無力な自分
イジメ描写ありです。苦手な方は気をつけて下さい。
どうして俺には何も出来ないんだろうか。
後悔するぐらなら殴りかかれば良かったのに。
後悔すると解っていて連れ出す事しか出来ない自分。
無力すぎる−−−………。
*
葵先輩と知り合って数週間経ち、更に葵先輩を虐めてる現場に行って数週間が経った。
四月も終わり、五月の真ん中。
じめじめとした暑さに俺は隣の人物−−−葵先輩を見た。
葵先輩は黒く長い髪をポニーテールにして机に突っ伏して寝ている。
寝返りをうち、顔を俺の方に向ける葵先輩。
長い睫毛に淡いピンクでふっくらとふくらんだ唇。白い肌には暑さからか、汗が出ていてうなじを伝う。
俺は慌て首を横に振った。
「襲いたいって思うなんて……」
ぽつりと呟いた言葉と共に、葵先輩は小さく欠伸をしながら起きた。
まだ眠たいのか、目をこすっている。
「おはよぉー……」
眠たそうな声で挨拶する葵先輩に優しく微笑みながら
「おはようございます」と言った。
葵先輩は携帯で時間を確認すると、お弁当を持ってどこかに行ってしまった。
表情が暗かったのは気のせいだろうか?
俺がどうしたものかと考えていると、翠先生が現れた。
「時間が経っても葵先輩が帰ってこない場合は、葵の教室まで行って下さいね」
俺は首を傾げる。
「どうしてですか?」
冷たい瞳で俺を見据え、低い声で囁く翠先生。
「お忘れですか?先日、起こった事を」
その声に俺は背筋が凍った。
「覚えています」
翠先生は微笑むが、目が笑っていない。
「お願いしますね」
翠先生はそれだけ言うと出て行った。
俺は翠先生が出て行きながら呟いた言葉を聞き、怒っていると確信した。
−−理由も知らない子供がふさげた真似をしてくれますね……。
そう、翠先生は呟いた。
俺は課題をしながら葵先輩の事を考える。
あの先輩は大丈夫なのだろうか。なんでも溜め込んで我慢して、泣かないでいる。無理して笑い、変な意地をはって……。
「いつか壊れなきゃいいけどな……」
俺がそう呟いて課題に手をつけた。
数十分しても戻ってこない葵先輩に、嫌な予感がした。
もしかしたらと思い、俺は慌て葵先輩の教室に向かう。
教室に着くと笑い声と悲鳴が聞こえた。
その悲鳴は明らかに葵先輩のもので、俺は教室の扉を開ける。
「っ…ひっ……止めてっ……!!」
「あははっ!水無月は遊び人なんだろ?」
「ちが…ぅ……ゃ……!」
目の前で繰り広げられている光景に、俺はさらに唖然とする。
葵先輩が押し倒され、制服を乱されていた。
「!!」
葵先輩は俺と目が合った瞬間、涙を溜めた瞳を見開き、固まった。
そして口パクで
「助けて」と言った。
「葵先輩に何しているんですか……」
俺の言葉に、男子生徒が笑う。
「水無月が遊び人だから襲ってるだけだ。悪いか?」
その言葉に、俺は男子生徒を睨みつけた。
「葵先輩の事情も知らないくせになに言ってるんですか」
「はっ!男性恐怖症なんて嘘だろ」
その言葉に、俺は言い返す。
「葵先輩には証明曙がありますから、嘘ではありませんよ」
男子生徒は悔しそうに唇を噛み、そして無理矢理、葵先輩にキスをした。
葵先輩が抵抗する前に、彼岸先輩が男子生徒を蹴っ飛ばした。
男子生徒は壁にぶつかる。
「お前らがこんなことするから葵が怯えるんだろうが」
黒髪をオールバックにし、前髪を数本たらしている目つきが鋭い先輩−−−黒月先輩がため息をつく。
「鬼壱、暴れるか…」
赤髪でざんばら髪でこちらも目が鋭い先輩、汐涙先輩はニヤリッと笑う。
「ったりまえだ。いいかげん、腹立ってたんだよ」
俺は葵先輩に近寄りブレザーをかけた。
葵先輩は俺に抱きつきながら
「恐かった」と呟いたのを聞いて悔しかった。
俺はなにもできていない。好きな人さえ護れていない……。
「遥君…ありがとう……」
葵先輩の嬉しそうな笑顔に、俺は胸の奥が痛んだ。
「遥、葵を連れて保健室に行け」
彼岸先輩の言葉に頷き、俺は葵先輩を姫様抱っこして保健室に連れていった。
*
葵先輩はひたすら怯えて口を開こうとしなかった。
だけどゆっくりと喋り始める。
「教室に行ったらね、『水無月さんは先生騙して同居してるんだよね』って聞かれて、私が違うって言ったら髪の毛引っ張られたり叩かれたりされて……後…コレ……」
葵先輩は襟元を下に引っ張りうなじを見せる。
そこには赤い痕がついていた。
「…遥君…恐かった……!」
半泣きになりながら俺に抱きついた。
「わ…たし…男なんて……嫌い……!大嫌い……!!遥君…わかん……な……やだぁ…」
葵先輩の言葉を聞きながら俺は、ただ無言のまま葵先輩の背中を撫で続けた……。
何もできない自分を罵りながら……。
なんて無力なんだろうか。
なにもできない。
好きな人が傷つき、涙を堪えているのに 俺はなにも言えない。
無力過ぎる……。
葵先輩。
俺は貴女になにもしてあげれません。
優しい言葉もかけれません。
貴女が傷ついているのに俺は助けることもできません。
こんな無力な自分を赦してください。
なにもできない自分は、愚かな自分は、
無力な自分は―――
貴女の傍にいていいですか?
俺は無力な自分を罵りながらでも
俺は貴女の傍に−−−…………。
契聖 朔冬です。この度は『無力な自分』を読んでいただき、ありがとうございます。サイトにアップしていた小説を、もっと多くの方に読んでいただきたかったので編集をして、書き上げてみました。最後の方が変だと思うのですが…どうでしょうか…?とりあえず、気に入って下されば幸です。次はこの二人のお花見話しでも編集して、書き上げてみたいです。それでは。