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第十三話「素材とインスピレーション」


 古着屋に向かう前に、一応他の服屋も見に行ってみることにした。


 二軒あるうちの一軒は、ドレスなどの婦人服を専門としているようで、トルソーには煌びやかなドレスが飾られていた。


 もう一軒は紳士服と婦人服、両方を取り扱っているらしい。


 ちなみに私がはじめに訪れた店は、店員も言っていたが紳士服が専門の店だった。


 というかこの三軒は、服屋というよりその性質上、仕立屋と言った方が正しいのかもしれない。


 冒険者の町だし、ドレスアップが必要な職種の人がいない町なのだろう。それならば服屋が三軒と少なくても事足りる。


 その三軒で人生に一度や二度ある慶事の一張羅だったり、お金持ちの普段着だったりを主に請け負っているのだと思う。


 それよりさらに上の階級、たとえばこの町の領主あたりは、おそらくもっと大きい町の服屋で作っているはずだ。


 すべては私の予想ではあるけれど……。


 服屋を見に行った後は、新たな目的地である古着屋に向かう。


 はじめの店のおじさんから教えられた小道に入ると、そこはどうやら問屋街のようだ。


 生地布や糸、ボタンなどの装飾の小物、さらに裁縫道具。そういった店が多く建ち並んでいた。


「うわぁ……!」


 さっきの服屋に入った時よりもわくわくする。まず古着屋に行かなきゃと思うのに、つい足がゆっくりになり、視線は店に向かってしまう。


 ちょっと寄ってみようかな……と誘惑されつつ、どうにか目的の古着屋を発見した。


 さっそく店に入ってみる。


 店内は決して綺麗とは言えず、ハンガーに掛かっているものもあれば、かごに乱雑に積み上がっているものもある。


 雑然としているが、それはそれで掘り出し物が見つかりそうな予感がしてくる。


「いらっしゃーい」


 気付かなかったが、店の奥に人がいたようだ。声の方を見ると、ぽっちゃりしたおばさんが椅子に座っていた。


「こんにちはー」


「好きに見てってー」


 おばさんは気怠げに言う。とてもゆるい。


 でもいろいろと見たかったので、自由にさせてもらうことにしよう。


 ざっと見た感じ、やはり既製服がないからか、売られている古着は個人の手作りのようだ。


 着古したものもあるが、比較的綺麗なものもある。


「なかなかいいかも」


 いくつか目当ての服を選ぶ。


 もちろんこのまま着るわけじゃなく手直しする予定だ。


 自分の分とマリウスの分。


 マリウスと約束した服は、生地からちゃんと作るつもりだが、今の服のままはちょっといただけないから当面しのぐ用の着替えとしてだ。


 サイズも目測で合いそうなものを選んだ。


 大きい場合は丈を詰めればいいので若干余裕をもったサイズだ。


 古着といえど、やっぱり服を選ぶのは楽しい。


 たまにこれは誰が着るんだろう……と思うようなものもあるが、それはそれで面白かったりする。そういうところは世界が違っても変わらないんだなと思う。


 あれもこれもと選んでいるうちに結構な量になってしまった。


 おばさんのいるカウンターに持っていくと、彼女はあまりの量にギョッとする。


「いやいや、大量だね……」


「あはは、いつの間にかこんなになっちゃって……」


 自分用に上下を三着、マリウス用に上下を二着の計十着だからそれなりの量だ。


 シンプルでアレンジがきくようなデザインにしたので、マリウスもダメとは言わないだろう。


 古着だからか値段も一着平均十マルカくらいだったので、それほど高くはなかった。


 しかもおまけに布製のトートバッグも付けてくれたからラッキーだ。買ったはいいものの、どう見ても私のリュックには詰め込みきれないからどうしようと思っていたのだ。


 今後もエコバッグ代わりに使えそうだし、なかなか親切なおばさんだ。


 さらに、おすすめの糸屋と布屋も教えてもらえた。


 古着屋を出ると今度はそちらに向かう。


 まずは糸屋だ。


「おお、いっぱいある!」


 店内に入ると壁一面に糸がある。


 ボビンと呼ばれる真ん中に穴が空いた木製の筒に巻かれた色とりどりの糸が並んであるのは壮観だ。


 色だけじゃなく糸の素材もいろいろあるらしい。


「えっと、綿の糸はわかる。シルクワームの糸は、絹糸ってことだよね? で、こっちはアラクネーの糸……なんだろ?」


 他にも刺繍糸や毛糸もあるが、こっちはさらにわからない。


 ビッグフットの毛って何!?


「何かお探しかい?」


 棚を見上げて難しい顔をしていたからだろう。店員が声をかけてくる。


 糸屋だけに、目がものすごく細い男性だった。


「えっと、糸の素材がよくわからなくて……」


「ああ、糸の素材ね。何を作るかにもよるけど、日用品なら綿でいいと思うけど、強度を出したかったらモンスターの素材製のがおすすめだよ」


「冒険者の服を作ろうと思ってるんですが……」


「じゃあ、縫い物にはアラクネーの糸がおすすめだね。付与にも対応できる」


 付与って、冒険者登録の時にさらっと聞いた、魔法効果が付くっていうあれかな?


 私にはそんな技術はないけど、強度が強いならこの糸がいいかも。


 いくつかおすすめを教えてもらいながら、縫い物用にアラクネーの糸と、ビッグフットなるよくわからないモンスターの素材で出来た刺繍糸を買った。


 次に向かったのは布屋だ。


「はぁ……布屋ってなんでこんなに心がときめくんだろう……!」


 手芸店はいつ行っても変わらないドキドキがある。布のコーナーは、特に楽しい。


 色、柄、手触り。


 実際に触れるとインスピレーションが湧き出すのだ。


「ああ、この色、素敵! 手触りはこっちがいいなぁ……」


 さっそく店内を物色する。


 柄物はなく単色ばかりだが、それでも素材や厚さが違うし、色も結構いろいろある。


 マリウスの希望もあるので、今日は買わないがある程度の目星を付けておくのもいいだろう。


 ただ、ここでもよくわからない素材製の布があるので、要検討だ。


 布は今日はおあずけだが、店内の端に端切れが安くまとめ売りされていたので、それだけ購入した。


 布屋を出ると、空が赤く染まっていた。


 楽しみすぎて、だいぶ時間が経っていたようだ。


 出来れば買った古着の洗い替え分は今日中に手直ししておきたい。


 私は増えた荷物をしっかり抱えて宿へと急いだ。


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