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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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88. 側仕え達の働き

お読みくださいましてありがとうございます。

 やがて落ち着きを取り戻したオーウェンは、側仕えのフェルスと共に自室に下がった。

 強行軍でアラベラに来たのだから、到着直後の今溜まった疲れが半端では無い筈なのだ。

 元々凄く負けず嫌いで、誰の前であれこんな弱音を吐く子では無いのだが、つい気持ちが乱れてしまったのだろう。

 案の定、自室に戻ったオーウェンは

「少し休む。夕食には起こして欲しい。頼んだよ……」

 とフェルスに言うとソファに倒れ込むように座った。

 フェルスと自室で控えていたオスサナが慌てて駆け寄り

「やはりお疲れだったのですね。さぁ、ソファではお疲れが取れませんわ。

 フェルス、坊ちゃまをお抱きして。私はベッドの準備を……」

 とオスサナは小さな声でフェルスに指示すると、素早く続き部屋の扉を開けベッドを準備し、着替え等を用意した。

「坊ちゃま。私がお着替えをお手伝いします。

 坊ちゃまがそういった手出しをご不満に思われる事、重々存じておりますがお疲れが酷い今だけ、どうかご甘受下さいませ」

 とオスサナは申し訳無さ気に言葉を掛けながら、オーウェンの返事を待たずにフェルスと共に素早く寝間着に着替えをさせた。

 その間なすがままだったオーウェンは、やがてベッドに横たわると

「すまない……ありがとう2人共」

 と側仕え2人に感謝し、程無く寝息を立て始めた。

 オスサナはオーウェンを見つめ

「こんなにお疲れの坊ちゃまを、ご夕食にお起こしするのは如何なものかしら……。フェルス、私は旦那様にお伺いして参りますから、後をお願いしますね」

 とフェルスに言い置いて、オスサナは身を翻して部屋を退出した。

 フェルスは苦笑してそれを見送り

「本当にオーウェン様が大事なんだよな、オスサナは。

 しかしあの様子……心配が過ぎて、旦那様に噛み付かないと良いのだけれど……」

 とジェラルドの身を案じた。


 さて、執事頭のトレバーに伺いを立て、ジェラルドに面会を乞うたオスサナ。

 目した主は未だ自らの執務室で雑務に追われていた。

 面会の許可が出たオスサナは扉を開け、トレバーと共に入室する。

 執務机で書類に目を通していたジェラルドが目を上げ

「どうしたオスサナ。オーウェンに何かあったか?」

 と彼女に問う。

 オスサナはにっこり微笑み

「失礼いたします、旦那様。

 単刀直入に申し上げます、オーウェン様のご体調があまりよろしくない事、お気付きでいらっしゃいますか?」

 とずけずけ聞く。

 ジェラルドが首を傾げて

「何だと?先程までは元気であったが、急に体調が崩れたのか?」

 と聞き返した。

 オスサナは益々笑みを深くし

「何を仰るかと思えば。ご到着直後からでしてよ?坊ちゃまのお顔の色も艶も全くよろしくございません!

 ……やはり気づいておられなかったのですね?全くっ!」

 と今度は急に笑みを消すと目を見開いた。

 ジェラルドがグッと顎を引き

「ま、まぁ長旅の疲れが出るのは無理も無いな。だが、暫く横になれば……」

 とオスサナを宥めるように言うと

「そうですわね。本日のご夕食の席に坊ちゃまが向かわれなくて宜しければ、明日のご朝食にはご同席出来ますかしら。

 とにかく、今日はこのまま休ませて差し上げませんと!

 幾ら優秀なオーウェン坊ちゃまでも、体は9才です。大人でも疲労する筈の強行軍で、坊ちゃまのお体が悲鳴を上げるのは当たり前でしょうに。

 グレース奥様が御体調をお崩しで無ければ、直ぐに気付かれておられたとは思いますが、今は奥様御自身休養が不可欠ですから、旦那様が御配慮下さらないと……。

 勿論この先は、私やフェルスがしっかりとオーウェン坊ちゃまをお見守りする所存です。坊ちゃまがこのお屋敷で過ごされる間の御健康管理は私、オスサナが命懸けで係らせて頂きます。

 ですので、旦那様!これ以後はもし坊ちゃまの御体調が優れないと私が感じましたら、直ぐに御報告に参ります。

 その際は私の進言に耳を傾けていただき、坊ちゃまがご無理をなさろうとしましたら、旦那様のご指示に於いてお止めすると言う体裁にしていただけますか?

 私ごときが坊ちゃまをお止めするのは流石に分を弁えぬ行為。ですが旦那様の厳命とご説明出来れば、きっと坊ちゃまも意を酌んで下さる筈ですので。

 ……御了解下さいますか、旦那様?!」

 と鼻息も荒く、オスサナが一気に捲し立てた。

 ジェラルドは呆気に取られたが、クッと笑うと

「……ああ、解った。オスサナに任せるので、オーウェンをよろしく頼むよ。

 フェルスと共に、アレがフェリーク滞在中の体調管理等気を配ってやってくれ。

 オーウェンも其方等に馴染んでおるようだしな。

 又気付いたことがあれば報告してくれ。儂は気が回らんところが有るのでな。

 正直有り難い」

 とオスサナに優しく声を掛けた。

 オスサナは満足そうに頷くと

「旦那様のご命令とあらば喜んで拝命致します。

 私とフェルスにお任せくださいませ。

 それでは本日の御夕食、オーウェン様はお目を覚まされましたら、自室にて軽くお取りいただきます。

 その様に手配させていただきますので御了解下さいませ。

 明日のご朝食は大丈夫だと思いますが、未だお疲れのようでしたら進言に参ります。

 では私は坊ちゃまが心配ですので、下がらせていただきます。

 お時間を取らせて申し訳ございませんでした。ではこれにて」

 と言うと深々と一礼し、直ぐに去っていった。

 トレバーが苦笑しつつ

「誠に申し訳ございませんでした、旦那様。アレは仕事熱心過ぎて、たまにこのように暴走してしまうのですよ。

 しかしオスサナに任せておけば、先ず問題ございません。そこはご安心を。

 しかし……旦那様にあのように噛み付くとは。この屋敷の女使用人達は皆旦那様に少々気安過ぎますな。

 気安いと言うよりは、遠慮が無さすぎる。さぞ御不快であられたでしょう。私の指導が行き届いておらず、申し訳ございません」

 と深々と一礼した。

 ジェラルドは笑いながら

「良いことだ。其方の指導が行き届いておるから、あのように直ぐに進言してきてくれる。全て我等を思っての事。有り難いではないか。

 風通しの良い屋敷は栄える。風通しが良ければ澱みは生まれぬからな。使用人達も、彼等自身を認めてくれる上司や(あるじ)には付いてきてくれる。それは強固な縦の繋がりを生み、そして横の連携を速やか且つ滑らかにする。

 儂は今の扱いが心地好い。グレースも同じだ。其方等は心置きなく仕事に励んでくれ」

 とトレバーを労う。

 トレバーは嬉しそうに

「私は旦那様にお仕え出来て、心底幸せ者でございます。

 今の言葉、有り難く頂戴致します。

 さて、私もこれにて下がります。

 又何かございましたらいつでもお呼びください

 ああ、御夕食は食堂で奥様と御一緒になされますか?それとも奥様の御部屋で?」

 とトレバーはジェラルドに聞く。

 ジェラルドはああ、と言いながら

「オーウェンが同席しないなら、いつも通りグレースの部屋で軽く取るか。

 アレの側仕え達にも伝えておいてくれ。

 時間もいつもと同じで良いから」

 と頷く。

 トレバーは一礼し

「心得ました。では御前失礼いたします」

 と音もなく退出する。

 ジェラルドはトレバーを見送りながら

「トレバーめ。昔の癖は全く直っとらんな。……いや、オーウェンやグレースの前では音をさせていたか。

 何だ、あ奴も儂には遠慮が無いではないか。食えん奴よ」

 と笑った。


 日もとっぷり暮れた後。

 オーウェンが自室でフッと目を覚ました。

「え……?夕食の時間は未だなのか……?

 相当寝過ごした様な気がするんだが……」

 とベッドから起き上がり、暗い室内を見回す。

 すると天蓋の薄布を捲り、光の魔晶石のランプを手にオスサナが顔を見せた。

「オーウェン様。お目覚めですか?

 実はジェラルド様が、オーウェン様がお休みなさっているのを聞かれて、夕食は無理をさせずに自室にて取られる様にとご指示されましたの。

 グレース奥様もお疲れのご様子であられましたから、ジェラルド様はグレース様の御部屋にて2人で軽く済まされておられます。

 オーウェン様、御体調は如何ですか?

 もし宜しければ先ずは汗を流されませんか。その間に胃がもたれない軽食を御用意致しますので。

 ……如何なさいますか?」

 とオスサナが静かに聞く。

 暫し目を丸くしていたオーウェンだったが、やがてフッと笑うと

「そうだったのか。僕の体調なんてオスサナ達にはお見通しだったんだね。却って気を遣わせてしまったな。すまない。

 お祖父様達に失礼したので無ければ、良かったよ。助かった、ありがとう。

 ではオスサナが言ってくれたように汗を流したいから湯浴みを。その後食事を頼むよ。よろしく」

 と優しく希望を伝える。

 オスサナは微笑みながら頷き、直ぐに動き出した。

 フェルスともう一人の側仕えが湯浴みに付き添い、オスサナは厨房で待機していた料理人達に軽食の準備を頼む。

 程無く出来上がった軽食を手押しワゴンに乗せて、オスサナはオーウェンの自室に向かう。

 オスサナがワゴンを押しながら入室すると、丁度フェルス達に部屋着の簡素な身支度を整えて貰ったオーウェンがテーブルに付いたところだった。

 素早くオスサナは軽食をテーブルに美しく並べ、給仕に付く。

 オーウェンは側仕え達との軽い会話を楽しみながら、程好い量の軽食を全て平らげた。

 やがてオーウェンは眠気が襲ってきたらしく、今度は素直に

「やはり相当疲れが溜まっているようだな、僕は。もう休むよ。後はよろしく頼む。……お休みなさい」

 と話すとベッドに戻る。

 オスサナとフェルス達は小さく頷くと

 「心得ました、ゆっくりお休みください。

 又ご用がありましたら、いつ何なりとお申し付け下さいませ。直ぐに馳せ参じます。

 明朝はしっかりとお起こし致しますので、ご安心を。

 では……良い夢を」

 と言い残し、2人は下がった。



 心底疲れていたオーウェンだったが、献身的な側仕え達のお陰で心が解れたせいか、翌朝までぐっすりと眠ったのだった。




次話は明日か明後日投稿します。

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