広げた。


 開いたのは、完成したデザイン画。マリウスの二着目の服のものだ。


 服の構造や付与する効果、さらにその方法まで、事細かにかき込まれたページを私はじっと眺めた。


 そして――


 ビリィッ……!!


 そのページを勢いよく破った。


 昨日、何もできず逃げ帰るだけで、マリウスが帰るのをただ待つしかなかった。自分の作った服なのに、全然その性能を信じることができず、後悔ばかりが浮かんだ。


 昨日、月ツユクサを取りに向かうまでは、これ以上のものはないと思っていた二着目のデザイン画は、今見ると完璧でもなんでもなく……。私の独りよがりで自己満足な代物にしか見えなかった。


 だからはじめから考え直すことにした。


 今のマリウスに必要だと思うデザイン。そして、本当に彼の助けになる付与効果。けれど、見た目にもこだわったものに……。


 思い付くことをとにかくデザイン帳に書きだしていく。


 数はぎりぎりだけど月ツユクサの露もせっかく採取してきたのだ。それはちゃんと活かしたい。


 どのくらい集中していたのだろう。


 気が付くと、ぐしゃぐしゃに丸められたり、破かれたりしたデザイン帳の残骸が周りに散らばっていた。


「できた……」


 なんとか納得がいくデザイン画が出来上がった。


 あとは念のため、付与効果の部分をアロイスに確認してもらったら製作に入れる。


 さっそく私はデザイン帳を持って、宿を出る。


 脇目も振らずアロイスの店に駆け込むと、カウンターの中で煙管をふかしていたアロイスが、驚いたように私の方を向く。


「アロイスさん、この付与効果確認してもらえますか!?」


「お、おう……、いいけど」


 手に持った煙管を置き、アロイスは私がずいっと差し出したデザイン帳を受け取った。


「へぇ……、これまた思い切ったなぁ」


 アロイスは私の書いたデザイン画の付与効果の部分を見て、面白そうに笑う。


「昨日のことで心境の変化でもあったか?」


 はじめのデザイン画からかなり変わったそれを見て勘付いたらしい。


「はい……、正直、冒険者の服を作るってことを軽く考えてました……。動きやすさとか見栄えとかとにかくそういうことに目が行ってて、冒険者の防具としての面まで考えが及んでなかったんです。もしかしたら生死をわけることになるかもしれないなんて……」


「まあ、そういう考え方もあるな。ただ、冒険者の生死をわけるのは服のせいじゃない。冒険者自身だ。もちろん製作者がそう思う心意気は大事だがな」


「冒険者自身……」


「そうだ。どんな防具を付けても、どんな武器を持っても、それを使うのは冒険者だからな。装備を生かすも殺すも冒険者ってこった。もちろん冒険者は自分の装備を信用してないと力が出せない。そういう意味では、制作側が意識を持って作ることは大事だな」


 きっと以前なら全く響かなかっただろうアロイスの言葉。今の私にはとても強く心に入ってくる。


 それも昨日の出来事で私の意識が変わったからだ。


「うん、付与効果はこの通りに付けられたらなんの問題もない。まあ、前回のよりは付与しやすい効果になってるはずだから、あとはミナの力量次第だな」


「はい、頑張ります!」


 返されたデザイン画を受け取り私は頷く。アロイスのお墨付きをもらえて、さらに激励をされて製作に向けてのやる気が湧き上がってくる。


 それに、今、とてもワクワクした気持ちがある。自分の納得がいくものを、そして、マリウスが信用して、彼の役に立つような服を作りたい。


 今はその一心だ。


 アロイスのチェックが済んだら、長居をするつもりはない。マリウスにはじめに作ったマリウス初期シリーズは、昨日の戦闘でだいぶ傷んでしまった。だから早くこの二着目を完成させたいと考えている。


 アロイスの店を出て、足りない材料を買うために、布屋や糸屋の手芸問屋に寄る。


 デザインを変えたことで、必要な素材も前回のデザインの時とは違う。使えるものは使い、それ以外を買い足す形で必要なものを買い込んだ。


 そそくさと宿に戻ると、アトリエへ一直線に向かう。


 買い込んだ荷物を作業台に置くと、視線を感じ、私は振り向いた。


 見るとエルナがドアに半分体を隠すようにして、こちらを覗いていた。


「どうしたの?」


「ミナお姉ちゃん、邪魔しないから服作るの見てていい?」


 おそるおそるそう尋ねてくるエルナ。一着目を作る時は集中したいからとエルナの裁縫指導はお休みしていた。


 しかし、エルナなりに考えたらしい。たしかに直接教わらなくても、見て学ぶことはある。


「本当に見てるだけになるけどそれでもいいならいいよ」


「うん! やったー!」


 エルナはドアから体を出して、小走りでアトリエに入ってくる。そして、作業台の下に収納してあったスツールを持って邪魔にならないような場所移動する。


 ちょこんと座ったエルナを見て、私は買ってきた荷物から布を取り出した。


 作業台の上いっぱいにそれを広げると、さっそく服作りに取りかかったのだった。

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