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第二十五話「属性と無属性」

「一体なんなの、あの人……」


 勝手に連れてきて、勝手に置いて帰っていくシルヴィオの黒い背中を、私は唖然として見送った。


「あいつも難儀だな」


 呟きが聞こえ振り返ると、アロイスが苦笑している。


「私、あの人のこと何も知らないんですけど……」


「あー、あいつはAランク冒険者だよ。ソロ専門のな」


「Aランク……ええ!?」


「本当に何も言ってないのか。冒険者としては一流なんだよ。愛想はないがな」


 愛想がないどころのレベルじゃない気がするが、それは置いておく。


「なんで怒って帰っちゃったんですかね?」


「シルヴィオはあんたがいい加減な気持ちで冒険者の服を作ってると思ったんじゃないか?」


「え? そんなつもりはないですけど……」


 服作りにいい加減な気持ちで取り組んだことなんてない。デザインから縫製までいつも全力で取り組んでいる。


「いや、私もそうは思ってはいないが、シルヴィオはなぁ……。冒険者に関することには妥協できないたちなんだ。自分にも厳しいが周りにもそれを求める傾向があるんだよ。だからこそソロでもAランク冒険者になれたんだろうけど」


 シルヴィオとは長い付き合いなのだろう。アロイスはそう述懐する。


 けれど、私に対するあの態度って、結局は自分勝手なだけじゃない?


 もちろん冒険者が大変な仕事だということはわかる。だからといって、自分のレベルを周りに押しつけるのは違うと思う。


「それで、ミナはどうするんだ?」


「はい?」


「付与効果について教わるか、それとも必要ないか?」


「ぜひ教えて欲しいです!」


 横暴なシルヴィオだが、付与効果について教えてもらいたいと思っていたから、ここに連れてきてくれたことには感謝だ。


 たとえ冒険者の服でなくても、付与効果を覚えておいて損はない気がする。


 『縫い物』の効果があったのだから、他にも『料理』とか『掃除』とか、日常で使える効果を付与できる可能性がある。


 そういった効果が普段着に付与されていたらちょっと便利だと思う。


「わかった。私が知っている限り付与効果について教えよう」


「ありがとうございます! ……でもいいんですか? いや、もちろん教えてくれるのはありがたいんですけど、突然来た私なんかに……」


 私はすごく助かるけど、アロイスの方にはわざわざ教えるメリットがないはずだ。


 ハッ!


 もしかして授業料として莫大なお金を取るんじゃ……!


 対価として授業料がかかるというのは、当然といえば当然だけど、金額による。今の私には経済的な余裕がない!


 高額請求に身構える私にアロイスは穏やかにははっと笑う。


「ミナがどんなやつかはわからなくてもシルヴィオのことは知っている。あいつが連れてきたんだから見込みがあるってことなんだろう。あんな態度でもミナに期待しているんだよ。じゃないとわざわざ私のところに連れてこない」


「はぁ……」


「ちなみに金もいらんぞ」


「え!?」


「ボロい店だが、金には困ってないんでな。なぁに、年寄りの道楽だと思って教わっておきな」


 私のことは信用してないけど、連れてきたシルヴィオのことは信用しているというアロイスは、シルヴィオのことをかなり買っているらしい。


「よろしくお願いします!」


 無償で教えてくれるなら願ったり叶ったりだ。


 私はぺこりと頭を下げて、指導をお願いした。




 翌日。


 アロイスの付与効果講座が始まった。


 時間は昼過ぎから夕方まで。


 午前中は、ミサンガ作りや服作りをしつつ、エルナに裁縫を教える。


 そして、午後は私がアロイスから付与効果について教わるというスケジュールになった。


「さて、まずは付与効果についての基礎だな」


 古びた店のカウンターに座るアロイスがさっそく切り出した。私はカウンターを挟んで向かい側に座り、その話に耳を傾ける。


「付与効果の前に素材の属性について説明しよう」


「素材の属性?」


「ああ、そうだ。それによって付与できる効果も変われば、強さも変わるんだ」


 アロイスは説明を続ける。


 属性とは、火、風、水、土、光、闇、そして無属性の七種類。


「無?」


「無って言っても全く属性がないわけじゃないんだけどな。無属性とは便宜的な名称と考えてくれ。正確には属性はあってもすべての属性が含まれる、もしくは関知できないくらい属性値が低い場合のことを指す」


 そう言って、アロイスは小さい黒板に六角形を書いてみせる。


 角の外側には上から右回りに、光、水、土、闇、火、風、と書き加えた。


「この属性値の表がほとんど丸になる場合か、もしくは形にならないくらい属性値が低い場合が無属性になる」


「なるほど」


「魔物から採れる素材でこの無属性というのはあまりない。だいたいが何かしらの属性になる。反面、自然に採れるもの、植物や鉱物は無属性のものもある。もちろん属性のものもあるけどな」


 属性がある場合は、六角形の向かい合ったところにある属性は反発しあう。


 これは私がミサンガ作りの付与実験でも経験があった。


 『火耐性』と『水耐性』は同時に付与されないというものだ。


 属性にもそれは当てはまるらしい。


 一方、六角形の隣に位置する属性とは相性がいいらしい。属性が複数ある場合は、だいたいが隣り合った属性になるという。


「この属性を覚えてないと、効率よく効果が付与できない。火属性の素材に水属性の付与をしようとしても無理だからな」


「ってことは、付与をする前に、素材の属性を知らないと話にならないってことですか?」


「まあ、一口に言えばそうだな」


「ええええー!」


 なんだかとてもややこしい話になってきた。


 素材の属性を考えて、付与効果を組み合わせる。


 これまでのデザインに合わせて素材を選び、縫製していくという作業工程がひっくり返る気がする。


「なぁに、やっていけば慣れるさ。Aランク以上の冒険者の服を作ろうと思ったら、かなりややこしいことになるだろうが、この街にいるのはせいぜいCランク、良くてBランクだ。ある程度の組み合わせさえ覚えておけばそれを応用するだけだからな」


「そういうものですか?」


「現に、マリウスとかいう新人冒険者に服を作ったんだろう? それを元にさらに効率よくしていけばいいだけだ」


 そう言われると気持ちが軽くなる。


 頭でぐるぐる考えたらとてもややこしいが、要は組み合わせの問題。使う材料は布と糸が基本だからそう複雑にはならないはず。


 それでも、まだ始まったばかりとはいえ、付与効果の世界は予想以上に深い。


 私の口からは、自然と息が零れた。


 知りたいと思っていたことだけど、先は長そうだな……。


 目指していたデザイナーからちょっと遠ざかっている感じもして、少しだけ私の心に不安な気持ちが湧き出したような気がした。

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