91. 託された書状
お読み下さりありがとうございます。
機種変更でバタバタが漸く落ち着きました。
ハフッ!
勉強部屋でひたすら質問をしながら用意された書物を読んでいたクロエに対し、ディルクがおもむろに質問をした。
「率直に聞く。お主、自分を上手く知ってもらうにはどう自分を説明する?」
クロエは唐突な質問に眉を寄せる。
「……はい?何ですか、それ。アタシの説明って……誰にです?」
と不審気にディルクを見るクロエ。
ディルクが腕組みをしながら
「……今度視察に来るオーウェンだ。儂もシェルビー家の者達も慣れてしもうたが、よくよく考えたらお主、未だ1才じゃろ?
……初めてお主と会った者は、流石にお主が1才じゃとは信じ難いであろうと漸く気付いたんじゃ。
儂やお主の家族は普通に感じとる事も、オーウェンには驚きの連続になるやも知れぬ。
お主自身はどう思う?」
とクロエを見る。
クロエはディルクに苦笑を見せ
「ん~……ありのままのアタシを見ていただいて、気味悪がられたら悲しいけどしょうがないと思います。1才にはとても見えないの解ってますしね。
説明ですか……。そうだなぁ、確かに表現し難いな~。
口が達者、見た目幼女で中身おばさんな奇跡の存在?天使の容貌に残念すぎる性格。はっきり言ってお笑い……。
え?嘘、どうしよう……自分を肯定する、良い表現が全く思い浮かばない……。アタシ、自己紹介出来なくなっちゃった?!え~、大学でちゃんと就活の為に自分の美点探しのノウハウは学んだのに!」
と又ムンクの叫びの様に頬を押さえて焦り出す。
クロエの狼狽え振りにディルクはおでこを押さえ
「訳の分からん言葉が有るが、それはさておいて……。流石のお主でも思い付かんか……。実はオーウェン達と通信術で話した際に、儂もお主を説明する言葉に詰まってしもうたんじゃよ。
先ずジェラルドに対する様には説明出来ぬし。まさかお主が転生者などと口が避けても言う訳にイカン。ジェラルドにはそれが言えたからのう。重要な情報を流せぬ事がこれ程キツいとは……。
お主が悪い訳では無いのだが、余りにも優秀さが突飛すぎるのだ。コリンの様にありのままを素直にそのまま受け入れてくれれば1番良いが、中々のう……。
お主ならばどうだ?乳飲み子が急に対等に話をしたら、どう思う?」
と又クロエに質問する。
クロエは頬を押さえながら
「天才だーっ!ってビビりますね、間違いなく!下手したらアタシ叫んで腰抜かすかも。
……なるほど、これは確かにマズイわ。
徐々にアタシに慣れていけてないと、こんなに危険なんだ、アタシと会うのって。完全に未知の生物じゃん、アタシ。
……先生、アタシ視察の際は演技した方が良いんじゃないでしょうかね?
幼児らしく、こう……あたち、クロエ!って位しか喋らないとか?
後、人見知りして泣くとか?どうですかね~」
とあらぬ方を見ながら想像力を駆使しつつ、提案をする。
ディルクがハーッと溜め息を吐き
「何を馬鹿なことを。お主にそんな上手い嘘が吐けるものか!
自分をよーく考えてみ?やれると思うか?ハッキリ言ってライリーやミラベルの方が、上手い筈だ。コリンにも負けるな、多分。お主が1番嘘が吐けぬわ、馬鹿が付く正直者じゃ、お主はの」
と言い放った。
クロエは少し頬を膨らませ
「アタシそんなに嘘下手ですかね?
確かに今まではそんな嘘吐かなきゃならない状況に居ませんでしたけど、必要と有らばアタシだって嘘位吐けます~!一応成人してんですよ、中身。見くびらないでください!」
と不満気に抗議する。
ディルクはチラッと憤慨するクロエを見たが、首をフルフル振ると
「儂もお主より相当年を取っとる。おまけに人を見る目もあるつもりじゃがな。……止めとけ、絶対に事がややこしゅうなる。変な小細工はせんが身の為よ」
とにべもない。
クロエがムッと顔をしかめたが、確かに嘘を吐くのは苦手なのでこれ以上は主張しないでおく。
だが気になるのでディルクに
「じゃあ出たとこ勝負ですか、先生。もう説明放棄しちゃいます?当事者のアタシとしては、極力1才児らしくは振る舞うつもりですからそんな心配せずともって気がするんですけど……」
と彼に遠回しではあるが心配するなと言った。
ディルクは1つ頷いて
「いや、やはり最初の案でいく。お主は心配するな、儂等が上手くやる。
さ、それよりも講義じゃ。お主は書物に集中せよ」
とこの件に関してはこれ迄と話を切った。
クロエはエーッ!と声を上げ
「アタシ当事者なのに蚊屋の外~?そんな、最初の案っての教えてくださいな~。淋しいじゃないですか~!」
と文句を言ったがディルクが軽く一蹴し、講義に戻ったのだった。
昼食を挟み、クロエとコリンが昼寝の為寝室に引き上げた。ライリーとミラベルが替わって講義の時間となった。
勉強部屋でライリーとミラベルが席に着くと、ある人物が部屋に入ってきた。
それは、昼食前に仮眠から目覚めた騎士テオであった。彼はディルクが促すと2人の前に立ち、2人に対しある書状を手渡した。
笑顔のテオから戸惑うミラベルに差し出されたその書状は、蝋で封がされていた。
宛名はミラベルとライリー、差出人は何とオーウェンであった。
ミラベルは顔を強張らせてディルクを見る。
「テオ様、先生、これって……!何でオーウェン様がアタシとお兄ちゃんに手紙など……。
っ!……まさか先生がアタシのあの話をオーウェン様に仰ったんですか?!そんなっ……!」
とディルクを責めるように見つめる。
ライリーが慌てて
「ミラベル、落ち着け。テオ様や先生に対して失礼だぞ……」
と嗜めたが、ディルクがそんな彼を手で制し
「すまんな、ミラベル。あれ程悩んで苦しみ、それでも人に迷惑をかけぬようにと必死に秘して来た其方を裏切るような形になってしもうた。
しかしな、ミラベル。儂は騎士団時代、其方の様に真面目で我慢強い優秀な騎士が自分の苦しみを1人抱え込み、結果心身が病んで壊れていくのを何人も見てきたのじゃよ。
況して其方はたったの5才。いつ幼い其方の心が悲鳴を上げてもおかしくはない。直ぐに其方の心の重圧を取り除く必要があった。
先日クロエの気持ちを聞いて少しは安心できたと思う。だが根本のあの子の実の兄姉に対する遠慮や恐れは消えてはおるまい?……根本を何とかせねば、其方の重圧を完全に取り除けたことにはならぬ。
だから儂は話した。そして其方の苦しみを聞いたオーウェンは驚いて、騎士テオにこの書状を託したのじゃよ。
儂はその書状の中身を全くもって知らぬ。騎士テオもジェラルドもじゃ。
そこにはオーウェン自身の考え、思いが書かれておる筈。
騎士テオは託された書状を必ず自らの手から、其方等に直接渡すのが任務だったんじゃよ。
……勇気が要るとは思うが、先ずはその書状に目を通してくれぬか。
責めはその後で聞こう……」
とミラベルの肩を叩く。
テオはディルクの話に補足するように
「私はオーウェン様から直々に、必ず貴女方にお渡ししてくれとお言葉を頂いております。
どうか目を通して差し上げて下さい。ミラベル殿、ライリー殿」
と笑顔のまま、優しく話す。
ミラベルは2人を交互に見た後、ライリーを見る。
ライリーはミラベルに微笑みながら頷いた。
ミラベルは表情を引き締め手にした書状を見て、大きく深呼吸すると
「わかりました。読ませていただきます……」
と呟いて書状を広げる。
そして暫く無言でその書状、手紙に目を通した。
やがて俯いていて目を通していた彼女は、手紙を兄のライリーにそっと渡す。
ミラベルの顔は嬉しそうに笑っていた。
「アタシって本当に馬鹿ね。お兄ちゃん、オーウェン様はやっぱりクロエのお兄様だけあるわ。読んで差し上げて?
……先生、テオ様。ありがとうございました。アタシ早くオーウェン様にお会いしたいです。そしてクロエに会わせて差し上げたい……。こんな素敵なお兄様があの子には居るのね。アタシもオーウェン様を見習わなくちゃ!」
と完全に吹っ切れた笑顔で元気よく話す。
やがて読み終えたライリーも
「そうだね。お聞きしていた通りの方の様だ。
僕なんかより余程優秀な方だよ。僕ももっと努力しなきゃな」
とミラベルに言った。
2人の表情を見てディルクもテオも安心したように頷く。
ディルクがミラベルに
「その書状はあの子に見られる訳にイカン。其方等が読み終えたら焼却する手筈となっておる。良いかの?」
と申し訳なさそうに話す。
ミラベルとライリーは頷き
「はい、オーウェン様もこの書状に書いておられました。その通りにお願いします。
あの子の兄姉として、この書状を置いておけません。これは“3人”の共通の思いですから」
と頷いた。
ライリーがテオに書状を返すと、彼等の目の前でテオが火の魔力行使を行い、書状を燃やした。
書状は予め灰が残らぬ紙を使っていた様であっという間に燃え尽きた。
オーウェンの書いた書状は長い物だったが、要約すると次のような内容だった。
『親愛なるミラベル、ライリー。
貴方達には僕達の妹であるクロエの養育をお願いしてしまって、申し訳無い。
本来であるなら、クロエの家族であるインフィオラーレ家であの子を守るべきところを、貴方達家族に全て背負わせてしまった。
只でさえ、僕達はクロエを家族に迎えてくれた貴方達シェルビー家の方々に感謝と謝罪を伝えなければならないのだ。
なのにあろうことかミラベル、クロエの実の兄姉である僕達の存在が貴女に多大な不安と苦悩を与えているとお聞きした。
貴女にそんな不安と苦悩を与える恐れが有ることに、僕達はもっと早く気付くべきだった。なのに全く配慮出来ていなかったことを、本当に申し訳なく思う。許してほしい。
貴女がクロエの姉としてこれ以上に無い程、あの子を愛し慈しんで下さっているのは、お祖父様からの報告で既に知っている。
そんな貴女が僕達兄妹に遠慮や引け目を感じなければならない事など、何一つ存在しない。
貴女は貴女の考えるまま、感じるままに姉として、クロエに接してください。
それだけで十分なんです。きっと妹のエレオノーラも同じ思いで居る筈。
僕達があの子に与えられなかったものを、貴女達が与えてやってください。
僕達があの子に出来る事は、幸せと無事と祈る事だけだから。
そしてそれを与えてくださっている貴女達には感謝しかあり得ない。
だから僕達の代わりではなく、貴女達は貴女達としてあの子に接してください。
それこそがクロエの幸せに繋がると思うし、貴女の苦悩を祓う筈。
貴女達は貴女達です。僕達の替わりではない。
クロエを守れない、腑甲斐無い僕達を救ってくれた貴女達。ありがとう。
心から感謝する。
クロエは勿論だが、貴女達に会える事を楽しみにしています。
オーウェンより』
書状を読んで、漸く本当に安堵したミラベルとそれを嬉しそうに見守るライリーに対して、ディルクはあるお願いをする。
その願いを聞いたミラベルとライリー、又騎士のテオは目を丸くしたが大きく頷き、協力を約束した。
協力を取り付けたディルクはニヤリと笑うと、ある事を行うために直ぐ様準備に入ったのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




