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第十一話「達成報酬と一マルカ」


 昨日並んだ門の通行も、冒険者カードという通行証があるため、すぐ通ることができた。


 冒険者ギルドに到着すると、向かうは受付ではなく依頼の達成確認のカウンターだ。


 昼にもなっていない時間帯のためか、そこは人気がなくがらんとしていた。きっと夕方以降が混む時間帯なのだと思う。


「あれ? ライナーさん?」


 手持ち無沙汰にカウンターに寄りかかる男性は、昨日日本円のオークションの手続きをしてくれたライナーだった。


「おう、二人とも初依頼か?」


「はい、行ってきました」


「おし、じゃあこっちで確認してやる。達成証を出しな」


 どうやらライナーがそのまま依頼の達成手続きをしてくれるらしい。


 私とマリウスはスライムの核とヨモギ草をカウンターの上に載せる。


「うん、どちらも規定の数あるな。マリウスの方はスライムの核が多いがこのまま買取でいいか?」


「あの、これまで集めたものもまとめてお願いしていいですか?」


 そういえば、昨日マリウスが助けてくれた時、スライムの核は集めれば少しだけお金になると言っていた。その時に倒した核もマリウスは持っているはずなので、それをまとめてお願いしようとしているらしい。


「おお、いいぞ。出せ出せ」


 ライナーの許可が出たところで、マリウスはバッグからじゃらじゃらとスライムの核を取り出した。結構な数がある。


「いっぱいだな」


「村を出てからずっとなんで……」


 マリウスは出身の村からここアインスバッハの町に来るまでの道中で遭遇したスライムの核を集めていたようだ。何十個もある。


「おし、じゃあ、先にミナからそこのくぼみにカードを差し込んでくれ」


 私は冒険者カードを取り出すと、ライナーが指さしたカウンターの端にあるくぼみにカードを差し込んだ。


 すると、ライナーの方で情報が見られるのか、彼が向こう側で操作していく。


「ミナは規定量ぴったりだから、買取はなしで、依頼料だけの支払になる。いいか?」


「はい」


「うん、もうカード取っていいぞ。内容を確認してくれ」


 カードを抜き取って、右下の丸に指を合わせる。


 すると、情報が浮かび上がった。



 【依頼】

 『初依頼』 ☆達成 ―― 報酬:十マルカ(未払い)

  内容:スライム十体の討伐、ヨモギ草十枚の採取



 昨日は空欄だった依頼の欄に新しく項目が増えていた。


 内容も特に問題なかったため、ライナーに頷いて見せる。


「あー、今度はランクアップだな。それはここじゃできんからこのあと受付でやってくれ」


「わかりました」


「次はマリウスか。カードを入れてくれ」


 ライナーは続いてマリウスの達成手続きをはじめる。こっちは別途買取があるものの、問題なく進む。


 マリウスも自分のカードの内容を確認して間違いないと頷いた。


「ねえ、そういえばスライムの核の買取っていくらなの?」


「言ってなかったか? 五十個で一マルカだ」


 五十個で一マルカ……。


 今日、朝に買ったパンが一マルカだったから、例えば百円だったとして……――。


 指折り考えていた私は止まる。


「え、安くない!?」


「言ったろ、ほんの少しだけって」


「少し過ぎない!? え、ていうか、それに比べたらこの初依頼の報酬高くない!?」


「それは新人冒険者へギルドからのご祝儀ってやつだ。この金で少しでも環境を整えてこれから頑張れよ、ってな」


「なるほど……」


「てなわけで、せいぜい励んでくれ」


 ライナーはそう言って、ハハハと笑う。


 冒険者の道はなかなか厳しいようだ。




 受付でランクアップ手続きをして、無事に私もマリウスもE ランクからDランクに昇格した。


 朝依頼の手続きをしてくれたレーナは休憩中なのか姿はなく、他の職員に手続きしてもらったのだが、特に問題なくすんなり終わった。


「マリウスはこれからまた依頼受けるの」


「そのつもりだ」


「私はどうしようかな……」


「一応どんな依頼があるか見てみるか?」


 マリウスに促され、依頼が貼り付けてあるボードを一緒に見に行く。朝は受付の真ん前にあったボードは、壁際に寄せられていた。


「めぼしいものはあまりないな」


「時間が時間だしね」


 もうすぐお昼になる時間帯のはずだ。だいたいの冒険者は朝依頼を受けて、出発しているようだからここにあるのは売れ残りの依頼だろう。


「あ、これは良いかもな。ニードルワームの討伐」


「ニードルワーム?」


「スライムを倒すのと同じくらいだからミナにもできると思うぞ。虫の魔物で――」


「無理!! 虫は無理ー!!」


 どんな魔物かわからないが、虫は絶対無理だ!


 私が食い気味で拒否すると、マリウスは「お、おう」と驚いたように呟く。


 正直言うと、スライムも叩いた時の感触に、はじめは鳥肌が立った。何回かやるうちにこういうものなんだと慣れたけれど、さすがに虫を見て、その上潰したりするのは(おぞ)まし過ぎる。


「やっぱり私は依頼受けるのやめとくよ」


「そうか?」


「買い物もしたいし、マリウスの服を作る材料も揃えないとだし」


 考えてみると、冒険者を目指していたマリウスはそれなりに体力もあるだろうが、私は逆に運動がそんなに得意じゃない。依頼を受けても私がマリウスの足手まといになりこそすれ、役に立つことはないだろう。


 ならば他の面でサポートした方がいい。


 それにマリウスの服を作ってあげると約束した。今のマリウスの格好は私的に我慢ならない部分もあるので、まずそこを早急に改善したいところだ。


「わかった。じゃあここからは別行動だな」


「うん。依頼頑張ってね、マリウス」


「おう」


 ボードから依頼の書かれた木札を取り、受付に持っていくマリウスを見送ると、私は支払いカウンターで初依頼の報酬を受け取って冒険者ギルドを後にした。


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