102. 兄同士の友情
いつもお読みくださりありがとうございます。
遅くなりました。“兄”同士が交流し、妹は年寄りを一喝します。
「お、落ち着いて……!せ、説明……!」
とライリーが肩を揺すられながらオーウェンを落ち着かせようとする。
オーウェンもライリーの途切れ途切れの言葉が耳に入ったのか
「あ……す、すまない、つい……。だ、だが信じられない!あの子が考え付ける筈が無い!
クロエは漸く1才だぞ?!つい最近までまだ満足に動けず、況して道具も知らない筈の赤子が、未知の道具を使った遊びや、手を色んな物に見立てた……じゃんけんぴょん、か?……そんな事をどうやったら思い付けると言うんだっ!
どんなに賢くとも、どんなに成長が速くとも有り得ないっ!
……君達が嘘をついているとは思わないが、だがあの子を過大評価していないか?何かあの子の仕草を勘違いしたとか……、可愛いと思う余りにあの子の片言のお喋りを大袈裟に解釈したとか、そ、そういう事じゃないのか?!」
と考え付く限りの勘違いする事例を列挙しながら、ライリーの言葉を疑う。
ライリーは冷静な顔でオーウェンを見つめながら、ゆっくり首を横に振る。
「信じられないのは当たり前ですね。でも紛れもなく事実なんです。
……多分そんなに時間は掛からないと思いますよ。オーウェン様の認識が全て覆されるまで。
正直僕も最初は自分の目や耳を疑う事が多かった。でも僕達が狼狽えたり、否定的な態度を少しでも見せるとクロエは直ぐに気付くんです。そして、自分が変だと思われないように、自分の類い稀な発想や高い知能、能力を全て隠そうとします。
……“兄”である僕はそんな我慢を絶対にさせたくない。明るく伸び伸びと、あの子が考えたり思い付いた事を全て遠慮無く表現させてやりたい。そしてクロエの笑顔を守りたい。
……この地からあの子が出られない以上、せめてこの“中”でだけは自由にさせてやりたいじゃないですか。……そうじゃありませんか、オーウェン様?
だからあの子の言動や行動に見える色んな不思議、どう考えても辻褄が合わない事、そういうものは全て考えないようにしています。
……追及したところで事態は変わらないし、クロエを苦しめるだけ。だから、不思議は不思議、辻褄が合わなくても構わない、あの子が悪い考えなど持つ筈が無いし、寧ろ周りを幸せにしてくれて、笑顔にしてくれているのだから、クロエはこれで普通なんだと考えてます。
……だからオーウェン様、大変無礼を申し上げますが、例え貴方でもクロエを苦しめる詰問は僕がさせません。それで僕がどんな罰を受けようが、一向に構いません。
決してあの子を今の様な勢いで追い詰めないでくださいね。……それは僕が許さない」
ライリーは狼狽えたオーウェンを見据え、小さな、しかし氷の様に冷たい声音でオーウェンに告げた。
思わずオーウェンはライリーから手を離し、彼を改めて見つめる。
(な……!だ、だがライリーの言う通りだ。クロエを追い詰めるような事をしてはならない。それは僕の本意では無い!
……しかし疑問は疑問のままでなど、あの子をただ知りたいと思うことすら許されないのか?!僕にはあの子との時間なんて、君達ほど持てないのに……!)
オーウェンの苦々し気な表情を見たライリーはフッと息を吐くと
「……すみません、言い方がきつくなりました。
そうだ、クロエを知る為にあの子に対して質問なさるなら、コリンを手本にしてみてください。
コリンの様に問うのであれば、クロエは何でも答えてくれるでしょう。
コリンは相手の懐に入るのが非常に上手いんです。甘え上手だし。
……僕の言う意味が解りますか?」
と彼に問う。
「……コリンの?だが質問は許さないんじゃないのか?例え言い方を変えても、問う内容が同じであればあの子は嫌がるのだろう?」
とオーウェンは訝し気にライリーを睨む。
ライリーはにっこり笑い
「……失礼ながらそれは短絡的な答えですね。僕が申し上げたのは、あの子を追い詰めないでくれと言う事だけですよ。
同じ事を聞くにしても、此方の言い方で相手の受け取り方は全く違ってきますよね?……コリンはそれが絶妙に上手い。クロエはコリンの質問に答えなかった事が無いんです。……悔しいけど、僕より上手い」
と不本意そうに呟く。
オーウェンは目を丸くして
「……何だか弟に嫉妬しているように見えるが……気のせいか?
と言うかライリー、さっきの話でクロエが隠そうとしたって……それを知ってるって事は君が既にやらかしたって事だろ。違うか?」
とずばりと聞く。
ライリーはグッ……と言葉を詰まらせ、フイッと明後日の方向を見ながら
「……だから貴方がクロエに同じ間違いをしないように御忠告したんですよ。
貴方とあの子の貴重な時間を無駄にさせたくないじゃないですか。恥を忍んでお教えしたのです。
感謝して下さいね、ホント。……僕は何度か警戒されましたから」
とブツブツ呟く。
オーウェンは暫く黙り込み、やがてライリーの肩をポンッと叩いてクックッ……と笑いながら
「君も大概ひねくれているよね……ククッ!
ありがとう、忠告に従ってコリンを見習うよ。決してクロエを追及する様な言い方や態度は見せない。約束する。
……そしてありがとう。あの子をそんなに大切にしてくれて……。悔しいけど、でも……嬉しいよ」
と優しい笑顔でライリーに感謝を告げる。
ライリーは溜め息を吐いてから苦笑し
「……僕は甘えるのが昔から下手なんですよ。言い換えれば物言いがキツくなり易いんです。だから穏やかに話すように気を付けてるんですが、何度か狼狽えて……。だから偉そうに言える立場ではないのですが……況して貴方には。
でも何となく貴方は僕と同じ考え方をなさる様に感じたので……。理解してくださって安心しました。そして大変失礼な事を申しました。すみませんでした」
と小さく頭を下げる。
オーウェンは未だクスクス笑いながら
「……こんな風に話してくれる同年代の子は初めてだ。君とは仲良くなれそうだよ。……喧嘩も出来そうだしね。君と知り合えたのは僥幸だ。
これからも思うことははっきり言ってほしい。君の言う通り、僕達は考え方がとても似ている様だ。君の忠告は的を得ているし、今後もそうだろう。
これからもよろしく頼むよ、ライリー。君は僕にとって初めての友達だ……」
と手を差し出す。
今度はライリーが目を丸くしてオーウェンの顔と差し出された手を代る代る見つめ、やがて手を差し出すと
「……ありがとうございます。僕にとっても貴方は初めて言葉を噛み砕かないで、考え通りの言葉で話せる同年代の方です。
身分不相応ですが、僕も貴方が初めての友達……です。よろしくお願いします、オーウェン様」
とはにかみながら話し、手を握る。
するとその時
「オーウェンさま~、お兄ちゃん~!騎士様対決だよ~!絶対見ないと損だよ~!早く来てっ」
とミラベルの声がした。
オーウェンとライリーは顔を見合わせて頷き
「「見るっ!」」
と同時に返事し、彼等の近くに寄っていったのだった。
騎士の2人の迫力ある、言い換えれば大変大人気ない勝負でリビングが大盛り上がりしていると、リビングの扉が開いた。
「あ~何か楽しんでる~!
……え?ウソッ!騎士様対決だっ!これはなんとしても見なければっ!」
とクロエはトトトッと彼等に走り寄る。
彼等の勝負に気付いたディルクとジェラルドは正反対の反応を見せた。
ディルクはニヤリと笑い
「ほう……流石はシュナイダーだな。冷静だし、飲み込みも早い。……ったく、テオめ、慌てるなとあれ程言うたに直っとらんな。仕置き決定じゃ、馬鹿め」
と愉しそうに毒を吐く。
ジェラルドは狼狽えて
「な、何をしとるんだっ?!何であ奴等が喧嘩しとるのだっ!いったい何があったんだっ!
……お、おまけに余りにもみっともないからか、子供達に笑われておるではないか!
……っ!オ、オーウェン?!アレがオーウェンなのか……?まさか、あんな風に笑っているのを見たのは初めてだ……」
と孫の楽しそうに子供達と押し合い圧し合いしながら笑い合い、騎士達を囃し立てる姿に呆然とする。
すると彼等に近寄って行った筈のクロエがトトトッと戻ってきた。
「ふふっ、ジェラルド様驚いてる!……アレは前の世界の遊びです。勿論、先生しかその真実をご存じ無いですけれど。
……取り敢えずやってみませんか?結構本気になれますよ。ほら、あのお2人の様に……ね?」
と騎士達を見てから思わせ振りにジェラルドを見上げ、首を傾けてイタズラっぽく笑う。
ジェラルドは呆然としたまま
「あ……ああ、そ、そうだな……って、えっ!前の……?
おお!これがそうなのか……それは確かに興味あるな……」
と顎を撫でて呟く。
ディルクがフンッと鼻を鳴らし
「止めとけクロエ。年寄りが覚えられる訳無いだろう。……儂は別だがな。
それにジェラルドは考えるのが苦手だ。思考せぬ馬鹿に教える事ほど無駄はあるまい?だから止めておけ」
と又毒を吐く。
ジェラルドはカチンと来たらしく
「……クロエ、教えてくれ。儂より年上で既にヨボヨボのご隠居には、自らの衰えを自覚させて辛い現実を叩き込まなければならぬようだからなっ!」
とディルクを横目でにらみながら、クロエに頼む。
ジェラルドの言葉を聞いたディルクが
「止めとけ止めとけ。貴様程度なら、目をつぶってやっても勝てるわい。所詮は道楽貴族、孫の前で大恥を掻くことになるぞ?大人しく指を咥えて見ているがよい」
とフフンと人を小馬鹿にした様に嗤いながら挑発する。
ジェラルドもフッと口許を歪め
「……仕込み杖がしなるほどに、其れに体重を預けて歩くようになられたのですな~。体がお辛いなら、椅子に座られては如何です?何なら手を引いて歩きましょうか?先生。年寄りは労らなくてはイカンからのう~」
とこれ見よがしに杖を見る。
ディルクが杖を振り上げ、ジェラルドが止める。
「「やるか、この年寄りがっ!」」
と、謀らずも同時に同じ台詞を叫んで睨み合う2人を見たクロエは、呆れた目で彼等を見つめながら
「……だから~仲良い姿はもうお腹一杯だって言ってるでしょ……。どんだけアタシに仲良しを見せつけたいんですか?
ホントに大人気ないったら……ハァ~」
と言いながら、ヤレヤレと首を横に振る。
そんな彼女の言葉を聞き捨てならないとばかりに、クロエに向かって
「「だから違うと言うとるじゃろうがっ!」」
と又声を合わせて叫ぶ2人。
クロエはフッと疲れた笑いを見せながら
「……ホント、くどい……」
と呟いた。
いつの間にか騎士達の闘いの声は鳴りを潜め、静かさを訝しんだクロエが振り向くと、年寄り2人と幼女のやり取りを唖然とした顔で見つめる騎士達と子供達の姿がそこにあった。
(……っ!やっちまったーっ!)
とクロエが焦る。
すると空気が読めるのに、今は読む気が全くない年寄り2人がクロエの背を押し
「「やるぞ、クロエッ!立ち会いせよっ!」」
と彼女を先頭に皆の方に進んでいく。
押されたクロエはハァ~と溜め息を吐きながら
「……あーっ!もう、分かりましたよ!でも喧嘩になったら2人にはもう何にも教えませんからねっ!全くっ!」
と開き直り、皆の方へと自分で歩く。
その様子を見たオーウェンは、ライリーに
「……うん、認識不足を認めるよ。確かにクロエは何かが違う……。ゆっくりあの子を見てみる事にするよ。
だって……お祖父様と先生にあんな態度……僕には出来ないや」
と呆然と呟いた。
ライリーは何故か同情にも似た気持ちになり、思わずオーウェンの背中を優しく叩いて慰めたのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




