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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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1-8 生活その2

お読み下さりありがとうございます。


8話目となります。


生活紹介その2です。


やがてお昼近くになったようだ。


母はクロエを背負ったまま台所に向かう。


台所は洗い場と隣り合わせ。水場は固めているようだ。


次いでに言うと西洋風のバスタブがある御風呂まである。


そのお湯は台所のかまどで沸かして台所から持ち込むようだ。


因みにクロエは赤ちゃんだから、たらいで湯浴みする。


首が座ったのでお座りさせて洗うことが出来るようになって、母の負担がちょっぴり減ったのだ。


母は台所でスープを温め、作り置きしていたパンと蜜壺を用意してテーブルに並べる。


朝はこれに何かの卵を焼いたオムレツに近い料理とサラダがつく。


昼は軽めに済ます。


夜はオムレツではなく、肉料理や野菜の煮込み等がメインで出る。


肉は大体干し肉を使う。父が何かを仕留めたら御馳走だ。


ただ必ず出るのはパンとスープ。

後は天候等で出たり出なかったりだ。


野菜はおそらく近くで畑を耕し、そこで作っている。


もっと質素な食事を想像していたが、案外立派な量で初めて見たときは驚いた。


食事は最初から楽しみだったが、並べられた料理を見て余計に楽しみになってしまった。


(あー、早く食べたいよぉ!歯よ早く生えろ!んー、舐めるだけでも良いから食べたいよぉ。

匂いだけなんて、どんな責め苦だよ)


目の前にニンジンをぶら下げられて走らされる馬の気持ちが、今はとても良く解る。解りたくないが解る。


成長するまで“待て”が続くのは仕方無い。仕方無いが、実に辛い。


食事時はいつも身悶えするクロエである。


家族もそんな物欲しそうなクロエを苦笑して見ている。


編まれた籠のようなラックに寝かされて同じ部屋で居るのだが、食事中はいつも眉を寄せて口からダラダラ(よだれ)を垂らすクロエは余りにも間抜けなのだ。


クロエ自身は自分がそんな表情になってるなんて全く気付いていないが、誰が見ても物欲しそうにしているなと一目瞭然であった。


もし家族の会話がもっと理解できていれば、彼女は羞恥のあまり叫んでいたことだろう。


会話と言えば、クロエはある程度家族の会話が聞き取れるようになってきた。


何でだろうか。


前の世界の雅であった頃は、何年経っても英語はあまり聞き取れ無かったし、喋る事もカタコト英語でしかなかったのに。


毎日家族の言葉をシャワーを浴びるが如く聞き流しているうちに、少しずつではあるが彼女の中に引っ掛かる言葉が増えてきたのだ。


先ずは自分の名前だった。


次は可愛いと云う言葉。


自惚れているわけではない。本当に家族はクロエに対し、良く可愛いと言ってくれるのだ。


最初は前の日本人だった頃の謙虚さも手伝ってか、気恥ずかしい思いが先行してしまい、つい顔が赤くなって家族を心配させた。


しかし慣れと云うものは恐ろしい。


今では挨拶にも等しいくらい、素直に聞き入れることができる。


こうやって自信が形成されていくのかもしれないと、時々彼女は考える。


それは置いといて、彼女は思いの外早く言葉を習得しつつあるのだ。


前の雅の時は英語など解らなくても日本で問題なく生きていけたが、こちらでは言語習得は間違いなく生死に係わる。


学ぶ姿勢に大きな差が出るのは当然だ。


今の調子だとそう遠くない時期にこちらの言語のリスニング能力はほぼ完全に習得出来そうだ。


さて母の食事の支度が整ったところで、タイミングを見計らった様に父が帰宅した。


父は朝御飯を食べると直ぐに家を出る。


おそらく家の周りにある家畜小屋の家畜の世話や、炭焼き小屋での炭作りや薪割り、見たことは無いがきっと在る筈の畑の手入れ等、仕事は山積みなのだ。


母は乳飲み子を抱えているから、あまり手伝うことは難しいので、父が一人で奮闘中なのだ。


たまに長兄のライリーがお供をすることもあるが、コリンのお守りにミラベルだけでは負担が大きいので大体は連れていけない。


ただもう少しすればコリンも落ち着く?筈なので、そこからは父の仕事を手伝いたいと兄は考えているようだ。


クロエはライリーは学校に通わないのかと思っているが、こればかりは今の状態ではわからない。


優秀な子なので、もし学校教育の制度があれば是非彼やミラベルには学ばせてあげて欲しいと思う。


因みにクロエ自身は頭はそんなに良くないと思うので、読み書きだけ出来たら良いやと既に考えている。


別に勉強が嫌いなわけではないとクロエは自らに言い聞かせている。


雅だった頃に生来の間の悪さが災いして、テストの度にインフルエンザ等になって受けられなかったり、大事な授業の時に何故か休んでいて一人だけ補習を受けたりしていたので、学校の教育スタイルはアタシには合わないと不貞腐(ふてくさ)れている訳では決して無い。


まあ、こちらの世界の教育体系が全くわからないので今は何とも考えようがないのだが。


有名なアルプスの少女ハイジにだって寺子屋風の学校が在ったのだし、こちらにもきっと在るとは思う。


さて父も帰ってきたところで昼食となった。


クロエは又ラックに入れられ皆の食べているのを横目に我慢をしながら、会話をリスニングする。


「ガルシア、□□□□□□□□□」


母が父に何かを尋ねている。


父の名前はガルシアと言う。


因みに母はコレット。


両親の名前も何とかこの4カ月で知ることが出来た。


仕事の進み具合でも気になっているのだろう、母が気遣わしそうに父に聞いている。


父は比較的寡黙なタイプだが、仏頂面等は決してしない。


母ににっこり笑うと、パンに蜜を塗りながら答えている。


「畑は□□□□□。そうだな□□□□□、コレットと子供達も来ないか?」


父が何かを母に提案した。


母は父の提案に少し考える素振りをしていたが、やがて笑って頷いた。


「そうね、□□□□□。子供達も外で遊ばせてやりたいし。クロエも□□□□□?大丈夫でしょ」


クロエの月齢が4カ月を超え、外出可能の判断が下ったようだ。


ライリーやミラベルがコリンと大喜びしている声がする。


しかしもっと喜んでいる者が居た。


ラックの中のクロエである。


(わお!外出だよ!畑を見られるんだ。凄い、初めての遠出だよ!家から母さんが2・3歩出るときにくっついて外を見るのが関の山だったのに。

楽しみ~嬉しい!)


喜ぶクロエはラック内で手足をバタバタさせたので、ラックがグラグラ揺れた。


慌てて兄のライリーがクロエのラックに近寄り彼女を抱き上げると、互いのおでこ同士をくっ付けクロエに笑いながら叱る。


「ダメだよクロエ?危ないだろ。出掛けられるのが嬉しいんだね。僕達も□□□□□」


ハンサムなお兄ちゃんの愛情表現にどぎまぎしながら、クロエもニパァ~と笑う。


(ライリーお兄ちゃん、眼福過ぎます。

こんなシチュエーション、前世ではありませんでしたから、免疫0(ゼロ)なんです!お手柔らかに~!)


兄の妹愛に赤ちゃんらしからぬ感想を持ってしまうクロエ。


所々25歳の記憶が頭を覗かせ、妙な反応をしてしまう。


兄達が変に思わないようにしなくてはならないので、結構油断はできないのだ。


しかし見目麗しい兄姉に囲まれていると、ついつい焦ってしまう。


早く慣れなきゃいけないと切実に思っている。


母は昼食の後片付けをし、クロエやコリンに外出着を着せる。


ライリーやミラベルは既に自身で準備している。


父は外で荷車に色々な農機具らしき道具を準備している。


母がクロエに小さな帽子を被せた。


他の子達も帽子を被っている。


飲み物や食べ物を入れたバスケットのような物を荷車に載せて準備万端整った。


初めての外出。


ワクワクしているクロエをおんぶ紐で背負い、母は荷車の横を歩く。


父が引く荷車の上には農機具とバスケットと次兄のコリンが乗っている。


流石に2歳を超えたばかりではしょうがない。


ライリーとミラベルは母と同じ様に荷車の横を歩く。


母に背負われて、自分の周りの景色を見回すクロエ。


思いの外家は深い森に囲まれていたことに驚く。


家の周りの木が非常に大きいのは分かっていたが、こんなに林立していたとは思わなかった。


樹齢何百年と云う威風堂々たる太さの木が見渡す限り生えているのだ。


ただ足元は地ならしされていて、非常になだらかで歩きやすい。


はるか上から木漏れ日が降り注ぐ。


この世界にも鳥は居るのだろう、耳を済ませば鳥の鳴き声が聞こえる。


空気は澄みきっていて、前の世界で森林浴効果で良く聞いたフィトンチッドがたっぷり含まれていそうだ。


しかし前の世界でこんな深い森に入った経験が無いクロエは目を見張るばかり。


口をポカーンと開けたまま、てっぺんが見えない木を見上げる。


(す…ごい。大きい…。何メートルあるの?この木。こんな高い木見たこと無い)


両親や兄姉にとっては当たり前の景色なので誰もはしゃいだりしない。


楽しそうに会話しながらさっさと皆歩いている。


次兄のコリンですら、感動していない。


驚いているのはクロエだけ。


やはりカルチャーショックは大きい。


森を歩く間、彼女の口が閉まることはなく、兄のライリーが母にクロエが変だと進言するまでそれは続いた。


それを除けばとてもほのぼのとした道中であった。











次話は明日か明後日投稿します。

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