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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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79. ミラベルの告白

お読みくださりありがとうございます。


今話はミラベルの独白です。

こんな5才、居たら神童です、ホントに。

「おお、2人とも来たな。さあ部屋に入りなさい。既に話を聞く準備は出来とるよ。

 ふむ。ライリーは既に今日の講義の変更を、ミラベルから聞いておるようだな。

 儂の独断で、其方の講義を無くする事にしてしもうたが構わぬか、ライリーよ」

 とディルクは2人をソファに案内しながら、ライリーに問う。

 ライリーはディルクに小さく頷いて

「気になさらないで下さい、先生。妹が先生に相談したい事が有るのに、それを放ったまま講義を受けるなんて出来ません。……ミラベルは余程の事が無い限り、こんなお願いをする子ではありませんし。寧ろ兄の僕や両親が気付いてやれなかった事が残念なんです。先生にはご迷惑をお掛けしてばかりですが、力をお貸しください」

 と言って頭を下げた。

 ディルクも頷き

「いや、賢いミラベルのことだ。両親や其方に悟られぬ様、悩みを上手く隠しておったのじゃろう。だが、そうも言っておれなくなって来た。

 今の状況下で急に相談したいとまで言い出す理由なら、恐らく一つ。

 ……やはり賢い子供じゃな。僅か5才にして既にそこまで考えているか。

 とにかく座りなさい。ミラベルもライリーもな」

 と座るように勧める。

 2人はソファの3人掛けの方に並んで座り、テーブルを挟んだ向かいに1人掛けのソファにディルクが座る。

 用意されたお茶を勧められるまま口にしたミラベルは、やがてカップをテーブルに置くと、意を決したようにディルクを見つめ、口を開いた。

「先生、闇性結界を張っていただけませんか?絶対にこの3人以外に知られたくないのです。……お願いします」

 ディルクはミラベルの言葉を聞き、無言で頷くと立ち上がった。

 そして胸元から小さな袋を出し、中から黒く艶やかに光る闇の魔晶石を取り、袋をまた胸元に入れた。

 そして魔晶石を使い、部屋の中央で闇性結界を発現させると、ソファに戻り又座った。

「さ、これで良いかな。ミラベル、話してみなさい」

 ディルクが俯いているミラベルに話をする様に促す。

「アタシ……不安なんです。アナスタシア様のご子息、オーウェン様にお会いするのが」

 ミラベルはそう言うと膝の上で両手を握り締めた。



「アタシは……クロエがこの家に来るって聞いたとき、両親から大恩有るジェラルド様の孫にあたられる生まれたばかりのお嬢様だけど、黒の乙女に祭り上げられるかもしれない黒髪の女の子だから、黒の乙女にしない為、そのお嬢様を守る為、私たちの妹として育てると教えられました。

 黒の乙女の言い伝えでは人々の悪意を乙女が浄化し、この地を、ひいてはアーソルティ王国を守ると聞いています。

 ただ、人々の悪意を浄化する代償はその乙女自身の命。そんな犠牲にさせたく無いと、生まれたばかりのそのお嬢様をその運命から逃れさせる為、アナスタシア様の御家族は断腸の思いで手放されたとも聞きました。

 その話を聞いたときのアタシは、ただ両親に従おうとしか思いませんでした。可哀想だし、最後に死が待つ運命から逃れさせる手伝いが出来るなら良いことだとも思ったし。それに女の子なら、正直一緒に遊べるしって。

 初めて会ったクロエはとっても小さくて、髪が黒々として何だか触るのが怖かったのを覚えています。でも、アタシが指を差し出すとキュッと握ってくれて……。笑顔になってくれたんです。赤ちゃんってこんな風に笑ってくれるんだって嬉しくなりました。ウチにはコリンが居たけど、あの子は直ぐにぐずって泣く子だったから、あまり笑ってくれた覚えがなくて。

 それからはおむつを変えたり、お風呂いれるの手伝ったり、コリンが意地悪する度に庇ったり、クロエと過ごす時間が増えていくにつれて、気付いたんです。

 アタシの中で、クロエは既に本当の妹になってるって。

 最初は違ったんです。これから守らなきゃいけないお嬢様を預かるって、そう考えていたんです。

 でも気付いたときには、黒の乙女にさせないよう守る為に預かったなんて、単なる切っ掛けにすぎない、あの子はアタシの妹になる為に生まれてきてくれたんだって考えちゃう位、クロエはアタシの中で大切な子になっていたんです。

 それからはもう可愛くて可愛くて!あの子はいつも笑ってくれて、アタシのこと大好きなお姉ちゃんって何度も言ってくれて。なのに頭は良いし、時々アタシよりお姉ちゃんみたいにしっかりしてる時もあって、頼りがいまであったりして!

 毎日クロエと過ごせるのが本当に幸せなんです。

 ……なのに、あの魔力暴走が起こったんです。アタシのせいで!

 あの子のキラキラした深いグリーンの瞳が、まるで単なる石みたいに見えた……。あの子が、クロエが死んじゃうかもしれないって、本当に怖かった……。あの子が死んでたら、アタシもどうなってたか分からない!

 毎日怖くて、申し訳無くて。クロエが目覚めてくれるなら、アタシの命を差し出しても良い、とまで思った。

 あの子が目覚めた朝、アタシが泣いて謝った時こう言ってくれたんです。

「お姉ちゃんがずっと面倒見ててくれてたんでしょ、ありがとう!」って。そしてアタシの髪を触って「心配してこんなに痩せちゃったんだね、髪もこんなに傷んで……ごめんね」って。あの子、全部直ぐに解ってそう言ってアタシに謝ったんです。アタシ、敵わないって思った。守らなきゃいけない妹なんかじゃない。あの子はアタシよりよっぽど強くて賢くて優しい子なんだと。

 そしてアタシは、もうクロエがいない生活なんて考えられない様になってるって、痛いほど思いました。

 あの後又クロエが倒れた時は、絶対に離れないって、離さないって強く思いました。あの子の傍であの子のために全力で看病して、あの子を守ると決めたんです。

 看病は全く辛いとは思わなかった。寧ろクロエの為に何か出来るって事が凄く嬉しかった。そうして回復してくれた時、又寝ているのに笑ってくれて。アタシ、漸くクロエのお姉ちゃんとして少し自信が出来たんです。

 でも、そうしている内に、フッと心を(よぎ)ることが有ったんです。

 アタシにはこんなに素敵な妹が出来たけど、本当の兄姉のお2人はどうしておられるんだろうって。

 本当ならクロエと家族として、兄姉としてあの子と過ごせているはずだった方達。

 あんな可愛くて賢い妹、絶対に手離したく無かった筈。それはクロエと一緒に居るアタシが一番解る。

 アタシがクロエと笑っている時、あの方達は身を切る思いで手離した妹を思って、どんな風に耐えておられるんだろう。

 自分が幸せであればあるほど、本当ならアタシの位置に居られた筈のエレオノーラ様の影がアタシに迫ってくるんです。妹を奪った形のアタシはきっと怨まれている……そんなこと解らないのに、そう思うようになってきて。

 だからせめてあの方達の分まで、クロエを大事にしようって思ったんです。

 貴方達の宝物のクロエはアタシがしっかり守るから、だからあの子をアタシの妹のままで居させてくださいって。

 黒の乙女も何も関係ない、アタシの妹はクロエしか居ないから、だから許して欲しいってずっとそれからは思ってました。

 考えちゃいけないことだけど、黒の乙女の言い伝えにアタシは感謝すらしている位なんですから。

 だって、あの言い伝えが無かったら、アタシはあの子に出会えてすら居なかったんですもん。

 そんな罪深い、あの方達には申し訳無いことまで考えてしまうようになったんです。

 そしてコリンの言葉でもう一つ気付いたんです。アタシはクロエを騙しているって。

 アタシは姉じゃないのに、姉だとあの子に思い込ませて、アタシを慕わせているんです。

 大事なあの子に……。

 勿論それはしょうがないことです。あの子を守る為につかざるを得なかった嘘です。だからどれ程あの子に誠実に向き合いたくとも、この嘘だけは全てが解決するまで突き通さなきゃいけない。それは解っています。でもあの子に嘘を付いている自分が嫌で。

 でも全て解決したら、嘘を明かしてあの子と離れなきゃならなくなる。それは死んでも嫌なんです!

 もうどうしていいのか分からなくなってきたんです……。

 そこに今度の森の視察にオーウェン様が来られるって聞いて!

 アタシ、アタシ怖いんです!

 実のお兄様になるオーウェン様は、とても優秀だとお聞きしました。ライリーお兄ちゃんと同じ位に。

 そんな人が、アタシみたいな子が姉としてクロエに慕われて居るのを見て、納得なんかしてくれる訳無い!

 エレオノーラ様と比べて、きっとそう思われる……。

 もしかしたら、クロエを任せておけないって仰るかもしれない!

 そしたらそしたら、クロエを連れていってしまうかも知れないわっ!

 アタシそんなことを考えてしまうようになって、オーウェン様をいつも通りの自分でお出迎えして明るく振る舞うなんて、出来ないかもしれなくて……。

 どうしよう、どうしたら良いですか?

 変な態度になってしまったら、優秀なオーウェン様は絶対に気付かれます。

 アタシ、アタシどうしたら良いですか、先生!教えてください……」

 ミラベルは自分の気持ちを休まず話し続け、そして言い終えると又深く項垂れて震える両手を握り締めた。



 痛々しく震えるミラベル。

 見守るライリーとディルクは言葉を失ってしまった。

 クロエを本当に大事に思うからこそのジレンマと葛藤。そして言い知れぬ不安。

 そのどれもが、周りの大人達が僅か5才のミラベルに背負わせてしまった重荷だった。

 彼女は賢くて優しい。だからこそ考えてしまう。気楽になど、ミラベルには絶対に言ってはならない言葉だった。

 ディルクは暫し瞑目していた。

 誰にも知られないようにと小さな彼女が言った気遣いもさることながら、今の彼女が言った内容は幼い彼女が全て自分で考えた事だが、現状を正確に把握し、自らの立場も良く理解した上での懸念だった事に感嘆し、又不憫にも感じたのだ。

 やがてディルクは目を開けると、ミラベルに静かに言った。

 「良く話してくれたの、ミラベル。辛かったろう。其方がその辛さに押し潰される前に、よくぞ打ち明けてくれた。

 其方は勇気のある賢くて優しい娘じゃ。掛けたい言葉は幾つもあるが、今は何を言っても完全には納得出来ないじゃろう。

 暫く儂に時間をくれんか?そんなに掛からぬ。其方が少しでもその辛さから抜け出せるようにしよう。

 ……済まぬが待ってくれんかの?」

 と優しく、しかし力の籠った声をミラベルに掛ける。

 ミラベルはハッと顔を上げ、ディルクを見つめると、次第に顔をくしゃくしゃに歪めて大きく頷く。

 そしてそのまま両手で顔を覆うと、震えながら泣き出した。

 居ても立っても居られずにライリーは、妹を抱き締めて背中を優しく撫でる。

 ミラベルは兄にしがみつき、顔を兄の胸に押し付けて泣き続けた。



 その2人の姿を痛々しく見守りながら、ディルクはある算段を頭に思い浮かべ、小さなミラベルの心を救うべく、考え始めたのだった。

(待っとれよ、ミラベル。出来るだけ早く、其方の心の澱を取ろう。いつもの笑顔に戻してやる。直ぐに取り掛からんとな……)



次話は明日か明後日投稿します。

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