71. 老教師の提案
お読み下さりありがとうございます。
今話で一応1才迄の時間は締めくくります。
次話から、少し時を進ませます。
マズいことをしでかしました。オーウェン君の髪を以前黒髪ではない設定にしていたのを、今思い出しました。
以前のその設定は破棄し、訂正してあります。
オーウェン君は黒髪でビリジアンの瞳です。
忘れっぽい作者で申し訳ありません。覚えてる読者の方居たらすみません。
「アナスタシア様のお子様が来られるんですか!……でもどうして?ジェラルド様のお孫さんですから、来られても不思議は無いとは思いますけど。別領地の人里離れたこんな田舎まで、そんな小さな子供さんがわざわざお越しになる理由があるのですか?」
とクロエは首をかしげてディルクに問う。
「前々からオーウェン殿が、黒き森と守るべき地の視察を望んでおられたんだ。しかしお小さいと云うことで、中々お許しが出なかった。
しかし後2年もすれば彼も騎士団に入る事になるので、未だ時間に融通が利く今が視察の良い機会だと両親もジェラルドも判断したらしい。
……彼も非常に利発なお子でな。ライリーをより落ち着かせた感じの少年だ。もう一人アナスタシア嬢には娘が居てな。エレオノーラ嬢と仰るんだが、どちらも非常に出来た子供達だ。
儂はあの2人のお子達と、このシェルビー家のお子達程、頭の良い子達を知らぬわ。特にオーウェン殿とライリーには舌を巻く。
ただ、オーウェン殿が来られるかどうか未定なのには理由がある。
彼は9才になるんじゃが、魔力の発現が見られる第二次成長期が今でな。それに対応している状況なんじゃよ。
特に彼の場合は、気を付けてやらないと何が起こるか解らないからな。終わるまで周りがピリピリしておるんじゃ」
とディルクが、かいつまんで説明をしてくれる。
「そんな体調の時には、無理して来ない方が良いんじゃありませんか?
よく知りませんが、第二次成長期はアタシの経験した第一次成長期より危険な状況になりやすいんでしょう?
アナスタシア様のお子様に何かあったら大変ですし、来年に出来ないのですかね?」
とクロエが心配そうに眉をしかめて、ディルクに意見を言う。
「まぁ其方の懸念は尤もなんじゃが、そうも言うてられん事情がある。
オーウェン殿には第二次成長期を無事に乗り越えて貰い、自身の魔力を早く操作できる様になって貰わねばならない。
そして、それは彼が一番強く願っている事でもあるのでな。周りも彼に期待をしておるんじゃよ」
とディルクが事情が有ることを説明する。
クロエは尚も眉をしかめて
「とても優秀なお子さんなんですね。ならば尚の事、体調第一で視察日程を組まなければならないと思うんですけど……」
とさっきの説明で視察予定をずらせない理由が無かったことから、彼女は懸念を再び口にした。
ディルクは苦笑しながら
「実は来年でも構わなかったのだが、そうも言うてられん事情が彼側でなく、フェリーク側に出来たんじゃ。
彼はつい最近までその変化した事情を知らされていなくてな。聞かされた時には大変な衝撃を受けたらしく、第二次成長がそれを切っ掛けに始まった位じゃ。
既にいつ始まっても可笑しくは無かったんじゃが、彼が強く願った為に魔力が意志の力で動いた様でな。
意思の強固なオーウェン殿らしい話だと思う。
発動は彼の意志の力が切っ掛けになったのだから、最初からほぼ魔力発動が操作出来ているに等しい状況だ。
その話を聞いてたまげたよ。
普通は己と言う“器”に貯まった魔力が溢れだして、それが切っ掛けに第二次成長期が始まる受動型発症が殆んどなんじゃが、貯まった魔力を意志の力で発動させ、魔力発現まで起こす能動型発症は儂もあまり聞いたことがない。
其方の魔力暴走はある意味能動型発症だったが、意志では無かった。
彼の場合は完全な能動型だ。
恐らく魔力操作は問題なく出来ている筈。後はその魔力の流れを整え、魔力を抑えきる。そして又発動させ、自由に発現可能とする。そこまで出来るようになって第二次成長を終えたことになる。
彼ならば、今頃は既に終えておるであろう。後は体力の回復とこちらへの移動時間がどのくらい係るか、じゃな」
と説明を足す。
「フェリーク側に、ですか?そんな小さなお子さんを頼りにしなければいけない程、フェリークで何か問題が起きているのですか?」
とクロエが心配そうに問う。
ディルクが暫く考え込んでいたが、やがて首を小さく横に振ると
「非常に微妙な問題でな。今は実際には起きてはおらんし、又暫くは心配しなくても大丈夫な件なんじゃが、フェリーク領とインフィオラーレ領の最高機密なのだよ。おいそれとは話せぬ。ただ事が起これば、オーウェン殿しか対処は出来ぬとされておるし、大人では誰もその能力の持ち主が今確認されておらんのじゃ。
彼には重責を背負わせる事にはなるが、彼自身その件は誰にも任せたくないと覚悟を決めている。
アナスタシア様始め、彼の身内もその意志を尊重しておる。
ジェラルドとて同じこと。だからこそ奴も、此度の視察にはオーウェン殿を是非同行させたいんじゃよ」
とクロエに話す。
「その最高機密って……この森やあの守るべき地に関わりがあるんですね。何だかオーウェン様に申し訳無いな。
アタシも何かお役に立てたら良いんですけど、何も出来ないのかな……」
と会ったことがない重責を背負った少年を思い、力無い自分を自嘲するクロエ。
ディルクは微笑み、クロエの肩を軽く叩きながら
「ある。オーウェン殿が視察に同行できたら、温かく迎えてやってくれないか?
只でさえ領主の息子として厳しく仕付け育てられ、類い稀な能力の持ち主として重責を背負い、そしてそのどれもに不平不満一つ漏らさず精進を続けている少年だ。心休まる時が余りあるとは思えん。
アナスタシア嬢もジェラルドも、あの子の精神面の強さはよく知っておるが、それでも不憫に思っている事じゃろう。
せめて視察の際には、普通の少年の様に振る舞わせてやりたい。
森の中なら人目を気にする必要が無いしな。クロエ、頼めるな?」
と優しく頼む。
クロエはディルクの少年への思いやりを嬉しく思いながら
「そんなの頼まれるまでもありません!
アナスタシア様のお子様だし、ジェラルド様のお孫さんでもあるのですよ。
アタシがどれだけ感謝しても仕切れない方達の大事な方を、アタシが大歓迎しないなんて有り得ません!
アタシが出来る限りの事をして差し上げます!
……まぁ、小さいアタシに出来る事なんて限られてますけど。料理も出来ないし、力仕事も出来ないしけど……。
でも、絶対に笑って過ごして頂けるようにアタシ全力でおもてなししますからね!お任せください、先生!」
とニッコリ笑って胸を叩く。
ディルクは嬉しそうに笑いながら、1つ思い出したようにクロエを見る。
「……実はな、オーウェン殿には亡くなられた妹君が居られるのを其方は知っておるかの?」
クロエはハッとしたようにディルクを見て小さく頷く。
「はい。確かアナスタシア様はそれで体調を崩されて、フェリークに静養に来られていたのでしたね。
アタシと殆んど変わらない時期にお生まれになったと聞いてます。
そして直ぐに亡くなられたと、アナスタシア様が教えてくださいました。
そのお話をされてからアタシを抱いてくださって……震えておられたのを覚えています。
そうか、オーウェン様も同じ悲しみを……」
とクロエはアナスタシアの姿を思い出して、胸を詰まらせる。
ディルクは小さく頷き、クロエを見ながら
「……偶然だが、オーウェン殿は其方と良く似た容姿なんじゃよ。
……黒髪に深い緑の瞳でな。
エレオノーラ嬢は真っ青な髪に深紅の瞳で全く違うんじゃが、亡くなられた妹君はオーウェン殿と同じ黒髪であられたと聞いている。
つまりは其方と良く似ておった筈じゃ。
恐らくオーウェン殿は其方を見て、亡くなられた妹君を重ねられるのではないかと思う。
だからそんな其方がオーウェン殿に甘えたりしてあげると、きっと喜ばれるのではないかな?」
と提案する。
それを聞いたクロエは目を丸くして
「そうなのですか?
亡くなられた妹さんはアタシとそんなに似てるんだ……アナスタシア様もそれであんなに……。
偶然って不思議ですね。
でもアタシみたいながさつな子が、そんなしっかりしたオーウェン様に甘えたりして許されるのかしら?
寧ろ嫌がられそうな気が……」
と、しっかりした少年に甘える自分を思い描いて、思わずウエッと吐く真似をする。
ディルクは表情を曇らせて
「いやか?」
とクロエに聞く。
クロエは
「嫌では無いですが、先生気持ち悪くないですか?アタシが甘える姿。
何か自分で想像して、気持ち悪くなっちゃったんですけど……」
と自嘲気に話す。
ディルクは呆れたように
「其方、鏡を見たことは無いのか?
其方の見た目は物凄く可愛らしいではないか。
可愛らしい其方が甘えて、何で気持ちが悪いんじゃ?」
と腕を組んで理解できないと言いたげに首を振る。
クロエはディルクを見上げ、ハッとした顔になり手をポンと叩き
「忘れてた!アタシ今、可愛いんだ!
イカンイカン、つい雅のつもりになっちゃうわ。
いやぁ25才の女が9才の子に甘えてる姿を想像しちゃったんですよ~!
そうか、今のクロエなら可愛いわ!
大丈夫、出来る!
甘えても問題ない!いける、アタシ!」
と大きく頷いて自信を見せる。
ディルクは一人納得しているクロエを見て
「……しかし中々大変なんじゃのう。25才の精神が1才の体に居るのは。
そうか、前の自分を重ねておったか、
それは確かにキツそうだの。
儂は其方の前の容姿を知らぬが、そんなに体が拒否する程、なんというか……甘える姿が似合わん容姿だったのか?」
と首を捻る。
クロエはディルクを見て
「いや、自分で言うのもなんですが、普通程度の見た目でしたよ?ただ何て言うか、そう言う素振りが似合う性格ではありませんでしたし。
性格は今のアタシ見てたら解りますよね?こういう可愛いげの無い女でしたからね。
今の容姿なら、25才になって甘えてもしっくりくるかな?
先生どう思います?」
と見上げながら首をかしげる。
ディルクは苦笑しながら
「今の見た目なら似合うぞ。
しかし確かに性格は甘えるには些か辛い面があるのう。
まぁ女の武器を使わんでも、其方なら何とでもなるじゃろ。
……一体何の話をしとるんじゃ、儂等は」
と鼻を鳴らす。
クロエも
「何で先生と話をしてると、こんなに横道に反れちゃうんでしょ?不思議だわ~」
と明後日の方向を見る。
ディルクは又鼻を鳴らすと
「……全く。話を元に戻すぞ。
オーウェン殿の件はそのように頼んだぞ。可愛い見た目を最大限に使え。この際其方の性格は考えないようにせよ。
まぁ未だ未定だから、家族には話さぬようにな。その点も頼むぞ。
後、州都に行ったら其方の道具が出来てる筈じゃ。持ち帰ったら渡そう。その時に他に欲しいものがあれば言っといてくれ。ついでに仕入れてくる。
あの件については、ジェラルドにはちゃんと話をしてくるから安心しなさい。
それから、儂が州都から帰ったら魔力の講義をしよう。下手に本だけ渡すと、其方の場合訳がわからん想像をして何を引き起こすか解らんからな。
コリンの勉強の進め方も決めておかんとな。帰ったら講義の時間割りを全て変えねばな。忙しくなるぞ。
儂が帰るまでに、体調をしっかり整え筋力を着けておくこと。良いな?」
と指を振りながら、クロエに指示を次々下す。
クロエはニヤリと笑い、片手を額に当てる敬礼をして
「全文了解しました!先生!」
と返事をする。
「なんじゃ、その手は?」
「前の世界の騎士に当たる仕事の方達が、命令を受けた時なんかにされていた礼です。格好良いでしょ?1回やってみたかったんです~」
と笑うクロエ。
ディルクはクッと笑うと
「其方は飽きんな。まぁエエわ。しっかり頼むぞ?
さて、儂も其方の家族に話をせねばな。其方は暫く休みなさい。睡眠は今の其方には一番大事だからな」
と言いながら部屋を出ていく。
クロエは笑いながら、言いつけ通りに眠りに付いたのだった。
次話は明日か明後日投稿します。




