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第二十八話「夜の町と救世主」

 当初の予定を変更して、アロイスから付与効果があるアイテムの値段設定について教えてもらい、私は帰路につく。


 しつこいくらい質問をして教えてもらったので、帰るのが遅くなってしまった。


 日暮れ間近の町の中を足早に進む。


 元の世界と違って、こちらは夜はかなり暗い。夜の町を照らすのは家々の明かりだけで街灯なんてない。


 だから夜に女性が一人で出歩くのは危険なのだ。


「ミナ?」


 宿に続く川沿いの通りに出たところで後ろから知っている声に呼び止められる。


 振り向くとそこにいたのはマリウスだった。


「今日は遅いんだな」


「アロイスさんにいろいろ聞いてたらこんな時間になっちゃってさ」


 マリウスと一緒に帰れるなら安心だと、私はホッと息を吐く。


 二人で帰ろうと再び歩き出そうとした時、「あれ? マリウスくんじゃないかー?」と妙にわざとらしく敬称をつけた声が聞こえてきた。


 声のした方を見ると、そこには冒険者らしき三人の男性がいて、ニヤニヤとこちらを見ている。


「何だよマリウス、彼女~?」


 そのうちの一人がやけに馴れ馴れしく話しかけてくる。


 すごく嫌な感じだ。


 ちらりとマリウスを見ると、冷めた目で彼らを見ていた。


 私はわかってはいるものの、あえてマリウスに問う。


「マリウス、この人たち知り合い?」


「いや、全く」


 マリウスは即座に否定する。


「全くってひでぇなぁ、おい」


「パーティー誘ってやったの忘れたのかよ」


「パーティーに誘う? 寄生しようとしたの間違いじゃないか?」


 マリウスが片方の眉を歪めて、苦々しげに言い放つ。


 割と誰にでも丁寧なマリウスがここまで嫌そうにしているのだから、この三人組はよほど受け入れがたい奴らなんだろう。


 そんな人たちには関わりたくないと私が思っていると、三人組のうちの一人が私を見ながら「あ!」と声を上げた。


「もしかしてそっちの子、マリウスにタダで服を作ってあげたって子じゃね?」


 矛先が私に向かってきてしまった。嫌な予感に顔を引きつらせる。


「じゃあさぁ、俺等にもタダで服ちょうだいよ」


 ニヤニヤと笑いながら男が言い出した。


 ああー……、アロイスすごい。予想がドンピシャに当たってしまった……。


 嬉しくない命中に私は内心でため息を吐く。


「マリウスからは対価はもらってるからタダじゃないし。あんたたちに服を作る義理もなければ、作ろうとする意欲も湧かないんだけど」


 私がきっぱり言うと、彼らは何を言っているのかわからないと言うようにぽかんとした。


 この隙に帰ろうと歩き出そうとしたところで、一人が我に返った。


「はぁ、何言ってくれちゃってんの? マリウス程度に作って起きながら俺等は断る訳?」


「だってお金も持ってなさそうだし」


 私は三人の服装をじろりと見回して言った。三人はお世辞にも身綺麗とは言えない格好だった。


 不潔ほどではないが、服もその他の装備もどこかよれっとしている。


 この世界のものの価値はまだ勉強中だけど、ものに対する基本的な審美眼はあると自負している。


 三人の服装も装備も凡庸だ。それでいて、きちんと手入れして使っている訳でもない。


 ものの扱い方で、その人が仕事ができる人かどうかを計ることができる。


 特に冒険者は危険と隣り合わせの仕事だ。命を預ける装備をおろそかにするなんて、声を大にして俺は仕事ができないぞー! と喧伝しているようなものだ。


 だが、目の前にいる三人はまさにそれだった。


 マリウスがパーティーに誘われて断るのも当然である。


 ただ、しつこさと口の達者さだけはピカイチなのかもしれない。彼らはなおも私とマリウスに絡んでくる。


「じゃあさ、お金ない俺等に恵んでよ~。今日の晩飯でいいからさぁ」


「ほら、俺等の仲だろ?」


 はぁ!? どんだけ図々しいんだこいつらは!!


 もう早く帰りたくて私は歩き出そうとする。しかし、一人が「おっと」と言いながら私の行く手を塞いだ。


「何帰ろうとしてんの~?」


 私の前に立ち塞がった男が手を伸ばしてくる。


 見知らずの男に触られるのが嫌で、私はぞわりと鳥肌が立った。


 しかし、男の手は私まで届かなかった。


「いってー!!」


 見ると男の腕が誰かの手に掴まれている。


「この程度で痛がるとは、お前本当に冒険者か?」


 ハッ、と鼻で笑いながら放り投げるように手を払ったのは、シルヴィオだった。


「シルヴィオさん!!」


 マリウスは三人に向けていたのとは全く違うキラキラとした目をシルヴィオに向けた。


「マリウス、今日は一緒に飯を食うんじゃなかったのか? こんなところで何してる」


「いや、ちょっとこいつらに絡まれて……」


「知り合いか?」


「いや、全然」


「そうか、じゃあ行くぞ」


 突然やってきて、あっという間に話に割り入ってきたシルヴィオに私は驚きながらも助かったと思った。


 しかし、三人組は違う。


「おい! 突然しゃしゃり出てきて何だよあんた!」


 腕を掴まれた奴じゃないうちの一人が果敢にもシルヴィオに噛みいた。


 しかし――


「あ゛?」


 低い声と鋭い眼光でシルヴィオに睨み付けられた三人は「ひぃっ」という情けない声を上げた。


 さすがAランク冒険者だけあって、迫力が違う。


 普通にしてても目つきは悪いけども……。


 三人はシルヴィオに完全に腰が引けてしまったらしい。


「行くぞ」


 そんな三人にはもう目もくれず、シルヴィオはスタスタと歩き出した。


 それに私とマリウスはついていく。


 後ろから三人がついてくる様子はなくて、私は内心でホッと息を吐き出した。




 どうやらマリウスは、シルヴィオを夕食に誘っていたらしい。


 私も流れで同席することになった。


 場所はもちろん私たちが泊まっている宿屋アンゼルマの食堂だ。


 シルヴィオはある程度の年齢の人たちの間ではかなり有名な冒険者らしい。宿の女将であるアンゼルマは、シルヴィオが来た途端、大歓迎だった。


 また、居合わせたベテランの冒険者からも久しぶりだなんだと声をかけられている。


 それにぶっきらぼうに応えながらも、シルヴィオは私とマリウスと同じテーブルに着く。


 アンゼルマに夕食を頼む前に、彼女は張り切って料理を運んできてくれた。


 今日の夕食は肉を煮込んだシチューのようだ。ちらりと見たシルヴィオのお皿には、肉が大盛りになっている。


 彼は気にした様子もなくマリウスに「食うか」と声をかけていた。


 私は食べる前に、意を決して口を開いた。


「あの、さっきはありがとうございました」


「さっき?」


「あの男に掴まれそうになった時……」


「ああ、あれは俺がただ気に入らなかっただけだ」


 シルヴィオはそう言うと、シチューの中の肉の塊をフォークで持ち上げ、豪快に齧りつく。容易に噛み切れるくらい柔らかく煮込まれているらしく、シルヴィオはいとも簡単にもぐもぐと咀嚼する。


 それを見ていたらお腹が空いてきた。


 私もスプーンでシチューを食べ始める。


 お礼は素直に受け取ってくれなかったけど、状況を考えると、シルヴィオは私とマリウスの助けに入ってくれたんだと思う。


 かなりぶっきらぼうだし、愛想はないし、目つきは悪いけれど、以外と悪い人じゃないのかもなぁ……。


 ちらちらと視界に入るシルヴィオを盗み見ながら、私はそう思った。

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