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やりたい事をやる為に  作者: 千月 景葉
第一章 黒き森
63/292

64. 老教師との話し合い

お読みくださり有り難うございます。


すごく長くなりまして申し訳ございません。

2話分有ります。切れ目作れませんでした。


暴露回です。何話か続きます。

 コリンは木工小屋がことのほか気に入ったようだ。

 昼食時の食卓の話題はそれ一色。

 畑仕事も大好きだが、木工にも魅せられてしまったようで、今は父や兄の邪魔にならない場所で“ごっこ”遊びの様に仕草を真似するしか出来ないが、いずれ自分で色んな物を作りたいと嬉しそうに夢を語る。


 家族も目を細めながらそんなコリンを見守る。

 勿論クロエもその一人だ。


 実は、昼食は一人じゃなく皆と食べたいなぁ……と、寂しそうに呟いた妹が可哀想で堪らなくなったミラベルの嘆願により、母が食堂までクロエを抱っこして連れてきて、結局家族皆で久々の食事の時間を過ごすことになったのだ。


(本当にコリンお兄ちゃん変わったね……。無理してないかなって最初は思ったけど、寧ろ肩から力が抜けて斜にかまえた所が無くなった。色んなことが楽しくて仕方ないんだね。可愛い!)


 クッションに支えられ、赤ちゃん用の食事椅子に座っているクロエがニコニコ笑っていると、コリンが彼女に対し

「いつかクロエにも何か作ってあげる!」

 と鼻息荒く申し出てくれた。


 クロエは更にニッコリ笑うと

「ありがと、コリンお兄ちゃん!楽しみにしてるね!……でもアタシより、先ずは母さんとミラベルお姉ちゃんに作ってあげないと、だよ~」

 とコリンに提案する。


 コリンが目を丸くして

「えっ、何で~?クロエのがちっちゃいからと思ったのに?」

 とクロエに少し不満気に言う。


 クロエが優しく笑いながら

「だってアタシはコリンお兄ちゃんや家族皆に、いつもお世話して貰ってばかりだもん~!アタシは後まわし~。

 ……それにコリンお兄ちゃんも、母さんやミラベルお姉ちゃんにお世話になってるでしょ?

 やっぱりそこはいつもありがとうって気持ちで、お兄ちゃんが2人に何か作って渡してあげると、2人共凄く喜ぶと思うんだけどな~。

 ……どう?母さん、お姉ちゃん?」

 と母と姉に意見を求める。


 コレットは急に話を向けられて、戸惑いながらも

「えっ?え、ええ……そうだわね……。息子が私のために手作りしてくれたら、そりゃ物凄く嬉しいわ……ええ、そうね、クロエの言う通りよ、コリン」

 とコリンにニッコリ笑いながら、クロエの意見に同意する。


 ミラベルも

「確かに、あんなに手の掛かってたイタズラっ子のコリンから、手作りの物を貰えたら……アタシ嬉しくて飛び上がるかも知れないわね~」

 と腕を組んで頷きながら同意する。


 コリンが2人の反応にビックリして

「そ、そんなに?!……そうかぁ、いつもありがとうの気持ちかぁ……。うん、わかった!じゃあ、そうするよ!……クロエは後になっちゃうけど良い?」

 とクロエに申し訳無さそうに言うコリン。


「ウフフ、アタシはコリンお兄ちゃんの気持ちが凄く嬉しかったもの。いつまでも待つよ~!

 それにね、母さんとお姉ちゃんが喜ぶところ、実はアタシも見たいんだよね!だから頑張れ、コリンお兄ちゃん~!」

 とクロエはコリンを応援する。


 コリンは満面の笑みで

「うん!僕頑張るよ!……だけどまだまだ先だけどね……」

 と照れたように頭を掻く。


 ミラベルが

「いつまでも待つのは母さんもアタシも一緒よ?……だから怪我だけはしないで、ちゃんと父さんとお兄ちゃんに教えて貰って、そして自分で作るお許しが出てから、ね?」

 とコリンに優しく諭す。


 コリンは大きく頷いて、姉に応えた。


 父とライリーも、そんなコリンを頼もしそうに笑いながら見ている。


 家族は久々に和やかな食事の時間を楽しんだのだった。





 夕方になる少し前。


 客間で休んでいたディルクが、リビングにやって来た。


 そこにはガルシアとライリーとコリンが居て、ガルシアは本を読み、又ライリーとコリンは文字札と数字札で、勉強がてらの文字並べ遊びをしていた。


「ああ、すまんな邪魔をして。そのままにしていてくれ2人共。……ガルシア、少し良いかね?」

 とガルシアを呼び、小声で何かを伝える。


「……分かりました。では客間で?それともあの子達の部屋で……?」

 とガルシアが尋ね、ディルクが

「あの子の負担を考えると、あの子達の部屋が良いじゃろう。……昨日と同じだ。これからあの部屋で暫く時間を貰う。良いな?」

 とガルシアに答えた。


 ガルシアが頷くと、2人揃ってリビングを出ていった。


 コリンが

「……クロエの事だよね、お兄ちゃん……。又何か有るのかな……」

 と心配気にライリーを見上げる。

 ライリーは

「……先生がクロエに酷いことをする筈がない。大丈夫だよ、コリン。そう心配するな……」

 とコリンを宥める。


 コリンは兄の言葉を聞き、真面目な顔でコクッと頷いた。


(……あの時の寝言に関係するんだろうか。寝言だが、クロエが全く解らない言葉を話していたのは確かだ。

 クロエの中に居る誰か……その誰かが喋っていたんだろうか?

 ……でも僕には何も出来ないし、解らない。先生に任せるしかない。)


 ライリーはコリンに自身の不安を悟られないよう、口元に微かな笑みを湛えつつ弟の相手をした。





「クロエ、少し良いかの。ミラベルや、すまんがクロエと2人で話をしたいんで、暫く席を外して貰えんかのう?何度もすまぬな……」

 とディルクが女の子部屋に入ってきて、2人で喋っていたクロエとミラベルにこう言った。


 ミラベルが一瞬顔を強張らせたが、直ぐに笑みを浮かべ

「は~い、分かりました!じゃあ終わったら又戻るからね!クロエ、後でね~」

 と明るく振る舞いながら部屋を出ていった。


 クロエは姉に軽く手を振ると

「うん、お姉ちゃん後でね!」

 と応えた。


 ディルクはミラベルが扉を閉めたのを確認すると

「……さてクロエ、儂は今から其方の前で魔力を使う。目にしても驚かないのであれば良いが、もし自信が無ければ目を瞑りなさい。……どうかの?」

 と部屋の中央で立ち止まってクロエに問う。


「えっ!……先生も魔法使いなんですか?!いえ、大丈夫です!寧ろ楽しみですっ!だって、アタシ初めて見るんですよ!

 うわぁうわぁ、マジでそういう世界なんだ~!お願いします、先生!是非アタシに魔法を見せてくださいーー!」

 とクロエが思わず拍手をした。


 思わぬ反応にディルクは少々たじろいだが、コホンと咳払いを1つすると胸元から小さな袋を出した。


「先生、その袋を使って魔法を使うんですね!ステッキじゃないんだ!う~ん、何かワクワクする~!」

 とクロエは身を乗り出す。


 ディルクはクロエのノリノリの態度に

「……確か其方は魔晶石の話を聞いて、恐ろしさで卒倒したのではなかったか?今の態度をみていると、とてもそんな風には見えんのじゃが……。

 恐ろしさに震えて卒倒する位、魔力が怖いのでは無いのか?」

 と戸惑った表情で聞く。


 クロエはアハハと笑いながら

「あれは違うんです~。実はアタシ魔法や魔力って想像の中だけの物で、実際には存在しないもんだと思ってたんです。だからまさか身近なお姉ちゃんや母さんからそんな話が出るとは思わなくて、夢が現実になったーー!って気持ちが爆発してああなっちゃったんです~!

 まぁ確かに自分にも魔力があるなんて夢にも思わなかったし、魔力暴走なんて想像も出来ませんでしたけど。

 だから寧ろ目を覚ましてから、ホントに皆を騒がせて迷惑掛けて申し訳無かったなぁ、って考えてます……。

 すみません、馬鹿な理由であんな騒動を起こしちゃって。呆れますよね、ホント……」

 と肩をすぼめながら、頬を掻く。


 ディルクはクロエの思わぬ本音の告白に暫く呆然としていた。


「では……其方は魔力や魔晶石が恐ろしいのではないのか?……寧ろ憧れておったのか?!

 あれは魔力の存在を知った恐ろしさの余りの卒倒ではなく、嬉しさの余りの卒倒であったのか?!」

 とクロエが語った魔力暴走の真の原因にディルクは驚きの声をあげる。


 クロエはディルクの驚きように、益々身を小さくしながら

「そうなんです……はい。誠に申し訳ございません……」

 と俯きつつ呟く。


 ディルクはクロエの申し訳無さ気なシュンとした態度を見つめていたが、やがてプッと吹き出すと部屋に響くほどの大笑いを始めた。


「ワハハハハ!ワーーッハッハッハッハ!!グワッハッハッハッハ!

 ……いかん、ヒィーー!腹がよじれるわい!グワッハッハッハッハ!!!……」

 と腹を抱えて、涙を流しながら笑い続けるディルク。


 クロエはディルクの“壊れ様”に、アワアワと慌てふためく。


(どうしよう!アタシのあんまりアホすぎる話で、ディルク先生が壊れちゃったー!

 あんなに迷惑も心配も掛けといて、理由がこれじゃ、確かに情けなくて泣くの通り越して笑いたくなるかも~!

 わ~ん、言わなきゃ良かった~!)


 クロエが涙目で慌てているのを見て、何とか笑いを抑えつつディルクが言う。


「ブハハッ!……す、すまん!グハッ!ひ、久々に笑うて……ギャハハ!中々……クヒヒ!止まらん!ガハハハッ!……な、何とか治まってきたの……フゥ~……。ああ、腹が痛い……。プッ……、いかんいかん、落ち着け儂!フゥーーー……」

 と笑いの発作を何とか鎮めたディルク。


 クロエがアワアワしながら

「先生、しっかりしてくださいーー!

 ごめんなさい、ごめんなさい!アホなアタシでホントにごめんなさい!

 だから、正気に戻ってくださいーー!」

 とディルクに必死で謝る。


「ああ、大丈夫じゃ大丈夫!儂は正気じゃよ。そう涙目で慌てんでもよろしい。思いもかけない卒倒と魔力暴走の原因じゃったもんで、儂も久々に笑いが止まらなくなってしもうたわい。

 いや、クロエ。其方は本当に不思議な子じゃな!全く儂なんぞには計り知れぬ子じゃ!

 嬉し過ぎて気を失い、挙げ句魔力暴走まで起こすとは、規格外にも程があるわい!」

 と漸く立ち直ったディルクがクロエに言い放つ。


 クロエは顔を覆い

「恥ずかしい……ホントにごめんなさい!」

 と詫びる。


 ディルクは優しく笑いながら

「いや、流石はクロエじゃ。色んな事を考え付く其方じゃ、やはりこうでなければな!恐ろしさに卒倒するより、嬉しさで卒倒する方が儂は其方らしいと思うぞ!愉快じゃ、実に愉快じゃ!」

 と深く頷きながら、嬉しそうに語る。


 クロエは情けない顔をしながら

「アホな理由のがアタシらしいって……。アタシは先生の中でどんだけアホの子なんですか……うう」

 とガックリ肩を落とす。


 ディルクはそんなクロエを面白そうに見つめながら

「何で其方がアホなんじゃ?儂は其方ほど楽しくて賢くて良い子は他に知らぬぞ?いやぁ、儂は本当に其方に出会えて良かった!悔しいがジェラルドに感謝せねばの」

 と楽しそうだ。


 クロエはディルクの言葉を聞き

「アタシも先生に出会えて嬉しいですが、何か褒められても疑っちゃいますって~。

 ……アタシも自分のアホさ加減には、割合自覚がありますもんで……」

 と苦笑する。


 ディルクは

「プッ…自覚があるか!楽しいのう其方は!……さて、いつまでも笑ってばかりも居られんな。皆心配しとるじゃろうし、話を始めるとするか!

 では魔力大好きなクロエ。今から闇の魔晶石を使って闇性結界を張るでな。そんな派手な術では無いので期待外れかもしれぬが、許せよ?……では始める」

 とクロエに言うと先程の袋から小さな黒く光る魔晶石を取り出す。


「はい!……わぁオニキスみたい……綺麗な石ですね、先生……」

 とクロエは胸に手を当てながら、食い入るようにディルクの手元を見つめ、感想を口にする。


「………………………、我の意を汲み、その力を解放せよ。我らを隠し、我らを護れ!……!」


 ディルクが小さな声で何かを呟いている。

 一部はクロエにも聞き取れたが、後は耳慣れない呪文のような音にしか聞こえなかった。


 するとディルクの手にあった闇の魔晶石から黒い霞が立ち上がり、霞は部屋の内側に張り付くように薄く全体に広がる。


 まるで黒い霞の“蚊帳”に閉じ込められたように、部屋の内部を完全に霞が覆った。


「これが闇性結界……。何か煙が石から出て薄く広がったわ。……何か蚊取り線香の黒い煙バージョンみたい。いや、燻煙タイプの虫駆除剤か?」

 とクロエが全くファンタジーから程遠い感想を、ブツブツ呟く。


 ディルクは部屋の中央に、今の闇の魔晶石を置いた。


「これで良し。クロエ、闇性結界とはこの部屋の内側をあの“闇”で隙間なく覆うことにより、闇の外側からのあらゆる事象の侵入を阻み、並びに闇の内側からのあらゆる事象の流出を絶ちきるものだ。音も物体も生物も光ですら、この結界は通れない。……意味がわかるかね?」

 とディルクがクロエに言う。


「あらゆる事象を絶ちきる……?あ!じゃあ、く、空気も?!……ならこの内側の酸素がその内無くなって窒息するかも知れないってこと?先生、危険です!死んじゃいますよ!」

 とクロエが慌ててディルクを止めようとする。


 ディルクは訳が解らない表情になり

「クロエ、其方一体何を心配しとるんじゃ?サンソとは何なのじゃ……。

 まぁ良い。……恐らく其方は中の空気が澱む事を心配しとるのじゃろうが、あの闇が中の全てを保つ役目をしておる。従って空気が澱む事はない。安心せよ」

 と腕を組む。


「あ、ああ……なんだそっか。良かった、焦った~!って事は、この部屋は言うなれば超強力な防音室になったって事よね。

 ……先生、何でそんな結界を?何か家族に知られると不味い様……な……、まさか……」

 とクロエが顔を強張らせる。


 クロエの表情が強張ったのを見て、ディルクが重々しく頷く。


「流石に勘が良いな。……そう、実は……」


 ディルクが結界を張った訳を話そうとした時

「先生、アタシを処分するんですか?!あ、アタシ、実はそんなに先生に嫌われてしまってたんですか?!

 ウッ……た、確かにトラブルメイカーなのは認めますが、で、でも待ってください!わざとじゃないんですっ!

 アタシ、これからは心を入れ替えて、大人しくしますっ!本当です!

 だから!だから命だけは~!」

 と彼に向けて手を合わせて頭を下げながら、命乞いをするクロエ。


 そんなクロエを見て、ディルクは口をポカンと開いたまま、呆気に取られる。


 直ぐに立ち直ると顔を赤く歪めて

「其方は儂が、この中で其方を殺すとでも考えたのか!……失敬なっ!そんなことするかっ!クロエ、其方は儂を何だと思うとるんじゃ!」

 とクロエに怒鳴る。


「ひゃい!す、すみません、つい密室殺人の話を思い出しまして……。TVのサスペンス劇場を想像しちゃいました~。すみません、失礼な事を……」

 と身を縮めてクロエが謝る。


 ディルクはクロエの態度を見て少し表情を緩めると

「テレ?サスペ…何?……いやはや全く……良い事悪い事関係無く、実に色んな事を考えるのう其方は。又変な想像を其方がせぬように、先に説明せんとな。……今から儂は、其方自身が多分まだ家族には知られたくない話をする。それで結界を張ったまでじゃよ。分かったかの?」

 と優しく諭すように訳を話した。


「あ、なるほど!分かりました。でもアタシが家族に知られたくないと思ってる話って……あの事ですね。アタシがいずれ聞いてほしいとお願いしたあの件……それなんですね?」

 とクロエが表情を引き締めてディルクに問うた。


 ディルクはそれには何も答えずクロエの横に近寄ると、彼女が座っているベッドサイドの椅子に腰かけた。


「昨日……夕方頃、恐らく其方を苦しめていたあの痛みが消えたのか、其方は漸く安らいだ表情になり、眠り始めた。儂等も安堵してな。家族も緊張が取れて、ミラベルとコリンが其方の周りではしゃいでおった。……其方は余程苦痛との戦いで疲れたのか、横であの子達がはしゃいでいても、全く起きなかった。だからまさかあんなことが起きるとは、儂も想定出来なくてな……」

 とディルクが話を始めた。


 クロエはディルクを見つめながら、無言で頷き話を聞く。


「……儂が気付いたときにはその場に居たミラベルとコリンは既に耳にし、そして後からこの部屋に入った儂以外のコレットとライリーもアレを聞いてしまう事になった。

 予測は難しかったとは言え、知られる事を防げなかったのは儂の落ち度だ。

 ……クロエ、すまない」

 とディルクは頭を下げる。


「知られた……?アレを聞かれたって……。先生、一体何が……」

 とクロエが恐る恐るディルクに先を促す。


「……其方は寝言を喋っただけじゃ。だが只の寝言ではなかった。……儂等が全く理解できない言葉での寝言だったんじゃ……」

 とディルクが静かな声で応えた。


 クロエはディルクの言葉に目を丸くする。


「儂は直ぐにその場に居た家族を退出させ、闇性結界を張ったが勿論それは遅かった。……案の定、家族は其方が話した理解できない言葉の寝言に首をかしげておった。

 色んな憶測が成り立たないうちにと、儂は直ぐにその場に居合わせた家族に、其方が気に病むかもしれぬから、この事については決して其方を問い詰めたりせぬように、キツく釘を指しておいた。

 だが、このままには出来ぬ。又同じことが起きる可能性は非常に高い。もしかすると今までにも有ったのかもしれぬが、赤子の其方の発音が不明瞭であった事が幸いしておったんじゃろう。

 しかし其方は歯が生えた事により、発音が明確になってしもうた。これ以後は家族も知るところとなる。

 巧く家族が納得出来る想定を、其方と擦り合わせをして考えねばなるまい。

 ……分かるな?儂の言いたいことが……」

 とディルクは言葉を切る。


 クロエは表情を無くし、ディルクをただ見つめている。


 そんなクロエを見てから軽く息を吐いた後、ディルクは胸元から紙を取り出した。


 クロエは表情を変えぬまま、ディルクの手元を見つめる。


「儂は其方に確認して貰うため、其方が発した寝言を記録した。

 勿論音だけの記録になる。もしかしたら単語の切り方や、発音の聞き違いなどが有るかもしれぬ。

 ミラベルとコリンは、儂が来るまでに幾つか其方の寝言を間近で聞いておった故、彼等から聞き取りをしてそれもここに書いておる。

 一応見てみてはくれぬか?もし其方がこの記録を見ても何も“解らない”と言うならば、そのように家族に理解してもらえる様に彼等に話をしなくてはならぬ。

 記録を見て、思うことがあるなら……それは其方の判断に委ねよう。

 暫し儂は口を挟まぬ。解らないことがあれば聞いてくれ。

 ……では紙を見てくれるか?」

 とディルクは紙をクロエに差し出す。


 クロエは暫く紙を見つめた後、無言のままゆっくりと震える手でそれを受け取った。


 紙を両手で掴んだままディルクを見つめ、その後軽く目を閉じたクロエは覚悟を決めたかのように目を開き、紙に目を通し始める。


 程無くクロエが小さな声で呟き始めた。


「……サトシ……アヤネ・エ……マドレーヌ……ケ、ケチ?……何でアタシこんな台詞を……テ・レビィ……ああ、『テレビ』か……ジャマ……きっとこれ『聡』に向けた文句だな……じゃあこのアヤネ・エは『綾姉ちゃん』だ……『マドレーヌ』は『綾さまお取り置きスイーツ』の夢を見たんだ……じゃ、ケチはそのまんま『ケチ』だ!……分けてもらえなかったパターンか……しかしアタシって夢まで緊張感無いな……マヌケ過ぎて力が抜けたわ……ハァ」

 と記録を読み解きながら、自嘲の笑いを浮かべて溜め息を吐くクロエ。


 ディルクは固唾を呑んでクロエの様子を見守っている。


 紙を全て読み解く前に、クロエは意を決したように前を向き1つ頷いた。


 そしてベッドサイドのディルクを見て、静かに、でもハッキリとした声で告白した。


「先生、お気遣い有り難うございました。

 ……この記録を読み解いて分かりました。確かにこれは先生が懸念されていた件です。

 ……アタシはこの記録の言葉を知っています。意味も……完全に解ります。

 ……でも、この記録の言葉の意味をお話しする前に、前にアタシがお願いしていた、聞いていただきたい話を今からしても良いですか、ディルク先生?」

 とクロエはディルクに伺いを立てる。


 ディルクは真剣な表情で大きく頷き

「元より儂に異論は無い。……覚悟が定まったんじゃな?クロエ……構わぬ。其方の良いようにせよ。聞こう」

 とクロエに了解する。


 クロエは一瞬又軽く目を閉じたが、身を正した後ディルクをまっすぐ見つめて、こう切り出した。


「……これはアタシが以前使っていた言葉で、“日本語”と云う言葉です。

 ……アタシは実は1度死んでいます。でもこの世界の人間ではなかった。

 ……前のアタシは、この世界とは全く違う異なる世界で生きて、そして死んだ……異世界人でした。

 ……その記憶を持ったまま、今のクロエになった……生まれ変わりなんです」

 とクロエは静かに告白した。


 ディルクはクロエの告白に、ある程度予想はしていたがやはり衝撃を少なからず受けていた。


(やはり、そうであったか……)


 ディルクの手は固く握られていた。


次話は明日か明後日に投稿します。

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