78. ミラベルの不安
お読みくださりありがとうございます。
ミラベルに巣食う不安。今話は相談までのお話です。
後、感想頂きましてありがとうございます!
前にも頂いて凄く励まされています~。
頑張って書いていきますね、老体にムチ打ちます!老眼に目薬指します!
「……お姉ちゃん、何かあった?」
女の子部屋で就寝準備を終えベッドに入ったクロエは、自身より遅れて部屋に戻ってきた姉のミラベルが隣のベッドに入るなり、こう問うた。
「え?……何でそんなこと聞くの、クロエ」
とミラベルが驚いたように聞き返す。
壁際のランプの中にある光の魔晶石から、母のコレットが就寝の為に照度を最低に調節した灯りが、彼女達の幼い顔を優しく照らし出す。
柔らかい小さな灯が、姉を心配そうに見るクロエの顔をミラベルの瞳に見せる。
「ん……。夕食の時、ディルク先生のお話があったでしょ?何かお姉ちゃんが急に元気を無くした気がしたの。
考えすぎならごめんね。でも気になって。何かあったなら話してみない?
全く役に立たないけど、アタシでも話くらいなら聞けるよ。
大事なミラベルお姉ちゃんが悩んでるのを放って置きたくないもん。
ね?……何があったの、お姉ちゃん」
とクロエが小さな声で優しくミラベルに語りかける。
ミラベルは驚いた顔のままクロエを見つめ、やがて微かな苦笑を浮かべると妹の側ににじり寄った。
妹の真横に来て横になると、おもむろにクロエをキュッと抱き締めながら
「……何でもないの。でも、ありがとう。
じゃあ、今日はこうやってクロエを抱っこしながら寝て良いかな?
……妹をしっかり感じたいの。アンタはアタシの大事な大事な妹なんだもの。……ね、時々こうして寝て良い?
何か凄く安心できるんだ、アタシ……」
と妹の髪に頬を擦り寄せて、ミラベルがくぐもった声で頼んだ。
クロエはミラベルの背中に手を回すと、トントンと優しくリズミカルに叩く。
そして優しく可愛らしい声で
「勿論!時々でも毎日でも良いよ~。
大好きなお姉ちゃんだもの。嬉しいよ、アタシも。
それにアタシも安心できるもん。
……アタシは離れないよ、お姉ちゃん。だから、安心して眠って?」
と語りかけた。
ミラベルはクロエの言葉を聞き、ホッとしたのか肩の力を抜いた。
そしてそのまま
「……ん。大好きだよ、クロエ。
どこにも行かないでね。アタシを置いてかないでね……約束だよ」
と呟いて、やがて寝息を立て始めた。
クロエはミラベルの背を優しくトントンしながら
「良い子、良い子……。お姉ちゃんは良い子だね。
ゆっくり眠って……ね」
と語りかけつつ、彼女も程無く眠りに落ちていった。
次の日の朝。
クロエのベッドで幼い娘2人が抱き合いながら眠っているのを、起こしに来たコレットが見つけた。
余りに可愛らしいその2人の寝姿に、起こさなければと思いつつも、コレットはつい微笑みを浮かべながらベッドサイドに腰掛けて、飽きることなく2人を見つめ続ける。
やがて人の気配を感じたミラベルが目を開け、優しく微笑む母と目を合わせた。
「あ、母さん。おはよう……。もう朝なんだ。起きなきゃ」
と眠そうな声でコレットに挨拶したミラベルは、真横でクゥクゥ眠るクロエの髪を、優しく名残惜しげに撫でながら起き上がる。
コレットはクスクス笑いながら
「起こそうと思ったんだけどね。あんまり可愛いから、何だか起こすのが勿体なくって。つい見ていたくなっちゃったのよ。
父さんなら多分にやけながら一日中見てたわよ~。娘2人の可愛い寝姿は、父さんを骨抜きにしちゃうわ。母さんでもこうだもの、フフ」
とミラベルにイタズラっぽく喋る。
ミラベルもフフッと笑いながら起き上がると、そうっとクロエを起こさないようにベッドから出る。
「父さんだったらアタシ怒ってたかも。娘2人の寝室に、断り無く入っちゃ駄目って言って。そしたらショボンとするだろうな、父さん」
そんなことを口にしながら、着替えを自分の衣装行李から引っ張り出したミラベルは、さっさと寝間着を脱いで着替え始めた。
コレットはクスクス笑いを止めること無く
「あらあら。そしたら父さん、暫く落ち込んで何にも手につかなくなるわね~。
お願いだから、優しくして上げてよ?ああ見えて、娘2人にはホントに弱いんだから~。
じゃあ先に行ってるから、仕度が出来たら食堂にいらっしゃい。クロエをお願いね、ミラベル」
とベッドから離れてミラベルにクロエを託し、部屋を出ていった。
部屋から出ていく母の背中に
「は~い。クロエは任せて!すぐ行きま~す!」
と返事をするミラベル。
すると姉と母の会話の声で目が覚めたのか、漸くクロエがベッドの上で動き出した。
「……うにゃ?朝か……ふわああ~っ。んー、よく寝たぁ!おはよう、お姉ちゃん!」
伸びをしながら起き上がってちょこんと座るクロエに、ミラベルは
「ああ、ちょうど起きた!
おはようクロエ。さあ着替えて着替えて。母さん起こしに来てくれたよ。
先に食堂に行ってるからって。クロエの仕度が出来たら、顔洗いに行こ!」
とベッドに走り寄って、彼女を急かす。
クロエは姉の言葉を聞いて
「母さん起こしに来てたの?全然気付かなかった~。じゃ、早く着替えなきゃ!お姉ちゃん待っててねっ!」
とベッドから飛び降りてつんのめる。
「うわっと!」
「クロエッ!あぶないっ!」
とミラベルが転けかけたクロエを横から抱き止める。
「おっと、あぶないあぶない~。起き抜けはどうも調子がでないや。
お姉ちゃんありがとっ!助かった~!」
とミラベルを見上げてニパァ~と笑うクロエに、ミラベルは
「アタシが急かしたからだよ、ごめんねクロエ。慌てなくて良いよ。ゆっくり仕度して?出来るまで待つから」
と苦笑してクロエを立たせる。
クロエは笑いながら大きく頷いて
「うんっ!お姉ちゃん優しいから大好きっ!待ってね、ゆっくり急いで用意するからね~」
と変な言葉を口にしながら行李の蓋を開けて、服を用意し出す。
ミラベルは妹の言葉を聞いてクスクス笑い出すと
「それじゃ、ゆっくりか急ぐかわかんないね。良いよ~。大好きな妹は幾らでも待ったげる」
とベッドサイドに座って、足をブラブラさせながら妹を見守る。
寝間着を脱ぎながらクロエも
「ハハ、ホントだ~。アタシ何言ってんだろね。やっぱり一番頭悪いや~」
と笑いながら今度は着る服に手を入れる。
すると部屋の扉をノックする音がして、外から
「おはよう~。ねぇ、お姉ちゃんもクロエも起きたの~?仕度出来た?入って良い~?」
とコリンの呑気な声がした。
ミラベルは慌ててベッドから降りてトトトッと扉に走り寄ると、扉を押さえながら
「おはよう、コリン!
入っちゃダァメッ!今クロエが着替え中なのっ。男の子は女の子の着替えを見ちゃ駄目なんだよ!当たり前でしょ!
先に食堂に行ってなさいっ。アタシ達も後から行くからっ!わかった?」
と舌鋒鋭く、コリンに言い聞かせる。
コリンは扉の向こうから不服そうに
「えーっ!クロエは妹なんだから良いじゃないか~。未だ1才なんだから、着替えだって手伝ってあげたいし。一緒に食堂に行きたいもん。ミラベルお姉ちゃん意地悪言わないでよ~」
とミラベルに文句を言う。
クロエが後ろから
「あの~お姉ちゃん?アタシは別に見られても……」
と苦笑しながらミラベルに言おうとしたが、ミラベルはクロエに振り向き、シッ!と言いながら指を1本立てて口に付けながら黙るように指示する。
クロエは苦笑したまま頷く。
「あ、おはようクロエ!起きてたんだ、じゃあさ……」
と扉の向こうからクロエに入室許可を貰おうとしたコリンの声を、ミラベルが遮ろうと
「礼儀は大事っ!妹だからって、そこはきちんとしなきゃ駄目っ!
……でないと礼儀知らずのコリンお兄ちゃんって、その内クロエに嫌われてもアタシ、知らないわよ?
良いのかしら、コリンお兄様?」
とコリンを脅す。
すると扉の向こうで小さな悲鳴があがり、横からクスクス笑いも聞こえてきた。
「な?だから言ったろ、コリン。朝は着替えがあるから、食堂でいつも通り待ってた方が良いって。
ミラベルはしっかりしてるからね。そういう所は特に厳しいんだよ。知ってるだろ?
クロエは未だ1才だから考えないだろうけど、僕はミラベルに従った方が良いと思う。諦めよう、な?
じゃあ先に行ってるからね、2人とも。
行くよ、コリン。お出で?」
扉の向こうからライリーがミラベルに声をかけ、ミラベルの指摘にショックを受けたコリンを連れて部屋から離れた。
「全くあの子ったら。クロエが大好きなのは判るけど、極端すぎるのよね。
お兄ちゃんが一緒で良かったわ。
さて、クロエも着替え済んだ?じゃあ行こっか!」
とミラベルはクロエを見る。
クロエは寝間着を抱えて
「洗い場行くなら持ってかなきゃね。お姉ちゃんのも持ったよ~!」
とにっこり笑う。
ミラベルもフフッと笑うと
「さっすがクロエ!じゃ、行こ!」
と言って、クロエから汚れ物を受けとると手を繋いで洗い場に向かった。
食堂に行き皆で朝食を食べたあと、コリンは父と畑へ。クロエはコレットとお喋りしながら家事を手伝う。
ミラベルとライリーはディルクの小屋の勉強部屋で講義だ。
ミラベルはライリーと小屋に向かう際、兄に打ち明ける。
「お兄ちゃん、今日実は講義じゃないの。アタシが勝手を言って、ディルク先生に話を聞いていただく事になっているのよ……。ごめんなさい、アタシの我が儘で」
とミラベルが兄の目を見ながら、謝る。
ライリーは目を丸くして
「講義じゃない?……ミラベル、何か先生に相談したいことがあるのか?
僕じゃ相談に乗れないことなのかい?
……というか、今僕に話すってことは、父さんや母さんにも知られたく無いことなんだね。
なら僕も聞かない方が良いのなら、席を外すよ。木工小屋にでも行っとくけど、その方が良いかい?」
とミラベルを気遣う。
ミラベルは小さく首を横に振り
「お兄ちゃんも一緒に聞いてほしいの。だから付き合ってくれる?」
とライリーを見上げる。
ライリーは片方の眉を心持ち上げて、ミラベルを見つめる。
「僕にも聞いてほしい?
一体何の話なんだい。……ああ、先生の所へ先に行こう。話はそれからだ」
と頷くと、ミラベルから視線を外し小屋に向かう。
そしてミラベルもライリーに付いて小屋へと歩く。
(……考えないようにしていたけど、やっぱり無理。聞いていただこう、あの人がこの森に来る前に。
……妹のクロエに再会する前に……)
ミラベルは目を伏せて、決意を固めるのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




