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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
88/292

92. 疑問解消

お読み下さり有り難うございます!

少し遅くなりましてすみません。


 ディルクが魔術法具を出し、起動させる。既に結界は張った。

 蜃気楼の様にアラベラのジェラルドの執務室が浮かび上がり、背の高い老紳士と黒髪の少年がこちらを見つめているのがわかった。

 勿論、ジェラルドとオーウェンである。2人以外に執務室内に人影は無い。

「待たせたの、オーウェン。ここに居る2人がライリーとミラベルじゃ。

 ライリー、ミラベル。ジェラルドと共に居るのがオーウェンじゃよ」

 と簡単な紹介をする。

 先ずライリーが深く腰を折り膝を屈めて礼を取り

「お初にお目に掛かります、オーウェン様。黒き森の守人ガルシア・シェルビーが長子、ライリーでございます。以後お見知りおきを。

 こちらに控えているのが妹のミラベルです。……ミラベル、オーウェン様にご挨拶を」

 と自身の挨拶を済ませると、ミラベルに挨拶を促す。

 兄に促されたミラベルがニッコリ笑って腰を折り

「初めまして、オーウェン様。ガルシアの娘のミラベルです。以後よろしくお願いいたします。

 先程あなた様からの書状を騎士テオ様より確かに受け取りました。……優しいお心遣いをありがとうございました。本当に嬉しかったです……」

 と挨拶をした。

 2人の挨拶にオーウェンが目を見張り、やがてニッコリ笑うと

「……なるほど。流石はお祖父様や先生に気に入られるだけの事はありますね。とても僕より年下だなんて思えない。

 ああ、失礼しました。先ずは僕も挨拶を。

 初めまして、ライリーにミラベル。

 僕がオーウェン・ウィル・インフィオラーレです。

 貴殿方には是非お会いしたかった。まさか視察までに話せる機会が持てるとは思わなかったので、僕こそ本当に嬉しいです。

 ですが……先生、確か今日はクロエがどんな子供か説明をしていただけると言う話でしたが、何故彼等をこの場に?ああ、貴殿方が居られることに不満が有るのではありませんよ。ただ疑問に思っただけなので……」

 とライリーとミラベルを気遣いながら、彼は訝しげにディルクに問う。

 だがジェラルドはディルクの意図が掴めたのか、フムと頷いた。

「全く……先生も人使いが荒い。ライリーとミラベルに役を押し付けるつもりですな。

 だが確かにこれは良い手だ。使えるものは何でも使う、容赦ない先生だからこそ思い付けた手だな。

 オーウェン、クロエがどんな子供か直接彼等に聞いてみると良い。大人の回りくどい説明より、余程解りやすくあの子の人となりを教えてくれる筈だ。

 何せずっとあの子の面倒を見てくれている子達なのだからな。

 遠慮せずにあの子の事を聞いてごらん?」

 とオーウェンにアドバイスをする。

 ディルクが不満そうに

「人使いが荒いのではない。適材適所だ、文句はないであろうが。役立たずに偉そうに言われる筋合いは無いわ、黙っとれ!

 ああ、オーウェン。その糞の役にも立たぬ爺は構わんで良いから、其方があの子の事で聞きたい事や知りたい事は、この優秀な儂の教え子達に存分に聞くが良いぞ。しっかり答えてくれる子達じゃ、安心せよ」

 とジェラルドを罵った後、オーウェンを促した。

 オーウェンは祖父と師の言葉に目を丸くしたが、やがて頷くと蜃気楼に浮かぶ2人の子供達に又視線を戻す。

「わかりました。では2人に教えて頂きたい。

 あの子は、クロエは一体どんな子供なんですか?

 ガルシア殿の報告やお祖父様と先生の話を聞いていると、あの子はとても優秀な赤子だとは理解出来たのですが……」

 と言葉を濁す。

 ライリーがああ、と頷き

「そうですね。確かに優秀ですよ、クロエは。優秀どころではない、天才かもしれません。今の年齢こそ1才ですが、見た目は赤子ではなく完全に2才半から3才位の幼児ですし、中身はそれ以上の思考能力と言語能力を持ち合わせた子です。僕達なんかより既に大人ですよ、大袈裟と受け取られるかもしれませんが、本当です」

 とアッサリと言う。

 ジェラルドとディルクはライリーの簡潔且つ分かりやすい説明に、改めて驚いた様に目を丸くして彼を見る。

 しかしライリーの話にそれ以上に驚いていたのが、オーウェンとライリー達の後で控えていた騎士のテオだ。

 加えてミラベルがニッコリ笑いながら

「兄の言う通りですわ。私は女ですから、クロエとは部屋も同じで共に過ごしておりますが、幼い妹の可愛さも勿論ありますし、時に私なんかより大人の女性の様に頼りがいが有る所を見せてもくれる、本当に可愛くて不思議、それでいて頼りがいが有る優しい子なんですよ。

 私はあの子とお喋りするのが楽しくて仕方ないのです!スッゴく面白いし楽しいんです、クロエって。私達には思いも寄らない事を次々にやってくれるのです。

 私達にはもう1人、コリンと言う弟が居るのですけれど、あの子にはクロエの身の上を全く教えていません。ですが、あの子は3才を過ぎているのにクロエに凄くなついてしまって!もうクロエにベタベタなんですよ。立場は兄の筈なのに。

 クロエが少しでも泣いたり嫌な思いをしないよう、常に気を配って見守る位、クロエが大好きなんです」

 とオーウェンに話して聞かせた。

 オーウェンは言葉を失ったように暫く黙り、漸く我に返ると

「貴殿方より大人……?頼りがいがある?

 そんな馬鹿な!貴殿方こそ年齢が未だ7才と5才の筈だ。なのにその話し振りと考え方。どう考えても貴殿方こそ天才に思う。

 なのにその貴殿方を上回る子だって言うのか、クロエは!……信じられない、そんな子供が居るのか?それこそ奇跡だ……」

 と呆然と呟く。

 ライリーはそんな狼狽えた様子のオーウェンを見ながら頷くと

「オーウェン様には本当に申し訳無いですが、僕達はクロエをずっと見てきました。だから嘘など付いていませんし、大袈裟にお伝えもしていない。

 ですがオーウェン様が驚かれるのも無理は無いと思います。僕達だって貴方様の立場なら、同じ様に反応していたと思いますから。

 ですが事実なんですよ、本当に。

 あ、そうだ。さっき弟のコリンがクロエの事をうまく表現していましたよ。

 “クロエは笑いの女神様だ”って言っていたのです」

 と言うとクッと楽しそうに笑う。

 オーウェンがライリーのその笑顔に首をかしげると

「ああ、申し訳ありません。朝のクロエとミラベルの様子を思い出してしまって、つい……。

 コリンがこう言ってたんです。「クロエは楽しいことばかりを教えてくれる凄い妹だ。とっても頭が良いのに、時々とんでもないお間抜けをする。だから次は何をするか楽しみで目が離せない。まるで笑いの女神様だ」って。

 父のガルシアもクロエが家に来てから、家の中に笑い声が凄く増えたと言ってましたし。

 僕もいつも笑っているクロエの側に行くと自然と笑ってしまうんです。あの子は確かにコリンの言う通り、周りを笑顔にさせる“笑いの女神さま”だと思います。

 クロエは本当に不思議な、でも可愛くて楽しい妹です」

 と話した。

 それを聞いたディルクが頬をピクピクさせたかと思うと、ブーッと吹き出して笑いだした。

「ブッハ!朝のクロエとミラベルの様子って……そ、それはもしや朝の獣の咆哮の話か?腰を抜かしたと言うアレか?!」

 と口を押さえて聞く。

 ミラベルが慌てて

「あ、駄目!先生なんで知ってるの?!誰から聞いたの?!お願い、言っちゃ駄目~!」

 とワタワタ狼狽える。

 聞き咎めたテオが顔をしかめて

「獣が出没したのですか?!咆哮が家に居て聞こえる程、近くに居るとは……。それは危険です!ガルシア殿に協力して直ちに追い払うか狩猟を……。

 ノーブル先生、笑い転げている場合ではありません。ライリー殿、貴方まで!ミラベル殿とクロエ様が怯えて腰を抜かして居られたのでしょう?!

 ミラベル殿、安心してください!私とて騎士ですから獣位は退治できます、ですから……。

 ミラベル殿?どうしたのですか?そんな俯かれて、それ程遠慮なさらなくても……」

 とテオが更に言い募ろうとすると、笑い転げていたディルクが震えながら

「や、やめ……、テオよ、それ以上は言わずとも良い。止めてくれ、頼むから!儂の腹筋が崩壊するぅ~……。追及するな、も、もう~!」

 と訳の解らない話をし出す。

 テオがそんなディルクを見咎めて

「ノーブル先生!幾ら誉れ高き先生でも、獣を恐れる幼気な幼女を目の前にして慰めの言葉を掛けないばかりか、況してそれを笑いの種にするなど許せません!

 ああ失礼、ミラベル殿、さぁ早くどのような獣であったか私に……。

 ……何ですか、ライリー殿?肩を叩くなど、何か私に仰りたい事があるのですか?」

 と苦笑するライリーに真面目な顔のテオが噛み付く。

 目をそらしたライリーが頬を掻きながら

「えーと、あのですね。結論から言いますと、獣は居りません。ですから安心なさってください、テオ様。獣の咆哮はミラベルとクロエの早とちりだったんです。なのでこの件に関して、これ以上はもう……」

 とテオを落ち着かせようとする。

 しかしテオはライリーを見つめ

「ライリー殿!私が家族じゃないからと、遠慮なさらないで下さい。女性は誰でも獣を恐がります。馬ですら、目に入ると怯える方までいらっしゃるのですよ。

 例え獣でなくとも、何か恐ろしい声がしたのは間違いないのでしょう?その原因を騎士である私がお調べして、ミラベル殿やクロエ様に安心して頂きたいだけなのです。騎士足るもの、か弱き人々を守るのは当たり前の事ですから!

 さあミラベル殿、一体どの様な声……え?ミラベル殿、どうしてそんな泣きそうな顔をなさっているのですか?……ああやはり、そんなに恐ろしい思いを……イ、イタッ!痛いっ!

 ノーブル先生、何故仕込み杖で私を叩くのですかっ!」

 と杖で叩かれた頭を押さえながらテオが叫ぶ。

 ディルクが杖を抱えたまま

「……お前さんの代わりに、儂がミラベル達を恐がらせた獣を今退治してやった。ホレッホレッ!4回も叩けば充分じゃろう?」

 と又2回、杖でテオを叩く。

「イタッ!痛いっ!何を言ってるんですか、先生が今4回叩いたのは私の頭でしょ!獣じゃないです!

 ふざけないで下さいっ!」

 と頭を庇いながら、ディルクに抗議する。

 ディルクがフンッと鼻を鳴らし

「鈍い奴じゃな。だからミラベル達を恐がらせた“獣の咆哮”を出しとったのは、貴様じゃ!

 テオよ、貴様の大きな大きな“イビキ”が“獣の咆哮”の正体じゃ、バカタレが!」

 と全てばらした。

 テオは頭を庇いながら

「……へ?イビキ……私の?

 あ、あの……イビキって……ミラベル殿、あの、本当に?

 ラ、ライリー殿~?嘘ですよね?……嘘だと仰ってください~!そんな~!」

 と苦笑を浮かべつつ、目をそらしたままのライリーと、泣きそうな顔で俯くミラベルを交互に見ながら、悲壮な声で確認しようとするテオ。

 やがてミラベルが決意を固めた顔を上げ、キリッとテオを見つめ

「ごめんなさい!テオ様がお越しだと知らなかったんです!

 私の為に夜通し馬を駆って森に来てくださってお疲れだったから、あの、イ、イビキ程度は当たり前のことです!

 なのに知らなかったとは言え、こんな恥ずかしい思いをさせてしまって本当にすみません!

 ……あの、テオ様?大丈夫ですか?!

 どうしよう、テオ様がうずくまってしまわれました……。

 お兄ちゃん、先生~!」

 と謝った後、落ち込んでうずくまったテオの肩を叩きながら、周りに助けを求める。

 ディルクが又フンッと鼻を鳴らし、ただミラベルには優しい声で

「ミラベル、気にせんでええ。暫くそこで丸まらしておけば、その内飽きるじゃろう。

 コヤツはそんな繊細なタマでは無いわ。放っとけ放っとけ。時間の無駄じゃ。

 それよりオーウェン、未だ聞きたい事が有るのではないか?」

 と蜃気楼の向こうで呆然とこちらを見ているオーウェンに声をかける。

 オーウェンはハッ!と我に帰り

「え、あ……いや、もう大丈夫です。クロエはこんな環境で育っているんだな……って、凄く良く解りました。……正直、クロエが羨ましく思います。

 貴殿方にクロエを託した事は、間違いではなかった……。今、心底そう思います。

 ああ、視察が本当に楽しみです!ライリー、ミラベル。僕がそちらに行った際はよろしくお願いしますね。

 ディルク先生、お祖父様。今日は有り難う御座いました。

 ライリー、ミラベル、次は直接そちらでお会いします。クロエとコリンにも会うのが楽しみです。

 ……お祖父様」

 とずっと口を閉ざしたままだったジェラルドを、オーウェンが見上げる。

 ジェラルドは一つ頷くと

「先生、ライリー、ミラベル。

 今日はオーウェンの為に有り難う。この子もクロエの事が聞けて、少しは安心した様だ。

 近日中に視察に行くので、又その際はよろしく頼む。

 後、テオよ。いつまでも落ち込んで居るでない。ミラベル達に呆れられてしまうぞ?

 では先生、そろそろ……」

 とディルクを見る。

 ジェラルドの声でうずくまっていたテオがハッ!と顔を上げて

「あ、良かった。テオ様が起きた!」

 とそれを見たミラベルがホッとした顔になる。

 ディルクは又フンッと鼻を鳴らし

「ああ、もう充分な様だな。ではオーウェン、ジェラルド。又の。

 ライリー、其方も言うことはないか?」

 とライリーを見る。

 ライリーはにっこり笑うと

「いえ。次に直接お会い出来るのを僕達も楽しみにしています。

 そのときはもっと沢山お話しましょう。オーウェン様。

 ……貴方の大事な妹のクロエも共に。

 それでは失礼します」

 と深く一礼した。

 ディルクは頷くと

「と言うことだ。では又。

 切るぞ」

 と言うと通信が切れた。



 通信術が切れた後のジェラルドの執務室。

 オーウェンは既に消えた通信術の蜃気楼が有った空間をひたすら見つめていた。

 ジェラルドが暫くオーウェンを静かに見つめていたが

 、やがてオーウェンがポツリと

「……クロエは森に向かう運命だったのでしょうね、きっと。

 あの子に会っていなくても、あの子の周りがとても愛情に溢れて温かい場所だと云うのが、痛いほど理解出来ました。

 インフィオラーレでは、あそこまで自由にはさせて上げられない……。

 クロエは、クロエにとってはこれがやはり一番良い選択だったんだ……。

 だけど……」

 と声を震わせる。

 ジェラルドはオーウェンを抱き寄せると

「いいや、違うぞ。

 確かにあそこは温かくて愛情に溢れた場所だ。

 クロエも確かに愛されて大事にされ、幸せに暮らして居るじゃろう。

 しかしな、儂は今でも家族と共に過ごせていた方が幸せじゃったと思う。

 其方達家族と離れた方が良かったなんて事は決して有り得ない。

 それを間違えてはイカン。又言葉にしてはならない。

 言葉にすれば、その負の感情が其方を苦しめる。

 言葉は時として毒にもなる。自分で自分を毒に浸してはならぬ。

 ……解ったの?」

 と彼の背を撫でる。

 オーウェンは言葉も無く、ただ俯いて大きく頷いたのだった。







次話は明日か明後日投稿します。

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