100. 森の家の見学
お読みくださりありがとうございます。
大分遅れましたが、100話到達です。
実はもっと書きたかったのですが、取り敢えず101話も家見学と遊びの続きになります。
クロエ達が小屋に向かった後。
客間にはクロエが心配で堪らないと云う表情のオーウェンが残された。ガルシアとコレット、側仕え達は荷物類を運び入れたり、夕食の仕度のために席を外し、オーウェンとシェルビー家の子供達と騎士2人が客間で顔を突き合わせていた。
オーウェンの表情を見て、ミラベルが
「そうだ、オーウェン様。どうせ暇ですもの、その間この家の中を案内しますわ!アタシ達の読んだ書物とかも見ていただいて、オーウェン様は今どんな勉学に励まれているのかお聞きしたいです。それにアタシとクロエの部屋や、お兄ちゃんとコリンの部屋もお見せしちゃいます~。
ね、如何ですか?」
と明るく提案する。
「え?ですが、貴女達女性の部屋に入らせていただくのは些か失礼が過ぎませんか?……僕も男性ですから、やはり……」
とオーウェンが戸惑うと
「アタシやクロエがどんな生活をしているか見てみたくありません?エレオノーラ様のお部屋の雰囲気と比べてどうか、お話してくださると嬉しいのですけど?それに部屋の主の片方が許可してるんですから大丈夫。失礼などと気になさらないで下さいな。ね!」
とミラベルがにっこり笑う。
騎士2人がミラベルの提案を微笑ましそうに見ながら聞いている。
ライリーとコリンも頷いて
「そうですね、座っているだけでは退屈ですよね、オーウェン様。その後時間があれば少し遊びませんか?テオ様も夢中になった遊びがあるんですよ。大人でも楽しめる遊びなんです。如何です?」
と笑いながら又提案する。
騎士シュナイダーが
「テオが夢中になった……?」
とテオの顔を不審気に見て、テオが
「ああ、あれですね!アレはむきになってしまいますね~、確かに」
と頷いた。
オーウェンは少し考えた後
「じゃあ、お言葉に甘えて!先ずは屋敷内を案内願えますか?」
と腰を上げた。
子供達は笑いながら
「決まりですね!じゃあ行きましょう!」
と席を立つ。騎士達は
「我々はこちらに居ります故、どうかご親交を。オーウェン様」
と笑って見送る。
オーウェンは頷いて
「ああ、ありがとう」
と言って子供達と出ていった。
先ずはガルシアの書斎へ。
壁の書棚にいろんな書物があり、その数は優に100を超える。
「良いのですか?父君の書斎でしょう?」
とオーウェンが小さな声で聞く。
ライリーは笑いながら
「確かにそうなんですが、散らかさなければ僕達は自由に本を読んで良いと言われてますから、ご安心を」
と話し、ミラベルが
「この部屋の書物、兄はほぼ全て読破していますの。アタシはここからえーと、ああ、この辺りは読んだかな、後その3段は読んでますね。コリンはこれからです。
オーウェン様はどんな本がお好きですか?アタシはこの『人々の暮らしの変遷』とか、『王都動乱記録』とか、挿し絵があるのが好きですね。あ、これも好きなんです『貿易白書』!」
とおよそ子供が好んで読むとは思えない書物を次々に指し示す。
オーウェンは一瞬言葉を無くし、やがて
「……はい?あの、ミラベル殿は本当にこれが?だってこれは……」
と『白書』を手に取りパラパラ捲る。
やはり貿易額の数字の羅列、並びに無味乾燥な年度別、相手国別、産物別……単なる報告の白書でしかない。とても心踊る書物と思えない。
しかしオーウェンが眉を寄せてるのを気にせず
「だってこれだけの国と交流があるんですよ。凄くないですか?それに確か……ああ、ここです!これ見てください、アーソルティがこの国に輸出した額が輸入した額を初めて上回ったんです!この国は元々農産物が凄く豊かで、アーソルティは太刀打ち出来る状況じゃなかったんですよ、でも地道な努力で今じゃこれですよ!数字って正直ですよね、頑張った分が目に見えるもの!それから……」
と嬉々とした顔で指し示し、感想を口にするミラベル。
ライリーが苦笑して
「ミーラーベール?駄目だろ、お前の好きな書物は大分変わってるからな。……オーウェン様が引いてるぞ?」
と忠告する。ミラベルが
「そんなこと無いもん。国力を知るのに1番手っ取り早いのは、貿易黒字を見ることよ。次第に額が増えて相手国が増えていくのを正直に書かれた記録から読み解いて知っていくと、ああアーソルティ、頑張ってるなぁ~って嬉しくなるじゃない?ね、オーウェン様もそう思いません?」
とキラキラした目でオーウェンに同意を求める。
オーウェンが戸惑いながら
「そ、そうですね、確かに。うん、ミラベルが言う通りだね。他には無いのかな?好きな物語とか……」
と聞くと、ミラベルはう~んと唸ると
「そうですね、母の本になりますけど、『優雅な所作……淑女の心得』は、少し堅い部分もありますけれど、立ち振舞いに関しては1番分かりやすく纏められていましたから、アレは好きです。それと少し怖いけど『人体図解』は興味深いです。人体の中を最初に見た方を、アタシ尊敬します!」
と言葉を選びながら、書物の説明をする。
もはやオーウェンは口をあんぐり開けて聞いている。
ライリーは慌てながらオーウェンに
「あ、あの!ミラベルは普段可愛い物が大好きなんです!決して、決して危ない性癖等は有りませんから!ただ、父の書物が女の子向けでは無かったせいなだけで!
な、なぁコリン?!ミラベルは可愛い物が大好きだよなっ?!」
とコリンに助力を求めつつ、ミラベルを擁護する。
コリンはきょとんとして
「……可愛い物?クロエのこと?あー、確かに食べちゃいたいって言ってた位好きだよね~!」
と相づちを打つ。
ライリーは思わず
「バ、バカ!食べちゃいたいなんて言ったら、益々ミラベルがアブナイ……」
とわたわたと焦る。
ミラベルとコリンはライリーの慌てる姿に
「「お兄ちゃん変~!何を焦ってんの~?」」
と声を揃えて突っ込みを入れる。
ライリーは天を仰ぎ、手で目元を覆いながら
「誰のせいだと思ってるんだよ……」
と力無く呟く。
すると3人を黙って見ていたオーウェンが
「……ハッ!アハッ!アハハハハ!アハハハハハッ!アーハッハッハッハ!」
と腹を抱えて笑い出した。
ライリー以下三兄弟はギョッとして、オーウェンを見る。
オーウェンは腹を抱え、体を折り曲げたまま、未だ笑いが止まらない。
ライリーは顔色を無くし、ミラベルとコリンは首をかしげた。
やがて少し落ち着いたオーウェンが
「ア……アア、ごめんごめん!ハハッ、先生やお祖父様の言う通りだ!確かに面白いや!凄く優秀なのはあの件でわかっていたけど、まさかこんな……。凄いね、この家の子供って皆変わってる!
僕は心底君達と仲良くなりたいよ!君達の考えや、君達のやりたいことを教えてくれるかい?僕も許される範囲で出来るだけ君達とは忌憚無く話をしたい!
ああ、同世代の子供と話して、こんなにワクワクするのは初めてだ!」
と笑いすぎて涙が出た彼は、目尻のソレを拭いながら3人に親しみを込めて言う。
オーウェンの言葉にライリーは心底ホッとしたのか、ハーッ……と長い息を吐きながらしゃがみこんでしまった。
反対にミラベルとコリンはにっこり笑い
「オーウェン様が楽しそうにしてくれて良かった~」「僕は未だ本をキチンと読んだこと無いから、何か良い本有ったら教えてください!」
と屈託無くオーウェンに纏わり付く。
オーウェンは2人と楽しそうに話しながら、しゃがんだライリーに苦笑して
「大丈夫?ライリーは苦労性なんだね。多分僕がこの子達を変な目で見るようになるかもって心配してたんだろうけど、安心して。僕も似たようなものだから!
……実は、中々僕と話の合う子供って今まで居なくてね。先ず貴族の子って凄く厳しく育てられるか、物凄く奔放に……、ま正直に云えば馬鹿みたいに我が儘に育てられるかの二者択一って感じなんだ。で、インフィオラーレで会った子息はほぼ後者でね。……字も読めない子息も居たよ。
ライリーは7才だろ?その位で字が読めないなんて有り得ない話さ。でも結構貴族の子息では居たんだよ。
僕も君達と似たような感じで父上の書物を読み耽る子供だったから、さっきのミラベルと変わらない話を良く他の子息にしては、困らせてばかりいたな。
父上は交流を無理強いする方じゃないから、余り他の子息で親しい子が出来なくて。だから自分と同じような子供が居たことが凄く嬉しいよ!
……因みにライリーはどんな本が好きなんだい?良かったら君の好きな本も聞かせてくれないか?」
としゃがみこんだままの彼に問う。
腰を上げたライリーは照れ臭そうに
「ありがとうございます。安心しました。……僕の好きな本ですか。書物はどれも興味深いですが、そうですね……これが1番面白かったな。後、こちらも中々読みごたえがありました。あ、これも……」
と幾冊か書棚から出し始めるライリー。
オーウェンはフムフムと頷きながら、1番面白いと言った本を見て
「ああ!これは解るな!僕もこれはとても面白かったよ!『兵法の摂理』は理論が他の兵法書に比べてとても簡潔に纏められてるのに、1番的を得ている。だからディルク先生の著作は良いんだよな!兵法の基本から発展形まで幾つかに分類するのは他の兵法書でもやってるけど、実戦に基づいてるから説得力が段違いなんだ。戦場の形状や野戦か市街戦か、そんな状況に応じての変化もとても分かりやすかった。君もこの本を読んでいたんだね!嬉しいな!僕は……そう、ここの……」
と本の頁を捲りライリーに指し示すと、ライリーは
「ああ、この陣は確かに変化が容易で凡庸性が高い。しかも人員が最少ですみ、他に人員が割けるので効率に富む。僕もこの陣形の説明には感嘆しました!であるなら、こちらのこの陣も……」
と他の頁を捲りある頁を開くと、オーウェンは目を輝かせ
「解ってるな君!そう、これとの連係が1番効率良いし、弱点を補えるよね!でも、気付いたかい?実はコレはこちらの頁の……」
と他の頁を今度はオーウェンが指し示すと、ライリーがニヤリと笑って
「勿論じゃないですか!ディルク先生ならこちら押しでしょうね。わざとこのような記載にしてるのが証拠ですよ、あの方は捻りますからね。やはり、オーウェン様も分かってらしたんだ。あの頁の……」
と楽しそうに別の頁を捲ろうとしたら、彼等を見ていた妹弟達が
「ライリーお兄ちゃんばっかりずるい!アタシだってもっとオーウェン様とお話したいのに!」
「僕も僕もーっ!どの本がお薦めなのかオーウェン様にお聞きしたいのにーっ!」
と一斉にブーイングが上がる。
オーウェンとライリーは顔を見合わせて
「……後にした方が良さそうだね」
とオーウェンが苦笑して言うと
「……そのようです。放っておくと間違いなく不満が爆発しますね、これは。未だ時間は有りますし、時を改めましょう」
とライリーも溜め息を吐く。
オーウェンは2人に向き直り、コリンには興味の有るものは何かを聞いた後、思案しながら2、3冊比較的読みやすいものをチョイスして薦め、その間ミラベルにも彼女が未だ読んでいない本から貿易関係の本をこれも2、3冊薦めた。
妹弟が頬を上気させて、本を抱えると満足そうにオーウェンに礼を述べた。
各自の部屋を案内すると言いながら妹弟は、オーウェンの手を引っ張り連れていく。ライリーは苦笑しながら後に続く。
先ずはライリーとコリンの部屋に入り、オーウェンはライリーの机の上の紙を見て又目を丸くする。
「え?……これは?!まさかこの問題を解いているのかい?!……何て事だ。算学は完全に同等か、下手したら僕の方が進度が遅い。いつからこの問題を?」
とオーウェンがライリーを見る。
ライリーは紙を見てああ、と頷くと
「復習です。1ヶ月位前に頂いた課題ですね。先生が州都に向かわれた際に僕に出されたものです。
……今は次の課題に移っていますが、大体黒板に解くもので、紙の課題は貴重なんです。だから、何度も当たってしまうんです。恥ずかしいな……」
と頭を掻きながら話す。
オーウェンがそんなライリーをまじまじと見つめていると、コリンが
「僕はコレをやってるんです!見てくださいオーウェン様!」
とオーウェンに紙を差し出した。
彼は上の空でコリンから紙を受け取ると、又その紙を見て驚く。
「えっ!コレが君の課題?!嘘だ……もう計算が出来るの?!」
と紙とコリンを交互に見比べる。
コリンが照れ笑いしながら
「この程度じゃ駄目駄目です。だってクロエのが絶対難しいの解いてるもの。
クロエは僕に気を遣って隠してるけど、でも分かるから。僕はあの子のお兄ちゃんなのに、全部負けてて。だけどクロエは優しいから、僕のが賢いって言ってくれるんです!
だから頑張らなきゃ。妹守れるお兄ちゃんになるんです。今はこんなでもきっともっと賢くなるんだ……」
と拳をグッと握ってオーウェンに話す。
オーウェンは首をかしげて
「クロエのがって……。まさか。あの子は未だ1才だし、君は今でもこんなに賢いじゃないか!充分頑張ってるよ、3才でこんなに出来るじゃないか!」
とコリンに言う。
するとミラベルが微笑んでコリンの肩をもち
「ホントなんです。コリンがこんなに優しくて頑張り屋になれたのもあの子のお陰なんです。それまではこの子、甘えん坊でいたずら好きの駄々っ子でしたから。クロエが現れてから、この子は変わりました。
……クロエはホントに不思議な、優しい子なんです。きっとこちらに居られる間にそれが御理解頂けると思いますよ」
と静かに言い切る。
ライリーも頷く。
コリンは笑いながら
「でもそれだけじゃないんです!クロエってスッゴく面白いことを考えるのが大得意なんですよ!」
とオーウェンにいたずらっぽく笑う。
オーウェンが又首をかしげると、ミラベルが
「それは後のお楽しみ!さぁ、次は女の子部屋に案内しますわ」
と彼を引っ張る。
引っ張られるまま、ミラベルとクロエの部屋に入るオーウェン。
「わっ……なんだか凄く可愛い部屋だね。女の子の部屋だって感じがする。エレオの部屋より雰囲気が優しいな……」
とオーウェンが呟く。
ミラベルが嬉しそうに
「フフッ、ありがとうございます!未だ未完成なんですよ、この部屋。もっともっと可愛くする予定なんです。完成したら是非見ていただきたいですわ」
とオーウェンに笑いかける。
オーウェンは微笑みながら
「そうなの?これでも充分素敵だし、可愛らしいのに……。特にカーテンや飾り布の色の組み合わせが温かくてそれでいて可愛らしい。……この色の組み合わせはコレット殿とミラベル殿が?」
とミラベルに聞く。
ミラベルは茶目っ気たっぷりに
「驚かないでくださいね?
この部屋の布の色の組み合わせは、クロエが考えたんですよ?あの子、色の選択がスッゴくお洒落で、可愛いんです~!クロエって美的感覚が物凄く優れていて、斬新なんです!」
とクロエを褒めちぎる。
オーウェンは又驚愕するのだった。
次話は明日か明後日には投稿したいです。




