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第二十二話「マリウス初期シリーズ」

 しつけ糸のガイドに沿いながら、私は猛然と針を動かしていた。


 仮縫いから補正を終え、本縫いに入ったマリウスの服作りだが、その前にいろいろ試した結果、本縫いをミシンで縫うと効果が付与されないことがわかった。


 せっかくアンゼルマが用意してくれたミシンだが、マリウスの服作りには使えなくなってしまった。


 ミシンが使えないとなると、全ての作業を手縫いで行わなければならない。


 しかも、効果を付与するにはひたすら心の中でその効果に関連することを考えながら針を刺さなければならず、私はただただ無言で手を動かしていた。


 時折、リィンという音が鳴るのが聞こえたため、何かしらの効果が付与されているのだと思う。ただ、その時点ではどんな効果が付与されたのか確認はできない。


 というのも、一度手を止めてしまうと効果の付与がそこで終わってしまうからだ。


 これはミサンガ作りでわかったことだった。もしかしたら他にも複数の効果を付与するやり方があるのかもしれないが、今のところこの方法でしかわからない。


 さらに、リィンという音は、効果が付与された時以外にも鳴ることがわかった。


 それは私のスキルが上がった時だ。


 ミサンガ作りの時、音がしたからてっきり効果が付与されたと思ったら、効果が何も付与されていなくて首を傾げた。聞き間違いだったのかとも思ったが、鳴ったのはたしかで、自分の冒険者カードをくまなく見ると、編み物スキルがLv.3からLv.4になっていた。


 スキルが上がるのは正直嬉しいけれど、効果の付与の音と全く一緒なのはややこしいと思ったものだ。


 だから、縫っている最中に音がしたからといって、気を緩めてはダメなのだ。




 最後の一刺しを終え、糸を留めると私は針山に針を刺して糸を切る。


 そこでようやくふうと大きく息を吐き出した。


 少しくしゃっとした布を両手で広げ、しっかり縫えているか確認する。縫っていたのはズボンだったため、比較的直線が多く、トップスに比べると細かい部分は少ない。


 縫い目をひとつずつ辿り、おかしなところはないかチェックしていく。


 特に問題はないようだ。


 裏返っているズボンをひっくり返す。裏側では見えていた縫い目も見えなくなり、綺麗な仕上がりだ。


 最後にお尻のところにポケットを付け、加えてベルトループと下腹の正面部分にファスナー代わりとなるボタンをいくつか付けると完成だ。


「ズボン完成ー!!」


「おおー!!」


 達成感にズボンを掲げて声を上げると、作業を見守っていたエルナがぱちぱちと拍手をしてくれた。


 本縫いに入ると、私はエルナに裁縫を教える余裕がなくなってしまった。連日裁縫を教えるというのもまだ幼いエルナには厳しいかと思い、彼女にはその間はお休みと言ったのだが、エルナは静かにしているから見学したいと言い出した。


 構えないけどそれでも良いのならと、横で見ていることを許していた。


 ズボンが出来上がったので、お待ちかねの付与効果チェックだ。


 私はズボンを持ったまま、冒険者カードに指を当てた。



 アイテム:冒険者マリウスのズボン

 製作者 :ミナ・イトイ

 所有者 :マリウス(予定)

 効果  :防御  小

      回避  小

      素早さ 小



 どうやら三つの効果が付与されているようだ。どれも汎用性のありそうな効果で嬉しい。


「効果は付いてた?」


 エルナが期待するように見上げてくるので、私は親指を立てて見せる。


「ちゃんと付いてたよ! 防御と回避と素早さだって。どれも小だったけど」


「三つも!? すごーい!!」


 目をキラキラとさせて喜んでくれるエルナに、私はちょっとばかり得意げに笑う。


 期待はしていたが、実際に三つの効果が付与されるのを見ると、手縫いで頑張った甲斐があるというものだ。


「よし、次はトップスに取りかかるよ!」


「うん、頑張って!」


 エルナの声援を受け、私は作業を再開した。




 二日間、朝から晩までの時間を費やし、私はマリウスの服を完成させた。


 これほど早くできるとは思っていなかったが、どうやらスキルによって私の裁縫技術が上がっているらしい。


 気付けばLv.1だった縫い物スキルもこの二日間でLv.3に上がっていた。


 エルナが言うにはどんどん縫うスピードが速くなっていったとのことなので、スキルの効果は絶大のようだ。


 ただ集中して作業をしている私にはそんな実感はないのだけど……。


 出来上がった服は、さっそくマリウスに着てもらうことになった。


「着方わかる? 大丈夫?」


 私から見えない場所で着替えているマリウスに声をかける。


「大丈夫だぞ。ほら」


 そう言って着替えたマリウスが出てきた。


「きついところとか違和感あるところはない?」


「全然! すげぇ着心地良いぞ! このポケットも便利そうでいいな!!」


 マリウスは上に羽織ったベストに付いているポケットに手を差し込みながら嬉しそうに笑う。


 完成したマリウスの服は、デザイン画とだいたい同じようなものになった。


 焦げ茶のズボンに白い長袖シャツ。ただシャツに関しては途中でUネックだったのを変更。バンドカラーという襟があまりなく、首元までボタンで留められるタイプのシャツにした。


 何かあった時に露出をなるべく少なくできる服の方が良いと思ったからだ。


 シャツの上からはベストを着てもらっている。


 今回はこのベストに一番力を入れた。


 ズボンと同色の焦げ茶の布で作ったベストは、アイテムを入れられるようにポケットを多めに付けた。


 前側の左右と、ベストの内側にも二つずつ。


 ベストの裏地は明るいベージュの生地で、ちらりと見えると華やぐ印象だ。


 さらにこのベストにはフードが付いている。デザインとしてもだが、日よけや雨よけとしても使えるようにだ。


 このフードがひときわ特徴的なのは、パイピングを兼ねてベストの縁を飾っていることだろう。


 パイピングとは布の縁に沿って、生地を縫い込むもので、現代であればバイアステープという専用の製品が売っていたりする。


 今回は表布とは違う生地で縁を覆うようにしつつ、デザインとしても楽しめるように百合の紋章のような形の布を縫い付けてみた。


 この百合の紋章の形は、この世界で使ってはいけないタブーな象徴ではないかと念のためアンゼルマに確認を取ったが、特にそういうことはないらしい。


 こうして縁取りをすることで、摩耗しやすい縁の強度を上げつつ、生地の厚みが出ることでフードがかぶりやすくなる。


 刺繍をするという手もあったが、時間がかかるし、こちらの世界の刺繍の意味合いや流行を知らない私にはハードルが高かった。


 そもそも刺繍自体、あまり得意じゃないという理由もある。


 実のところ、できてみればパイピングとアップリケを合わせたような技法かもしれない……。


 アップリケといえば、現代では動物などの可愛いキャラクターのモチーフを縫い付けたり、アイロンで貼ったりすることをイメージするだろう。


 しかし、本来のアップリケとは、土台の布に別の布を縫い留め、補強や装飾をするものなのだ。


 そのような方法を使いながら、完成させたマリウスの服。


 本人も嬉しそうにしているし、なかなかに似合っている。


「ねえねえ、効果も付与されたから見てみて!」


 この服のすごいところは見た目だけじゃないのだ。


 ズボンの他に、シャツとベストにも効果を付与することに成功していた。


 マリウスは自分の冒険者カードを取り出すと、情報を見始める。


「おお、すげぇ! 『回避 小』と『素早さ 小』に『防御 中』! しかも、『魔法防御 小』まで付いてる!!」


「……んん?」


 なんか私が確認したのとは違うような……。


「私が見た時は『回避 小』『素早さ 小』『防御 小』だったんだけど……」


 ズボンとベストにそれぞれ三つの効果が付与され、シャツには『防御 小』だけが付与されていたはずだ。


「そうなのか? でも四つ付いてるぞ?」


「え、なんで……?」


「ああ、注釈があるみたいだ。えっと『同時に装備することで『防御 小』は『防御 中』に効果上昇。『魔法防御 小』が新たに付与されます』だって」


「そんな事が!?」


 驚くことに、付与効果には相乗効果があったらしい。


 私が確認する時は、手に持った状態で、しかも単体で見ていたからそれに気付かなかった。合わせることでまさか効果が変わるなんて……。


「一緒に着たらさらに効果があるってすげぇじゃん!」


「まあ、そうなんだけどね」


 予想外の展開に私は苦笑する。


 でもまあ、マリウスが喜んでるからいいか。


 驚いたけど、効果が強化されるのは良いことである。


「それにこの服『マリウス初期シリーズ』って名前なんだな」


「ええ!?」


「だってそう書いてあるし……。このシリーズを一緒に装備したら効果が上がるっぽいぞ」


 マリウスが冒険者カードを見ながら話す言葉に私は目を丸くする。


 自分でも知らないうちに、服にシリーズ名が付いていたらしい。


 こちらの世界のスキルはまだまだわからないことだらけだ……。


 そう思いながら、私は嬉しそうにはしゃぐマリウスを眺めるのだった。

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