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第三十一話「マリウスの成長」

9月からは毎週金曜日お昼12時更新となります。

9月は7日(金)、14日(金)、21日(金)、28日(金)の4回更新です。

引き続き、ご愛読&応援のほど宜しくお願い申し上げます!

 久しぶりの街の外に私は少し緊張しながら歩く。


 一方、マリウスは毎日依頼を受けていることもあって、リラックスした表情だ。


「ミナ、今からそんなにガチガチじゃ何かあった時に動けないぞ」


「だって、久々だし……」


 あまりにもギクシャク歩く私に、やや呆れたような視線を向けながらマリウスが言う。


「まあ、道中長いからそのうち慣れるか……」


「そんなに遠くなの? その月ツユクサがある場所って」


「それなりにはあるな。ただ少し登ったりはするけど、ミナでも普通に行けると思う」


「何か高いところにあるって言ってたもんね」


 マリウスが言うには、月ツユクサが生えているのは斜面の上らしい。それに備えて動きやすく、汚れてもいい格好で来ていた。


「月ツユクサはそういう場所にしか、生えてないの?」


「いや、そういうわけじゃないけど、高い場所の方が月の光が浴びやすいって言われてる」


「月の光?」


「月ツユクサは日光より月の光で育つんだ。しかも、今日採取する露は月夜じゃないと溜まらない。今、月ツユクサの露が品薄なのはこの前が新月で、月ツユクサが露を溜められない期間だったからって理由もあると思う」


「へぇ~! 今日は溜まってる?」


「月が太くなるにつれ、溜まりやすくなるんだ。だから今日はそこそこ溜まってるはずだ」


「効能? っていうか効果? は変わらないの?」


「たしか変わらなかったはずだ。溜まる露の量が変わるだけなはずだ」


「それなら良かった」


 素材の効果が弱いのであれば、できるだけいいものをと思うのが普通だ。幸い取れる量が左右されるだけのようなので、安心して採取できる。


 そんな話をしながら歩いていると、私の緊張もすっかりほぐれた。


 街からもだいぶ離れ、目の前にはゴツゴツした岩や砂が混じった草原が広がる。


「こっちだ」


 どう見ても目印になるようなものは見当たらないが、マリウスにはわかるのだろう。街道を外れ、草原の中を進んでいく。


 ここで登場するのが――


「あ、スライム!」


 この世界に来た時、私がひっつかれてパニックになった憎きやつだ。


 今は、私でも簡単に倒せることを知っている。


 冒険者ギルドの初期依頼、スライム討伐の時に使った木の棒は今日も念のため持ってきている。


 いざ、その棒の出番か!? と斜めがけのバッグから棒を引き抜こうと思ったその時。


「ミナ、スライムはスルーしていいぞ」


「え、倒さないの?」


 すっかり討伐モードに入っていた私は、肩すかしを食らった。


「スライム倒してもほとんどお金にはならないし、倒している間にやつらは仲間も集まってくるからな。倒さずそのままスルーする方が効率がいい」


「なるほど……」


 たしかにスライムを倒して入手できるスライムの核は五十個で一マルカだ。子供の小遣い稼ぎにはいいかもしれないが、仕事として冒険者をしているならもっと効率よく稼がないとやっていけない。


 納得した私は取り出しかけた棒をバッグの中に再びしまい、前を歩くマリウスに小走りで付いていく。


 振り向くと、スライムはぬるぬると動きながら私たちに付いてこようとする。しかし、その速度は遅く、足を進めているうちにその距離はどんどん離れていった。




 その後もスライムをスルーしつつ、ホーンラットやホーンラビットといった魔物はマリウスが倒してくれる。


 ホーンラットは角のある二十センチ大のネズミで、ホーンラビットは角の付いた兎だ。


 どちらも倒すと毛皮を残して消えてしまう。どんな仕組みかはわからないが、マリウスが当たり前のようにその毛皮を拾っている。


 不思議だけど、スライムの核と同じようなものなのかな……。


 この世界ならではのことなのだと割り切る。


 むしろ倒してから捌くという工程が必要ないだけ目に優しいかもしれない。


 マリウスがサクッと魔物を倒しながら、進む。彼が魔物を倒しているところを見るのは、正直今回がはじめてだ。


 けれど、冒険者ギルドの初期任務でスライムを倒していた時とは見ちがえるようだ。


 少し前に購入したショートソードを操り、素早い動きで制圧していく。運動神経もない素人目線でもマリウスの技術が成長しているのがわかった。


 マリウス、すごいじゃん……!


 新人冒険者の中では有望株だとは聞いていたが、目の当たりにしたことで私は小さな感動を覚えていた。




 やがて道は傾斜になり、険しくなっていく。それと比例するように私の息が上がってきた。


「……大丈夫か?」


「だ、大丈夫……」


 当然のようにマリウスは息一つ切らしてなく、涼しい顔をしている。


 一方、私はゼエハア言いながら、汗だくだ。日頃の運動不足がたたっている……。


「ここ登り切ったら月ツユクサが生えてる場所だから頑張れ!」


「うん……!」


 マリウスに励まされながら、傾斜がキツくなっていく斜面を登る。


 途中、軽く足を滑らせる場面もありつつも、私はどうにか登り切った。


「はぁー!!」


 中腰だった体勢をほどき、体を伸ばす。踏ん張るため体の変な場所に力が入ってしまい、体の至る所がガチガチだ。


 きっと明日は筋肉痛だな……。


 近い未来に確実にやってくる苦難を想像して遠い目をしていると、近くの茂みがカサッと揺れた。


「ん?」


 何かいるのかと目を凝らしてみるが、私にはただの茂みにしか見えない。


「ミナー、ほらあそこに生えてるぞ」


 少し先でマリウスの呼ぶ声がする。


「え、どこどこ?」


「あれだ」


 マリウスの指さす方を見ると、葉が壺のような形をした植物が固まって生えている。


「これが月ツユクサ?」


「そうだ。この葉っぱの中に露が溜まるんだが……」


 マリウスは月ツユクサに近づくと、葉の上の部分をそっと指で広げ中を覗き込む。


「ちゃんと溜まってるみたいだな」


 私もマリウスの手元を覗き込んでみる。壺のようだと思った月ツユクサの葉は、どちらかというと花の蕾のように何枚もの葉が折り重なっていた。


 その中に透明な雫が溜まっていて、さらに雫の中に小さな白い花の蕾があった。


「きれい……!」


 液体の中にゆらりと白い花弁が浮かびあがる様子は幻想的だった。


「この露をそっと瓶に移すんだ」


「わかった! ……あ、でもこの露がなくなったら花はどうなるの……?」


「露が入ったままだと花が咲いて、実になる。そうすると露が採れなくなるんだ」


「そうなの!?」


「ああ、だから花が咲いてしまわないように毎日露を採る方がいいんだ」


「へぇ~。でも花が咲いて実にならないと、この月ツユクサ自体増えなくなるんじゃ……」


「それは大丈夫だ。新月の前の数日間は露を採らないっていう暗黙の了解がある」


「なるほど。それで植生を維持してるわけね」


 今溜まっている露を遠慮なく採取できると知り、私はさっそく持参した瓶に露を入れていく。


 壺状の葉からそっと瓶に移す作業は、慎重にやらなければ零れてしまうものの、確実に溜まっていく瓶の中身が嬉しくて、私は夢中になっていた。


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[気になる点] >「わかった! ……あ、でもこの露がなくなったら花はどうなるの……?」 >「露が入ったままだと花が咲いて、実になる。そうすると露が採れなくなるんだ」  相手の質問に答えていません。こ…
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