第二十六話「ランクアップと完売」
スキルの知識的な部分はある程度教えてもらい、今度は実際に組み合わせてみる段階に入った。
マリウスの二着目もそろそろ考えないとなぁ。
そう思いながらアロイスのお店から宿に帰ろうとする道中。マリウスの姿を発見した。
「おーい、マリウス~!」
名前を呼びながら小走りで駆け寄ると、マリウスは振り返った。
「ミナも今帰りか?」
「うん。マリウスの方は今日早いね」
「ああ、依頼の他にやることがあってな」
そう言って、マリウスは冒険者カードを取り出した。
「あれ? そんな色だったっけ?」
チラリと目に入ったマリウスの冒険者カード。モノクロで色味のないデザインだったはずなのに、マリウスが持っているものは黄色いラインが入っていた。
「ふふん、俺、今日からCランクになったから色が変わったんだぜ」
「え、Cランク!? すごい!!」
マリウスは得意げな顔をして、私に教えてくれる。それを私は手放しで褒めた。
どうやら冒険者カードはランクに応じて色が変わっていく仕組みらしい。
私の場合、これ以上ランクアップする予定はないので、モノクロのままだ。
カラフルなのいいなぁ。
モノトーンもいいが、マリウスの冒険者カードの黄色の差し色は可愛い。
こればかりは仕方ないので、我慢しよう。
それにしてもマリウス、ランクアップするの早くない?
冒険者をはじめて二、三週間なのに、もうCランクって……。
……いや、どのくらいのペースでランクアップするのが普通なのかはわからないんだけど。
まあ、マリウスは毎日休まず依頼受けて、ちゃんと達成していたから当然といえば当然なのかも?
「おめでとう、マリウス!」
「おう! ミナの服を着るようになってから、疲れにくくなって依頼もかなり捗ったから、こちらこそありがとうな! Cランクになったらパーティー依頼もあるし、受けられる依頼の範囲も広がるから楽しみなんだ」
マリウスはニカッと笑う。まだ少年らしさはあるが、それでもこの街にやってきた時より幾分たくましくなった感じがする。
彼の冒険者業に私の服が貢献してくれているのは嬉しい。この世界に来て、はじめて人に作った服だから、私としても思い入れがある服だし、それを大事に着てくれるのはとてもデザイナー冥利に尽きた。
「そっか~! 私も頑張って二着目作るからね! 付与効果の方もだいたいのことは教えてもらったし」
「おお、二着目に取りかかるのか」
「うん、そろそろ考えていこうと思って」
「楽しみにしてるな! 今度はちゃんと服のお金払うしさ。依頼料でちょっと余裕できてきたし」
「期待してる!」
わいわいと楽しく会話をしながら、私とマリウスは宿に戻る。
この時は全く知らなかった。
マリウスのランクアップスピードはここ数年の新人の中で飛び抜けていることを。
そして、そんな彼の装備が注目されないはずがないということを。
「え? もうなくなっちゃったんですか?」
昨日納品したばかりのミサンガが完売してしまったという報告をライナーから知らされ、私は驚いた。
ミサンガの納品は二、三日に一度しているが、最近はアロイスから付与効果を教えてもらっていて時間がそれほどないため、そこまで積極的にはミサンガの製作はしていなかった。
売れたのを確認して、それと同じ数だけ補充する程度。
それでも常に十本は在庫として売店にあったはずだ。
それが急に完売したなんて、信じられなかった。
「なんかマリウスのやつがあっという間にCランクに上がっちまったからなぁ。今このギルドで一番注目されてるんだ。そんなマリウスが付けてるミサンガに興味を持たれるのは自然な流れだろうな」
「え、そんなことに……!?」
やっぱりマリウスのランクアッスピードは速いらしい。
それにしても彼がこのギルドで一番注目されてるなんて知らなかった。まあ、私がギルドに来るのは人が混み合わない時間帯だし、マリウスとは基本的に別行動だ。
気付かないもの無理はない。
「しかも、あのシルヴィオまでミサンガを着けてるからな。どんなものか冒険者たちがこぞって買うのは自然な流れだ」
「シルヴィオって……」
「あれ? ミナは知らないのか? この街出身の冒険者で今じゃAランクの有名なやつだよ」
「いや、その人は知ってますけど……。私をアロイスさんのところに連れて行ってくれたのもその人ですから」
ライナーにはアロイスから付与効果について教えてもらっていることを伝えてある。
何しろライナーはアロイスの弟子で、かつては部下だったのだ。
そのことを言うと、とても喜んで激励してくれた。
「そうだったのか! マリウスもシルヴィオに目をかけられてるらしいからな。単独行動主義のシルヴィオが人の世話をしてるのは珍しくてちょっと驚いたが、お前らまとめて気に入られてるんだな」
「ええー……全然そうは思わないですけど……」
というか、あの人、私に怒ってたくせにミサンガを着けてるなんて、どういうつもりなんだろう?
シルヴィオの行動がよくわからなくて、私は首を傾げた。
「そんなわけでまたミサンガを納品してくれたら助かる」
「わかりました。こっちも収入になりますし、売れてくれるのは嬉しいですから」
ミサンガはそれほど高くないが、それでもまとめて売れるとそれなりの収入になる。
今のところ私の主な収入源なので、経済的にはすごく助かる。
そろそろミサンガ用の刺繍糸も少なくなってきたから、帰りに糸屋によって材料を補充しよう。
最近は付与効果についてより深く知ったため、手芸の材料を見るのがとにかく楽しい。
植物性のものと、魔物から取れるものでは属性も違うし、付与できる効果も違ってくる。
これまでミサンガはビッグフットという魔物から取れる糸で作っていたけど、そろそろ違う素材でも作ってみるのも良いかもしれない。
素材を混ぜてみても面白そう!
そんな考えを頭に巡らせながら、私はライナーと別れて冒険者ギルドを出る。
その際にすれ違った冒険者の腕にミサンガがあるのを見つけ、こみ上げてくる嬉しさに創作意欲が増した。