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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
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65. クロエの告白 その1

お読みくださり有り難うございます。


クロエが、前の世界の記憶を語り始めます。

ディルクは魔力暴走を若干心配していますが、それは起こりません。念のため。


独白になるので、くどい内容かもです。

 クロエは静かに前世の記憶を持っている事を、先ずディルクに告白した。


 只、前の世界の存在については余りにも荒唐無稽な話なので、ディルクの反応がやはり気掛かりであった。


「……おかしな事を言っていると思われても仕方ありませんが……子供の夢の中の話だと、まともに相手にされる話でない事も承知した上でお話しします。

 そんな馬鹿な話でも、お付き合い下さいますか……先生?」

 と少し心配そうな目をディルクに向けるクロエ。


 ディルクはクロエを見つめながら、軽く頷くと

「……異世界とは確かに俄には信じがたい話ではあるが、儂は其方が嘘を吐いているとは全く思わぬ。……信じるよ。

 実は其方の提案した道具や九九は、あの後どれ程調べてもこの世界には未だかつて存在したことのない代物ばかりじゃった。

 だから今の其方の話は、その道具類の事を知っている儂には、寧ろ腑に落ちるものでしかない。

 安心せよ、馬鹿にしたり怒ったりなどせぬよ。……先を頼めるかな、クロエ?」

 と微かに笑みを浮かべて彼女を安心させるような表情を見せ、話の続きを促す。


 クロエもホッとしたような表情を見せ、ディルクにもう1つお願いをする。


「先生、ご理解戴けるように上手く話せるかどうか判りませんので、もし解りにくい点やもっと詳しくお知りになりたい点があれば、アタシの話の最中でもご指摘下さいね。

 実際何から話をすれば良いか、自分でも解らないので、思い付くままに話をすることになりますし。

 ……いつでもお話出来る内容では無いですから、余りこの機会以外で口にすることは避けた方が無難でしょう?」

 と苦笑を湛え、クロエが尋ねる。


 ディルクも深く頷き同意する。


「ああ、其方の言う通りじゃよ。知る者は少ないに限る。……其方には辛いことだと思うが、例え身近な者でも、この話を受け入れられるとは限らない。其方の心配は当たっておる。だからこそ儂も闇性結界を張ってまで、其方の家族にも聞かれぬように采配をしたのじゃからのう」


 クロエも頷き小さな息を吐いてから、ディルクから何もない部屋の中に視線をさ迷わせる。


 そして、静かな声で彼女は語りだした。


 この世界から見れば荒唐無稽な、だが確かに彼女が生きたあの世界の話を。





【……アタシの居た前の世界は、実はこの世界と似ています。ですが魔力や魔法の全く無い世界でした。ただ、この世界より全てのものが発達していたと思います。科学の力で発展してきた世界だったんです。


 アタシはその世界の中でも、特に科学が発達していると評判の“日本”と言う国に生まれました。日本はあの世界の中でも特に変わっていて、他の国とは海……お分かりになりますか?……はい、それです、その海に囲まれた国だったので、陸続きで接している国がない、独自の色濃い文化を持った国でした。


 又、他の国に比べて争いが極端に少ない国でもありました。勿論文化の違いでの他国との摩擦、国の境界線を引く領土争い、幾つかの国との大きな争い、国の内乱などは歴史上散見されますが、それでも突出して、争いの少ない国でした。


 だから、国の人達も比較的穏やかで、独自の決め事や思いやりで大きな災害などがあっても力を合わせて乗り越えていく事が出来る、そんな穏やかな国でアタシは生まれ育ったんです。


 それにあの国には身分差はありませんでした。厳密には確かに国の象徴とされた天皇陛下や宮家と云う方々は居られましたが、国の中枢ではなく、政治経済は国の人々が自分達で国を采配する者を選び、動かしていく世界、民主主義の国でした。


 ……日本でのアタシは、羽海乃(うみの) (みやび)と云う名前の、ごく平凡な家に生まれた女の子でした。家族は両親と姉、弟の5人家族で、離れて住む父方の祖母が一人居て。……今の家族同様、とても家族仲が良くって、アタシはとても愛されて育ちました。クロエの今と余り変わりませんよね。アタシは愛情豊かな両親に何不自由無く育てられ、酷い迫害や差別を受けること無く、毎日が楽しく輝いた日々を送っていたんです。


 頭は残念ながら、悪くはない程度の知能でしかなかったんですが、それでも日本の大多数の子供が通う学校を全て普通に卒業し、最高の学術機関になる大学も何とか卒業することが出来たんですよ。


 日本ではコリンお兄ちゃん位から集団生活を学びます。ライリーお兄ちゃん位になれば、国民の義務として小学校という子供の学術機関に通い、学問を集団で学ぶ様になっていたんです。勿論学問は多岐に渡っていて、読み書き算術、歴史、科学、後体術等も必須で学びました。


 あの世界でも日本は識字率……読み書きが出来る人の割合なんですが解ります?……良かった、それが100人中99人にもなる非常に高かった国なんです。


 色々異論はあったんですが、アタシ自身は教育の進め方が非常に整った国であったと考えています。


 アタシはそんなしっかりした教育を受けさせてもらった後、会社という経済を動かす1つの集団に属して、仕事をすることになりました。


 そこでのアタシは総務……皆の仕事の結果をまとめたり、仕事をする環境の整備や各役割に別れた人達の連絡係など、まぁ何でも屋的な仕事の役割をさせていただいてました。


 間が悪くて、鈍臭いのは前の世界の雅の頃からで、いつも嫌な役目を命ぜられたりしていました。

 でも凄い悪意等には晒されること無く、そういった意味では非常に良い仕事場を得ていたと思います。


 ……どうかしましたか、先生?口を開けたまんまですが……。


 ちょっと喉が渇いちゃったんで、そのテーブルの果実水、取って貰って良いですか?


 少し休憩しますね、勝手言ってすみません……】


 クロエはそこまで一気に話すと、ディルクから渡された果実水を美味しそうに飲んだ。


 ディルクはクロエをまじまじと見つめながら

「……しかし其方の話は凄いのう……いや、其方の前の世界は儂から見れば、夢の世界に等しい出来すぎの世界にしか聞こえぬ。

 何よりも、其方の話し方が聞きやすく又面白くてな。……これが優れた教育方法の賜物であることは、間違いないのう。

 其方の居た世界は、いや其方の国は素晴らしい国であったのだな、クロエよ。

 其方が誇らしく思っているのは語る言葉の端々に滲み出ておる。それに言葉使いがとても上品じゃ。

 これで普通の民草の教育程度であるとはな……。いや、本当に夢のような世界であるな。

 落ち着いたら又話を頼めるかの?クロエ。聞いていて楽しくなってきおったわ。先が聞きたいぞ!」

 とディルクは少年の様に目を輝かせる。


 クロエはディルクのそんな様子を少し嬉しく思いながら、果実水の入った器をディルクに渡して深呼吸をした後、又話の続きを始めた。






【有り難うございます。何か日本の事を褒められると、嬉しいな……。やっぱりあの国が好きだったんですね、アタシ。自分では普段そんなこと改めて考えたりしなかったんですけど、今二度と戻れない……そんな立場に立ってみて初めて分かりました。


 あ、ごめんなさい。話の続きをしますね。


 仕事はそんな感じでまずまず順調にこなしていました。何て言うか、アタシの性に合っていたんでしょうね。


 ただ、こんな話はすべきかどうか判りませんが、目的意識を以て高い志で仕事はしていませんでした。自分が生きていく上でお金が必要だから、仕事をしていたんです。


 アタシだけじゃなく、そんな考えの若者が多かったのも、日本が平和だったからでしょう。

 平和すぎて自分自身の価値を見失い、自ら命を絶つ……そんな人が他の国より多かったのも事実なんです。

 ぬるま湯に浸かったような人生だと、そんな風に何処か病んでいくのかな……。


 ああ、暗くなっちゃいましたね。話を変えましょう。


 日本は科学が発達していたと同時に自然豊かな国だったんです。


 この世界と似ているのは、日本にも四季が有った事なんです。


 日本では春夏秋冬、様々な色彩に溢れます。フェリークは百花繚乱、花で溢れると聞いています。日本も花や木、全てが色彩豊かなんですよ。


 それに楽しいことが大好きな国民性で、一年中何処かの街でお祭りを……お祭り解ります?ん~と、街の人々が集って踊ったりお酒飲んだりして、大騒ぎする……そうそう!やっぱりこっちの世界でもあるんですね!……している様な感じでした。


 別にお祭りでなくても、やれ桜の花が満開だ~と言えばお花見と称して大騒ぎ、やれ月が綺麗だ真ん丸だ~と言えばお月見でお酒と美味しい食事で楽しく過ごす。雪が積もれば雪合戦だ、雪で大きな像を皆で作って並べて楽しんだり……。とにかく何かと言えば、宴になったり、遊びになってました。


 先生はお酒飲まれます?いえ、アタシは弱くて~。だからいつも果実水みたいな甘い飲み物を飲みながら、雰囲気だけ楽しんでましたよ。……え?宴席が多いのが一番羨ましい?……先生ってやっぱり相当な酒豪でしょ~!いずれ先生にお酒をお注ぎしたいですね!


 ウフフ、そんな特別な機会の話はそこまでにして、普段の普通の生活の話をしますね。


 こちらでも州都アラベラにはお店が多いんですよね。日本は凄かったんです。お店だらけ!それも中には一日中一年中休み無く開いているコンビニエンスストアがもう田舎でも在るんですよ!


……いいえ、違います。夜も開いてるんです。そう、真夜中でも!……信じられない?まぁ無理ないですね~。日本はあの世界でもサービス過剰で有名でしたから。


だから、いつでも買い物に行けました。治安も良い国だったんです。だから真夜中でも女性が一人で買い物に出たりする人もいましたよ。


……アタシはしてません!先生そんな怖い顔で睨まないで下さい~。ホントですったら!両親がそういうところ厳しかったので。


 後、先生が喜びそうなのは……そうそう!交通機関!あの世界は魔力や魔法が無かったから科学が発達していたのはお話ししましたよね!電気と云う力があって、それを動力にして大勢の人々を1度に遠くに移動させる鉄道、電車が日本ではすごく整備されていたんです。


アタシこの世界は馬車しか知らないんですが、他には有ります?……わ、やっぱり魔力を使った移動手段があるんですか!へえ~、いつかそれをアタシ体験したいなぁ!

……電車以外にも自動車、火の動力で動くものと電気の力で動くもの、その両方を使うものもありました……それに空を飛ぶ飛行機や……え、鳥じゃあるまいし?いえ、それが飛ぶんですよ~鉄の塊が火の力で!……大砲の弾かって、大砲はこの世界にもあるんですね~。


 ……何か話しすぎて、何を話して来たのか忘れちゃったなぁ……。先生、何かお知りになりたいことあります?


 ああ、果実水又頂きたいんですけど……有り難うございます~!

 

フゥッ!休憩します……】


 クロエが2杯目の果実水をディルクに淹れて貰い、ゴクゴク喉を鳴らしながら飲み干す。


 ディルクは頬杖を付きながら、クロエの話に所々突っ込みや質問を入れながら、楽しみながら聞いていた。


 「いやぁ、良くもこれだけ話の種が有るもんだ。又一つ一つが荒唐無稽なんだが、其方の話しっ振りで、ああ、確かに其方が経験し、見てきたんじゃな…と理屈抜きに判る。

 ……さて、其方も疲れたであろう。名残惜しいがニホンの話は又機会を改めて、今度は紙の言葉の意味を教えてくれぬか?……其方の身近な物なのであろう?さっき口にしていたこの最初の言葉の意味はなんだったんじゃ?」

 とディルクはクロエの持つ紙の一番上のサトシやアヤネ・エの意味を問う。


 クロエはディルクに又果実水の器を渡すと、紙に書かれたサトシやアヤネ・エの文字を愛おしそうに撫でる。


 「このサトシとアヤネ・エは前の世界の家族……サトシは弟で、アヤネ・エではなくアヤが姉でした……。凄く仲が良くって、いつもじゃれあっていましたね……。」

 と云うと少し顔を上に向けて、何かを堪える様に唇を噛み締める。


 やがてフゥ……と小さな息を吐くと、紙の内容の説明を始める。


 「……この言葉を読み解いていて分かったんですが、この寝言を喋った時、アタシ前の世界の家で姉や弟とじゃれあっている夢を見ていたんでしょうね。

 

サトシにはジャマ……この世界で言う邪魔です……それを言って、自分の視野から退かそうとしていたんですよ。

 姉のアヤには美味しそうなお菓子……このマドレーヌって言葉はお菓子の名前なんです……を分けてくれって頼んだのに分けてもらえなくて、ケチ!って文句言ってたんですよ、きっと。

 

実はこの会話と言うか場面は、日常的だったもので、直ぐに分かっちゃいました。アハハ……格好悪いですね、アタシ。

 でも、そっかぁ……あれはアタシにとって一番記憶に残っている場面だったんだ……寝言で知るなんて、アタシらしいな……」

 と紙に書かれた姉と弟の名前を見ながら、微かに微笑むクロエ。


 ディルクはそんなクロエを痛々しそうに見ながら

 「そうであったか……姉や弟との触れ合いの記憶であったとはな……。

 ……さっき見ておらんかったが、この下の記録についてはどうじゃ?何か思い出す事はあるかの?」

 と彼女を励ますように、紙の下の方に書いた記録を指差す。


 クロエは目線を紙の下にずらし、ブツブツと小さく発音しながら指で記録をなぞる。


 「……えっ?これは……」


 ある記録の所でクロエは指を動かさず、止めてしまった。


 口も発音をやめてしまった。


 紙を見たまま、彼女は固まっている。


 「クロエ……?」

 ディルクがクロエの様子を不審に思い、顔を覗き込む。


 クロエは表情を消したまま、涙をポロポロ溢していた。


 心持ち俯いた顔から、彼女が持っている紙にポタポタと涙が止めどなく落ちて、それが書いた文字を滲ませていた。


 「クロエ、一体どうしたんじゃ!何が書かれてあったんじゃ!其方がそれ程に涙を流すとは、何があったというのだ?!」

 とディルクが慌ててクロエの肩を掴む。


 瞬きもせず、ただ涙が流れるままに紙を見つめ続けるクロエ。


 やがてクロエは紙のその部分を優しく撫で、震える声で発音した。


 「カッチャン……『カッちゃん』が……夢に出てきてくれたのね……」


 クロエは表情を消したままの顔をディルクに向け、涙を拭うこと無く彼に語る。


 「……これは……この言葉は……カッチャン……ある……小さな男の子の呼び名で……アタシが死んだ事故で、アタシが助けた……子……です……」


 ディルクの顔が、驚愕の余り歪んだ。


次話は明日か明後日投稿します。

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