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第二十三話「エプロンと黒い人再び」


 マリウスの服が完成して一区切り付いたところで、私は自分用の服を作っていた。新しく作るものもあるが、せっかく古着を買ったので、それをリメイクしたりしている。


 私の服には特に付与効果は必要ないので、ミシンでちゃっちゃと作っている。


 足踏みミシンは直線縫いしかできないが、それでも均一で早く縫えるので、これはこれで重宝している。


 作り慣れた自分の服ということもあり、あっという間に着回しできるくらいの数ができあがる。そうすると、今度はマリウスの二着目について考え始めた。


 マリウスにはとりあえず二着作ることを約束している。


 洗い替えも必要だと思うし、デザイン的にも性能的にも古着を手直ししたものと、私が作ったものとでは結構差がある。


「でもなぁ……」


 デザイン帳を前に私は考え込んでいた。


 同じデザインのものをもう一着作るのは面白くない。


 だからテイストを変えて、と思ってはいるのだが、付与される効果がやっぱりよくわからない。


 完成してマリウスが着てはじめてシリーズ名が付いていることを知ったし、合わせて着ると効果が強化させることがわかった。


 付与効果はそれぞれに独立して付くものだとばかり思っていたのでびっくりした。


「こういうのを知ってる人に教えてもらった方がいいのかなぁ……」


 冒険者ギルドのライナーは鑑定スキルを持っていて、服やアイテムに付与された効果を知ることができる。


 ということは私のように効果を付与できるスキルを持っている人もいるはずだ。


 それがどのくらいの人数がいるのか、その上、教えてくれる人がいるのかはわからないけれど……。


「できた~!」


 私がそんなことをつらつら考えていると、隣でチクチク縫っていたエルナが、できたものを掲げて声を上げた。


「おっ、完成?」


「うん! みてみて、ミナお姉ちゃん!」


 エルナから渡されたのは、エプロンだ。


 縫い方を一通り教えたところでいざ実践として、私が教えたのが簡単に作れるエプロンだった。


 直線で作れる初心者向けのシンプルなものだ。


 ちなみにこのエプロンは、エルナの父でこの宿の主でもあるローマンにあげる予定だ。エルナも父親のエプロンを自分が作るということもあって、いつになく真剣に作っていた。


 私はエルナに渡されたエプロンの縫い目を確認していく。


 所々、縫い幅が均一じゃない部分もあるが、これは徐々に慣れていけば綺麗になると思う。


 肩紐と腰紐の付け根部分の強度も問題なさそうだし、糸の留め方も大丈夫そうだ。


「良さそうだね! 合格!」


「本当!? やったぁ!」


 エプロンを返すと、エルナは嬉しそうに受け取った。


「ローマンさんにあげてきたら? 楽しみにしてるみたいだし」


 自分の服を作る傍らで、エルナにも課題をということで、ローマンのエプロン作りを思いついたわけだが、ローマンのサイズに合わせて、しっかり採寸した上で作っている。


 ローマン本人にも、エルナにエプロンを作ってもらおうと思っていると伝えると、ローマンは「そうか」と素っ気なく答えていたのだが、実際はかなり楽しみにしているようだ。


 というのも、エルナがエプロンを作っている最中に、ローマンがちょこちょこ覗きに来るのだ。


 私が勝手にアトリエと呼んでいるこの部屋は、宿の物置兼リネン室としても使われている。


 道具や備品も置いているため、それらを取りに来たという態で来ているが、エプロンの進捗具合を気にしているのはバレバレだった。


 ただ、一人娘であるエルナがはじめて作る服が、自分のエプロンというのが嬉しいのはわかるが、一日に何度も見に来られると気が散ってしょうがない。


 幸いにもエルナはエプロン作りに夢中でそれほど気にしてはいないが、来るたびに声をかけざるを得ない私はちょっと辟易していた。


 宿の主人が来てるのに無視するわけにもいかないしねぇ……。


 それもエプロンを渡せば収まるだろう。


 裁縫道具を軽く片付けて、宿の食堂に向かう。今の時間ならば、ローマンは夕食の仕込みをしているはずだ。


「お父さーん!」


 食堂に入るなり、エルナがキッチンの方に呼びかけると、すぐさまローマンが姿を現した。


「はい、エプロン作ったよ!」


「おお、できたか」


「着てみて!」


 厳つい顔をしていて、あまり喜んでいないように見えるローマンだが、目だけは嬉しそうに輝いている。目は口ほどに物を言うとはこのことだろう。


 ループ状になっている肩紐に頭を潜らせたところで、エルナが「うしろ結んであげる!」と腰紐を手に取った。


「あれ? 縦になる……」


 何度か結び直したが、エルナの結び方では何度やっても結び目が縦になってしまう。


 微笑ましい失敗だが、今後のためにも綺麗な結び方を伝授する。正しく服を着てもらうのも、製作者の勤めだ。


「教えるから、はじめから結び直してごらん」


 二本の紐の上下を間違えないように結ぶと、綺麗な蝶々結びができあがる。


「おお、綺麗にできた! ねえねえ、お父さん、一回りしてみて!」


「お、おう……」


 出来映えを見たいがためにエルナがそう言うと、ローマンは照れくさそうにしながらも、その場でくるりと回ってくれた。


 大柄で恰幅のいいローマンだが、体格に合わせて作られたエプロンは当然サイズぴったり。


 無地のライトグレーの布で作ったエプロンは、男性的ながらも明るい色合いで、ローマンの印象を少し柔らかくしていた。


「いいね、似合うよ!!」


 エルナが手放しで褒めると、ローマンは照れくさそうに頬を指で掻く。


「ありがとな、これから毎日使う」


「うん!」


 ローマンはエルナが作ったものなら何でも嬉しいとは思うが、こうして普段使えるものを作ってくれたことはひときわ嬉しいだろう。


 心温まる親子の交流を間近で見て、私の気持ちもほっこりした。




 朝からずっとエプロン作りに集中していたエルナはさすがに疲れたようで、今日の裁縫指導は終了。


 私は一人、冒険者ギルドを訪ねていた。付与効果について何か少しでもわかればと思って、ライナーに会いに来たのだ。


 鑑定部門を覗いて、ライナーの姿を探す。


「あれ? いないのかな?」


 他の場所にいるのかと思い、近くにいる他の職員に聞くことにした。


「すみません、ライナーさんっていますか?」


「ライナーさんは今日お休みだよ」


「休み、ですか」


 話を聞こうと思っていただけに残念だけど、明日また来ればいいか。


 話しかけたついでに、その職員に持ってきたミサンガの納品をお願いする。


 何度かしている作業なので、問題なく納品は終わり、手持ち無沙汰になった私は二階の売店を見に行くことにした。


 ライナーには会えなかったけれど、売店で委託販売している武器や防具などは付与効果があるものもある。その製作者は私と同じくスキルを持っているのだと思う。


 製作するもののジャンルは違えど、何かしら勉強になるかと思ったのだ。


 前回来た時とは違う視点で販売されている商品を見ていく。


 同じ物でも、効果が付与されたものの方が値段が高い。それだけ付加価値があるということだから当然かもしれない。


 とはいえ、ここで売っているものに付いている効果はせいぜいひとつ。それ以上のものになると、製作者にオーダーメイドになるのだろう。


 付与されている効果はやはり汎用性の高いものが多い印象だ。


 武器ならば『攻撃力 小』や『命中 小』、『クリティカル 小』といった具合だ。


 『クリティカル 小』関してはミサンガ作りでは見つからなかった効果なので、参考にしようと思う。


 私に付与できるかどうかはわからないけど。


 防具は、私がマリウスの服に付与した効果が多い印象だ。


 『防御 小』や『回避 小』が多い。


 中には『重さ 小』というのもあった。重厚な盾に付与されているところから予想するに、この盾自体の重さを少し軽くしているのだと思う。


 こういう付与の仕方もあるのかと、勉強になった。


「おい」


 じっと商品を見ていると、不意に後ろから声をかけられた。


 振り向いて、私は目をぎょっと見開いた。


 そこにいたのは、以前この売店で見た黒ずくめの男性だった。


 その時は感じの悪さばかり際立っていたため、気付きもしなかったが、改めて正面から顔を見るとすごく整った顔をしている。


 イケメンだ……!


 背も高いし、足長いし、この人、モデルとしてもいけそうじゃない!?


 服作ったら着てくれるかな……!


 デザイナー心が刺激される造形美に内心で興奮しながらも私は口を開く。


「えっと、何か……?」


「あんたさ、マリウスの服作ったやつだろ」


「はい、そうですけど?」


 なぜ彼がマリウスの服のことを知っているかは知らないが、その通りなので頷く。


 すると、男性はわかりやすくため息を吐いた。


「何もわかってないんだな、あんた」


「……え?」


「ちょっと付いてこい」


「はぁ!?」


 そう言って、男は踵を返して階段を下りていく。


 一方、私はわけがわからずその場に立ちすくむ。


 二、三段下りたところで彼は私が付いてきていないことに気付いたのだろう。


 振り向くと、早くしろを言わんばかりに私に向かって顎をしゃくる。


 何この人!


 やっぱり感じ悪い!!


 ぞんざいな態度にムカっとしつつも、なんだか悔しくて私は気が進まないながらも彼の後を追った。

読者の皆様、誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

適宜、修正できる部分は修正していきます。

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