89. テオの到着
お読みいただきありがとうございます。
ここのところ書くペースが落ちてますね。余り開けるのは良くないので、頑張らなければ!
ペース開けると、違うあらすじを思い付いたりして纏まらなくなりますから。
騎士テオは休憩を最小限に抑え、かの地を目指してひたすら馬を駆る。
要所要所にある州騎士団詰所で馬を替え、又駆ける。そんな強行軍。
疲れも見せずに馬を替えて出ていこうとする彼に、同僚の騎士達が
「オルティース、少しは休んでいけよ。どんな命令が下ったのかは知らないが、倒れてしまうぞ?」
と気遣って声を掛けると
「ありがとう。だがこれが俺の任務だ。のんびり休む訳にはいかん。
すまんが馬の世話を頼んだぞ。ではな」
とヒラリと馬に跨がると、直ぐ様駆け出し行ってしまった。
息切れした馬を受け取った同僚騎士は
「凄いなアイツ。余程重要な任務なんだろうが……。
……怪我だけはすんじゃねーぞー!」
と小さくなる背中に叫んだ。
何度かそういうやり取りをしつつ、馬を駆るテオ。
馬上で考えるのは、彼に輝くような笑顔を見せて一生懸命に森の説明をしてくれた小さな少女。
騎士シュナイダーと共にジェラルドから直接事情を聞かされたテオは、直ぐ様出立の準備に入った。
考えてみればたかが平民の一少女の悩み事。
騎士を動かすほどの事案ではない。
それは命じたジェラルドも任務を受けたテオや同席したシュナイダーも、よく解っている。
州騎士団はフェリーク州の治安を一手に担う。当たり前だが暇ではないのだ。
そして本来はテオも州騎士団所属の身。
今はジェラルド直属護衛騎士を拝命しているが、ジェラルドやグレース、オーウェンの身を守るのが任務であって、決して今回の様な任務を遂行する為に居るのでは無い。
しかし建前はどうでも良かった。
大事なのは二大領地の最大の秘密を守る為に奮闘してくれている小さな少女を、何とかして助けてやりたいと言う気持ちだった。
3人はそう考え、ジェラルドは命じ、テオは受けた。
そして今。
夜通し馬で駆け抜けたテオは、シェイロ村の入口に到着した。
未だ夜も明けきらぬ内に森の近くまで来たのだ。
入口と言っても、門があるわけではない。ただ目の前には小高い丘があるだけ。
シェイロ村はこの単なる丘にしか見えない土地を通る田舎道を抜けたところにある。
そしてその田舎道は三叉路になっていて、どれが村に通じる道かは実はその時々によって変わるのだ。
この村を守る村長のジェラルドが、村に張り巡らせた結界の効果である。
だから三叉路の手前でテオは迎えを待つ。やがて三叉路の一つの道から迎えの村人が姿を現す。
そして直ぐに消えた。
テオは一つ頷くとその道に馬を進める。
やがてテオの姿も霞んで消えた。
後はのどかな小高い丘しか見えない、いつもの風景がそこにあった。
暫く馬を駆り、村にはとても見えない小さな集落に入る。
村唯一の雑貨店の前に人がおり、テオは馬に水と餌をやるためにその店に近付く。
店前に居た人物が店の裏にある馬小屋に案内し、馬を受け取ると又別の馬をテオに引き渡す。
「大丈夫ですか?少し休まれては如何です。休み無しに走ってこられたのでしょうし」
とその人物、店の主人が水の入れたカップをテオに渡しながら、彼を気遣った。
テオはカップを受け取り水を一息で飲んでから笑うと
「いや、大して疲れてはいない。馬を適時替えているし、道も悪いところを走ってきたわけでは無いのだから。
それより森は既に“開いている”だろうか?極力急ぎたい」
と彼を心配する店の主人に聞いた。
彼は頷くと
「ええ、村の“門番”から既に“守人”に連絡がなされておりますから。
……もう発たれますか?」
とテオに確認する。
テオは店の主人にカップを返し
「ああ。水をありがとう。では後をよろしく頼む」
と又馬上の人となった。
主人はテオを見上げ
「後はお任せください。お気をつけて」
と軽く会釈する。
テオは頷くと直ぐ馬を進めた。
後ろで主人がテオを静かに見送っていた。
暫く馬を駆ると、やがて先にちらほらと木が見え始め、次第にその密度を濃くしていく。
そのまま馬を駆り木々の間を抜ける。
すると目の前に馬に乗った金髪の大柄な人物が姿を現す。
「名を名乗られよ。ここは禁制の森。許可なく立ち入ること叶わず。許可ある者か否か、我が見定める」
「お勤め御苦労。我はフェリーク州騎士団所属、フェリーク前領主付き護衛騎士テオ・オルティースと申す。
“守人”ガルシア、我が主より火急の要件あり。森への立ち入りを許可願いたい。
如何か?」
と堅苦しいやり取りがされる。
守人のガルシアが馬を森に向け
「委細了解。森への立ち入りを許す。
……我に付いてこられよ、決して離れてはならない。
離れれば森が其方を退ける。よろしいか?」
とテオに言う。
テオも又
「承知。以後、森の中では守人から離れぬことを誓う。……案内を願う」
と“決められた言葉”を返す。
「……“誓約”は成された。付いてこられよ」
とガルシアは馬を進めた。
テオも離れないようにと馬を促す。
やがて2人の姿は森の木立の中に消えていった。
無言のまま森を進み、やがて木々の向こうに目指す目的地、森の家が見えてきた。
ガルシアがフッと体の力を抜き
「ああ、もう良いでしょう。テオ殿、遠路お疲れさまでした!
喋っていただいても大丈夫です。家内が朝食の準備をしておりますから、先ずは家の中へどうぞ」
とテオに笑顔を見せる。
テオも破顔し
「おお、奥方の手料理ですか!嬉しいです、ありがたく頂戴致します!
でも、やはり緊張しますね~。毎回このやり取りは大丈夫だと解っていても胸がドキドキしてしまうのですよ。
あ、先に任務を……いや未だノーブル卿はお休みですかね?」
と首をかしげる。
ガルシアはクッと笑い
「先生はもう母屋の客間にてお待ちですよ。直ぐにお会いになれます。ご安心を。
しかし、懐かしいですね、ディルク先生がそう呼ばれるのを聞くのは久し振りです。
先生は、せっかくあの政変の折りに爵位を賜って居られたのに、見事にその場で蹴られましたから。あれには驚きましたがね。
……まぁお気持ちは痛いほど理解できましたから、ジェラルド様も何も仰られていませんでしたが。
あ、でもその呼び名はあまり先生の前ではされない方が無難ですよ。
……仕込み杖でやられてしまいかねませんから」
とテオに助言する。
テオは目を丸くし
「そ、そうなのですか?知恵者と名高いノーブル卿ですから、礼を失してはならないと考えていたのですが……。
では何とお呼びすれば良いのでしょう?
私はジェラルド様からノーブル卿とお呼びするようにと命ぜられていたのですよ。どうしてジェラルド様は……」
と眉を寄せる。
ガルシアは又面白そうにククッと笑い
「本当にジェラルド様は……。からかわれたのでしょうね、きっと。テオ殿が先生に怒鳴られる姿でも想像されたのでは無いですか。そういう方でしょ?
ほぼ間違いなく怒鳴られますよ。元来は気難しい方ですからね、先生は。
……そうですね、ノーブル先生で宜しいのではないですか?名で呼べと言われれば、ディルク先生とお呼びすれば良いのでしょう。」
と戸惑うテオに再び助言した。
テオは苦笑し
「そうします。先に聞けて良かった。剣聖とも歌われた方ですからね。仕込み杖は恐ろしいです。
騎士団では今でもノーブル卿、違ったノーブル先生の勇姿は語り草です。ただ、騎士団を辞した理由や爵位を返された事などは一切聞いたことがなくて。
実はお会いするのは今回で2度目なのです。何度か州都にお越しになられていたそうなんですが、いつも私は居なくて。だから本当に緊張しています……」
と背筋を伸ばす。
ガルシアは頷き
「わかります。でも大丈夫ですよ。このところとても丸くなられましたから、早々噛みつかれるような事は無い筈です……多分」
と余計な一言を付け加えて、テオを励ます。
テオはグッと顎を引き
「多分……って、余計怖いじゃないですか~。うう、緊張が増しました……」
と肩を落とす。
ガルシアはハハッと笑い
「すみませんね。ああ、馬小屋に参りましょう。それから家に案内します」
と馬小屋に向かう。
テオも頷き馬小屋に共に入り、馬に餌と水をやりながら
「ありがとうな、ゆっくり休んでくれ。又後でな」
と馬を撫でながら労う。
ガルシアは微笑みながらその姿を見守り、やがて馬から離れたテオを伴い家に向かう。
家の玄関には既にコレットが待ち構えていた。
「テオ様、遠路お疲れさまでした!さあお入りくださいな、先生もお待ちですわ。
でも明日の朝の出発とか。もっとゆっくりなされば良いのに。
だから早く寛いで頂かなくては。あ、朝食もお風呂もご用意出来ておりますわ」
とニコニコ笑いながら玄関の扉を開ける。
テオは破顔し
「お久しぶりです、コレット殿。ありがとうございます!
森の家に越させていただくのは任務とは言え、本当に楽しみで!
シェルビー家の皆さんにお会いできるのが何より嬉しいです。
明日朝発ちますが、それまでご厄介になります」
と言って深々と一礼する。
コレットはクスクス笑い
「はい、こちらこそ大したもてなしは出来ませんが、少しでもお疲れを癒してくださいね。
ああ!いけない、先生がお待ちなんだった。参りましょう、どうぞ!」
と慌てて客間にテオを案内する。
ガルシアも苦笑しながら後に続く。
「先生。騎士テオ・オルティース様がご到着されましたわ。
さあどうぞ、テオ様」
とコレットが客間の扉を開け、中にテオを招き入れる。
客間のソファにディルクが仕込み杖を構えて座っていた。
テオは背筋を伸ばし、客間の中程まで進むとディルクに最敬礼をし
「御前失礼致します、ディルク・ノーブル先生。私はフェリーク州騎士団所属、フェリーク前領主直属護衛騎士テオ・オルティースであります。
我が主ジェラルド様より先生に火急の件あり、此方に馳せ参じました」
と挨拶と要件を告げた。
ディルクが立ち上がり
「ウム、騎士オルティース。遠路御苦労であった。極秘の件と聞いておる。後程儂の小屋で話を聞こう。
……しかし先ずは風呂を貰え。其方は汗臭い!ガルシア連れていってやってくれ。ここの家は清潔じゃからな、臭い奴はさっさと風呂にぶちこまんと!
コレット、その後朝食を取らせ、客間にて休ませてやってくれるか?」
とガルシアとコレットに指示をする。
笑いながら頷く2人とは対照的に、テオは
「あ、汗臭い……風呂にぶちこめ……。ひ、ひどいです~」
と顔をしかめる。
ディルクが鼻をつまむ振りをしながら
「ひどくなど無いわ。そのままではこの家の子供達、特に長女のミラベルに嫌われてもワシャ知らんからの!
あの子達は大人顔負けの賢さじゃからな。おまけに身だしなみも完璧。臭い騎士など相手にせぬぞ!」
と空いている方でテオを追い払うようにシッシと手を振る。
テオは更にショックを受け
「ミ、ミラベル殿に嫌われる~?!そ、そんな!困ります!
ガルシア殿、風呂は!風呂はどちらですか?!早く洗います、綺麗にしますーっ!……あ、着替えどうしよう?」
とワタワタ慌て出す。
ガルシアが笑いながら
「ご用意出来ております。私の服をお貸ししますし、今着られている服は洗浄致しますから、ご安心を。
さ、こちらです、案内しましょう」
とテオを風呂場に案内する。
テオは頭を掻きながら
「かたじけない……お世話になります」
と体を小さくする。
そんなテオに追い討ちを掛けるようにディルクが
「騎士オルティース!なんじゃその姿勢の悪さは!騎士足るもの、いかなるときも堂々とせんかっ、馬鹿者が!
臭いわ、情けないわで余計に嫌われてもワシャ知らぬぞ!」
と怒鳴る。
テオはピシッ!とその場で直立し
「は、はいぃーっ!」
と返事をすると、ギクシャクと動きながら部屋を出ていった。
コレットがその後ろ姿を見て苦笑しながら
「先生、余りからかわれてはなりませんよ?テオ様はとても良い方ですもの。
気の毒ですわ」
とディルクを嗜める。
ディルクはニヤリと笑いながら
「なあに、あれくらいは挨拶よ。しかし面白い奴だな。あれならからかいがいが有って良いわ。ウム、明日まで楽しめそうじゃ、ククク!」
と言った。
……風呂場でテオが大きなくしゃみをした。
次話は明日か明後日投稿します。




