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第九十五話「色のイメージとデザイン」

 シルヴィオと一緒にマリウスが依頼に出かけたところで、私は作業を開始する。


 まずは、スッパリと切れてしまったシルヴィオの服の補修だ。


 補修といっても、私が一から作った服じゃないのでやはり効果を付与し直すことはできなかった。これは試しにできるかどうかやってみたが、製作者の贈り物(クリエイターズギフト)によって改めて無理だと言われた。


 よって、補修は切れたところをつなぎ合わせる程度だ。


 使うのはアンゼルマから譲ってもらったミシン。


 特殊スキルで効果を付与する場合は手縫いじゃないといけないからこれまでほぼ出番がなかったミシンだったが、今回は違う。


 まずは同じ色の布を切れた部分の裏側に当て、ずれないように軽く縫って留める。


 そうしたら、表面にひっくり返して、そこをミシンで縫っていく。縫い方は布の糸の方向に合わせて、細かくギザギザに。


 これはミシン刺しとかミシンたたきと呼ばれる方法で、穴が空いたものや裂けたものを補修するのに使う方法だ。


 これより高度なかけはぎという方法もあるが、それはかなり難しく時間もかかる。熟練した腕がないとそもそも難しい方法でもあるので、今回はより手軽にできるミシン刺しで補修をした。


 幸い、生地が黒ということもあり、補修部分はそれほど目立たない。


 もちろん近くでよく見たらわかるのだけど、すぐ使うとなったらこれ以上綺麗に補修するのは難しいだろう。


「うん。まあ大丈夫でしょう」


 切れて空いていた穴はしっかり塞がっているのを確認して、私は頷く。


 補修は完了したので、次はシルヴィオの新しい服に取りかかる。


 始めにデザイン決めだ。


 シルヴィオからの希望で、以前の服と形は変えないでほしいと言われた。


 となると、形は自ずと決まる。


 その上で考えるのは、色や模様。


 以前の服をそのまま再現するのは、面白くない。せっかく製作の依頼を受けたのであれば、私なりに工夫をしたいところだ。


「とはいえ、シルヴィオさんの色のイメージって黒なんだよね……」


 補修をした服も黒、そして、今日代わりに着ていた服も黒である。


 少し長めの髪は黒。


 目の色はコバルトブルー。


 元々、黒がよく似合うのだ。


「いきなり明るい色にしてもね……。私の中のイメージも黒って感じだし」


 ビビットな色を身に纏うシルヴィオはいまいち想像ができない。


 冒険者である以上、外敵に見つかりやすい色を着るのは危険だったりするので、さすがにそれはしないが……。


「やっぱり黒とグレー、青でまとめるべきかな……」


 黒をベースにして、差し色にグレーと青を入れてうまく変化を付けていけたらいいかもしれない。


 そう決まると、私はデザイン帳を広げ、思い浮かんだデザインを描いていく。


 服の構造や形を変えないとなると、それを再現するのはそう難しくないのでさらさらとペンを滑らせる。


 問題はディティールだ。


 効果を付与する関係上、刺繍は必須。


 効果は「防御」だけでいいということなので、刺繍の種類も一種類になる。


 効果の付与方法を刺繍に変えてから、「防御」の効果を付与するのは初めてだ。


 これから冒険者の服を作っていく上で、「防御」の効果は付与することが多いと思う。そうなったら、刺繍のデザインも汎用性のあるものを割り当てた方がいいだろう。


「デザインとして使いやすくて、アレンジもできる……。やっぱり植物系統かなぁ」


 植物は刺繍にもよく使われる題材だ。


 日本古来の着物の文様にも使われることが多かったはず。


「着物……」


 ふと思いついた着物というワードに、私はハッとした。


「唐草……蔓唐草ならいい感じかも」


 ただの唐草文よりも蔓唐草の方が近代的っぽくて洋服にも合う。


 それに着物の文様にはそれぞれ意味があって、唐草文の場合は描かれるツタは生命力の象徴。縁起が良い吉祥文様だ。


 そういう面から考えても、冒険者の服を飾るにふさわしいデザインではないだろうか。


 それに蔓唐草であれば、他に刺繍のデザインを加えるにしてもバランスが良さそうだ。


 蔓唐草のデザインだけを別にデザイン帳に描く。刺繍はグレーと青をうまい具合に混ぜて変化を出したいところ。


 刺繍を入れるところも大まかに書き込んでいくとだいたいのデザインが出来上がる。


「……。何か足りないような……」


 あくまでデザインの素案であるから、これで確定ではない。


 でもこれで本当にいいのか? という疑問が漠然とだが浮かんでくる。


 しかし、悠長に考えている時間はあまりない。


 ダンジョン攻略のため、できるのなら明日にでも服は必要だ。さすがに明日完成させることは無理だけど、シルヴィオの服は緊急を要する。


 ひとまず形は変わらないから、採寸のデータを元にパターンを引いていく。


 補修を頼まれていたため、元の服も手元にあることからパターンを作るのはそう難しい作業ではない。


 確認のため、その服を手に取る。


 そして、改めてシルヴィオの服を観察する。


「……この素材なんだろう?」


 シルヴィオの服は、布だけではない素材が付いている。ほんの一部ではあるが、鱗のような少し凹凸がある、けれどつるりとした素材。


 襟の部分に少しだけだけどそれが付いていた。


 今となってはどのような効果が付与されていたのかわからない。もしかしたらこの鱗のような素材も効果に関係していた可能性はある。


「うーん……。刺繍で付与の効率が上がったとはいっても、それで足りるのかな……」


 私の服であれば、布に刺繍の効果を付与するだけで十分だ。


 けれど、シルヴィオほどの冒険者が着る服に、それだけでいいのだろうか?


「前に作った毒回復のミサンガみたいに、他の素材を組み合わせて作るのもいいかも」


 ただ、問題は私にその素材の知識がないことだ。


 ここはやはりデザインの確認も含め、シルヴィオ本人に相談するしかないだろう。


 これから冒険者の服を作り続けていくのであれば、素材についての知識も学んでいかないといけない。


 これを機に、いろいろ教えてもらうのもいいかもしれない。


 そう思いながら、私はパターンを作る手を進めた。

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