表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
82/292

86. 師との再会

お読み下さりありがとうございます。

 執務室に入り、ジェラルドはオーウェンと側仕えのアレク以外は退出させた。

 再び結界を張り、オーウェンをソファに座らせると自身も向かい合わせに座る。

「実はな、先だって先生から通信術を使っての連絡があった。

 森の管理人兼守人を任じているガルシアの娘が、精神的に少々追い詰められてしまっているらしいのだ」

 ジェラルドは単刀直入に語った。

 オーウェンは眉を潜める。

「守護者の娘……?確かエレオノーラより小さい筈ですね。そのような……」

 ジェラルドがオーウェンの言いたいことを読んで

「ああ、未だ5才だ。だが年齢で判断してはならない。ガルシアの子供達3人は、其方に勝るかもしれぬ賢しさを持つ。勿論精神的にもだ。

 特に長男のライリーは大人顔負けだ。

 今回先生から報告が上がった長女のミラベルも、兄が兄なもので目立たぬが、相当に頭の切れる子だ。

 そのミラベルが、オーウェン其方に会うことを異常に怖れている。理由を聞いて、儂もアレ等に甘えていた事を痛感させられた」

 とジェラルドが目を伏せ溜め息を吐いた。

「一体何が?僕に会いたくない……そう言ってるのですか?

 何故……何か僕について良くない噂でも?」

 とオーウェンは表情を固くしてジェラルドに聞く。

「ああ、其方を悪く思っているのではない。彼女は寧ろ自分に自信を無くしてしまったのだ。

 ……クロエの魔力暴走からな」

 とジェラルドが語る。

 ジェラルドはディルクが伝えてきたミラベルの告白の内容を、簡潔にオーウェンに説明した。

 オーウェンは戸惑いながら

「そんな……!そんな事を僅か5才の女の子が考え、訴えたというのですか?!有り得ない!

 エレオノーラも兄の欲目で無く優秀だと思いますが、5才の時にそこまでは……。

 ディルク先生が導かれたのですか?いや、それにしたって……」

 と口ごもりながら話す。

 ジェラルドは天を仰ぎながら

「……其方は自分自身の事を忘れとらんか?自分を考えれば、ミラベルの事を否定は出来まい?

 年齢は関係無いと申したであろう。

 不思議なのだが、あの家庭の子供は皆そんな感じでな。特別な教育を施した訳ではない。寧ろ両親は忙しい毎日を送っているので、放任もいいところだ。

 長男のライリーは、騎士団の若手でも読解が手間取る父の書斎の書物をほぼ読破しておる。挙げ句暇だからと暗記しよった。普段は父を手伝って畑仕事をしておるんじゃがな。だから書物にかじりついてる訳でも無いんだ。

 ライリーに関しては、あの先生がいたく気に入られている。

 余程見所があると見込まれているようだ。信じがたい子供だよ。

 ああ、ミラベル自身も書斎の書物は半分読破しているそうだ。半分読めていないのは、単に絵の無い本は楽しくないとあの子が興味を示さなかったかららしい。ミラベルらしい茶目っ気のある理由だよ。絵と言っても、図解や図形等だから恐れ入る。

 それだけにミラベルの抱いた悩みは、あの子達の高度な知能を軽視した儂の誤算が招いたことだ。

 只、静かな環境で穏やかな両親に愛情豊かに育てられたあの子達なら、きっとクロエに対しても愛情を持って接してくれる筈と、そう考えた。

 そしてそれは間違ってはいない。今クロエはとても大切にされ、愛情を家族皆から与えられ、スクスクと育っている。それはあの子に会った儂が充分解っておる。

 しかしクロエの事ばかりを考え、優しく受け入れてくれたミラベル達の気持ちなどは全く考慮した事が無かった。

 ……傲慢であった。元々全て包み隠さずライリーとミラベルには事情を伝えてある。あの子達の賢しさなら無理無く事情を呑み込んで、その上で大人の思惑通りに振る舞ってくれると思った。あの子達は本当によくやってくれている。

 だがあの子達、特にミラベルはたった5才だ。心に秘密を抱えたまま、日に日に大切な存在となるクロエと接して、心穏やかになど居られる筈が無い。

 隠し事は謂わば重荷だ。大人ですら身近な者に隠し事をするのは骨が折れるし、精神も消耗が激しい。

 況してや決して人にその秘密を明かしてはならぬと厳命された隠し事なら、その重圧は図り知れぬ筈。

 そしてその秘密を誰よりも一番明かしてはならぬ相手と、一日中共に過ごすのだ。

 ……考えれば考えるほど、儂は何と辛い事をあの子達に強いたのかと、自分を恥じたよ。

 だが、ディルク先生に叱られた。

 浅はかな儂の愚痴などはどうでも良いと。ミラベルの苦しみを取る為に動けとな。

 差し迫っては先生があの子達を見守り、適時対処してくださっている。その後追ってきた連絡で、ミラベルも何とか落ち着いてはくれたようなのだ。

 すると先生があの子の懸念を取り除く為の方策を儂に伝えてきた。

 それがオーウェン、其方にしか出来ぬ事なんだよ」

 と外した視線をオーウェンに戻した。

 黙って話を聞いていたオーウェンは

「……守護者の子供達は本当に優秀なのですね。聞けば聞くほど会いたくなってきました。是非会って彼女が抱いた誤解を解いて僕の気持ちを、感謝を伝えたい。

 僕の妹の為にそんなに悩んでまで真摯に向き合ってくれている彼等に、僕は何をすれば良いのですか?

 言ってください、お祖父様」

 とジェラルドをまっすぐ見つめて聞いた。

 ジェラルドは微かに笑み

「簡単な事だ。儂と其方が視察に向かう前に、其方の今の気持ちを記した手紙を早馬にて森に届けたいのだ。

 今の其方が抱いた彼等への感謝を、手紙に書いてくれぬか。

 その手紙を儂の腹心の部下、テオに託し森に向かわせる。

 単純だが、一番効果的な方策だ。

 ……頼めるか、オーウェンよ」

 と言った。

 オーウェンは目を丸くして暫し黙り

「え?それだけ……ですか?そんな手紙だけで、大丈夫なのですか?」

 と漸く声を出した。

 ジェラルドは頷き

「テオから先生に渡し、テオ立ち会いの元、ライリーとミラベルに手紙を渡していただく。アラベラの其方からの手紙と云う証明代りだ。

 下手に小細工などせずとも、賢しい彼等ならば正攻法で充分だ。

 ……ま、先生自身は最初の対処に大分面白い手をうったようだがな。あれは真似してはイカン。……アレが怒るのも無理ないわ」

 と苦笑いした。

「……アレが怒る?誰がですか?」

 とオーウェンが首をかしげる。

 ジェラルドはハッとして

「……いや、機密事項に当たるので話せないのだがな。何れオーウェンには話す事になるとは思う。それまで待ってくれ。

 そんな話せない事はさておき、今から直ぐに取り掛かってくれるか?オーウェン」

 と彼に尋ねる。

 オーウェンは大きく頷くと立ち上がり

「部屋に下がります。直ぐに書きましょう。書き上がり次第、こちらに直接持って参ります。森には明日早馬を?」

 とオーウェンはジェラルドに聞き返す。

 ジェラルドは首を小さく横に振り

「実はテオには待機を命じてある。其方が持って来れば直ぐに森に向かわせる。

 テオは前回の視察でミラベルと仲良くなった騎士だ。それだけに此度の件は是非自分が動くと申しておった。

 奴もあの小さなミラベルが心配でしょうがないのだろうな」

 と笑った。

 オーウェンはニッコリ笑うと

「ならば余計に急がねば。結界を解いてください。失礼します、お祖父様。後程又参ります」

 と話し、ジェラルドを急かす。

 ジェラルドも直ぐ様結界を解き、アレクが扉を開けて廊下にて待機していたオーウェン付きの側仕えフェルスを呼ぶ。

 フェルスが直ぐに入室し、オーウェンは自室へと告げると先に立って導く。

 オーウェン達が退出後、ジェラルドはテオが出発したら直ぐにディルクに連絡できるように、魔術法具を準備し始めた。


 暫くして筆の速いオーウェンが、フェルスと共にジェラルドの執務室に再び訪れた。割りに分厚い手紙を持って。

 ジェラルドはそれを見て頷くと、今度は騎士のテオが待機する部屋に別の側仕えを向かわせる。

 程無くテオが足早に執務室に現れた。

 テオはジェラルドとオーウェンの前に立ち、深々と最敬礼した後

「ジェラルド様。お待たせいたしました。準備は出来ております。

 インフィオラーレ公のご令息、オーウェン様であられますね。お初にお目にかかります。私はフェリーク州騎士団所属、ジェラルド様直属護衛騎士を拝命しておりますテオ・オルティースと申します。以後お見知りおきを。

 ……拙速で恐縮ですがジェラルド様、早速かの地へ向かいたく存じます。

 ご下命を」

 とオーウェンに名乗り、直ぐ様その場にひざまづく。

 ジェラルドは頷くと厳格な声で

「騎士テオ・オルティース。

 この書状を持ち、直ぐにかの地へ向かえ。

 書状が確実に目的の人物に手渡されるのをその目で確認し、後帰途に着くよう。

 ……行け!」

 とひざまづくテオに命じた。

 スクッと立ち上がったテオは

「御意!御前失礼いたします!」

 と再び最敬礼し、身を翻した。

 慌ててオーウェンが

「テオ殿!お気をつけて。よろしくお願いします!」

 とその背に声を掛けた。

 テオは立ち止まり振り向くと

「お気遣いありがとう存じます、オーウェン様。

 必ずお渡し致します故、お任せください。それでは!」

 と明るく笑って一礼すると、直ぐに立ち去った。

 ジェラルドが

「若いが中々見所がある騎士なんじゃよ。かの地の重要性も充分に理解している。奴に任せておけば大丈夫だ。

 さて儂等は今からすることがある。

 オーウェン、又結界を張る。ソファに座りなさい。

 アレク、フェルス、すまんが退出してくれ。

 2人は扉の外にて待機だ。良いな?」

 と側仕え達に命じた。

 アレクとフェルスは一礼し退出する。

 彼等が退出後、結界を張ったジェラルドが執務机に魔術法具を置き、オーウェンを呼び寄せる。

「お祖父様、通信術ですね。

 ……先生ですか?」

 とオーウェンがジェラルドに聞く。

 ジェラルドは頷きながら

「ああ、そうだ。もう講義は終わっている筈だが……。

 よし、発動するぞ。待っておれ……」

 光を帯びてきた魔術法具から蜃気楼のように別の部屋の姿が浮かび上がる。

 蜃気楼の向こうに見える部屋は、黒き森のディルクの小屋の勉強部屋のようだった。

 何やら机で一人書き物をしているディルクが映る。

 ディルクは書き物の手を止めると立ち上がり、こちらに近寄って来た。

「おお、久しいのオーウェン。息災であったか?相変わらず祖父に似ず、理知的な目をしておるな。良いことだ」

 と軽口を叩きながらオーウェンに声を掛ける。

 オーウェンは深く一礼した後

「ご無沙汰しております、先生。

 先生もお元気そうで何よりです」

 と嬉しそうに笑って挨拶をする。

 ジェラルドは苦笑いして

「その口調ですと、ミラベルは本当に落ち着きを取り戻したようですね。……安堵しました。

 ああ、先ずは報告を。

 先程こちらから騎士テオが出発致しました。奴の足なら明日の朝にはそちらに着くかと。

 先生からガルシアに連絡をお願いします」

 とディルクに簡潔に伝える。

 ディルクは頷き

「承知した。ガルシアには儂から伝える。明日朝だな」

 と確認する。

 ジェラルドが頷くと、急にオーウェンが

「……そうか。この手が使える!

 お祖父様、先生に協力して頂きましょう。お祖母様の件です」

 とジェラルドを見上げて話す。

 ジェラルドはオーウェンを見て

「通信術か?しかしクロエに何と説明するのだ。策があるのか、オーウェン」

 と難しい顔で答える。

 ディルクは鼻を鳴らし

「先ずは説明をせんか、このヘッポコ引退領主が。グレースがどうかしたのか?」

 とジェラルドに罵り言葉を吐きつつ尋ねる。

 するとジェラルドではなくオーウェンが

「先生、僭越ながら説明は僕が。

 実はお祖母様が……」

 と実に簡潔且つ解りやすくディルクに説明を済ませた。

 ディルクは呆れたようにジェラルドを見て

「馬鹿者がっ!グレースが体調をおかしくしたら貴様のせいじゃぞ、この役立たずめっ!何故もっと早く言わぬのじゃ!孫の方が余程使えるわ!

 してオーウェンよ、其方は通信術にて会わせるつもりじゃな。良かろう。

 クロエを丸め込む策はもう有るようだし、儂は其方の案に乗る。

 全ては其方が森に視察に来てクロエと会い、アラベラに帰還してからと言う事で良いな?」

 とオーウェンに策を口にさせること無く、全て理解し簡単に彼に策の確認を行う。

 オーウェンは苦笑して

「流石ですね。僕程度の考えは直ぐに読み取られてしまうな……。先生には隠し事など不可能ですね。

 はい、仰る流れで行きたいと考えています。ご理解頂けて良かった。

 お祖母様には明日お伝えします。全ての望みを叶えて差し上げられないのは、口惜しいですが……。

 お祖母様ならきっとご納得下さいます。本当に先生が居てくださって良かった。心から感謝します」

 と感謝をディルクに伝えた。

 ディルクは笑い

「何、其方の策が解らんのは頭の中身が殆ど無い、ジェラルドだけよ」

 と片方の口角をあげた。

 ジェラルドは2人を交互に見て溜め息を吐いた。






次話は明日か明後日投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ