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恋する僕の昼休み。

作者: 山田青虫


 早足で口にご飯を運ぶ。気持ち少なく租借をしゴクンと口の中の物を飲込む。それを何度か繰り返して弁当の中身を空にする。弁当の中身は無くなってしまったけれども僕のお腹の中の満足感は満たされる。

 弁当を包んでいた布で包み直して、お茶を一杯飲んで教室を後にする。

 教室を出るときにチラリと時計を一瞥すると一時五分。

 昼休みが始まったのが十二時五十分。終わるのが一時半。

 あと二十五分もある。いや二十五分しかない。

 僕は気持ち早足で歩く。足取りは軽い。まるで空にでも飛べるような気分だ。気持ちが高まっていると、それは足にも伝わるのか僕の奏でる上履きの音は気持ち高ぶっていて躍動感が生まれている気がする。

 そんな気持ちのままトントンと軽やかに階段を下り二階に着く。

 目的地は図書室。

 ガラガラと引き戸を開ける。そんなに古いわけでは無いからそんな音はしないけど。

 図書室の中はどこか学校では無いような独特な空気が流れている。廊下や教室は昼休みと言うことでガヤガヤとした喧騒に包まれているが、ここは違う。違う世界に来たような。一歩足を踏み入れただけで外の喧騒は遮断され、静かなピンとした空気が流れている。

 今は一枚一枚本のページを捲る音だが、もう少し時間が経つと受験生となった三年生がカリカリと文字を羅列して書く音も混ざり始める。

 そんな事を考え、図書室の中を伺いつつ読みかけの本を手に取る。本を片手に図書室の椅子と机が並んでいる方を隅々まで穴が空くような勢いで視線を張り巡らせる。

 えーっと…………。まだ、いないか。

 残念な気持ちと安心感が心に差す。

 僕は、いつも通り六つ並んだ机の一番奥の机に腰を掛ける。

 読みかけのところを開き文字を目で追うが、頭には全くといって良いほど内容は入ってこない。

 図書室の入り口ばかり気になってしまう。

 ……まだかなあ。

 図書室の時計を見ると長針が三の文字盤に差し掛かろうとしている。

 うーん、遅い。

 人間というのは不思議な生き物で、一度意識の内に入れてしまうと無性にそればかりを気になってしまう。痒うと感じてもそれを意識の内に入れるとその前に感じていた痒い以上のかゆみが襲ってくるのと同じで、今の僕はある一人の女子生徒が来るのを今か今かと意識してしまう。

 何度目かのドアの開閉音が響く。

 僕は再度例にならって首を向けると、彼女だった。

 彼女も前回から読んでる読みかけの本を手に取ると、机が並んでいる方をキョロキョロと眺める。僕を見つけると、ニコッと向日葵が満点の花を咲かせたような笑顔を浮かべる。その笑顔で僕の心は鋭利な物で抉られたようなダメージを受けたがそれを顔に出さないように努め、彼女に手招きする。

 彼女は音を立てないように再三の注意をする足取りで僕の方へと歩いてくる。

 足を動かすリズムと同じくらいに彼女が来てから僕の心もバクンバクンと飛び出すのではないかと不安を煽るような脈を立てている。

 彼女はそのまま僕の向かいの席に座る。

 ホッとするのとガッカリしている自分が心の中に二人いる。過去に一回だけ彼女が僕の隣に腰を下ろしたことがあったのだけどもその時は、彼女の物理的距離と精神的距離が輪ゴムを引っ張り離したみたいに急激に近くなった気がしたけども、彼女の女の子特有の匂いや偶に触れる柔らかい腕が辺り、なにか後ろめたい気持ちになったのだ。

 ……うー、よかったのか?いや、良くはないな、うん。


「今日は早かったの?」

 

 葛藤していると、彼女は今は僕ら以外に人の影は見あたら無けれども、図書室という事で気を遣ってか、小さい声で問いてくる。


「うん、少し早かったかな」

「早弁マンになったのか」

 

 うーん、そうかなーと、あははと愛想笑いを浮かべる。本当はあなたに早く会いたくて急いでここに来たんだよ。と、言いたかったけども言って嫌な空気になるのを恐れてその言葉を飲込む。選択肢は常に安全な方を選ばないとね。むずかしい選択肢と簡単な選択肢の場合は常に簡単な選択肢を今まで選んできた僕だから。この先もその考えは変えないつもり。


「昨日と同じ本?続き?」

 

 彼女は僕の手にしている表紙を見て、確信を持てていない声音で質問する。


「うん、そう」

 

 昨日から僕のお気に入りの作者の本を読み返している。僕自身が買った単行本も家にはあるのだけども、学校に持ってくるのはなにか汚れそうで、学校に置いてある物を読んでいる。

 僕が小学生ぐらいから続いているミステリー小説。架空の都市シリーズで探偵もの。ギャグ風の作品なのにミステリーなので僕の性に合っている作品だ。この作者の作品は基本的に僕が求めているような話が多いので、新しい作品がでると必ず買うほど大好きな作者。


「面白いの?」

「うん」

「どんな感じ?」


 珍しい。興味を示してくれたのかな?普段は他人の事にはあまり興味を示さない人なのに。

 そんな、す……いや、気になっている人が僕の好きな物に興味を示してくれるのは嬉しい。自分の趣味を共有してくれるのは自分を作り出している内面を知られるような気分になる。

僕は、彼女が読む気になってくれるように、面白いと言うことを伝える。好きなことを説明するときだけは饒舌になってしまうのが僕の悪い癖なのでゆっくりと分かりやすくを心がけ。


「へー、じゃあ今度その作者のオススメを教えてね」

 

 説明をすると、彼女は読みたくなってくれたのかそんな返事をしてくれる。


「うん」


 そして、再び彼女は本の世界へと戻っていく。

 彼女は一度本の世界へと行くと、そうそう戻ってくることはない。本の奥深い迷路へと入り、隅々まで探索をしているためだ。

 僕はそれを良いことにまじまじと彼女を観察してしまう。

 本を見つめる澄んだ目、長いまつげ、一本一本が生きているかのように美しい髪。そして生きている事を証明したいのかと思うほど生き生きとほんわりとしている肌。

 なにもかもが僕と違う、未知の領域にあるもの。僕と彼女は違う世界の存在。見えている景色も違いかも知れない、僕は彼女といればこの時間は至福の一時であるが彼女にとっては本を読めるからこの時間に幸せを感じているかも知れない。もしくは僕がここにいることが不快と感じ取ってるかもしてない。そうだったら嫌だな。こんなに物理的には近い存在なのに彼女のことは分からない。遠く遠く離れているみたい。見えない違う世界の住人のことを知るみたいな感覚。でも知りたい、知っていきたい、知ってもらいたい。それが恋って言うのかな。

 恋ってなんだろ、愛ってなんだろ、好きってなんだろ。

 恋と愛は違う。愛と好きも違う。人を好きなることがあっても人を愛せることはなかなか無い。

 では、僕は彼女のことをどう思ってる?愛してる?恋してる?ただ好き?

 自分の事なのだけども心の奥底は自分では無い存在が暮らしている。それは、ふつふつと顔を出す機会をうかがい僕を嘲るような面持ちで目を合わせてくる。


 そんな思考をするのに打って付けのような図書室は独特な空気、それは深海で横になっているかのような空気。僕はこの空気が好きだ。いや、彼女と二人きりの世界にいるかのようなこの空気が好き。

 でも、好きな時間は長続きしないのが世界の定めなのかもしれない。

ザザッとした音の後に、 


『二年五組の桑田、至急職員室に来るように』

 

 といった五組の担任の声が聞こえる。

 桑田って。彼女の方を向くと、彼女も僕の方を向き、「あ」と何かを思い出したような声を上げる。


「なんかしちゃったの?」

「ちょっとね」

「そっか」


 それ以上は何も聞かない、いや聞けない。彼女はあまり自分のクラスでのこととかを離さない。だから僕も深くは追求できない。それは、仕方ないな。って、思うけれども。

 ふと、時計をみると時はすでに二十五分。昼休み終了まであと五分しか残ってない。

 僕の視線につられてか、腰を上げている彼女も時計に目を行く。


「もうこんな時間か。早いね」


 もうこんな時間です。早い。この至福の時間は時計の針が三倍は早く進んでいるのではないかと疑うくらい早い。時間よ止まれと思うと時間は早く進むと聞いたことがあるけど正しくその通りだよ。時計が憎い。

 まあ、でも彼女も時間が早いと感じてくれていることが嬉しいな。僕と同じような気持ちでそう感じていたならもっと嬉しいな。彼女の事だから本をもっと読みたかったとか、そんな理由だとは思うけど。


「んじゃあ、行ってくる」



 行かないで、行かないで。もう少しだけ一緒にいて。

 この時間だけしか会わないんだから、もう少し、ほんの少しだけ話そう。

 そんな言葉が口から飛び出そうとしている。でも飛び出せば彼女は困惑するだけだろう。困惑ですめば良いけど、下手したら距離を置かれる。なので僕はその言葉をぐっと飲込み胃の中へと押し込む。しかし、言葉は出ずとも僕は多分名残惜しそうな表情を浮かべたのであろう。念を押して確認するような優しい口調で。


「明日も同じ時間で」

「……うん」


一拍返事が遅れる。太陽が心に昇った気がした。そのぐらい今の言葉は僕の心を満たす。

 そして、小さく手を振ってから席を離れる。本を元置いてあった場所に戻してから、図書室を出る。

 彼女が出て行った後もじっと扉を見る。扉が開き、戻ってくるのを期待して。

 五分後のチャイムが鳴るまで、ずっとそうしていた。

 でも戻ってこなかった。

 うん。そうだよね。

 頭で分かっていても、何時もより早く彼女が去って行ったので、少し心に落胆が広がっている。

 僕も本を戻してから、図書室を後にする。

 「明日も同じ時間で」彼女のこの言葉を信じて明日を待つ。彼女は明日も来てくれるのだ。

 明日が早く来ないかな。

 そう願う。でも時間が早く進むなんて事はない。むしろ早く進めと願うことで遅く感じるかも知れない。

 それでも、明日が早く来ることを願い、それと明日はもっと彼女と近くになれることを夢みて、恋する僕は午後の憂鬱な授業へと立ち向かう。

小説を書くのは初めてなので感想と評価をしてもらえると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘酸っぱい感じがいいですね。読んでてドキドキしたと言うか、こっちが恥ずかしくなるような…… 彼女の存在がまた謎に包まれていて、興味を注がれます。すっごくよかったです!
2017/05/13 20:43 退会済み
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