第1話
春。
それは別れと出会いの待つ、四季の中の季節の一つ。
県内の公立校に入学し、4月に行われた入学式―――――。
陽気な同級生達が校門の前で騒いでいる中で、僕は校門の前で一人、自撮り写真を撮影してから校舎へ。
「なんだ……あいつ……」
そして僕は早速、たまたま見かけた一人の同学年の女子に惚れてしまった。
紺色に近い色の制服が似合う、ピンク色の長い髪を黒いヘアゴムで束ねた髪、ほとんどの男子の理想する女性に近い体型―――――。
僕は思わず、その女子に視線が向く。
気持ち悪いと思われても、仕方の無い事なのは承知の上だ。
しかし話し掛けようにも、数々の言葉が脳内で舞うせいで話せない。
結局、ここから何もないまま、入学式は進行。
意思を、想いを、伝える事はできなかった。
しかしあの女子、僕には見覚えがあるかもしれない―――――。
そう思いながら帰路に付き、高校生としての初日を終える。
そして家に着くと待っているのは、一つ年下の妹だ。
名前を「秋華」という。
「おかえりー! 入学式、どうだったー?」
「特に危険な事はなかった」
「そっか。 まあ、それが普通だよね!」
ほとんど微笑んでいる妹は、僕の中では一種の癒しと化している。
猫や犬といったペットを飼った事もなければ、観葉植物を育てた事もない自分にとっての話だが。
ここで、僕の家庭について説明しておく。
親は現在では付き合って20年になる夫婦。
浮気はもちろん、喧嘩することもあまり無い。
しかし、父の職業柄か転勤による引越しが多く、1年半に1回は別の地域の学校に転校していた。
そんな時に、僕が高校への進学を決意すると、父は住居を探し始めた。
その結果、当時の父の勤務先の近くの街にある、家賃数万円の空き家が選ばれた。
僕はまだ、バイト等はやっていないが、高校への進学が決定した際に僕と父の間で月に7万円から10万円の生活費を仕送るように約束しているので、下手な浪費をしない限りは問題ない。
そして夜。
今日の晩御飯は、帰りのスーパーで買った唐揚げを電子レンジで温めたもの。
「うわー! 美味そう!」
「これ、200円もしないぞ? まあ、無いよりはマシだろうが」
興奮する妹を尻目に、僕は箸とご飯とお茶の入ったコップを用意する。
それから20分が過ぎ、僕と妹は晩御飯を食べ終えた。
この後は特にやることもないので、風呂に入って寝るだけ。
9時睡眠になるだろうか。
僕の日常は、大体こんな感じだ。
翌日、午前6時過ぎ―――――。
布団から出て起き上がる。
僕はまず、携帯の通知を確認。
すると、寝ている間に着信が来ていたらしい。
だが、番号は僕の電話帳には登録されていない。
そこで、ボイスメールを確認してみる。
この着信の正体は、一体何者なのか―――――。
再生して流れてきたのは、女性の声だった。
『お久しぶりです。 私の事、覚えていますか? 貴方も此処に引っ越してきたんですね。 同じ学校になるなんて、思ってもいませんでした。 これから、よろしくお願いしますね』
ここでボイスメールは切断されている。
まずどうやって僕の携帯の電話番号を手に入れたのか、全く理解できない。
まあいいだろう、学校で訊けば良い話だ。
暇な時間でゲームを進め、妹が起きるのを確めるとセーブして終了。
5枚切りの食パン2枚をトースターで3分焼き、それぞれ青とピンクの皿に乗せる。
他に食べるようなものがほとんど無いため、朝食はほとんどパン一枚だ。
弁当は―――しまった、具材を買い忘れていた。
作る時間もない。
ゲームをやっている場合じゃなかった―――。
まあ弁当の持参は義務では無いだろうし、購買部だってあるはずなので、大した問題では無いだろう。
そして、高校へ―――――。
教室までは、特に何も無いと思っていた。
だが、想定していない事が起こる。
校舎の1階の廊下を歩いていた時の事だった。
「うわっ!?」
掲示板のポスターを眺めていた、他の生徒の横を通ろうとした際、左肩同士が接触してしまう。
この直後、廊下に尻餅をついてしまった。
その衝撃のほぼ全てを手で受け止めたせいか、手首が痛い。
2日目で早速やってしまった。
「何をやっているんだ。 早く教室に行け」
「すみません……」
「そんな軽い謝りで済むなら、警察は要らないだろ?」
僕はその生徒が棒立ちになっていた事に本気で怒りをぶつけようとしたが、相手の姿を見て言葉を失った。
緑色の少し長めのストレート、大人しそうな顔つき、暗い赤のような色の四角い眼鏡―――――。
見覚えはあるが、名前を思い出せない。
声もボイスメールの声に限りなく近いが、何故だ―――――。
「……って、おい。 嘘だろ? お前、まさか……」
思わず独り言がこぼれた。
「どうかしましたか……?」
「いや、特に何もない。 気にしないでくれ」
急にこの状況から去りたくなった僕は、逃げるように歩いては教室へと向かった。
「やっぱりあの人……ですよね……?」
きっとあちらも、似たような事を考えていたのだろうか。