1-9 自然その1
お読みいただきありがとうございます。
生活から自然の紹介に移ります。
子供のときに考えた面白花を出してみます。
結構楽しい!
後1話は自然のお話です。
20分程歩いただろうか。
やがて森を抜け広い野原に出た。
森を出て直ぐに川が流れているのが見えた。
恐らくあの近くに見える茶色の土地が畑だと思われた。
(うわぁ素敵~!ホントにまんまアルプスの少女ハイジの世界だよ~。走り回って寝転びたいー!)
母の背で興奮したクロエはジタバタと動く。
母は苦笑して背負っていたクロエを抱き直し、景色をしっかり見せてくれた。
森を出ると野原が広がっていたが、その背後には真っ白な雪を頂く切り立った山々が見えた。
本当にヨーロッパのスイスやドイツの景色のようだ。
因みにクロエ、もとい雅は前の世界で日本から出たことはない。
全てTVや写真からのイメージである。
念のため。
母はクロエがキラキラ目を輝かせて景色をキョロキョロ見ているのを優しい眼差しで見守っている。
「クロエ、綺麗でしょ?□□□□□、□□□。早く遊べるように□□□□□□」
母がクロエに語りかける。
その瞳は優しく見守る母のものだったが、何か別の思いも秘められている様でもあった。
勿論クロエにそんな洞察力は無く、今目の前に広がる素晴らしいこの世界の自然にただ心を奪われていた。
立ち止まり景色に見入る母子に姉のミラベルが走り寄って、母のスカートを引っ張る。
「母さん、早く早く!畑に行きましょ。父さん達が待ってるわ」
「そうね、行きましょうかミラベル。クロエ□□□□□□」
娘のミラベルに笑い掛け、クロエを抱いたまま荷車を歩いて追いかけるコレット。
父のガルシアはにっこり笑うと再び前を向き、荷車を引いて畑を目指す。
ライリーは荷車を後ろから押して父の手助けを少しでもしようと懸命だ。
コリンはそんな兄にニコニコ笑いながら何かを喋っている。
母子とミラベルは少し遅れて付いていく。
程なく畑に着いた一行。
まず父は荷車から背負子やこの世界の農具を幾つか下ろす。
父のその姿を真似てライリーも道具を下ろすのを手伝う。
父は道具を全て下ろし終わると、最後にコリンを抱き下ろした。
ライリーがコリンの手を引き、畑に入っていく。
父は今しがた止めた荷車に何かの固定具を車輪の下に咬ませた。
それが終わると前の引き手部分にも台を咬ませて、止めた荷車が上下にぶれないようにした。
これで荷車が安定し、安心して休憩する際の椅子にもテーブルにも使うことが出来る。
小さな子が二人も居るので、色々と父も気を遣って準備してくれていたのだろう。
母は荷車に腰を下ろすとバスケットから敷物を2枚出した。
1枚は荷車に敷く。
もう1枚は荷車から少し離れた丈の低い草が生えている平地にピクニックよろしく広げた。
そこにクロエを下ろす。
クロエは母が支えてくれるとお座りも出来るので、母が彼女の脇を抱えて座る姿勢をとらせてやった。
クロエは母が下ろすが早いか、前のめりになって腹這いになろうとする。
彼女が草を触ろうとしているのに気づいた母が、そっと抱き上げて草に近付けてくれた。
(この世界の初めての植物。普通に草だね~。
でもこの草、手触りが気持ちいい。赤ちゃんのアタシの肌は柔らかいから切れたりしないかなと思ったけど、これは大丈夫だわ。香りはどうかな?)
小さな手で草をブチッと千切って自分の鼻に持っていって嗅ごうとする。
すると母が慌ててクロエの手を持って草を取り上げる。
どうやらクロエが草を食べようとしていると思った様だ。
いつも食事時に物欲しそうにしているクロエを見ていれば、無理もない反応である。
その母の懸念に気づいたクロエは、自業自得だなと少し反省した。
それでも香りを嗅ぎたいクロエは草の汁が少し着いた手を自分の顔に持っていく。
その仕草を見た母は慌ててクロエの手を握って、姉のミラベルに何かを頼む。
ミラベルは畑の横を流れる小川に近付いてしゃがみこみ、布を濡らして母のもとへ持ってきた。
母はその濡れた布を受け取り、クロエの小さな手を綺麗に拭う。
クロエは草の汁が綺麗に拭われた手を見てガッカリと云う風情で俯く。
余りにも芝居がかった仕草に母は苦笑しながら、自身の手で彼の草を引き抜き、それをクロエの鼻の辺りに近付けてくれた。
どうやら彼女が食べるのではなく、草を良く見たがっていると解釈したようだ。
クロエは目をキラキラさせて草を見る。
前の世界のベルベットのような光沢がある草だ。
少々厚みもあり、草の表面は細かい綿毛がいっぱい生えている。
厚みがあるからか草自体の丈は実は長いのに、立たずに寝て生えている状況のようだ。
鼻をヒクヒクさせて香りを確認する。
やはりこの世界でも草は青臭い香りだ。
だがこの草はその青臭さに少々胡椒のような香りが混ざっている。
スゴく良い香りとは言えないが、何か料理に使えそうな香りではある。
初めての草を探求したクロエはニンマリと笑った。
母はクロエの様子を観察していたが、彼女がニンマリと笑ったのを見て満足したようだと草を手から払った。
その後母はクロエを支えたまま辺りを見渡し、あるものを見付けてクロエを抱き上げそれに近寄る。
母が手でそれを摘み取り、クロエに見せる。
小さな鈴蘭のような花であった。
母はそれをクロエの前で振ってみせる。
驚いたことに本当に鈴の音がした。
クロエは目を丸くして、その花を受け取ろうと手を必死に伸ばす。
母がクスクス笑いながら、クロエの小さな手に握らせてくれた。
クロエは母から花を受けとると、自分でも花を振ってみた。
チリ…ンと微かに花が音を奏でる。
クロエは又目を丸くした。
(鈴だ!鳴るよこの花!え、じゃあこの花はいつもこんな音を出してる訳?
可愛いピンクと白のグラデーションの花びらだし、音は可愛く鳴るし、どんだけファンタジーな花よ?
香りは?香りはどうなの?)
花を鼻に近付けると、フワァと軽やかな優しい甘い香りがした。
あまり強くはないが、確かに芳香がある。
クロエは締まりの無い顔になって、感動していた。
(ふわぁ~。良い香りだぁ。何て完璧な花なの!見目よし、技あり、香りよし!こんな花がこの世界にはあるんだ。
前の世界の鈴蘭は球根だっけ、どこかに毒があったんだよね、確か。これは無いのかな?)
花を両手で持って鳴らしたりしげしげと見つめるクロエを母と姉のミラベルは楽しそうに見ている。
クロエがその花に夢中になっていると、姉のミラベルが母に何かを提案した。
母がにっこり笑って頷くとミラベルは楽しそうな笑顔でスカートを翻し、少し離れた野原のあちこちに走り寄ってはしゃがみ、又走り寄ってはしゃがんで何かを摘み取っていく。
クロエはその間も手に持ってる花を調べ続ける。
花房の中を見ると雄しべと雌しべがしっかり有ったが、その質感が変わっていた。
なんだかガラスの様に透明でしかも硬いのだ。
手で触るとガラスの様にツルッとした触り心地で、この雄しべと雌しべがぶつかってチリンと云う音を奏でているようであった。
一つ雌しべを千切って見ると、何とガラスの様に固かった雄しべから急に固さが取れ、水風船が割れるように萎んでしまった。
(不思議植物だ!いや、この世界じゃ当たり前なんだろうけど、ガラスの雄しべと雌しべなんて、ファンタジー過ぎるわ。
なのに香りもしっかりあって。世界が変わると花もこんなに違うのね)
クロエが鈴の花をじっと見ていると、ミラベルが花束を作って持ってきた。
母が笑ってミラベルにクロエに見せてやるよう話すと、ミラベルはクロエの前に座り花束を置く。
クロエが花束に気づいた瞬間、彼女は思わず「アウッ!」と声を上げた。
母と姉はそれを見て笑い出した。
クロエはそれに構わず、花束に手を伸ばす。
まず花がとてもカラフルだった。
何種類あるのだろう、色とりどりの花達が目の前におかれている。
青、赤、黄、白、紫、橙、銀、金…。
なかでも驚いたのは透明の花。
花びらも雄しべも雌しべも透明で、葉や茎は薄い銀色なのだ。
姿形は前の世界のポピーの様な雰囲気で風にゆらゆら揺れる。
するとミラベルが同じ花を持ち、クロエにニコッと笑ってみせるとその花を口許に持っていって茎の断面を加えた。
フ~と息を吹き込むと、何と花が赤く染まり出した。
赤く染まった花は次第に花びらが厚く膨らんでいき、遂には赤い透明な風船のように丸くなった。
さらに息を吹き込むとパンッ!と弾けとんだ。
花びらは消え、代わりに周りが温かくなった。
まるで花びらから変化して出来た風船から熱が放出されたみたいに。
あまりの事にクロエは口があんぐり。
ミラベルがクロエが固まったのを見て、目の前に手をヒラヒラさせて彼女の意識を確認する。
ハッとしたクロエはミラベルに今のは何なんだ?!と言わんばかりにバタバタ手足を動かす。
(え?ファンタジー花はどんだけあるの?!透明が赤く風船みたいになってパンッ!て何?
ああ、ダメだ、アタシ興奮しすぎて混乱してる!)
野原の野草の花だけでこれだけの驚きに満ちているこの世界。
この花達が、クロエ初の外出での連続サプライズの始まりだった。
次話は明日か明後日投稿します。