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第十八話「デザインと実用性」


「じゃあ、いってくる」


「うん、いってら~。気を付けてね」


 翌日、朝ご飯を食べるとマリウスは依頼に出かけていった。


 彼の格好は昨日までのよれた服から、私が買ってきた古着になり、少しだけ印象が変わった。


 宿の女将のアンゼルマ曰く、田舎くささが抜けたらしい。


 時間がなくて、古着はほつれているところを多少補修した。幸いにもだいたいのサイズで買ってきた服もマリウスが着てみたら大丈夫だったので、着るには問題ない。


 私が作った服ではないものの、衣装が一新したことにマリウスは嬉しそうだった。




「さて、今日から本格的に服作りだー!」


「おー!」


 気合いを入れるように呟くと、朝ご飯を済ませ準備万端のエルナが同調して拳を突き上げた。


 エルナも今日から本格的に裁縫を教えてもらえるため、張り切っている。


 彼女を伴い、宿の倉庫兼アトリエに向かう。


「じゃあ、エルナは基本の縫い方から教えるね」


 アンゼルマから古いシーツや端切れをたくさんもらったので、それを使って縫い方を教える。


「当然だけど、針は危ないから集中してやること」


「はい!」


 昨日は糸を切るのにハサミを使ったが、ミサンガ自体は手で編むため危険はない。


 しかし、今日から使うのは先端が尖っている針。


 手に刺すことももちろん気を付けなければならないが、何より恐いのは紛失だ。どこかに刺したまま、行方がわからなくなって、それが不意にどこかに刺さってしまう。


 裁縫は縫い針だけでなく、まち針もよく使う。


 どこに刺したかを忘れ、抜かないまま服を着てしまう。それがとても危険だ。


 元の世界では検針器を使えば容易にチェックもできるが、ここではそうもいかない。細かいことだが、日頃から充分に注意するべきなのだ。


 それを丁寧に説明すると、エルナは真剣な面持ちで頷いた。


 趣味ではなく、仕事として裁縫を覚えたいからか、エルナは子供特有の浮かれたところがない。教える方としてはとてもやりやすい。


「じゃあ、玉結びからね」


 作業台に道具を準備して、私はすっかり身についた基本を思い出しながらエルナに教えていく。


 エルナは小さい手で私の手本を真似て練習をはじめた。




 一通り見本を見せ、エルナが反復練習をしているうちに、私は私ですることがあった。


 それはマリウスに作る服のデザイン決めだ。


 朝ご飯を食べながら、マリウスにどういう服がいいか聞いたところ「動きやすければどんなのでもいい」とのことだったので、デザインは私が好きに決めることになったのだ。


「動きやすいねぇ……」


 冒険者の主な仕事は魔物を倒すことだから、動きやすさが重要なのはわかる。


 ただ、その他に必要な機能はないんだろうかと考える。


「冒険者っていえば、ゲームのキャラクターをついイメージしちゃうけど……」


 専門学校時代に友達から頼まれて、ゲームキャラのコスプレ衣装を作ったことがある。


 ただ、それは二次元特有の露出が激しい衣装で、戦うのに不向きっぽいな、と思った。


「戦うって言ったら甲冑とか? でもあれって基本的に金属製だと思うし、それは私には作れないからなぁ」


 うーん、と私は白紙のデザイン帳を見ながら悩む。


 防御性を考えたら甲冑が一番だと思うが、さすがに鍛冶職人ではないから私には作れない。


 それにマリウスは身軽っぽいから、攻撃を受け止めるより、速さを活かせるような装備がいいんじゃないかと思う。


 だから機能的で動きやすい戦える服、という方向性で考えることにした。


 屋外で活動するのを考えると、ベースカラーは暗めの色。黒、焦げ茶、紺色あたり。汚れがあまり目立たない色の方がいいだろう。


 ただそれだけじゃデザイン的につまらないから差し色も入れたいところだ。


 ボトムスはしっかり目の生地で作るパンツ。動きやすさを考え、体に沿うように立体的に作りたいところだ。


 トップスは、下に白いシャツを着てもらおう。襟はないUネックの長袖のもの。


 その上にベストを羽織る。このベストにはフードと大きめのポケットを付ける。


 フードは日よけと雨よけになるし、ポケットは拾ったアイテムを一時的に入れたり、頻繁に使う道具を入れたりできるように多めにする。


 ざかざかと簡単にデザインを描いていく。だいたいのイメージができたことに私は「うん」と頷いた。


「マリウスお兄ちゃんに作る服、決まったの?」


 私が手を止めたことに気付いたのか、エルナが聞いてくる。見るとエルナもちょうど糸がなくなり、一区切りしたところだったらしい。


「だいたいね。こんな感じ~」


 デザイン帳をエルナに見せる。すると、エルナは目を輝かせた。


「すごーい! 上級の冒険者の人みたい!」


「そう? 着るのは新人冒険者のマリウスだけどね」


 マリウスにはこれを着て強くなって欲しいと思うけど、それは彼次第だ。


 あとは本人の了解を取るべきなんだろうけど、マリウスの調子じゃ「任せる」の一言で終わりそうだから、ある程度のところまで進めてしまおう。


 デザインが決まったら、パターン作りだ。


 パターンとは、服の型紙のことだ。


 実を言うと、私はこれが苦手だったりする。


 というのも、服のデザインを考えるデザイナーと、服の型紙を作るパタンナーというのは、別の職種なのだ。


 もちろんデザイナーもパターンのことは勉強するし、ある程度のことはできるが、本職のパタンナーほどではない。


 じゃあどうするか。


 型紙の一番簡単な作り方は、既にある服の縫い目を解いてそれを元に型紙に起こす方法だ。


 そのために、昨日までマリウスが着ていた服をもらっている。サイズの調整は必要だが、これを解いて使うことはマリウスにも伝えている。


 はじめはまだ着れるからと渋っていた。


 その気持ちもわからなくはない。冒険者としての収入の見込みがわからない以上、服がなくなるのは避けたいだろう。


 しかし、私が古着を買ってきて、その一着の代金を私が負担する言うと、その気持ちは軽くなったようだ。


まあ、解くといっても縫い直せばまた着れるんだけどね。


 ただ、このヨレヨレの着古した服をまた着るのはどうかと思うから、私の中で縫い直すつもりはないんだけど……。


 そのマリウスが着ていた服は、朝一で洗濯し、干してある。今日は天気もいいし、午後には乾くだろう。




 パターン作りはマリウスの服が乾くの待ちだ。


 他にやることと言えば、生地の準備だけど、今買いに行くのは少し時間が微妙だ。


 おそらくもうすぐお昼だし、エルナの指導もまだ途中。


 でも何もしないのも時間がもったいないので、昨日やっていたミサンガ作りをしようと思う。


 作ったミサンガをアンゼルマに見せたら「これは売れるんじゃない?」と言っていた。


 今のところ収入になるものが、オークション予定の日本円しかない。だから、お小遣い程度でもいいから、収入となるものが欲しいと思っていた。


 服は作るのに時間がかかるし、今のところマリウスのものが優先。


 その点、ミサンガならすぐ作れるし、材料費もそれほどかからない。


 万が一、売れなかったとしてもそんなに懐も痛まない。


 縫う練習をするエルナの横で、私は昨日同様にミサンガを編む。色やデザインを変え、カラフルなミサンガを作り上げていく。


 その途中で、また『リィン』という鐘のような音が聞こえた気がしたが、ミサンガに集中していた私は気に留めることはなかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いところ。 [気になる点] ミサンガって数時間かかるんですけど、なれてもそれなりに時間が・・・・・。
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