68. 聞かれてはいけない話
お読みくださりありがとうございます。
コリンはクロエの良き兄であろうと決意しています。
そんな決意を見極めた周りの者がコリンに話をします。
「魔力の勉強?!」
クロエは夕食を食べながら、ディルクからの提案に驚きの声を上げた。
ディルクとの話し合いの後、泣き疲れて眠ってしまったクロエは、夕食の時間に起こされるまでぐっすり眠ってしまった。
元々体調が良い筈は無かったので、もし声を掛けても起きなければ、家族はクロエをそのまま寝かせておくつもりだった。
しかし食い意地だけは人一倍強い彼女はミラベルの
「ク~ロエ!夕食だよ~。眠いなら寝てても良いけど、食べる~?」
と云う、いつもより小さめの姉の呼び掛けでパッと目を開け
「食べるっ!」
と食い付いた。
ミラベルは判ってると言いたげに頷き
「父さ~ん、アタシじゃクロエを上手く連れていけないから、抱っこしてあげて~!」
と部屋の中から今度は目一杯の大声を張り上げる。
直ぐにガルシアが飛んできて
「クロエ、夕食大丈夫か。良かった!さあ連れていくから、父さんにしっかり掴まりなさい。体が少しでも辛かったら言うんだよ?未だ本調子には程遠いんだからね」
とクロエを優しく抱き上げ、食堂に連れていく。
「ああ、起きられたのね。力は入るかしら?明日以降は、少しずつ筋力上げる為に軽い運動をベッドでしていきますからね。
今日は座るだけでも大したものなんだけど、大丈夫そうで安心したわ。
さあ、ご飯をしっかり食べなさい~。体作りは先ず睡眠と食事よ~!」
とコレットが他の皆と変わらない食事を用意してくれていた。
「わ、いつもの軟らか目じゃない!何で?」
とクロエが自分の食事を見て目を輝かせる。
以前は奥歯がまだ生えていなかったので、前歯だけで噛みきれて歯茎で咀嚼出来るようにコレットがクロエ用に取り分けて、食事を用意していた。
だが、今日は違う。
硬いものは硬いままだ。
見た目の色彩や素材自体の旨味は軟らかく煮ると殆どの場合逃げてしまうので、程好い硬さで調理を終えている今日の食材は、いつもより色も鮮やかで旨味も残り、とても美味しそうだ。
「だって歯が生えたでしょ?なら噛めるもの。クロエも美味しく噛める物が食べたかったんでしょう?いつも軟らか過ぎって顔が不満気だったし。
見てたら解るわよ、母だもの~!」
とコレットがニッコリ笑う。
クロエが感動で思わず両手を握りこぶしにしてグッと引き寄せ
「いやったーー!」
と雄々しく喜ぶ。
「そ、そんなに嬉しいんだ……。クロエってホントに食べるの好きだよな……」
とコリンがクロエの喜び方に若干退きながら、感心している。
「うん、アタシ食いしん坊だから!食べるの大好き!」
と目の前の食事から目を離さず、コリンに肯定する。
(意識を持ったときから早一年!どれ程噛み応えのある普通の食事を切望していたことか!コリンお兄ちゃんには解るまい……。わ~いわ~い!やっと普通食の毎日がやって来た~!)
泣きそうになるくらい嬉しいクロエ。
コレットがそんな末娘を満足気に見守る。
家族皆が席につき、コレットが最後に座って皆を見渡し
「じゃあ、皆で手を合わせていただきます!」
と食事に礼をとる。
家族プラス老教師から同じ様にいただきますの声が聞こえて、和やかに夕食が始まった。
その食事の席でのディルクから持ち出された話に、クロエはパンを千切る手を止めた。
「アタシがですか?……まだこんな小さい赤ん坊なのに?」
とディルクに戸惑いを隠さずに聞く。
只、今の台詞に周りに座っている家族は生暖かい笑顔になる。
(普通の赤ん坊は自分の事、赤ん坊って言いません。クロエは見た目が赤ん坊なだけだよ……うん)
というのが家族全員の感想である。
ディルクも同じ感想を持ったのか、苦笑を浮かべつつもクロエに優しく言い聞かせる。
「其方は確かに1才足らずだが、既に魔力熱を出し、魔力暴走迄起こしておる。何も知らぬままだと却って危険なのじゃ。
実際今回の熱も暴走も、其方が魔力の存在を知らなかった事が、そもそもの原因でもある。
普通、魔力熱を出すのはコリン位からミラベル位の年齢なんじゃよ。
確かコリンは未だ魔力熱を出しておらぬよな、コレット?」
とディルクはそこでコリンを例に出し、コレットに確認をする。
コレットはコリンを見ながら
「はい、コリンは未だ出していませんわ。多分この子は少し遅くなると思います。
クロエを除いて、家で一番魔力熱を出すのが早かったのはミラベルですね。この子は確か3才になって直ぐでしたわ。ライリーは3才半。
魔力熱には精神的な成長が大きく拘わって来ますからね。女の子の方が早いんですよ。……まあクロエのような子は、他に聞いたこと無いですけど」
と子供達の話をする。
コリンが
「そうなの?僕は遅くなるの?……なんか僕又負けてる気がする……」
と言いシュンとしてしまった。
クロエが
「コリンお兄ちゃん、早いのが良いわけじゃ無いよ。アタシ見てたら解るじゃない。体が出来てないのにちょっとませてて(?)口が達者なだけで、魔力暴走起こして自分だけじゃなく皆まで大変な目に合わせちゃったんだもん。
……コリンお兄ちゃんもアタシみたいになりたい?」
と溜め息混じりにコリンに問う。
コリンがう~んと腕組みをして
「……ごめん、僕遅くて良いや。アレは確かに怖い」
とクロエに答える。
それを聞いたクロエは苦笑して
「でしょ?アタシだって選べるなら、遅い方が良かったもん」
とコリンに同意する。
2人の妙に悟った様な会話に、ディルク達大人がクスクス笑う。
「まぁ選べるもんでは無いからのう。
とにかくクロエは魔力暴走まで起こしたんじゃから、全く何も教えんままじゃと儂等も心配なんじゃよ。
ああ、因みに世間の子供が皆魔力熱を出すわけでは無いんじゃ。魔力熱は将来魔力行使が可能な者だけが、初めて魔力を体の中で動かせた時に出る熱でな。一生出ない者の方が実は多い」
とディルクが2人に話す。
クロエとコリンはディルクの話に
「「そうなんですか?!」」
と揃って驚いた声を上げる。
コリンが不安そうな顔になり
「じゃ、じゃあ僕は出ないかもしれないんですか?……家族で一人だけ魔力使えないかもしれないの?」
と泣きそうな声でディルクに聞く。
ディルクは笑いながら
「安心しなさい。ほぼ間違いなくコリン、其方は魔力熱が出る。それには理由があるんじゃよ。
魔力熱は魔力量によって出るかどうか決まるんじゃが、魔力量は両親を見れば大体予測可能じゃ。
ガルシアもコレットも魔力量は多い方でな。既に其方の兄弟皆出しておることから、其方も出るのはほぼ決まっておる。だから今変な想像をして泣きそうな顔をせずとも、近い内にきっと魔力熱を出して泣くことになるから安心しなさい……」
と些か怖い未来予測混じりの言葉で、コリンを慰める。
コリンは顔をしかめて
「それ聞いて安心できる人は居ないと思うな……ハァ。出すのも怖いし、出ないのもヤダし、嫌なもんだな魔力熱って」
と頬を膨らませた。
ライリーが笑いながら
「そんな心配しなくても、あっという間に熱は下がるよ。魔力熱は長くても1日位で熱が下がるんだ。クロエも熱自体はすぐ下がってたんでしょ?母さん」
とコレットに水を向ける。
コレットは頷き
「そうよ。クロエの熱はホントに直ぐ下がったわ。只、体力が無さすぎたの。
それにクロエの場合は、合併症とも云うべき魔力暴走が起こったから、あんなに寝込むことになったのよ。普通は半日から1日熱が出て、それが下がって2日もすれば歩けるし。
だから心配しなくて良いわ、コリン」
とコリンに微笑む。
その言葉を聞いたコリンがディルクを軽く睨み
「先生僕をからかったんでしょ?もぉ!」となじった。
ディルクは笑い、コリンに謝った。
そしてクロエに向き直り
「とまぁ話が逸れてしもうたが、クロエ、其方が魔力の勉強をしておいた方が良いのは、何となく理解出来たかの?」
と聞く。
クロエはコクンと頷いた。
そして我慢できないと云う体で
「あ、あの~……、アタシ魔力の勉強したら、直ぐに使えるようになっちゃうんでしょうかっ?!何かこう、指先から火を噴き出したり、めっちゃ雨を降らせたりとか!」
と、目をキラキラさせながらディルクに聞く。
ディルクはクロエの質問に一瞬目が点になった。
他の家族(コリンを除く)も同様である。
「……クロエ、夢を壊して悪いが、今は全く使えんぞ?因みに勉強してもしなくても、今の其方は魔力で何も出来ん。只、魔力が有るだけじゃ」
とディルクが淡々とクロエを諭す。
「「えっ!そうなの?!」」
と、これもクロエとコリンが揃って声を上げる。
「なぁんだ、直ぐに父さんや母さんみたいに使えないんだ~……。なら僕、もっと魔力熱出すの遅くて良いかも……」
と溢すコリン。
ミラベルが首を振り振り、溜め息を吐いて弟妹2人を見た。
「……あのね、先に魔力熱を出してるライリーお兄ちゃんとアタシが魔力行使してるとこ、アンタ達見たことある?魔力が使えるようになるのは第二成長期を越えてからよ!全く……」
と呆れたように説明する。
コリンとクロエはお互い顔を見合わせ
「兄ちゃん達が魔力使ってるとこ、クロエ見たことある?……僕そういや無かったな」
「コリンお兄ちゃんが見たこと無いのに、アタシが見たこと有る訳無いって。言われてみればって感じだよね~」
「あ、やっぱり?そうだよな、言われてみればそうだった」
と呑気なやり取りをする。
そのやり取りを見てライリーは思わずクッと笑い、ミラベルも
「……ホント、変なとこ気が合ってるわね、アンタ達って。見てて気が抜けるわ」
と笑う。
ディルクも笑いながら
「まぁ先ずは体調が回復してから、だがな。コレットが言うた通りに体を動かして、大丈夫じゃとコレットから許しが出たら講義に入ろう。良いな、クロエ?」
とクロエに確認をする。
「はい、わかりました!」
と元気良く返事をするクロエを見て、コリンが羨ましそうな表情になった。
「僕もクロエと勉強したいなぁ……。やっぱり僕お兄ちゃんなのに、クロエに何か負けてるよね……」
と肩を落とす。
ディルクはコリンを見て
「そう言えばコリン。其方、言葉と数字は覚えたのだな?」
と思い出した様に確認をする。
その問いに
「はい!クロエに聞いた単語作りをしてたら、何かあっという間に覚えちゃった!今はお兄ちゃんと文を作ってます。少しは書けるようになったし、もっとガンバって教えてもらわなくても、自分で文を書けるようになります。そしたら僕も勉強部屋に行かせてくださいね!」
と嬉しそうに返事をする。
それを見てディルクは、ガルシアとコレットを見て頷いた。
2人もディルクの表情を見て、頷く。
「どうしたんですか?」
とコリンが首をかしげる。
「勉強部屋に入って良いってお許しが出たのよ、コリン」
とコレットが笑う。
「もう木工作業部屋も入れるしな。頑張った甲斐があったな、コリン」
とガルシアも笑う。
「ホントに!良いんですか、先生?!」
とパアッと顔を輝かせるコリン。
そんなコリンをライリーやミラベル、クロエも笑いながら見守る。
「クロエが入れるのに、今のコリンが入れぬのはおかしかろう?無理無く勉強出来るよう、儂も勉強内容を考えておこうな。2・3日中に其方に話が出来るようにしておく。少し待っておくれ、コリン」
とディルクも笑う。
コリンは
「はい!よろしくお願いします!やったぁ!」
とクロエが普通食を見て思わず取ったポーズを取る。
「あ。クロエの喜んでた時の格好しちゃった。……この格好、嬉しいと何かやりたくなるね、クロエ」
とコリンがその格好のまま、クロエを見る。
クロエも頷き
「でしょ?力入るんだよね、この格好……お兄ちゃんに理解して貰えて嬉しいよ」
とコリンと同じ格好をした。
「確かに妙に気が合ってるな、2人は」
とガルシアが笑った。
夕食後、体調が未だ戻っていないクロエはコレットとミラベルに連れられて、女の子部屋に引き上げていった。
コリンも自分の食器を片付けようと立ち上がりかけた時、ディルクやガルシア、そしてライリーにもう一度座るようにと言われた。
首をかしげながら席に着いたコリンに、ディルクが真剣な顔で話をする。
「すまんな、コリン。実は其方に別の話をしたくてな。……クロエには聞かれるわけにいかない話なんじゃ」
コリンが目を見開く。
「クロエに聞かれるとダメって……どういうことですか?……まさかクロエ、体が又どこか悪いの?又苦しむの?先生?!」
と詰め寄る。
ガルシアが首を横に振り、コリンを宥める。
「そうじゃない。クロエの体はもう大丈夫。その話ではないんだよ。……今じゃない、近い未来にクロエに起こるかもしれない話だ。……この話はクロエとお前以外は既に知っている。お前が話を聞ける時期が来たら、直ぐに話そうと決めていた話だ」
コリンがライリーを見る。
ライリーもコリンを見て頷く。
コリンが大人達に向き直り、怖々(こわごわ)聞く。
「一体クロエのどんな話なの……。クロエに何で聞かれちゃダメなの?僕、クロエに隠し事なんてしたくない……。もう、意地悪なお兄ちゃんは嫌なんだ……」
と言って俯いてしまった。
ライリーが静かにコリンに話す。
「違うよコリン。意地悪でクロエに聞かせないんじゃない。先生がそんなことする訳無いだろ?聞かせたらクロエはきっと気にする……だからなんだ。クロエを守るために、兄であるお前は知っておく必要があるんだよ」
コリンが顔を上げて
「え、何て?……クロエを守る?……何からクロエを守るの?」
と戸惑った表情で兄を見た。
ディルクが
「これからそれを話す。しかしクロエには絶対に知られてはならぬ。コリン、良いな?」
とコリンが今まで見たことがない厳しい顔になる。
コリンは息を呑んで周りを見る。
冗談やおふざけで無いことは、既にわかった。
震えながら俯くと目を瞑り考える。
周りはそんなコリンを表情を変えず見つめる。
やがてコリンは顔を上げ、周りを見てからディルクに顔を向け大きく頷いて言った。
「クロエの為なら聞きます。僕はお兄ちゃんだから。妹なんだもの……守るって決めたから」
ディルクが微かに笑んで頷いた。
次話は明日か明後日投稿します。




