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第二十一話「仮縫いとショートソード」


「うーん、こんな感じかなー」


 私はトルソー代わりの木の骨組みにかかった服を眺めて頷いた。


「すごい! 服だぁ!」


 エルナが周りをぐるりと回り、キラキラと目を輝かせる。


「そりゃあね! でも仮縫いの段階だから完成はまだ先だよ」


 マリウスの服は、どうにか形になってきた。


 今の段階は仮縫い。


 パーツごとに裁断した布をひとまず縫い合わせた状態だ。ただ、縫い目は、しつけ糸で簡単に縫っただけなので、このままでは完成にはならない。


 これから本人に試着してもらい、体を動かしてみながら補正。それが終わってからはじめて本縫いを経て、完成となるのだ。


「やっぱり服を作るのって時間かかるんだね」


「オーダーメイドだからどうしてもね。特にマリウスは冒険者で体を動かすから、どのくらい補正が必要かにもよるかなぁ。型紙さえできてしまえば、二着目からはもっと早くできると思うけど」


 マリウスの服を作るのははじめてなので、彼のデータがない状態から始めなければならなかった。


 しかし、一着目さえ作ってしまえば、次からはそのサイズを参考にして作れるので、比較的楽になる。


 ともあれ、マリウスの服は仮縫いまでこぎ着けたので、あと少しだ。




 マリウスは日が暮れてから宿に戻ってきた。


「おかえりー」


「ただいま」


 私が食堂で一足先に晩ご飯を食べ始めていたところ、マリウスが帰ってくる。


「今日は遅かったね。依頼、長引いたの?」


 いつもなら夕方には帰ってくるのに、今日は帰ってくるのが遅かった。たくさん依頼を受けたのかと思い、マリウスに問うと彼はなぜかそわそわとし始めた。


「いや、ちょっと買い物してきたんだ」


「え、珍しいね! 何買ったの?」


 堅実であまりお金を使いたがらないマリウスが買い物とは……。


 マリウスが何を買ったのか気になる。


 すると彼は、左腰を私に見せた。そこには出かけた時にはなかったものが下がっていた。


「もしかして、剣?」


「そう! ショートソードだ! これまではナイフとこん棒でどうにかしてきたけど、そろそろ依頼の内容的に武器がないと厳しくてさ。思い切って買ったんだよ」


 私は食事の途中だったが、カトラリーを置いて席を立つと、マリウスの左側に屈んだ。


 およそ六十センチほどの長さのショートソード。鞘はシンプルな黒一色で、専用っぽい革のベルトで装備している。


 ショートソードをじっと見つめ、考え込んでいる私をマリウスは不思議に思ったのか「どうしたんだ?」と声をかけてくる。


「いや、これからこのショートソードを常に持ち歩くなら、今作ってる服もそれ用にした方がいいかなと思って」


「あー、そうだよな。それは全く考えてなかったわ」


「完成する前だからまだ間に合うけど……。あ、そういえば! 今日、仮縫いが終わったから早いうちに試着して欲しいんだよね」


「試着?」


「そう。動きにくいところがあったら困るでしょ? 完成する前に一度着て、ちゃんと動けるか確認してから本縫いするの」


「へー、手間がかかるんだな」


「まあ、オーダーメイドだからね。試着、ご飯の後でいい?」


「ああ」


 私は元の席に戻り食事を再開する。


 マリウスにも女将のアンゼルマが料理を持ってきてくれたので、私の向かいに座り食べ始めた。


「それにしても、よくショートソード買うお金あったね。どのくらいしたのかわかんないけどさ」


 武器の相場を全く知らないので、マリウスの買ったショートソードがいくらくらいのものなのか見当が付かない。しかし、武器なのだから安くはないだろう。


「実はここ最近知り合った人がさ、良いお店教えてくれたんだ。そのお店の正規の武器は手が届かないくらい高いんだけど、弟子の練習作なら手頃な上にそれなりに使えるからって」


「へぇ~」


「それでもこれまで貯めた依頼料、結構使っちゃったんだけどな。でも今後を考えると必要なものだし、思い切ったんだ」


「マリウスが良いならいいと思うよ。でも、武器にばっかり頼らず、気を付けるんだよ」


 自分専用の武器を手に入れたからか、どうもマリウスは帰って来てから浮かれているように見える。


 それなりに重いだろうに、ショートソードは腰に下げたままだし、食事をしつつも時折、鞘を触っている。


 まだ十代の少年なので、自分だけの武器にはしゃぐのは年相応だとは思う。けれど、職業的には駆け出しの冒険者だ。


 あまりに浮かれすぎて、今後の依頼で注意散漫にならないといいけど、と思いながらちょっと釘をさした。


「そ、そうだなよな。うん……」


 さすがに浮かれている自覚があるのか、マリウスは少し恥ずかしそうに視線を逸らす。そして、まだ残っている料理を一気に口にかき込んだ。




 晩ご飯を終えると、マリウスにアトリエに来てもらい、仮縫いした服を試着してもらう。


 エルナも着たところを見てみたいと言っていたのだが、睡魔には勝てず、今はベッドの中だ。


「着れたー?」


「おー」


 奥の影になっている場所で着替えたマリウスが、私の元にやってくる。


「ちょっと動いて見てくれる?」


 私がそう言うと、マリウスは腕や足を曲げたり伸ばしたりする。それによってできる服のしわを私は観察する。


 マリウスが言うには、特別キツかったりする箇所はないらしい。


 それでもすべてがいいわけじゃない。


 一通り動けはするようなので、今度は細かい場所を確認する。


 私の指示で腕を上げたり回したり、腰を曲げたり、屈んだり。さらに、ショートソードを持って、実際に魔物と戦う時の動作をしてもらう。


 もちろん危ないので、鞘に入ったままでだが。


 想定できうる限りの動きをしてもらって、それによってできるしわやほつれの出方を見て、補正する箇所を決めていった。


「うん、こんなもんかな。ありがとう」


「このままでも充分着心地良いけどな。もっと良くなるのか」


「もちろん。他にデザインもちょっと足したいんだ。ショートソードも下げやすいようにしようと思って」


「それは助かる」


「そうだ。できるかどうかわからないけど、服に付与して欲しい効果の希望ある?」


「回復と素早さアップとか? 防御もあったらいいな。あと、回避効果とかってあったりするのか?」


「回避? ミサンガ作りではまだ見つけられてないけど……。あっても上手く付与できるかわかんないし、希望通りにならない可能性の方が大きいけど、やるだけやってはみるよ」


「できたらでいいよ。服作ってもらえるだけで嬉しいし。ミサンガもあるしな」


「わかった。じゃ、それは脱いじゃってー」


「おう」


 ミサンガでは、『回復 小』と『毒耐性 小』なら五割の確率で狙って作れるようになったが、服に関してはまだまだ未知数。


 どうやら仮縫い状態では効果は付与されないらしく、付与されるとしたら本縫いになるのだろう。それも一体どうなるかわからない。


 服を作るだけならば難しくないのに、自分にもよくわからない特殊スキルにここまで頭を悩ませるとは……。


 かといって、付加価値となる効果を無碍にはできない。


 私は、マリウスが脱いで手元に戻ってきた仮縫いの服を手に思案するのだった。

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